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ダンジョン改革と情報収集

 長旅で疲れが溜まっていた俺達は、ダンジョンに帰る前に【転移】の経由地である魔王城で一泊する。

 そして次の日、約1か月ぶりのダンジョンへと帰ってきた。


「おお、大将!久しぶりじゃの。」


 ベルがもはや相棒と化したオークと共に、コアルームで俺たちを出迎える。

 若干オークが太った気がしないでもないが、たぶん気のせいだろう。


「ワンッ!ワンワンワンッ!」


 コボルトのフィンが全力で俺に飛びつき、じゃれついてきた。

 よほど寂しかったのだろう。

 俺の顔の周りをベロベロとなめ回す。

 やはりレモリーはその様子をうらやましそうに見ていた。


 フィンが落ち着いたところで、ダンジョンから出ていくときにはいなかったフェアリーの存在に気付いたベルが、珍しいものを見るかのような視線をソフィアに向ける。


「なんじゃ、フェアリーとは珍しいもん連れ帰ってきたのう。」


「ああ、こいつか。ドラゴンに頼まれた。」


「は…?」


 ベルは目を点にして口を開け、間抜けな面を晒した。


 俺はベルに、ダンジョンを出てから今に至るまでの経緯を説明した。

 貧民街で捕まり、奴隷になりかけていたこと。

 奴隷オークションをぶち壊したこと。

 王国最強の騎士に出会って死にかけたこと。

 レモリーが王国最強の騎士を退けたこと。

 ドラゴンと出会ってフェアリーを託されたこと。

 振り返ってみれば、とても濃い1か月だ。


「なるほどのう、いろいろなことがあったんじゃな。ドラゴンに会ったり奴隷になったり…ブフッ」


 奴隷という言葉が出たあたりで、唐突にベルが吹いた。


「おいコラ、テメー笑ってんじゃねえ!ダンジョンから追い出すぞコノヤロー!」


「ガハハハハ!すまんすまん。ここを追い出されるのはちと困るのう。」


 ベルが俺の事を茶化し、俺はそれにブチギレる。

 俺がダンジョンから出るまでは、このダンジョン内での日常だった。

 久しぶりに会ったというのに、ベルは相変わらずだな。


「まあこうしてまた無事に会えたんじゃ。笑い話にしちまってもいいじゃろうて。」


 あんなザコに捕まるなんて一生の恥だ。

 もう二度と思い出したくなかったし、笑い話になんてしてほしくもない。


 すると、俺の方に向いていたベルの視線が、いつの間にか俺の肩に乗っていたソフィアに移った。


「それはそうと、ソフィア殿というのか。ワシの名はベルじゃ。よろしくの。」


「ガハハ!」という朗らかな笑いと共に、ベルはソフィアを歓迎する。

 …こいつ、下半身事情が絡まなければ、快活で無駄にいいヤツなんだよな。

 まあ見た目は山賊だが。


 ソフィアは俺の肩の上に立って、深くお辞儀をした。


「ワフゥ?」


 フィンは不思議そうに小首をかしげてソフィアのことを眺めていた。

 レモリーは目に焼き付けるかのようにそんなフィンのことを眺めていた。


「そういやあ大将、王都まで行ったんなら、土産の一つくらいありゃあせんか?」


「ねえよ、そんなもん。」


 ベルに何か持ち帰ってやってもよかったが、残念ながら奴隷騒ぎのせいで、土産物を買っている時間がなかった。


「なんじゃ、つまらんのう。」


 ため息をつくベル。

 よっぽど期待してたのだろうか?


「あ、そうじゃ。大将達が留守の間、何人かこのダンジョンに来た侵入者を捕まえたから、後で【洗脳】が使えるかどうか試しとくれ。」


「ああ、わかった。」


 ダンジョンを改修する予定があるので、その時ついでに【洗脳】も試すことにしよう。


 ソフィアの顔合わせを終え、しばらく他愛もない話を続けていた俺達だったが、いい時間だということでその日はもう休むことにした。




 翌日、俺達はコアルームに集まっていた。


「さて、そんじゃあこの前言ってたマジックアイテムを試しに作ってみるか。」


 先日エスノムの街で聞いた、マジックアイテムで冒険者を釣るというサラの案を元に、俺はダンジョンの改革を始める。

 ダンジョンコアに手をかざして、エスノムの街で見かけたようなマジックアイテムを生成した。


「どうだ、サラ。こんな感じか?」


 生成したマジックアイテムをサラに渡す。

 サラは手渡されたマジックアイテムを、あらゆる角度からまじまじと見ていた。

 そして実際に魔力を流し込み、正しく動作するのを確認したところで、満足そうに頷いた。


「ああ、十分な出来だ、マオ君。だが、これだけだと寂しいな。もっと種類が欲しい。」


 確かに、このダンジョンで取れるマジックアイテムの種類が多ければ、特定のマジックアイテムが需要に対して供給過多になる確率が下がるし、冒険者をより多く呼べるかもしれない。


「ふむ…それならマジックアイテムの中でも、魔法で強化された武具を作るのはどうじゃ?ちょうどコボルト達が魔物用の武具を作れるしの。」


 今度はベルから、武具型のマジックアイテムはどうかという提案が来た。

 コボルト達が作る武具を利用すれば、少ない魔素で武具型のマジックアイテムを生成できるので、普通のマジックアイテムを作るよりもコストは少ない。


 冒険者達にとって武具は、時に己の身を守り、時に敵を倒す、自分の命を預ける道具と言ってもいい。

 依頼を受けて得た報酬の大半を武具に費やすという冒険者も少なくない。

 優秀な武具が手に入るとなれば、ダンジョンへ挑戦に来る冒険者の数も増えるだろう。


「ベル様の言う武具型のマジックアイテムを、ダンジョンの魔物達に持たせれば、ついでにダンジョンの強化もできそうですね。」


 なるほど。

 魔物を倒さないとマジックアイテムが手に入らないようにすれば、魔物を回避することなく戦闘を選択する冒険者が増えて、ダンジョンコアに溜まる魔素の量も増えるな。

 もしもいい武具ができたら、俺達が使ってもいいし。

 レモリーの提案は、一粒で3度くらいおいしいものだった。


「あんまりマジックアイテムを持ってかれると、冒険者の方も強化されちまうのが気になるとこだが…まあダンジョンも成長するし何とかなんだろ。」


 そんな感じでダンジョン改革の方針が決まった。

 武具型のマジックアイテムは魔物達に持たせ、戦闘報酬のドロップアイテムとして。

 他のマジックアイテムはテキトーな箱に入れ、冒険者へのわかりやすいエサとして。

 俺はそれぞれのマジックアイテムを配置した。




 マジックアイテムの配置が終わったところで、ベルに捕まえた侵入者達を連れてきてもらった。


「3人か。」


 恐らく冒険者のパーティーなのだろう。

 剣士風の男が二人と、魔法使い風の男が一人だ。

 縄で手足を縛られている。

 俺達がダンジョンを留守にしている間に、3人分の【洗脳】が使える魔素が溜まっていたので、早速全員に使ってみることにした。


「魔王たる我の手となり足となり、我が意のままに動け。【洗脳】」


 冒険者の一人に手をかざして【洗脳】を使う。

 魔法を発動した瞬間、何かを握りこむような感覚が手のひらを通して伝わってきた。

 握りこんだ何かに俺の魔力を注ぎ込む。

 冒険者は縄で縛られている体をよじらせて抵抗していたが、ある瞬間、ふと電池が切れたかのように抵抗をやめた。


「…こんなもんか?」


 結論から言うと、3人ともあっさりと【洗脳】に成功した。

 手足の縄を解いても全く逃げ出そうとする様子はなく、俺の指示を待つかのようにこっちを見ている。


「おお!やったのう、大将!とうとう成功したんか!」


 ベルが大声を出して魔法の成功を喜ぶ。


「ああ、【洗脳】はうまくいったな。…だが、こいつら何に使おうか?」


【洗脳】は成功した。

 だがその後の使い道に少し問題があった。


「なんじゃ?魔物たちと同じようにダンジョンで戦わせるんじゃないんか?」


 ダンジョンの強化を掲げる以上、ベルの疑問は尤もだろう。

 だが…


「いや、俺も最初はそうしようと思ってたんだが…エスノムのギルドの雰囲気を見るに、このダンジョンでそれはよくねえかもしれねぇ。」


 ダンジョン内で冒険者同士のいざこざが起こることは、稀ではあるがない話ではない。

 だが、俺達がやろうとしていることは、それとは全く別のことだ。

 明確な殺意を持った人間が、顔も知らない冒険者の事を無差別に襲ってくるのだ。

 それに、元冒険者という事で顔見知りもいるかもしれない。

 そんな事が起こればさすがにギルドも警戒して、今度こそ立ち入り禁止令が発令されるだろう。

 何なら、王都で出会ったフィリップレベルの猛者が、ダンジョンの調査隊として送り込まれるかもしれない。

 まだまだ俺の体が発展途上の今、そんな奴らを相手にするわけにはいかなかった。


そいつら(冒険者達)がせめてお前くらい強けりゃあ問題はないが…あんま強くは見えねえな。このダンジョンに来て戦った奴らを取り逃がして、ギルドに情報を持ち帰られるかもしれねぇ。」


 ベルのように、その姿を見た者は誰一人逃がさないレベルの強さがあれば、それでもよかった。

 だが残念ながら、この冒険者達は魔物に負けて捕まるレベルなので、そこまでの強さはない。

 確実にダンジョンに来た冒険者を取り逃がしてしまうだろう。


「なるほどのう…そりゃあなんとも難儀なことじゃ。」


 ベルは口をへの字に曲げ、渋い顔を作った。

 せっかく捕まえた侵入者だったので、彼の気持ちはわからんでもない。

 ついでに言うと、目の前の美味しそうなエサに手を出せないおあずけ状態だったわけだしな。


「あ、それならエスノムの街に戻して、諜報員として使ってみたらどうだ?」


 俺とベルの会話を聞いていたサラが口を出す。

 なるほど、諜報員か。

 今回の旅でエスノムのギルドを直接見るまでは、ダンジョンにやって来る冒険者が減っている理由なんてわからなかったし、人間達の情報を収集する方法が欲しいところではあった。

 冒険者ならダンジョンに来ても不自然ではないし、俺達の諜報員としては適している。

 街では普段通り生活させれば、【洗脳】を掛けているのがバレて解除されるリスクも少ない。


「そうだな。そうしよう。」


 サラの案を採用した俺は、【洗脳】を掛けた冒険者たちをダンジョンから送り返した。

 ついでにさっき作ったマジックアイテムをいくつか持たせてある。

 これでダンジョンでマジックアイテムが見つかったという噂も広まるだろう。


「さて、これで今日できることはもうなくなったな。」


 1日に使えるダンジョンコアの魔素を上限いっぱいまで使い切り、やることがなくなった俺は大きく体を伸ばした。


「お疲れ様です、魔王様。後は今日の改革の結果が出るのを待つだけですね。」


 俺の作業が一段落つくのを見計らったかのように、レモリーがお茶とお菓子を持ってやって来た。

 その後ろでは、頭の上にソフィアを乗せたフィンが楽しそうに駆け回っている。

 よほどウマが合ったのか、ダンジョンにやってきてすぐにフェアリーはコボルトと打ち解けていた。

 急に立ち上がって2足歩行になったフィンの上でバランスを崩し、慌てて羽を羽ばたかせるソフィア。

 そんなソフィアにフィンはじゃれつき、追いかけっこが始まった。

 なんとも仲のいいことだ。


「ああ。」


 それじゃあ、このダンジョンにやって来る冒険者が増えるのを楽しみに待つとしよう。


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