食う寝る犯す
先の冒険者パーティーの襲来から1週間ほど経った頃、それは起こった。
「な…何が起こってるんだ…」
ダンジョンコアを通して見える光景に、俺は絶句する。
「クゥ~ン…」
隣にいたフィンは、股の間に尻尾をしまい込み両手で頭を抱えながらガタガタと震えていた。
事の発端は数時間前。
レモリーが外へ狩りに出ている間に、侵入者が現れたという知らせを受けた俺は、いつものように魔物を配置につかせて対処しているところだった。
侵入者は、まともな手入れもされず伸び放題の髪と髭に、獣のように野生的な目つきをした山賊の頭みたいな巨漢だ。
年齢は30代〜40代くらいだろう。
着ている服はボロボロだし、ろくな装備も身に着けていないので、遭難してたまたまこのダンジョンに迷い込んでしまったのだろうか。
「オークをぶつければすぐに終わりそうだな。」
先日召喚して装備を持たせたオークは、すぐにこのダンジョンのエースとして活躍し、大量の侵入者を屠っていた。
戦闘能力の高さをより活かすために、追加で召喚したオークと共に行動させ、オークパーティーとして新しく作った大部屋に配置している。
斧持ちが1体と剣持ちが2体の前衛、弓持ちが2体の後衛で、バランスの良いパーティーになったと思う。
俺は工兵部隊に男をオークのいる大部屋へと誘導するよう指示を出した。
この工兵部隊は、オークを召喚したことによって手持ち無沙汰になったゴブリンたちで組まれたものだ。
コボルトの工兵部隊もあり、ゴブリンは現場の細工、コボルトは裏方として役割を分けた。
ゴブリン工兵部隊は、俺の指示に従ってオーク部屋以外に続く道を岩などで塞いでいる。
『うーむ…なんか怪しいのう…』
男が呟く。
突貫工事すぎて、さすがにバレたか?
『まあええわい。』
何か違和感を感じたようだったが、男は気にすることなく先へ進んでいった。
男が大部屋の前までやってきた。
『この匂いはオークか。1、2、3…全部で5匹じゃの。ふむ…今日はコイツでいいか。』
そう言うと男は、防具も何もないその身を晒しながら、無防備にもスタスタと大部屋の中へ入っていった。
「は…?」
逃げるでもなく対策を練るでもなく、まるで散歩にでも来たかのように無策で歩く男の姿を見て、俺はあっけにとられた。
何を考えているんだコイツは?
死にたいのだろうか?
『フゴオオオオォォォ!』
そんな男を前に、弓を持ったオークたちは困惑した様子もなく、矢を番えて男目がけて放った。
丸太のように太いオークの腕から放たれた矢は、ゴブリンの弩よりも遥かに速く飛んでゆく。
矢が男に直撃しようかというまさにその時、男は飛んできた矢を一瞬で鷲掴みにし、矢じりをオークに向けて投げ返した。
『フンッ…!』
返ってきた矢は後衛のオークたちの喉に突き刺さり、その命を奪う。
『ブ…ブオオオオォォォォ!』
仲間をやられた前衛のオークたちは、咆哮をあげて男に突っ込んでくる。
その先頭には、先日冒険者から奪った大斧を持たせたオークがいた。
『ほおう…いい武器を持ってるじゃないか!』
先頭にいたオークが振り下ろしてきた大斧を、男はその巨体に似合わぬ軽やかな動きでひらりと躱す。
そして、そのオークを蹴り飛ばして大斧をひったくる。
蹴り飛ばされたオークは、その衝撃で気絶し地面を転がっていった。
後続のオークが男に近づき、袈裟懸けに剣を振るうと、男は斧の柄でそれを受け流す。
『オラァ!』
そしてオークに向かって斧を振り下ろし、真っ二つに両断した。
攻撃後の隙を狙ってもう1体のオークが横に剣を薙ぐが、それも躱す。
右腕にかすり傷ができていたが、オークが男につけた傷はそれだけだった。
『ハアッ!』
体勢を立て直した男が大斧を水平に構えて振ると、大した抵抗もなく大斧がオークの体を通り過ぎる。
すると、オークの上半身が下半身からズレ落ち、ドロドロした赤い液体が一面に広がった。
『フ…フゴオオォォ』
最初に蹴り飛ばされていたオークが気絶から覚め、ふらつきながら起き上がる。
このオークだけ唯一プレートアーマーを着ていたからか、目立った外傷は無い。
『ふうむ…手加減したとはいえ無傷で起き上がるとは、なかなか活きが良いのう。じゃが、その状態ではまともに戦えんじゃろうて。』
すると男はいやらしい顔でニヤリと笑うと、手を合わせて詠唱を始めた。
『母なる大地より生まれし木よ!蔓よ!欲望の赴くままにヤツを絡め取れ!【木霊の悪戯】』
男が地面に手を置くと、オークの周りにいくつもの木の蔓が生え、手に、足に、体に巻き付いてオークを拘束した。
力ずくで拘束を解こうと抵抗するオークだが、その細い見た目以上に丈夫な蔓は、びくともしない。
『ガハハハハハ!ムダじゃ!お前さんにゃあそいつはほどけんよ!』
豪快な笑いとともに男が叫ぶ。
『さて、ここいらでメシにするのもいいが…今は腹よりもこっちの方が限界なんだよな。』
男がオークの側まで近寄りながらそう言うと、不意に自分の腰へ手をやってベルトを外し、一気にズボンを脱いだ。
「な…!」
竜だ。
今にも天へ昇らんとする立派な竜がそこにはあった。
男は蔓が絡まって動けないオークの背後に回ると、何かに気づいたのか、下卑た笑みを浮かべる。
『お前さんそうか…メスか。そりゃあ好都合!』
そして男は、今にもはち切れんばかりの勢いでいきりタっている猛き竜を、オークの…いや、みなまで言うまい。
あろうことに、人間の男が魔物のオークを犯し始めた。
『ピギイイイィィィィィィィィィ!』
部屋中に響き渡るオークの悲鳴、無惨な姿で転がっている数体のオークたち、そして快楽に身を委ねる男…
オーク血で真っ赤に染まった部屋の中は、まさに地獄のような光景だった。
というのがここまでの顛末だ。
俺は一体何を見せられているのだろうか?
オッサンとオークが致しているとこなんぞ、どこにも需要はないだろう…と思う。
そうこうしているうちに、男が満足したようでズボンを履き直している。
縛られているオークは、ぐったりとしていた。
『ああ…ちいとばかし運動したら、腹が減ったのう。』
そう言うと男は、オークの死体を拾い上げて貪り食う。
「コイツ…本当に人間か…?」
人間ではなく、魔物の類だと言われても違和感がない。
それくらいダンジョンに侵入してきた男は、奇怪な行動をとっていた。
『フワァ〜ア…腹もふくれたら眠くなってきたわい。』
床に転がっていたオークを食べ尽くした男は、拘束していたオークを仰向けに寝転ばすと、その腹を枕にして自分も寝そべった。
「………………」
俺はもはや言葉も出なかった。
これは現実なのだろうか?
どこの世界に危険地帯で敵を枕に眠るバカがいるのだろう?
このままではあの男が、本格的にこのダンジョンに住み着きそうなので、何かしらの手を打たないといけない。
「フィン、お前行くか?ちょっくら寝首をかいてくるだけでいいから…」
「ワウッ!?ワンワンワンワン!」
俺の問いに、フィンはもげそうなくらい全力で首を横に振った。
相当行きたくないようだ。
フィンの性別はどうやらメスらしいので、本能があの男に近づくこと拒否しているのだろう。
「だよなあ…ハァ…」
俺も理解の及ばぬ変態なんぞ相手にしたくはない。
ヤることヤって、満足したら森に帰ってくれないかなぁ…なんて淡い期待を抱いていたんだけどなあ…
だが、こうなったらもう俺が行くしかないだろう。
変態を処理するために、俺は疲れた顔でコアルームから出ていくのだった。




