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圧倒的強者

「ほーん、大将は元々異世界の生まれなのか。」


 全力で戦って体力を大きく消耗し、その場から動く気にならなかった俺とベルは、少しばかり雑談をしていた。

 今は俺がこの世界に来て魔王になるまでの経緯について説明していた。


「なんだ、反応が薄いな。俺が異世界からここに来たことにもっと驚くと思ったんだが…」


 俺が異世界からやってきたことを聞いても、ベルはたいして驚きもせずすんなり受け入れていた。


「まあの。確かに珍しくはあるが、世界を越えてやってくる者の話はたまに聞くんでの。驚くほどでもないわい。ワシの先祖にもそういう奴がいたとかなんとか。」


 異世界からやって来る人間というのは存外いるらしい。

 確かにレモリーが使っていた魔法陣みたく、能動的に人間を異世界から召喚する方法があるし、そこまでの衝撃はないのだろう。

 なんなら俺のように転移してきた者だけでなく、前世の記憶を持って転生するパターンもあるそうだ。


「まあ実際にこの目で異世界人を見たのは初めてではあるんじゃがな。そういやあ大将、まだ聞いてなかったがあんたの名はなんてんだ?」


 ベルは思い出したかのように俺の名を尋ねてきた。

 名前…か。


「俺に名前なんてねえよ。」


 強いて言うならレモリーに呼ばれている"魔王"が今の俺の名になるんだろうか?


「名がない…?どういうことじゃ?」


 俺の返答にベルは不思議そうな顔をしていた。


「物心ついた頃にはもう、俺は独りだったんだ。名があったとしても呼ばれた記憶なんてねえし、俺に名を付ける奴もいなかったからな。向こうにいたころは新入りだの雑用だの、そう呼ばれていた。」


「なるほどのう。しかし、名がないというのは中々に不便じゃな。まあ今後は魔王を名乗ればよいが。」


 そんな感じてしばらくベルと喋っていたら、部屋の入口辺りから足音が聞こえた。


「魔王様、こちらにおられましたか。只今戻りました。…えっと、そちらの方は…?」


 猪のような魔物を引きずって持って帰ってきたレモリーは、俺に挨拶した後ベルの方に訝しむような視線を向ける。


「ああ、コイツか?さっき俺の手下になった。」


「え…?」


 いつもは冷静なレモリーが珍しく素っ頓狂な声を上げ、呆けたような表情をしていた。




「なるほど、そういうことでしたか。」


 俺がこれまでの経緯を説明すると、レモリーは納得したように頷く。

 そしてその間に、彼女の回復魔法で俺とベルの怪我を治してもらっていた。

 さっきまで満身創痍だったが、回復魔法のおかげでなんとか歩けるくらいにはなった。


「大将、そのネーチャンが例の魔族か?」


 話がひと区切りついたところで、ベルが俺に尋ねてくる。

 俺がレモリーに召喚されたことは、既に説明済みだった。


「ああ。…襲うなよ?死ぬぞ。」


 俺と死闘を繰り広げたベルだったが、レモリーを襲ったら返り討ちに遭う未来が容易に想像できる。

 念のため釘を差しておいた。


「ガハハハハハ!さすがにワシも手を出しちゃあならん相手かどうかくらいわかるわい!」


 レモリーから圧倒的強者の匂いを嗅ぎ取ったのか、笑いながらそう返すベル。

 …その言い方だと、さっき襲われそうになった俺が弱いみたいになってしまうがまあいいだろう。

 この体が成長したら、絶対にお前らよりも強くなってるだろうから見とけよ!


 そんな事を考えていたら、グゥと腹の音が鳴った。


「さて、怪我が治ったら今度は腹が減ってきたな。コアルームに戻ってメシにしようぜ。」


「かしこまりました。」


「ほう、メシか。そいつは楽しみじゃのう。」


 俺の提案にレモリーは軽い会釈をしながら、ベルはニヤリと笑いながら答えた。

 というかベルはさっきオークを4体丸々平らげてたのにまだ食う気かよ…




「ワンッワンッ!…わう?…!!!」


 俺はレモリーとベルと、ついでにあの部屋で生き残ったオークを引き連れて、コアルームまでやってきた。

 帰ってきた俺たち…というか俺を出迎えようと、コボルトのフィンが元気よく飛び出してしまったが、ベルの姿を見て俺の後ろに隠れてしまった。

 よほどダンジョンコアを通して見た光景がショッキングだったんだろう。


「うーむ…ワシは何かこのコボルトを怖がらせるようなことでもしたかのう…?」


 首をかしげて不思議そうにしているベルだが、もっと自分の行動を顧みてほしい。


 ベルとフィンのことは放っておいて、ダンジョンコアに目をやると、ピカピカと点滅していた。

 この点滅の仕方はたぶん、俺たちの帰還を喜んでいるわけじゃなくて、俺に伝えたいことがある時のものだ。


 俺はダンジョンコアの近くまで歩いていき、手をかざす。

 するとダンジョンコアから、ベルをダンジョンのメンバーとして登録するよう提案された。

 ダンジョンのメンバーとして登録すると、ダンジョン内の離れた場所にいても俺と意思疎通できるようになったり、少しばかりではあるがダンジョンコアの力で身体能力が上がったりするなどの恩恵がある。

 また、ダンジョンコアもメンバーを通して魔素を吸収でき、より効率的にダンジョンを強化できるようになる。

 俺たちにとってもベルにとっても損はないだろう。

 ちなみにレモリーはダンジョンのメンバーとして登録していない。

 レモリーの魔法耐性が強すぎて、登録に必要な魔法をレジストされ登録できなかったのだ。

 俺とダンジョンが成長すれば登録できるようになるとのことなので、折を見てまた試してみようと思う。


「おい!今からお前をダンジョンのメンバーとして登録するがいいな!」


 興味深そうにダンジョンコアの方を見ているベルに向かって俺はそう言った。


「ワシの大将はあんたじゃ!それに一度は捨てた命、何があっても文句はないわい!」


 そう返事をしてダンジョンコアの近くまで寄ってくるベル。

 俺は契約魔法を使うために、ベルの方に手のひらを向け目を閉じて詠唱を始める。


「汝、我が眷属となり我がダンジョンの糧となることを、魔王の名において命ずる。【ダンジョン契約】」


 呪文を唱えると、俺の手の先にある空間に小さな五芒星のような魔方陣が浮かび上がった。

 魔方陣に向かってベルは手をかざす。


「ワシは魔王様のために戦うことをここに誓おう。」


 魔方陣から光が放たれると、ベルの方へ向かって進む。

 そしてベルの手のひらに吸い込まれるように消えていった。

 これで契約は成立だ。


「これでワシは正式に大将の配下か。ガハハハハハ!そいじゃあ改めてよろしく頼もう。」


 俺と契約を結んだベルは、快活な笑みを見せ嬉しそうにそう言った。


 〜〜〜


 魔王のダンジョンである洞窟の入口に、黒ずくめの怪しげな格好をした一団があった。


「ターゲットが洞窟に入ってから約3日が経過したが未だに出てくる様子がない…どうする、リーダー?」


 黒ずくめの集団の中の一人が、リーダーに向かって問いかける。

 するとリーダーと思しき男は頭の中で数秒間思案した後、周囲にいた仲間たちに向かって指示を出す。


「…そうだな、エッフとジエはこのことを本部に報告、残りの者は俺と共に洞窟の中へ来い。()の生死確認だ。場合によっては戦闘になるが覚悟しておけ。」


 そうリーダーが言うと、報告役の二人はすぐさま洞窟の反対側へと駆け出し、残りの面々は洞窟の中へと入っていった。

いつの間にか1000PV超えてました。

この物語を読んでいただき、ありがとうございます。

なんとか完結させられるよう頑張りますので、おもしろかったらいいね!やブクマ等していただけると嬉しいです。

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