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崩壊

 つい数分前まで一歩も動かず互いの出方を伺っていたレモリーとフィリップ。

 だがその時とは打って変わって、二人のいる部屋では激しい戦闘が繰り広げられていた。


 フィリップがレモリーの間合いに入ると、速く鋭い横薙ぎが彼の真横へと振るわれる。

 フィリップがそれをバックステップで避けると、レモリーの薙刀が通り過ぎた跡から強烈な風が発生し、ものすごい風圧が彼に襲い掛かる。

 普通の者ならば吹き飛ばされてしまいそうな程の威力だったが、フィリップは余裕でそれを耐え切り、足に力を溜めて逆風の中レモリーの方へと踏み出した。


 レモリーを完全に自分の間合いへと入れるフィリップ。

 彼は体のひねりを入れ、レモリーへ斜めに剣を振り下ろす。

 レモリーは両手で掴んだ柄の部分でその一撃を受けると、強引に力で押し返した。


 重心が後ろへと傾くフィリップ。

 すかさずレモリーはフィリップへ前蹴りを見舞い、彼をダンジョンの壁までふっ飛ばした。


 だがやはりと言うべきか、蹴りの衝撃を外へ逃がしていたフィリップに大したダメージは入っていない。

 体に付いた土だか瓦礫だがよくわからない細かな粒をこぼしながら彼は立ち上がる。


「ハァ…恐ろしいねえ…まったく!」


 フィリップの目の前には、追い打ちをかけるべくレモリーが迫っていた。

 彼女の薙刀がフィリップの心臓をひと突きにしようと襲い掛かる。

 フィリップは剣で薙刀を横から打ちつけ、体を逸らして攻撃をかわす。

 レモリーの薙刀は壁へと突き刺さった。


 彼女はフィリップの間合いに入ってしまっていたので、壁から薙刀を引っこ抜き、後ろへ跳んで彼の間合いから離れようと試みる。


「【凍結】」


 だがフィリップの氷の魔法がそれをさせなかった。

 フィリップの魔法を受けて足を凍らされた彼女は、その場から飛び退くことはできなかった。

 足を止めた彼女に、フィリップは体勢が整っていないながらも無理やり剣を振るう。


 レモリーはフィリップの剣を薙刀の柄で受け止めようとしたが、彼女もまた体勢が悪かったためフィリップの剣に押し切られて後ろへ吹き飛ばされてしまう。


「クッ…【暴風(ストーム)】」


 だがその直前、彼女は力負けすることを予期して風の魔法を使っていた。

 レモリーの背中を押すように吹き付けるその風は、後ろへと吹き飛んでいく彼女の勢いを殺し、レモリーはフィリップから離れた位置にふわりと降り立った。


「【魔法解除(マジックブレイク)】」


 そして彼女は足に纏わりついている氷を魔法で打ち消す。


「…普通は今のでやられてくれるんだけどねえ。」


 ヤレヤレと疲れた顔でそんな事をボヤくフィリップ。


「…気が合いますね。私も似たようなことを考えておりました。」


 そんな彼にレモリーは皮肉を返した。


「嬉しいような嬉しくないような…【氷弾(アイスバレット)】」


 フィリップの目の前に氷の小さな弾丸がいくつも現れ、レモリー目がけて飛んでいく。

 そのどれもが当たればただの怪我では済まない程の威力を持っていた。


「【岩壁(ストーンウォール)】」


 レモリーは人が一人隠れられそうな岩の壁を出して対抗する。

 氷の弾丸は岩の壁にぶつかると、ぶつかった衝撃で粉々に砕け散っていく。

 いくつかは岩の壁の脇を通り抜け、ダンジョンの壁にぶつかると小さなクレーターのような跡をいくつもつける。

 だが、レモリーの体に傷をつける氷の弾丸は皆無だった。

 フィリップの魔法を防いだ彼女は、魔法で反撃する。


「【風の大砲(エアハンマー)】」


 目には見えない巨大な空気の塊がフィリップへ撃ちだされた。


「やっべ…【氷壁(アイスウォール)】」


 フィリップは冷や汗を垂らしながら、咄嗟に薄くて横に長い氷の壁を展開する。

 巨大な空気の塊が、突如現れた氷の壁へと衝突した。

 だが、薄い氷の壁では空気の塊を止めることはできず、所々ひび割れていく。


「そこか!」


 そしてすぐに壁は崩壊してしまい、不可視の攻撃がフィリップを襲う。

 だが彼は、砕けた氷の壁からある程度の当たりをつけ、大きく横に跳んで迫りくる空気の塊を避けた。

 その直後、巨大な鉄球を使って建物を解体するときのような轟音が響き渡り、フィリップの足元に振動が伝わってくる。

 空気の塊に押されたダンジョンの壁が凹んでいた。


 だがそんな事は気にも留めず、次は自分が仕掛ける番だと言わんばかりにフィリップが駆け出した。

 それを迎え撃つべくレモリーは薙刀を構える。


 常人では認識することすらできぬような必殺の一撃が飛び交い、目まぐるしく攻守が入れ替わる。

 武器を打ち合う度に突風が巻き起こり、魔法が飛び交う度にその衝撃でダンジョンが揺れる。

 その激しさは、人ではなく怪物同士が戦っているのかと言いたくなるほどだ。

 一瞬でも隙を作れば勝敗が決してしまいそうな雰囲気があったが、互いに高い集中力を保って隙が生まれず、戦況は膠着していた。


「…そろそろかな。」


 誰にも聞こえないような声量でフィリップはボソリと呟いた。

 そして彼は、この止まってしまった戦況を無理矢理動かすべく、大魔法を放つための魔力を練り上げる。


「…!」


 それに気づいたレモリーは、フィリップに詰め寄って魔法を阻止するのは間に合わないと悟り、自分も大魔法を使って迎え撃つことにした。

 二人の魔力の高まりに反応し、彼らの服がダンジョンには吹かないはずの風が吹いているかのようにはためいた。


「その魂まで凍てつくような龍の息吹を受けよ!【氷龍の息吹(アイスブレス)】」


 ヘビのように長く大木のように太い魔法で生み出された氷が、フィリップが持っていた剣の先を起点にレモリーへ襲いかかる。

 まさしく龍の息吹という名に相応しい威力を持った一撃だ。


「大いなる風の精霊よ、嵐の如き荒々しさを以て全てを吹きとばせ。【風霊の怒り(テンペスト)】」


 暴力的なまでの風が部屋中に吹き荒れる。

 魔法を使った本人ですら気を抜けば吹き飛ばされてしまいそうな程だ。

 風は幾重にも束になるように一箇所に集まっていき、巨大な塊と化した。

 風の塊はフィリップの【氷龍の息吹】へと飛んでいく。


 二人の魔法が空中でぶつかりあった。


 甲高い金属音のような耳をつんざく音が部屋中に響き渡る。

 膨大なエネルギーの塊と化した二つの魔法は、衝突の瞬間に大きな衝撃波を生んだ。

 衝撃波は放射状に広がっていき、フィリップとレモリーへ到達すると、二人は大きく後ろへと飛ばされた。


 衝撃波がダンジョンの壁へ到達すると、凄まじい力で壁にヒビを入れる。

 尚も衝撃波は威力を弱めることなく進み続け、ついにはダンジョンの壁を完全にぶち壊した。

 大きな地響きと共に壁がガラガラと崩れ落ちる。

 フィリップとレモリーは瓦礫の中に埋もれていった。


「…は?」


 壊れた壁の向こうでは、モンスターハウスにいた魔王達とその先へ進んだ騎士を倒したサラ達が、レモリーとフィリップの戦闘の跡を見て呆然と佇んでいた。

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