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序章『風に花弁を乗せて』

 初小説、初投稿となります。


「――此処もそろそろ危ない……か」


 何処までも白く深い無限の《霧》が、静かに、静かに世界を呑み込んでいく。

 色を、音を、香りを、生命さえも無に()しながら――。

 直にこの場所もあの《霧》が呑み込んでしまうことだろう。

 まだ距離はあるが、できる限り早々にこの地を離れねばならない。

 そう判断するやいなや大地を力強く蹴り、生い茂る木々の合間を駆け走る。

 小動物達が忙しなく自分と同じ様に地を駆け、鳥の群れがその雄々しい翼をはためかせ飛翔しているのが駆け走る最中(さなか)見えた。


 きっと本能なのだろう――


 あの世界を隔絶する《霧》は、全ての生命(いのち)を刈り取ることにそこはかとない執着を感じる。


 それこそまるで、腹を空かせた意思ある生物(・・・・・・)のように――


 逃げる動物達とは別の方角に駆けた先――。そこに、ひっそりと佇む一棟の小さな家が視界に入る。


 住み慣れた大切な我が家だ。


 そのドアを勢いよく開け放ち目当ての部屋へ駆け込むと、落ち着いた優しい香りが出迎えてくれた。

 花が大好きなこの部屋の主が少しでも長く側にあれるようにと、乾燥させた装飾花や花の匂い袋を手作りし飾った香り。

 今、この部屋の主は此処にはいない。彼女が今いる場所は彼女のお気に入りの場所――。其処であの《霧》を見ている。

 止まっていた足を動かし、この部屋に入った目的の物を探す。 

 自分と違い用意周到な彼女のことだ。いつでも直ぐ行動出来るよう、必要な物を既に準備しているに違いない。そう思い部屋の中を見回してふと、目を留めた。

 ベッド横にあるチェストの天板の上、そこにある二つの背負いカバン。正確にはそのカバンに付けられている《透明な青い鉱石》に――。

 迷うことなく旅に出るには不向きのその背負いカバン(サッチェルバッグ)を手に取り、部屋を後にする。

 駆けて移動しながら一つを背負い、家を出た所でまた、足が止まった。


 もう帰って来ることの出来ない大切な我が家を、目に焼き付ける為に――


 どれだけ眺めていただろう。

 気付けば少年はまた、森を駆けていた。


《霧》がこの地に出現する大分昔に、新緑から紅葉へとその姿を常に変えた森を――


 その鬱蒼とする木々の合間を駆け途切れた先。(ひら)けた場所に少年は足を踏み入れた。


 優しく風が吹き抜ける。


 小さな青と白のグラデーションが宙を舞う。


 視界の先には一面に瑞々しく咲き誇る青と白のグラデーションの花々。

 町を一望できるそんな花々が咲き誇る切り立った崖の端――。青と白のグラデーションの花々が見事に咲き誇るその場所で、彼女は静かに町を眺めていた。

 少女の長い純白の髪が、風に優しく撫でられ揺れている。

 彼女の表情を少年の位置から窺うことはできない。それでも少女が沈痛な面持ちで《霧》を見つめていることが少年には分かった。


 大切な、大切な己の半身(双子の妹)だから――


 一迅の風が花畑を通り過ぎていく。

 白い虚無に呑まれていく町へ、まるで鎮魂の歌を捧げるかのように花々の花弁を無数に乗せて通り過ぎていく。

 ゆっくりと歩み寄り、彼女の手を静かに握る。


 震えては、いない。


 ただ深い悲しみを胸に、真っ直ぐ《(まえ)》を見詰めている。

 少年もまた静かに《霧》を見詰め、目蓋を静かに閉じる。


 行かなければならない。


 花畑(ここ)もきっと、あの《霧》に呑まれてしまうから。


 でも――


 ゆっくりと少年の手が握り返される。


 大丈夫だから、もう、行こう――と。


 言葉は音になってはいない。

 隣にいる少女(いもうと)はまだ静かに《(まえ)》を見詰めている。

 しかし、少年には分かった。

 彼女がそう言っている事を少年には感じ取れた。

 大切な己の片割れだから分かった。

 だから少年はしっかりと少女(いもうと)の手を握りしめ、ゆっくりと駆け出す。


 また、一迅の風が優しく吹き抜ける。


 今度は旅立つ二人の背を、優しく押すように――






 お読みいただきありがとうございました!

もし、また続きを読んでもいいとお思い頂ければ、ブックマークなどして頂ければ作者の励みとなります。よろしければブックマークの片隅にでも住まわせて頂ければありがたく存じます。

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