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一人で

「来たか。」


 ダンジョンコアが激しく点滅する。

 どうやら人間達がダンジョンに侵入してきたらしい。

 ダンジョンコアを通して得た情報によると、侵入者は九十人の部隊とのことだ。


『ここが魔王のダンジョンか…お前達、気を引き締めていくぞ。』


 男とも女ともわからない中性的な声をした者が隊員達に声をかける。

 どうやらこの部隊の隊長のようだ。

 大きめのローブですっぽりと全身を覆い、表情のない仮面をつけているせいでその容姿を見ることはできないが、その佇まいから相当な手練れであることが窺えた。


「コイツは強そうだな。だが…」


 フィリップ程ではない。

 俺の脳裏に、一年前奴と戦った時の記憶が浮かんでくる。

 問答無用で全てを凍らせるあの魔法、それに何者も寄せ付けないあの剣技…

 思い出しただけでも背筋が冷たくなる。

 今思えば、レモリーがいたとはいえよくあんなバケモノに勝つことができたな。


 少しばかり思考が脱線してしまったが、俺は小さく息を吐くと再び侵入者達に意識を向ける。

 侵入者達は数の力でダンジョンに配置された魔物を圧倒し、あっという間に低層階を突破していった。


「そろそろ行くか。」


 侵入者たちがオークを倒し、負傷者の治療を始めたのを見て、俺はそう呟いた。


「…本当に一人で大丈夫なのか?やはり私達も…」


 サラが心配そうにこちらを見る。

 今回、侵入者達への対処は俺が一人ですると仲間達には事前に伝えていた。

 その際に彼女は不満げな表情を見せていたし、こんな言葉が出て来るという事は、きっとまだ納得してないのだろう。


「いや、いい。今回は俺一人でやらせてくれ。」


 俺はサラの方を見ながら、彼女の申し出をはっきりと拒否した。

 別に特別な理由があるわけではない。

 侵入者達と一対一では負けることはなくとも、こんな大人数を相手にすれば万が一というのもある。

 けれども、今日は一人で戦いたい気分だった。


 ダンジョンコアから手を離し、後ろを振り返って歩き出す。


「いってらっしゃい、魔王様。」


 コーニーが軽い口調で俺の事を送り出す。


「ワンッ!ワンッ!」


「………」


 フィンとその上に乗ったソフィアが俺に近づいてきた。

 俺は足を止め、一匹と一体の頭を軽くなでる。


「キュゥーン…」


「………!」


 彼女達はサラと同じような視線をこちらに送ってきたのだが、俺は何も言わずに再び歩き始める。


 コアルームの出入り口付近で待機しているレモリーと一瞬だけ目が合った。

 何か言いたげな顔をしていたような気がするが、俺がすぐに目を逸らしてしまったのでよくわからない。


「行ってらっしゃいませ、魔王様。」


 彼女はコアルームを出ていく俺に、いつも通りに声をかけた。


「ああ、行ってくる。」


 俺はそう返事をすると、コアルームをあとにした。




 俺達にしか使えない通路を使ってダンジョン内を歩いていると、人と魔物が戦っているような戦闘音が聞こえてきた。

 どうやら侵入者達が近くにいるようだ。


 声のする方へ向かうと、魔物と人間達が戦っている大部屋の外にある通路で、後方を見張るように数人の兵士が立っているのを見つけた。


「なるほど。」


 俺は今回、部屋の中で侵入者達を待つのではなく、侵入者の後ろから忍び寄って奇襲するという作戦を取っていた。


 相手は奇襲に備えてしっかりと後方警戒をしているようだが関係ない。

 ここは俺のダンジョンだ。


【念話】を使って工作部隊のゴブリンに指示を出す。

 すると、俺の隣にある壁に人一人が通れる程度の穴が空いた。

 その穴の中は、ゴブリン達が人知れずダンジョンを移動するための隠し通路になっている。


 俺が穴の中に入ると、ゴブリン達は手慣れた様子ですぐに穴を塞いだ。

 狭い隠し通路を進み、大部屋のある方へと向かう。

 この辺だろうという場所まで来たところで、不自然に開けられた指一本分くらいの小さな穴を見つけた。

 穴を覗き込むと、ちょうど人間達が魔物との戦闘を終えたところだった。

 魔物との戦闘で数が減ったのか、それとも分かれ道で部隊を分けたのか、ここにいる人間は四十人程にまで減っていた。


「嵐の如く荒れ狂う炎よ、我が魔力を糧に全てを燃やしつくせ」


 小声で詠唱を完了させ、いつでも魔法を発動できる状態にしたところで、後ろをついてきたゴブリンに目配せをする。

 ゴブリンが穴を空けると、俺はすぐにそれをくぐって大部屋に出た。


「!?あそこから何か…」


 誰かが俺に気づいたようだがもう遅い。


「【荒れ狂う炎(フレイムブラスト)】」


 部屋の中が激しい炎に包まれる。

 詠唱した分普段よりも威力が高くなった。


 しばらくすると炎が消えて視界が晴れてくる。

 かなりの数の人間達が俺の魔法でダメージを受けてダウンし、その場に立っていたのは十人にも満たなかった。


「…まさかそんな場所に隠れてるとは思わなかったな。君が魔王か。」


 隊長らしき人物はどうやら俺が魔王だという事に気づいたようだ。


「…【風の刃(ウィンドカッター)】」


 俺は風でできた刃を目の前に出す。

 風の刃は勢いよく飛んでいき何人かを切りつけて致命傷を負わせたが、隊長だけはうまく魔法をいなしたのか傷一つついていなかった。


「魔王はとてつもなく強い力を持っていると聞いたのだが…後ろから奇襲を仕掛けてくるあたり、案外臆病なのだな。」


「………。」


 安っぽい隊長の挑発に、俺は何も答えなかった。

 全力で放った二発の魔法を耐えられてそれどころではなかった。


 やはりコイツ、他の奴らとは格が違うな。

 そう思った俺はそっと目を閉じる。

 そして、憎悪に悪意に怒りに…自分の心をそんな黒い感情で染め上げた。


 体の中をを絶えず流れ続ける魔力が激しく暴れ出す。

 まるでこの体を支配してやろうと言わんばかりに、俺の意識を飲み込もうとしているようだ。


 俺は暴れる魔力を無理やり抑え込んだ所で、ゆっくりと目を開けた。

 溢れんばかりの力が体の奥底から湧き出てくる。


「…うぅ…!」


 フィリップと最後に戦った時に使えるようになった力だ。

 この力の正体ががなんなのかはよくわからない。

 わかっているのは、俺の黒い感情をキーにして使えるようになる事と、隙あらば俺の体を乗っ取ろうとしてくる事くらいだ。

 何度か俺の体を乗っ取られかけたが、この一年間訓練を重ねることによって、力に振り回されなくなるくらいにはコントロールできるようになっていた。


「何やら苦しそうだな。この私に怖気づきでもしたか?」


 そう言って隊長は両手にはめた鉤爪を動かして音を鳴らす。

 鉤爪の先からは何かの液体が滴り落ちていて、その滴が落ちた場所から煙が上がって地面を溶かしていた。

 毒でも塗っているようだ。


「矮小なる魔王よ。この暗闇のシェイドによって死にゆくことを光栄におも…!」


 相手の口上を待たずに俺は一瞬で距離を詰めて、腹へ回し蹴りを放った。

 それを隊長は鉤爪で受け止める。

 鉤爪に塗ってある毒で俺の履いているブーツが一部溶けた。


「貴様っ!」


 隊長は途中で口上を止められたことに激高し、もう一方の手にはめていた鉤爪を突き出して反撃してくる。

 その一撃は俺が余裕を持って対処できそうな威力とスピードだった。


 …全力で撃った魔法を防がれて警戒していたのだが、案外大したことなかったな。

 この力を使っているからそう思うのだろうか。


 俺は突き出された鉤爪を軽く避けると、隊長の懐に入り込んで顎にアッパーを叩き込んだ。


「ッ…!」


 隊長の体が上空へと打ち上げられ、そのまま重力に従って地面に落ちた。


 辛うじて目を開いてはいるものの、意識が飛びかけて指一本動かせない様子の隊長を見下ろす。


「…ま…っ…」


「【火球(ファイヤーボール)】」


 魔法でできた火の球が隊長に当たると、その体を激しく燃やし始める。

 しばらくして火が消えると、そこには人間だった黒い何かが残っていた。

 意識が遠のいていたからか、悲鳴すら上げることなく隊長はその命を落とした。


「ハァ…ハァ…あっけねえな…」


 この場を制圧したところで、俺の心を満たしていた黒い感情を解く。

 一気に体中の力が抜けていくとともに、とてつもない疲労感が襲ってきた。


「…次行くか。」


 俺は疲れた体に鞭打って、他の侵入者達を探し始めた。

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