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(元)女騎士とのデート

 森の木々が赤く色づき、少しばかりの肌寒さを感じるようになった秋の中頃。

 俺は黒い髪をした冒険者の女と共に、エスノムの街へ来ていた。


「ふむ、王都方面の馬車は明日の朝出発か。それまではこの街を見て回るとしようか、マオ君。」


 俺の手を引く黒髪の女が提案する。


「ああ、そうだな…お姉ちゃん。」


 俺はその提案に同意した。

 大変に不本意なのだが、今の俺達は仲睦まじい姉弟にしか見えないだろう。

 だがその中身は姉弟なんかではなく、魔王と手下(サラ)だ。

 サラの髪が黒いのは、変装のために魔力を練り込んだ染料で染めたからだ。

 さらに彼女は、刀ではなくバスターソードという両刃の剣を装備していた。

 なんでも、刀は使い手が少なくて目立つから、あまりダンジョンの外では使いたくないそうだ。


 さて、なぜ俺達がこんな事をしているのかと言うと、サラのお願いが事の発端だ。

 なんでも、王都の自宅へどうしても取りに行きたい物があるらしい。

 デートなんて言われて最初は断ろうかと思ったが、彼女のお願いを聞き入れることにした。

 思えば俺はこの世界に来てから、ダンジョンと魔王城以外の場所に行ったことがないので、この世界を見て回るいい機会だと思ったのだ。


 俺がダンジョンにいない間、誰かが留守番をしなければならない。

 野に放つと確実にマズいことになるベルは、当然ながら留守番だ。

 魔族であるレモリーも、人間領を歩くのは危ないということで留守番役になった。

 彼女は俺のことが心配なのか、付いて来たそうにしていたが、今回ばかりは仕方ないだろう。

 危ないことはしないと約束をしてダンジョンから出てきた。


「あそこの魚料理は絶品だという噂だ。ちょっと行ってみないか?」


 サラはエスノムのメインストリートにあるレストランを指さす。

 ちょうど腹が減ってきたので、俺たちはそこで食事をとることにした。


 レストランの外にあるテラス席に座る。

 俺はエムナスルという川魚の塩焼きを注文した。

 淡白な白身魚だがいい具合に塩が効いていて、魚本来のうまみを十全に引き出している。

 俺が夢中で魚にかぶりついている様子を、サラは笑顔で見ていた。


「フフフ、そこまで美味しそうに食べてくれるとは、ここまで来た甲斐があったというものだ。」


 食事を終えた俺たちは、再びエスノムの街を散策する。

 メインストリートの脇には、周囲の建物よりも背の高い大木を中心とした広場があった。

 そこでは近所の子供たちが楽しそうに駆け回っている。

 子供たちの方を見るサラの頬は緩み切っていた。


 さらに歩いていくと、気になる店を見つけた。


「なんだこの店は?」


 腕輪や指輪などの商品が並んでいるが、アクセサリーにしてはデザインが地味だ。

 それに、アクセサリー以外の雑貨も売られている。


「ここはマジックアイテムを売っている店なのだが、寄ってみるか?」


「ああ。」


 マジックアイテムとは、魔力を流すだけで手軽に魔法を発動できるアイテムのことだ。

 アクセサリーのように身に着けて発動する物や、普段使う生活雑貨のような形をした物など、その種類は多岐にわたる。

 俺たちは店の中に足を踏み入れた。


「いらっしゃい。」


 店の奥から気だるげな店主の声が聞こえてくる。


 俺は商品棚に並んでいるマジックアイテムを見た。

 魔力を流すと火の魔法が出てくる指輪、腕力が上がる腕輪、無限に水が出てくる水筒、切れ味がよくなるナイフ…

 特に欲しい物があるわけではないが、どんな効果があるのか、どうやって使うのかを考えるのは少し楽しかった。


「ううむ…これもいいな…いやしかし…」


 サラは商品を手に取って、真剣に悩んでいた。


「何か買うのか?」


「そうだな。王都までは距離があるし、少し長旅になりそうだから、何かあったときのために備えておこうと思って、な。」


 最終的に彼女はマジックアイテムをいくつか購入して、鞄の中に詰め込んだ。


 店を出た俺たちは、その後も気になった店や露店を見て回った。

 特に何かを買ったわけではないが、俺の知らなかった世界を見ることができたので、良い経験はできたと思う。




 そして日も沈み始めた夕方。

 俺たちは街外れの路地を歩いていた。

 目の前にはこの街の冒険者ギルドがある。

 どことなく暗い雰囲気が漂っている気はするが、周囲の飲食店や酒場にはそれなりに人が入っていた。


「ギルドの雰囲気が暗いって言ってたが…聞いていたよりも活気があるな。何かあったのか?」


 俺はサラに尋ねる。

 この街に来た時に、冒険者として新規に登録をしていた彼女なら、何か知っているかもしれない。


「どうやら、私たちのダンジョンは危険なダンジョンだと周知されて、挑戦する冒険者が減ったらしい。それで命を落とす者が減ったから、ギルドはだいぶ落ち着きを取り戻したそうだ。」


 なるほど、言われてみればここ最近、ダンジョンに侵入してくる冒険者の数が減っている。

 そして、その冒険者の質は上がっていた。


「なるほどな、それでか。…しかし俺らのダンジョンに来る冒険者の数が減るのはマズい。」


 ダンジョンに挑戦する冒険者の質が上がることで、一人当たりの侵入者から吸収できる魔素が増えるので、そっちは問題ない。

 だが、ダンジョンへ挑戦する冒険者の数が減るというのは、単純に魔素を吸収する機会を減らしてしまうので、あまりいい状況とは言えなかった。


「これはダンジョンの運営を見直すべきかもしれねえな。」


 ダンジョンにやって来た侵入者を殺しはせずとも、魔物との戦闘で魔力を使わせることによって、ある程度の魔素は吸収できる。

 これからは全力で侵入者に対処するのではなく、ある程度生かして追い返すべきなのだろうか?

 俺がダンジョンについて考えを巡らせていると、サラがある提案をしてきた。


「魔王さ…マオ君。ダンジョン内にマジックアイテムを配置するのはどうだろうか?」


 マジックアイテムを配置する、とはどういうことなのだろうか?


「なぜかは知らないが、ダンジョンには珍しいマジックアイテムが落ちていることがあるんだ。私が昔冒険者だった頃、ダンジョンで手に入れたマジックアイテムは、かなりの額でギルドが引き取ってくれていた。」


 どうやらダンジョン産のマジックアイテムには、高価なものが多いらしい。


「人間というのは現金なもので、リスクに見合うほどのリターンがあれば、たとえ命の危険があっても目の前のお宝を優先するというもの。マジックアイテムを餌に、冒険者たちをおびき寄せるのはどうだろうか?」


 マジックアイテムを餌にするというサラの案は悪くないだろう。

 マジックアイテムが落ちているダンジョンとして有名になれば、ダンジョンにやって来る冒険者の質を落とさずに、人数だけ増やすことができるかもしれない。

 確か、この前ダンジョンコアが成長した時に、マジックアイテムを生成できるようになっていたな。

 俺には必要ないと思ってスルーしていたが、そういう使い方もあるのか。


「そうだな、ダンジョンに帰ったら魔素もたまってるだろうし、マジックアイテムを生成してみるか。」


 そんな感じで今後のダンジョン改修の方針が決まった。


「おい、だいぶ暗くなってきたし、そろそろ宿に戻ってメシにしよう。」


 気が付けば完全に日が沈み、空を見上げると真っ暗闇が広がっていた。

 道路脇に設置された街灯が、俺たちの足元をほのかに照らしている。


「そうだな。明日は朝一の馬車に乗らなければいけないし、早めに休むとしようか。」


 サラがそう言うと、俺たちは宿泊する宿へと歩いて行った。

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