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わずかばかりの希望

 俺は現在、サラとリリスとコーニーとソフィアを引き連れて森の中を進んでいた。


「うーん、確かにその仮説には一理あるし僕の研究にも役立ちそうなんだけど…イルシオンという男は本当に信用できるのかい?」


 コーニーは馬車のようなマジックアイテムを操作しながら、そんな事を俺に聞いてきた。


「ううん…あのお方に魔王様と敵対する意思はなさそうだったし、罠とかではないと思うのだけれどぉ…」


 キャビンの中にいたリリスが横から口を挟む。


「…っつーことらしい。まあ大丈夫だろ。」


 イルシオンと面識のある彼女がそう言うのであれば、少なくとも今回は大丈夫だろう。

 俺はリリスの意見を肯定するように返事をした。

 まあ、たとえイルシオンの話がどれだけ怪しくとも、レモリーが目を覚ます可能性が少しでもあるのであれば、俺は恐らく奴の話に乗っていたのだろうが。


「お、どうやら着いたみたいだな。」


 サラの声に俺はキャビンの中から身を乗り出して外を見る。

 すると目の前には、森の中で不自然に開けた空間が道のように続いていた。

 まるでここへやって来た冒険者たちを手招きするかのように。

 そして道の奥の方には濃度の濃い魔素を感じる。

 この感じは紛れもなく天然のダンジョンだ。

 俺達の目的はこの天然のダンジョンの中にあった。


 コーニーはダンジョンの入り口に馬車を停め、キャビンの中にいた俺達を馬車から降ろした。

 座りっぱなしで凝り固まっていた体をほぐすため、軽く全身を伸ばす。


「ダンジョンに挑む前に一応聞いておくが、今回の目的はここにいるというフェニックスから取れる灰と魔石でいいのだな?」


 サラがこのダンジョンに来た目的を確認するために、俺に尋ねてきた。


「ああ。そいつがレモリーを起こすために必要らしいな。」


 フェニックスというのは赤い羽根が特徴的な鳥型の魔物の事だ。

 炎の中に飛び込んでその身を燃やし、そこでできた灰から再び蘇るなんて逸話を持つ。

 一般的には魔物と分類されるが、知能の高さや特殊なその生態から、魔物ではなく神獣として神聖視されることもあるという。


 復活の象徴でもあるフェニックスの灰には、どんな傷も癒す特別な効果がある。

 そしてフェニックスから取れる魔石には、大量の魔力が封じられている。

 フェニックスの魔石を体内に取り込みその灰を被ることで、レモリーが目を覚ますかもしれないとイルシオンは言っていた。


「そうか…よし。ならばなんとしてでもフェニックスを倒さなくてはな!」


 ダンジョンの入り口に目を向けながらサラはそう言った。

 彼女がレモリーと共に過ごした時間は一年にも満たないが、この短い期間でもかけがえのない仲間となっていたのだろう。

 サラの決意に満ちた力強い瞳からはそのことが伺える。


 そうこうしている内に他の仲間達も準備を終えたのか、俺の近くに集まってきた。

 それを見て俺は、そろそろいい頃合いだと仲間達に声をかける。


「さて…それじゃあお前ら、そろそろ行くぞ。」


 俺達は青々とした木々が生い茂るダンジョンの中を歩き始めた。




 ダンジョンの中は巨大な草木が壁のようになって、道がいくつも枝分かれしており、迷路のように複雑な構造をしている。

 壁を壊して進むことはできないようで、試しに軽く炎の魔法を放ってみたが燃えたりする様子は全くなかった。

 全力を出せば壁を壊せるかもしれないが、フェニックスやダンジョン内の魔物と戦うために魔力を温存しないといけないので、俺達は正攻法でダンジョンを攻略することにした。


 暫く進むと、淡く青みがかった美しい羽を持つ魔物と出会った。

 コイツはブルーゲルといい、そのすばしっこさと炎の魔法を使えるのが最大の特徴だ。

 魔法でその翼に炎を纏い、ヒットアンドアウェイ方式で体当たりを仕掛けるという、なかなかに厄介な戦い方をしてくる。

 上空への攻撃手段を持っていない者が出くわせば逃げ出すしかない。


 だが残念なことに、上空への攻撃手段を持つ俺達の敵ではなかった。

 俺が岩の弾丸を飛んでいるブルーゲルに当てて撃ち落とし、その下でサラが胴体を真っ二つに切り裂く。

 時にはリリスの蹴りで首の骨をへし折り、コーニーの剣がその喉を突き刺す。

 ブルーゲルは、俺達を相手にロクな抵抗もできずその命を散らしていく。

 俺達は流れ作業のようにブルーゲルを狩り、ダンジョンの奥へと進んで行った。




「…!」


 先頭を歩いていたリリスは、何かに気づいて足を止めた。


「いたか?」


 リリスが何を見て足を止めたのか、俺の位置からでは確認することができない。

 だが、前方から感じる巨大なプレッシャーのせいで、その正体は見なくてもここにいる全員が理解していた。


「ええ…かなり大きいわねぇ。」


 リリスに追いついた俺は、彼女の視線の先へと目を向ける。


 燃えるような真っ赤に染まった一対の羽。

 数mはあろうかという非常に長い尾。

 遠く離れた場所からでもわかる程の巨体。

 一羽のフェニックスが目を閉じてその場に鎮座していた。


「あいつがフェニックスか…でけえな。」


 思わずそんな感想が俺の口をつく。

 さすがにドラゴン程ではないが、それでも7〜8mくらいはあるのではないのだろうか。


「………」


 俺のローブの中にいたソフィアは、あまりの大きさに唖然としていた。


「ふむ、噂には聞いていたけれども美しい鳥だね。」


 興味深そうな視線をフェニックスに向けるのは、俺の後ろにいたコーニーだ。

 もっとも彼が興味を持っているのは、彼の研究の役に立ちそうなフェニックスの灰なのだろうが。


「あれが…」


 小さな声でサラが呟く。


「…マオ君、フェニックスと戦う前に、休憩がてらここで一度全員の動きを確認した方がいいのではないか?」


 全員がフェニックスの姿を視認したところで、サラがそんな提案をしてきた。


「ああ、そうだな。」


 フェニックスはブルーゲルと同じく炎の魔法を使う鳥の魔物で、俺達の動きに今までと大きく変わる点はあまりないが、俺はサラの意見に同意した。


 俺達は少しの間体を休めながら各々の動きを確認して、その後フェニックスのいる場所へと向かって行った。

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