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少年②

「はあっ!」


「グガアアアアァァァ!」


 エルヴィンが剣を振り下ろすと、目の前のゴブリンが悲鳴を上げながら地に塗れていく。

 ダンジョンに入ってから、魔物との遭遇はこれで3回目だったが、いずれもエルヴィンが戦って倒していた。


「ハァ…ちょっとここらで休憩にしないか?」


「そうね。私の魔力を温存するために、エルには戦闘を任せてしまっているものね。それに、さっきから歩きっぱなしだし。」


 エルヴィンとハンナは周囲を警戒しながら地面に腰を下ろす。

 結構速いペースで進んでいたので、少し疲れたのだろう。

 2人の顔には、若干疲労の色が見えた。


「このダンジョンで出会った魔物はゴブリンとコボルトだけだな…俺らが以前この洞窟に来たのって3ヶ月くらい前か?」


「ええ、確かそうだったと思うわ。コボルトを倒して帰ったら、ちょうど建国祭の時期だったもの。」


「だよな…その時は魔素の異常もなかったし、やっぱりこのダンジョンってかなり新しいよな。」


 3ヶ月前に彼らがこの洞窟に来た時、ここはダンジョンの兆候もない至って普通の洞窟だった。

 魔素の濃い魔素溜まりの発生から、洞窟のダンジョン化までの時間を考えると、このダンジョンができてから1ヶ月も経ってないだろうというのがエルヴィンの見立てだ。


「そういうことならあまり強い魔物もいないでしょうし、さっさと攻略しちゃいたいわね。」


「ああ。まあ、だからといって油断はできないけどな。」


 ダンジョン攻略の目処が立って精神的な余裕ができたからか、休憩前にあった2人の疲労はかなり取れていた。

 そしていくつか言葉をかわした後に、


「さて、だいぶ休んだしそろそろ先に進もうと思うんだけど…ハンナ、どうだ?」


「いつでも行けるわ。」


 そう言ってダンジョンの攻略を再開するのだった。


 何度か魔物と遭遇しながらも、エルヴィンの剣で撃退しながら奥へ奥へと進んでゆく。

 すると、先の方に少し広い空間があるのを見つけた。


「うーん…あの部屋なんか怪しくないか?」


 部屋の中に危険が潜んでいることをエルヴィンの勘が察知した…というわけではない。

 本当に危険かどうかはわからないが、疑わしきはとりあえず警戒しとけ、というのが彼の冒険者としての心構えだった。

 冒険者には常に危険がつきまとう。

 敵が強かろうが弱かろうが、いくら自分自身を鍛えようが、頑強な鎧でその身を覆っていようが、死ぬときは死ぬ。

 なんてことない攻撃が急所に当たってあっさりと死ぬ。

 そんな冒険者にとって、腕っぷしなんかよりも大切な警戒心を彼らは持っていた。


「念のため、入る前に中を調べたほうが良さそうね。」


 2人が部屋の前にたどり着くと、ハンナが魔法を使うために目を閉じて呪文を唱える。


「シルフよシルフ、この部屋の中でかくれんぼしてるのはだあれ?【探知(サーチ)】」


 友達にでも語りかけるように風の精霊の名を呼ぶと、一陣の風が部屋を通り抜けた。

 風が止むと、【探知(サーチ)】で部屋の内部を把握したハンナが目を開いて状況を伝える。


「ここ、結構な数の魔物がいるのね。まず正面に1体、左右両側に4体ずつ、それと…上になんか張り付いてるわ。このダンジョンの規模だと、あれはスライムかしら?」


「スライムが上に?それに正面のやつはここから見た感じコボルトっぽいし…どうなってんだ?」


 ダンジョン内で同系統の魔物が同時に現れることはよくあるが、コボルトとスライムという全く異なる種族が一緒にいるというのは、彼らにとって初めての経験だった。


「この分だとゴブリンあたりもこの部屋に紛れ込んでるかもしれねえな。」


 魔物の共存という初めての経験に、どうこの部屋を攻略しようかしばらく考え込むエルヴィン。


 そんな彼を見てハンナが口を開く。


「ここまで魔力を温存するために、戦闘はエルに任せっきりだったけど…今回は私の魔法の出番かしら?」


 彼女はそう言うと、エルヴィンの方に笑みを向けた。


「…そうだな。よし!上のスライムと正面のコボルトをなんとかしてくれ。頼んだぞ、ハンナ!」


 ハンナの目を見詰めながら、そう答えるエルヴィン。

 そしてハンナは杖を構えながら、


「任せて!」


 と言って魔法の詠唱に入るのだった。


「シルフよシルフ、風と共に舞い踊りすべてを吹き飛ばして!【暴風(ストーム)】」


 部屋の中に突如荒々しい風が轟轟と吹き荒れる。

 風は上へと伸びていき、天井に張り付いていたスライムたちを蹴散らす。

 強風に煽られて壁に叩きつけられたスライムたちの核が砕け、スライムだったゼリー状の塊は地面に落ちてきた。

 風が天井に達したかと思うと、勢いそのままにコボルトへと向かう。

 強風に飲み込まれて吹き飛ばされるコボルト。

 その体が天高く舞い上がり、天井にぶつかって地面に落ちてくる頃には事切れていた。


「相変わらずちゃんと詠唱したハンナの【暴風(ストーム)】はすげえな…」


 部屋の中の様子を見ながらエルヴィンはそう言った。

 魔法の余波を受け、彼の髪は風でなびいている。


「うふふ!それじゃあ行きましょうか。」


「おう!」


 残りの魔物を倒すために、2人は部屋の中へと入っていく。


「俺が左側の魔物を倒すから、ハンナは右側を…!」


 そこでエルヴィンはありえない光景を目の当たりにする。

 左右にいた魔物はゴブリン2体とスライム2体だが、それは予想の範囲内なのでまだいい。

 だがあろうことに、ゴブリンがスライムを掴んで振りかぶり、こちらに投げつけてきた。

 放物線を描いて飛んでくるスライム。


 エルヴィンは咄嗟にバックステップで躱す。

 だがあまりの驚きに反応が遅れてしまったのか、1体躱しそこねたスライムが膝のあたりにまとわりつく。

 膝のスライムを落ち着いて地面に投げ捨てると、自分に飛んできたスライム2体の核を踏み潰した。


「ハンナ!大丈夫か!」


 叫びながらエルヴィンが後ろを振り向くと、ハンナの顔にスライムがまとわりついているところだった。

 慌てて救助に向かおうとする彼を、ハンナは手で制す。

 スライムの中でハンナが何かを呟くと、まとわりついていたスライムが内側から何かを押し当てられたかのようにボコボコと変形し破裂した。


「ハァハァ…エル!こっちに何か来る!早くゴブリンを倒して逃げるわよ!」


 ゴブリンとスライムの襲撃を受けたところで、ダンジョンの奥から禍々しい気配をした何かが近づいているのを2人は感じていた。


「おう!そっちは頼んだぞ!」


 そう言ってエルヴィンは、スライムを投げて手持ち無沙汰になったゴブリンへ向かって駆け出す。


「オラァぁぁぁ!」


 自分の間合いにゴブリンを入れると、一閃でゴブリンの首を刈り取り、さらに一歩踏み込んでもう1体のゴブリンの喉笛を切り裂いた。

 そして後ろを振り返ると、ハンナが魔法の矢でゴブリン2体を貫いたところだった。


「よし!それじゃあさっさと逃げ…!」


 言葉を呑んだエルヴィンはダンジョンの奥を見ていた。

 エルヴィンの言葉が途中で止まり、不思議に思ったハンナもその視線の先を追う。

 するとそこには1人の人が立っていた。

 ローブのフードを深くかぶって顔は見えないが、自分たちよりも背が低いので、恐らく子どもだろうとエルヴィンは推測する。


「誰だ!お前は!」


 目の前の子どもに向かって叫ぶエルヴィン。


「ようこそ俺のダンジョンへ。」


 子どもはそんなエルヴィンの言葉を聞き流してそう言った。

思いの外長かったので分割。


なんとか主人公不在にならずに済んだ…(・_・;)

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