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諦めと憎悪

「ああ、そうらしい。」


「お前は魔王なのか?」という男の問いに、俺はそう答えた。


「らしい…?まあええわい。なるほどの。それであのオークがお前さんに味方したというわけか。」


 野生の魔物を人間が捕獲して従えることは稀にあるらしい。

 だが、ダンジョンで生まれた魔物が人間に従うなど、絶対にあり得ないことだった。

 男はそこから俺を魔王だと推測したのだろう。


「しかし魔王がダンジョンの魔物を従えるという話は本当じゃったか。」


 男は好奇の眼差しを俺に向けてそう言った。


「なんだ?知らなかったのか?」


 この世界では、魔王といえば知らぬ者がいないくらい有名な存在だ。

 俺の先代の魔王が生きていたのは数十年程前だが、今でも人間たちの間では、当時の魔王の強さや恐ろしさが語り継がれている。

 だというのに、なぜこの男は魔王の能力を知らなかったのだろうか?


「昔ちいとばかし本で読んだだけじゃの。魔王の恐ろしさは人にでも聞けばいくらでも出てくるのに、何故か肝心の魔王の力に関しては誰も知らなんだでな。」


 なるほど、魔王の能力はあまり世に知られていないのか。

 もしかして情報統制がされていたり…?

 なんて一瞬思ったけど、ただ単にこの山賊のような男の周りがそうだっただけかもしれない。

 だってコイツ、蛮族(バカ)っぽいし。


「そうか…」


 俺は雑に相槌を打つ。

 男もこれ以上聞きたいことがなかったのか、俺たちの会話はそこで途切れた。

 少しの間互いに沈黙が続き、静寂がこの場を支配する。


 ふぅと1つため息をつくと、男は徐に口を開いた。


「さて…無駄話もこの辺にしておこうかの。なんせ人とまともに会話するのも久しぶりで、あまり喋ってるとこの世に未練ができちまう。おい、小僧!殺るならひと思いに殺ってくれ!」


 そう言うと、男はゴロンと大の字で寝転がる。


「…抵抗しないのか?」


 てっきり命乞いでもするのかと思っていた俺にとって、あっさり自らの死を受け入れた男の姿は意外だった。


「ああ。追手に命を狙われながらここまで生きてきたが…さすがにもう疲れた。せめてワシのことを追い出した奴らにひと泡吹かせてやりたかったが…小僧に殺られるのならええわい。」


 男はどこか諦めを感じさせる遠い目をしてそう言った。

 どうやらこの男は、孤独に生きていくことに耐えられなくなったらしい。

 最悪な環境で虐げられながらも生にしがみついてきた俺にとっては、全くもって理解できないが。


「ふーん。追い出されたって言ったが何をしたんだ?」


 少し気になったので男に尋ねてみる。


「なに、簡単な話。ワシのことを気味悪がった奴らに追い出されたってだけじゃ。」


 男は体を起こし、自らの人生を振り返るように語り始める。


「ワシはいわゆるギフテッドやら神子なんて言われるような存在での、生まれつき化け物じみた力を持っていたんじゃ。じゃがそれと同時に、尽きることのない性欲も持っておった。体力のない子供の内は、それでも普通に生きてこられたんじゃが、歳を重ね体が成長するにつれて、溢れ出る情欲を抑えきれんくなってきての。まあおかげさんでこっちの方は今までずっと元気じゃわい。」


 そう言って笑いながら自分の股間を指差す男。

 他人の下半身事情なんて心底どうでもいい話ではあるが、自分で話を振ってしまった手前、俺は黙って聞くことにした。


「今でこそこんなんじゃが、当時のワシにはまだ常識っちゅうもんがあった。このままではいつか性欲が爆発して人間を襲っちまうかもしれない、そう危惧したワシは急いで有り余る性欲を処理する方法を考えた。」


「娼館にでも通えばいいじゃねえか。」


 俺はつい思ったことを口に出す。

 すると男は、俺の言葉に対して首を横に振った。


「普通の奴ならばそれでもいいのじゃろうが…残念ながら四六時中湧き出てくる欲に対処せねばならんワシにとって、娼館通いは金がかかりすぎちまう。それにかなりの頻度で、というかほぼ毎日利用するとなると、世間体も悪くなってしまうでの。」


 世間からの評判なんぞ関係のなかった俺にはわからないが、男には男なりの事情があったらしい。


「そこでワシは思いついた、人間がダメなら魔物を使えばいいとな。幸いなことに力だけは強かったワシは、冒険者としての活動を始め、討伐と称して街を出て魔物を探した。そこで1体のオークに出会ったんじゃ。そこでワシはそのオークを犯し、その背徳的で甘美な味の虜になっちまった。それからというもの、ワシは毎日のように街の外へ出て魔物を犯し続けたんじゃ。」


 そこで男は一息つき、少し間をおいて再び喋り始める。


「じゃがそんな生活も長くは続かなかった。いつものように魔物と致しているところを、他の冒険者に見られちまったんじゃ。しかも運の悪いことに、当時若くて勢いのあったワシのことを妬んだ奴らでの。すぐに噂が広まり、ロクな依頼が回ってこんようになったワシは、ギルドにおられんくなっちまった。」


 どの世界にも、人のことを妬んで貶めようとするろくでもない輩はいるようだ。

 恐らく若くて経験の浅かった男が、他人の悪意を退ける術を持っていなかったことも災いしたのだろう。


「それだけならまだマシじゃったが、その噂がワシの実家にまで届いての。悪評を嫌ったワシの家族は成人前だったワシを追い出した。仲間も味方もいなくなったワシは…ああ、いや、一人だけ声をかける者はいたが、結局は分かりあえなんだな。こうしてワシは全てを失ったんじゃ。」


「なるほどな、それで今に至るわけか。そういえば追手がどうとか言ってたな。」


「ああ、そのことか。ワシは地元じゃそれなりに名前のある家の出での。最初は秘密裏にワシを処分するために刺客が家から送られるだけじゃったが…そいつらを返り討ちにし、ついでに犯してを繰り返すうちに、だんだん事が大きくなってしまっての。今ではギルドだ何だを巻き込んだ大事になっちまったわい。」


 そして男は話を聞き入っていた俺の方をまっすぐ見て言う。


「最期にワシの話を聞いてくれたこと、感謝しよう。さて、今度こそ本当に無駄話は終いじゃ。ワシの決意が揺らがん内に早う殺せ、小僧!」


 急かす男に俺は、手の平を向けてそこに魔力を集める。

 男はすべてを受け入れて目を瞑っていた。

 そして俺は最大火力の魔法を目の前の男に向けて…


 撃たなかった。

 なんとなくこの男を殺す気にならなかったのだ。

 別に男の悲惨な人生に同情したわけでもなければ、孤独に生きるその様に共感したわけでもない。

 ただ、諦めの色を濃くしたその瞳の奥に、寒気がしそうな程の深い憎悪が燻っているような気がした。

 俺の人間に対する憎悪とは少し違うが、コレは使えそうな気がする。


「おい、お前はそれでいいのか?」


「…?なんじゃ?」


 いつまでも魔法が飛んでこないことを疑問に思ったのか、目を開けた男は俺の言葉に呆けたような顔をした。


「お前のことを追い出した奴らにひと泡吹かせたいと言ったな!大した仕返しもできねえまま死んじまっていいのかと聞いてんだ!」


「……………」


 俺の問いかけに、男は考え込むように再び目を閉じた。

 それを見て俺は、畳み掛けるように男へ向かって叫んだ。


「俺は魔王として…いや、俺個人としても人間を滅ぼしてやりてえんだが、手がたりねえ。お前を追い出した家に!ギルドに!街に!恨みがあるのなら俺の下に来い!復讐するチャンスをやろう!」


 それを聞いて男はゆっくりと目を開く。

 そして俺を値踏みするような視線を向けて口を開いた。


「…正気か、小僧?ワシゃあまた欲望の赴くままにお前さんを襲うかもしれんぞ?」


「ハッ!そんときゃあまた殺してやるよ!」


 今回この男に勝てたのは運がよかった。

 正直もう一度戦えと言われても、勝てるかどうかはわからない。

 だが俺は魔王だ。

 いざとなったら魔物を召喚して戦えばいい。

 それにこちらには、レモリーという最強の切り札がある。

 1対1では敵わなくとも、味方と協力すればコイツを抑え込めると確信していた。


「…フッ、ガハハハハハハハハ!まったく、協力しろと言ったり殺してやると言ったり、わけのわからん奴じゃわい!大体こんなワシを近くに置こうだなんて、お前さん頭おかしいんじゃねえのか?」


 心の底から可笑しそうに男は笑っていた。


「お前にゃ言われたかねえな。」


「フン、じゃが気に入った!小僧…いや、大将!お前さんの下であいつらに復讐するとしようかの。よろしくな、大将。ワシのことはベルとでも呼んでくれ。」


 こうして俺は手下(変態)を手に入れた。

へんたいがなかまになりたそうにこちらをみている

なかまにしますか?

→はい

 いいえ

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