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歓迎される刺客達

「なんだコイツら?」


 ダンジョンの入り口付近には、黒装束の怪しい人間の集団があった。

 数は5人で、短剣や投げナイフなどかなり身軽そうな装備だ。

 服の上からだと防具の有無は分からないが、ダンジョン攻略に来た冒険者という感じではない。

 同じ身軽な装備でも、斥候というより暗殺者といった方がしっくりくる。


「これもしかして、アイツの言ってた追手ってやつか?」


 俺はダンジョンの地下1階の一室にいるベルに向かって、ダンジョンのメンバーにだけ使える【念話】の魔法を使う。


「おい!黒ずくめの格好した奴らがダンジョンに入ってきたが、あれはお前の客か?」


『黒ずくめの…ああ!あいつらか!たぶんそいつらはワシに向けられた刺客じゃわい、大将。』


 やはりベルの追手らしい。

 魔物で対処したいところだったが、先日主戦力のオークの内大半をベルに食べられ、戦力の補充が追いついていない。

 残った1体のオークだけでは、大した妨害もできずに倒されてしまうだろう。


「お前の客だ、今回はお前が上で相手してこい。」


 ベルの追手だと聞いて気分が乗らなかった俺は、ベル自身に相手をさせることにした。


『せっかく増築したダンジョンの一角をワシの部屋としてもらったんじゃが…大将の命令とあっては仕方がないのう。』


 ベルは近くに落ちていた大斧を手に取り、追手を迎え撃つべくダンジョンの1階へと歩き出す。

 ダンジョンコアに溜まった魔力で地下の階層を増築していたが、今はまだ敵を倒すためのギミックがほとんどないので、可能な限り1階で対処したい。

 せっかくできた自分の部屋で戦いたそうなベルだったが、ここは我慢してもらうことにしよう。


『そういやあ大将、この前のオークを借りてもええか?』


 この前のオークとは、例の生き残ったオークのことだ。

 たまたまダンジョン内に配置せずコアルームにいたので、オークの方に目をやる。

 オークは俺の方を見て、無言でじっと佇んでいた。


「ああ、いいぞ。」


「ありがとよ、大将。奴ら、一人で相手しようと思うと連携を取られて面倒じゃから助かるわい!」


 しばらくしてベルとオークが1階で合流したのを見届け、俺は【念話】を切った。

【念話】は、ダンジョン内にいるダンジョンのメンバーと会話ができる魔法だ。

 離れた位置にいる魔物に指示を出すときにも使っている。

 この世界は通信手段が乏しいらしく、ダンジョン内限定という条件はあるが、遠く離れた場所にいても意思疎通ができる【念話】はかなり便利な魔法だ。


 そんな事を考えている内に、ベル達は追手の一団に遭遇していた。


 〜〜〜


「おう、お前さんたちもここまでよう来たの。」


 ベルはやってきた刺客達へ向かって、世間話でもするかのように喋りかける。


「……………」


 だが刺客たちはそれに取り合う気がないのか、黙って男の方を見ていた。

 するとリーダーのような男が、仲間の一人に向かってボソボソと何かを伝える。

 それを聞いて、刺客の中の一人がベルに背を向けダンジョンの入口へと駆け出した。

 雇い主にベルの生存報告にでも行ったのか、それとも応援を呼んだのだろうか。

 無理に背を向けた刺客を捕らえようとすると、他の刺客に無防備な姿を晒してしまうので、ベルは逃げだした刺客を諦めて見逃すことにした。


「なんじゃ、だんまりか。相も変わらずつまらん奴らじゃのう…」


 反応のない刺客たちにベルは悪態をつく。

 だが刺客達を見るその眼光は鋭く、いつ攻撃されてもいいように迎撃態勢を取っていた。


「総員戦闘準備、ターゲットを抹殺する…行くぞ!」


 声を上げたのは刺客達のリーダーだろうか。

 よく見るとこめかみのあたりに一筋の汗をかいているのが見える。

 リーダーの言葉に反応して、一人の刺客がベルに向かって魔法を放つ。


「【風の刃(ウィンドカッター)】」


 ベルに向かって飛んできた鋭い風の刃を、彼は持っていた大斧を振るって叩き落した。

 すると間髪入れずに次の刺客がベルに向かって駆け寄り、手に持っていた短剣で突く。

 だがベルは半身になり、それを紙一重で躱す。

 刺客は短剣を突いた状態から横なぎに振るうが、やはりそれを紙一重でベルが躱した。


「そこじゃ。」


 そうして生まれた隙に、ベルの後ろにいたオークが飛び出して刺客の胸をを殴りつける。


「ブオオオオオオオオ!」


「グッ…!」


 ボキリとあばら骨の折れる音がした。

 何本か逝っただろう。

 オークに殴られた刺客は吹っ飛んで気を失い、後ろに転がっていった。


「【土の槌(アースハンマー)】」


 ベルの耳に離れた位置からそんな声が聞こえてきた。

 声がした方向にベルが目をやると、そこには土の大槌を持ったリーダーがいた。


「「【身体狂化】」」


 仲間の刺客二人がリーダーに向かって手を向け、呪文を唱えて魔法を使う。


「グ…オオオオオオオォォォォォォ!」


 するとリーダーの筋肉が見るからに膨れ上がり、苦しそうなうめき声をあげる。

 他者の身体を強化する魔法だろうか。

 ならばさっき倒した刺客は時間稼ぎで、きっとこっちが本命なのだろう。

 ベルは警戒を強め、本気の身体強化を使った。


 土の大槌を振りかぶり、ベルの方へと駆け出すリーダー。

 そしてその大槌をベルに向かって斜めに振り下ろす。


「うおおおおおおおおおおおぉぉぉ!」


 ベルはその大槌を大斧の腹で受け止めようと、両手で大斧の柄を持って構える。

 大斧の腹に大槌がぶつかり、ガキンと大きな音を立てる。


「グッ…」


 大槌によるリーダーの一撃は、予想していたよりも遥かに重かった。

 このままでは受けきれないと感じたベルは、吹っ飛ばされる前に横に跳ぶ。

 リーダーの大槌がそのまま振りぬかれ、ベルは離れた位置に着地した。


 自分が純粋な力勝負で押されるなんていつ以来だろうか。

 そんなことを考えながら体勢を立て直すと、いつの間にか目の前まで迫っていたリーダーが大槌を真上に振りかぶっているところだった。


「ハァハァ…オオオオオオオオォォォォォォ!」


 ベルは持っていた大斧を大槌に向かって全力で振り上げる。

 大槌と大斧の衝突の瞬間、再びガキンいう大きな音がした。

 力と力が拮抗し、大槌は大斧に止められる。

 だがベルの体制が悪い。

 武器を振り下ろすのと振り上げるのとでは、振り下ろす方が有利だ。

 このままではベルが押し負けるかに思われた。


「フン!厄介なもん(魔法)使いおって!まったく、この間までのワシじゃったら押し切られとったわい。…魔王様様じゃの。」


 するとベルの身体強化の出力がもう一段階上がる。

 魔王と契約を結んだおかげで、少しの間なら限界を超えた身体強化を使えるようになっていたのだ。

 拮抗していた力の針が傾き、ベルの大斧が大槌を押し返す。


「な…!バケモンが…!」


 力で負けると思っていなかったのか驚愕の表情を見せるリーダー。


「オラァ!」


 完全に大槌を押し切ったベルは一瞬の隙を逃さず、大斧で目の前のリーダーを切り裂いた。

 肩から斜めにパックリと切り裂かれたリーダーは、事切れて背中から倒れこんだ。


「これでお前さんたちの切り札は破ったが…さあ、どうする!」


 【身体狂化】による強化が途切れないように、離れた位置からリーダーに魔法をかけ続けていた二人の刺客に向かってベルが煽る。

 すると二人は無言で懐から小瓶を取り出し、蓋を開けて中にあった錠剤を飲んだ。

 そして一瞬だけ目を見開き、糸が切れた操り人形のようにパタリと倒れ込む。


「あーあ…もったいないのう…」


 敵に捕まるまいと命を断った二人を見て、ベルが呟く。


「じゃが一人は生きてるしまあええか。」


 ベルの視線の先には、オークが殴り飛ばした刺客が転がっていた。


 刺客が起き上がってこないのを確認して、ベルは魔王に【念話】を使う。


「見とったか、大将?こっちは終わったぞい。後片付けのスライムを回してくれ。…それとコイツはワシが持っていってもええか?」


『ああ、好きにしろ。だがこのダンジョンから逃がすなよ?吸収できる魔素の量が減っちまうからな。』


「おう、1回使ったら止めは刺しておくから安心してくれ。」


 そう言ってベルは【念話】を切り、自分の部屋へと刺客を持ち帰った。

 …その日は寝苦しい夜を過ごしたという。


 〜〜〜


「報告。ターゲットはダンジョンらしき洞窟に入って3日程出てこなかったため、我々を除く5名が生死確認のために洞窟へ潜入しました。」


 二人並んだ黒装束の内の一人が、執務室のような部屋で目の前の男に報告する。


「そうか、報告ご苦労。ククク、先日()が弱っているという報告を聞いて、暗殺部隊の中でも精鋭たちを送り込んだが…そうか、ダンジョンか。【身体狂化】を使える彼らならば、()の首を持って帰ってくれるだろう。」


 高貴な雰囲気を纏った身なりの良い男は、黒装束の報告を受けて口を歪めた。


 しばらくしてドアの向こうから気配がしたかと思うと、ノックの音が響いた。


「入れ。」


 男がそう言うと、先程とは別の黒装束が部屋に入ってきた。


「…一人か、どうした?」


 男は黒装束が一人だけしかいないことと、リーダーに任命した者がいないことを疑問に思ったが、先に要件を聞くことにした。


「報告。我々はダンジョン内にてターゲットと接触しました。ターゲットに数日前まで見られて疲労の色はなく、また1体のオークを引き連れておりました。ターゲットと遭遇したため戦闘になりましたが、分が悪いとの判断が下されたため決着がつく前に私だけ報告に上がりました。」


「オーク…?ダンジョンに入る前にテイムでもしたのか?」


 怪訝そうな表情で男は黒装束に尋ねる。


「いえ、そのような姿は確認できませんでした。…恐らくダンジョン内で何かがあったのかと。」


 黒装束は少しためらいながらも、淡々と事実を述べる。

 それを聞いた男は目を見開いた。


「なっ…ありえん!ダンジョンの魔物をテイムなんてできるわけがないだろう!ふざけるな!」


 男は座っていた椅子から立ち上がって、顔を赤らめながら怒鳴り散らす。


「ダンジョンの魔物を従えるなぞそれではまるで…」


 男は何かを言いかけてハッとしたような表情になる。


「おい、このことは他言無用だ。決して口外するんじゃないぞ!」


 何かをごまかすように、男はベルがダンジョンのオークを従えていたことに緘口令を敷いた。


「…承知しました。」


 黒装束はそう言って部屋を出ていく。

 それを見送った男は、部屋の端まで歩いていき窓の外を見る。

 そこにはどんよりとした曇り空が広がっていた。


「魔王のよう…か。」


 先程口にしかけた言葉を呟く男。


「フ…ハハハ!まったく、馬鹿げた妄想だ。」


 男は自分の想像を自嘲すると、踵を返して部屋を出ていく。


 窓の外ではポツリポツリと雨が降り始めていた。

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