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奴隷オークション

「ううん…」


 目を覚ますと、そこは檻の中だった。

 鉄格子の外で、男たちが何やら言い合いをしている。


「ああん?安すぎんだろ!こちとら騎士団にしょっ引かれるリスクを負ってまで捕まえてきたんだぞ!」


 この怒鳴り声、俺に首輪を着けてきた奴らだろうか。

 さっきの事を思い出して腹が立ってきたが、体に力が入らない。

 首輪に力が吸い取られているようだ。


「まあ落ち着けよ。俺らだってこんな商売してるんだ。危ねえのはお互い様だろう?」


 ギラギラとした高価な服を着た恰幅のいい男が、怒鳴っている男を宥めるように言った。

 その脇には剣を携えた用心棒が控えている。

 用心棒は鎧を着て頭には兜をかぶっており、顔は見えない。


「ざけんな!この間ボルターのダンナは同じような奴が40万で売れたっつってたぞ!こいつが20万ぽっちなわきゃあねえだろ!」


 怒鳴っている男は、俺の方を指さした。

 その様子を見て、恰幅のいい男はヤレヤレとわざとらしく首を振る。


「いいか?お前ら。商売には需要と供給ってもんがあんだ。ボルターの時はたまたま人間の子供を欲してるクライアントがいたから、色を付けて買い取ってやっただけで、今回はホレ、そこに書いてある定価通りの買い取りだ。」


 そう言って恰幅のいい男は1枚の紙を指さす。

 俺からその紙は見えないが、おそらく価格表のようなものだろう。

 今の状況と男たちの会話の内容から察するに、俺はどうやら奴隷として売られるところらしい。


 このエキナセア王国には奴隷制度というものがあった。

 奴隷となる者は主に、借金のカタとして売られた者、戦争などで捕虜になった者、犯罪者のどれかだ。

 だが奴隷といっても全員がひどい扱いを受けるわけではなく、犯罪奴隷以外は扱い方にある程度の制約があり、一定期間の任期を終えると奴隷から解放されるという制度もあった。

 だが犯罪奴隷だけは違う。

 重い罪を犯した者がなる犯罪奴隷には、その扱いに対する制約は特になく、死ぬまで地獄のような奴隷生活を送る者も少なくない。


 そしてその犯罪奴隷の制度を悪用する奴隷商もいた。

 貧民街などで戸籍を持たない者を攫い、足がつかないよう犯罪奴隷に仕立て上げて売るのだ。

 今回俺は、まさにそんな奴らに攫われたようだ。


「うるせぇ!そんなんで誤魔化そうとしたって…」


 価格表の方を見ようともせずギャアギャアと喚きたてる男の言葉を遮り、恰幅のいい男が今までよりも低い声を上げる。


「おい、いい加減にしとけよお前ら。誰のおかげでこんな商売がまかり通ってると思ってるんだ。」


 そして奴隷商と思しき恰幅のいい男は、ちらりと一瞬だけ用心棒の方を見た後、鋭い目で目の前の男たちを睨んだ。


「そんなに文句があるってんなら…」


「…チッ、わあったよ!」


 奴隷商の鋭い視線に当てられ、先ほどまで怒鳴っていた男の方が折れる。

 そして二人組の男達は、金の入った革袋を渡されてどこかに去っていった。


「フン…チンピラどもが。」


 奴隷商が俺の方に目を向ける。


「しかしこいつはいい値が付きそうだ。ククク、明日のオークションが楽しみだな。」


 そう言って奴隷商は何処かへと行ってしまう。

 それについて行った用心棒と、一瞬だけ目があった気がした。


 奴隷商達がいなくなってから、数十分が経っていた。

 俺は檻からの脱出を試みたが、魔力を練れず、まともに力が入らないこの体ではどうしようもない。

 ただただ無駄に時間だけが過ぎていった。




 翌日、俺は他の奴隷達と共に、地下にある施設に連れてこられた。

 いわゆるオークションを開くためのホールだ。

 奴隷のオークションでも開くつもりなのだろう。

 周りにいる奴隷達の多くは魔族で、奴隷として生きる悲惨な未来を想像してか、皆暗い表情をしている。


「コイツらはオークションが始まるまで、控室に隠しとけ。」


 奴隷商が従業員に指示を出すと、俺達は従業員に連れられて奴隷の控室に押し込まれた。


「クソッ!この首輪さえ何とかなれば…!」


 他の奴隷達にも、俺と同じような首輪が嵌められている。

 これさえ外れれば簡単に逃げ出せるのだが、何か良い方法はないだろうか?


 首輪の解除に頭を悩ませていたら、何やら部屋の外が騒がしくなってきた。

 もしかして、オークションの客が入ってきたのだろうか。

 だとしたらあまり時間は残されていないかもしれない。

 焦る頭で考えても良いアイデアは思い浮かばず、とうとうオークションが始まってしまった。


「会場にお越しの皆様、ようこそおいでくださいました。」


 奴隷商の声がはっきりと聞こえてくる。

 魔法で会場中に声を響かせているのだろう。


「3ヶ月ぶりの奴隷オークションですが、本日も良質な()()()()をご用意しております。どうか最後までお楽しみください。」


 奴隷商の挨拶が終わると、歓声や拍手の音が聞こえてくる。

 控室から一人の奴隷が連れて行かれた。

 入札が始まったのだろうか。

 奴隷を競り落とそうと、入札価格を提示する大声が聞こえてくる。

 会場の熱気は、壁越しにも伝わってきた。


 一人、また一人と奴隷が落札され、控室から奴隷が連れて行かれる度に、会場のボルテージが上がっていく。

 歓声が大きくなる度に、自分の番が近づく度に、脱出方法が見つからない俺の焦りは強くなっていった。

 焦りは俺の思考能力を奪う。

 あの時浮かれて道に迷わなければ、あの時油断せずに周囲を警戒していれば、そんな後悔の念が俺の脳を侵食していった。


 何もできないまま、とうとう俺の番がやって来た。


「20番、次はお前だ。行くぞ。」


 従業員に腕を引かれ、ホールのステージ上へと連れてこられる。

 俺が姿を現した瞬間、今日1番の歓声が客席から上がった。


「さてお次の奴隷はこちら!奴隷にしては珍しい、人間の子供でございます!」


 俺はホールの客席を見た。

 豪華な衣装を身にまとった貴族や、腹の肥えた商人など、様々な人がいたが、皆ローブや仮面などで素顔を隠している。

 このオークションが後ろ暗いものであることを物語っていた。


「子供にしてはやや筋肉質なこの体、そして将来性を感じるその瞳!愛玩用に観賞用に労働用、如何様にも使えるこの奴隷は80万ギルムから!」


 奴隷商が会場を煽り立て、客達の購買意欲を掻き立てる。


「90万!」


 入札が始まる。

 もうここから逃げることはできないのだろうか。


「100万!」

「110万!」


 値段が上がる度に沸く会場。

 俺はそれを黙って見ているだけしかできない。

 入札価格を提示する声が、俺の刑罰を宣告する声のように聞こえ、頭が真っ白になっていく。


「1000万!」


 会場がどよめいた。


「…よろしいですか?それでは1000万ギルムで落札です。」


 入札が止まったのを見計らい、奴隷商がベルを鳴らす。

 俺を落札したのは、派手な服を着た商人風の男だった。

 素顔は見えないが、仮面の下はさぞ嫌らしい笑みを浮かべていることだろう。


 俺はバックヤードへと連れてこられた。

 落札された奴隷はすぐに引き渡されるのではなく、全体のオークションが終わるまでは、一旦バックヤードに入れられる。

 オークションが終わってから、落札者が金と引き換えに来るというシステムだ。


 バックヤードにいる奴隷たちは、皆一様に絶望した表情をしている。

 元から暗い顔だったが、落札というプロセスを経て、奴隷として買われたという実感が強くなったのだろう。

 ただその中で二人程、他とは違う顔つきの者がいた。

 何かをじっと待っているかのような顔だ。




 オークションも終盤に入り、会場のボルテージは最高潮に達する。

 会場が盛り上がる度に、バックヤードの空気がより重苦しいものへと変わっていった。


「…そろそろか。」


 この静かなバックヤードで、どこからかそんなつぶやきが聞こえてきた。

 辺りを見回すと、例の二人が目配せをして、合図を送り合っているところだった。

 何かあるのか?


 俺が不思議に思っていたら、バックヤードに奴隷商の用心棒がやって来た。

 そして例の二人の前に立つと、兜を脱ぐ。

 燃えるような赤い目の美丈夫だった。

 そして用心棒は例の二人と言葉をかわすと、懐から鍵束を三つ取り出して、一つずつ二人に手渡す。

 そして三人は、奴隷たちに着けられた首輪を外していった。


 首輪を外された奴隷たちは、急な出来事に理解が追いつかないようで、呆然と三人のことを見ていた。

 そしてそれは俺も同じだった。

 何人かの首輪が外れたところで、用心棒が俺の方へやって来る。


「同族の子供にまで…可哀想に。」


 用心棒は俺の首輪に鍵をさすと、首輪のロックを解除して床に投げ捨てる。

 首輪が外れ、俺は1日ぶりの自由を取り戻した。

 そして奴隷全員の首輪が外れると、用心棒は近くにあった。テーブルの上に乗る。


「みんな!聞いてくれ!僕はミミックのジャンだ。僕たちの仲間が助けに来たから、ここから逃げるぞ!」


 用心棒は、人間に擬態した魔族だった。

 言われてみれば、何やらオークション会場が騒がしい。

 歓声と言うよりは、悲鳴や怒号に近い声が聞こえる。


「さあ、僕について来てくれ!」


 用心棒が動き出すと、半信半疑な顔をしながらも、奴隷たちは彼の後を追う。

 用心棒の言葉の真偽はわからないが、この状況では彼について行くしかない。

 とはいえ、先程まで脱出が絶望的な状況だったが、少しだけ希望が見えてきたことで、俺の頭が冴えてきた。


 俺は他の元奴隷達と同じように、用心棒の後を追った。

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