はじめてのしんにゅうしゃ
ここまでのあらすじ
魔王「異世界に召喚されて魔王になったから、ダンジョンを作って人間滅ぼすよ。」
「侵入者が発生しました。マスターは直ちに侵入者を撃退してください。」
ダンジョン製作に勤しんでいたある日のこと、ダンジョンコアが声を上げたかと思うと、警戒を促すように激しく点滅した。
「魔王様!」
「お!とうとう来やがったな!よっしゃ、やってやるぜ!」
俺は侵入者がどんなやつなのかを見るために、ダンジョンコアにそっと手をかざして目を瞑る。
ダンジョンコアに触れるとダンジョン内の様子がわかるというのは、レモリーとの実験で発見したことだ。
ダンジョンコアを通して、侵入者の姿を見る。
特徴的な緑色の肌。
背は低く、耳がとがっていて、粗末な装備を身に着けている。
なんとまあ醜悪な見た目をしているのだろうか。
「ゴブリンか。」
ゴブリン。
この世界において、単体では最弱と言われている魔物だ。
戦闘能力は子どもに毛がはえた程度のもので、一般人でも倒すことができる。
ただし、同族同士なら多少の社会性を発揮し、群れると面倒なのでなかなかに油断ならない。
1匹見たら100匹は潜んでいると思えという言葉があるほど数が多く、嫌悪を込めてGと呼ばれることもある。
…どこぞの黒光りするアイツみたいな話だな。
「数は5体、うち4体が剣持ちの前衛で、1体が弓持ちの後衛か。おいレモリー!ここは早速用意したアレが使えるな?」
ニヤリと笑いながらそう問いかける俺に対し、
「そうですね、試運転にはもってこいの相手かと。」
レモリーは冷静にそう答えるのだった。
ゴブリンを迎え撃つべく、ダンジョン内にある小部屋へと意識を向ける。
そこはついさっきまで作っていた罠のある部屋だった。
ゴブリンたちをここまでおびき寄せて、罠の試運転も兼ねて一網打尽にするつもりだ。
「さあ、いつでも来やがれ!」
クリスマスにサンタを待つ子供のように、俺は心を踊らせながらゴブリンたちがやって来るのを待つ。
「ゲギャギャグギャギャギャ!」
遠くから不快な声が聞こえてきた。
ゴブリンだ。
「ゴブリンが来たぞ!おい、お前もこっちに来て見てみろ!」
そう言って、レモリーにもダンジョンコアに手をかざさせる。
俺が認めた相手なら、ダンジョンコアを通してダンジョン内の様子を共有できるのだ。
「いよいよですね。…魔王様、初めての侵入者ですが、どうか落ち着いて対処なさるようお願いいたします。」
「チッ…わかってら!」
初めての侵入者ということで、興奮しすぎていたのかもしれない。
レモリーから冷静になるよう諌められた。
そんなやり取りをしている間に、ゴブリンたちが部屋の前までやって来た。
斥候なのか、1体のゴブリンが先に部屋の中に入って辺りを見回す。
「バカのくせに、いっちょまえに斥候なんて出しやがって…」
そう言いながら、俺はゴブリンの目の前にスライムを出した。
「グギャ!?ゲギャギャ!」
突然現れたスライムに驚きながらも、仲間を呼んだゴブリン。
単体だとゴブリンよりもスライムの方が強いので、囲んで倒すつもりなのだろう。
部屋の前にいたゴブリンたちは、斥候ゴブリンの呼びかけに応じて、駆け足で部屋の中に入ってくる。
そしてゴブリンたちが合流し…
「今だ!」
俺は天井に張り付いていたスライムたちに指示を出す。
すると、ゴブリンたちの上からスライムがボトボトと落ちてきて、ゴブリンたちの頭に張り付いた。
「おっしゃー!見たか!これがスライム爆撃だ!」
「さすがです、魔王様。」
スライムに鼻と口を塞がれて、苦しそうにもがくゴブリンたち。
これが人間だったら、魔法を使うなどして簡単に対処できていたかもしれない。
しかし、このゴブリンたちは魔法も使えず、スライムを引き剥がすだけの力もなかった。
抵抗も虚しく、1体2体とゴブリンが倒れていく。
「ハッハッハ!どうだこの完璧な作戦は!1匹残らずぶっ殺してやったぜ…あ?」
よく見ると、1体だけ生きているゴブリンがいた。
運良くスライムから逃げ出したのだろう。
そいつは弓持ちのゴブリンだった。
「チッ…後衛で他の奴らから少し距離があったから、スライムが直撃しなかったのか。この罠も調整が必要だな。」
「そうですね。しかし4体もゴブリンを倒せたので、初めての実戦にしては悪くないかと思います。ここから先はスライムに任せますか?」
スライムたちだけでも、ゴブリン1体くらいなら簡単に倒せるがどうしようか。
「…いや、ここは俺がやる。あのゴブリンには、魔法の練習台になってもらおうか。」
ダンジョン製作の傍ら、俺はレモリーから魔法の手ほどきを受けていた。
この世界に来て初めての戦闘ということで多少の不安はあるが、単体のゴブリン程度ならやられることもないだろうし、ちょうどいい相手だろう。
そうして俺たちは、1体だけになったゴブリンの下へむかうのだった。