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魔物たちのチンピラ退治

 フィンを召喚してからというもの、食事の用意から寝床の確保まで、レモリーが甲斐甲斐しくフィンの世話をしていた。

 だというのに、何故かフィンが彼女に懐く様子がない。

 レモリーがフィンに触ろうとすると、警戒して離れてしまう。

 …俺が近づくと顔をベロンベロン舐め回されるのだが、何が違うんだろうか。


 それはさておき、ダンジョン改修の方は順調に進んでいる。

 召喚した魔物がそれなりの数になってきたので、新たに部屋を作ってそこにまとめて配置した。


 毎日数体ほどゴブリンの集団がやってくるが、数の力で圧倒するか、先日作った罠で撃退している。

 このダンジョンもかなり広くなってきたし、そろそろ階層を増やして下に伸ばしていくのもいいかもしれない。


 そんなことを考えていたら、ダンジョンコアが激しく点滅していた。

 どうやら侵入者が来たようだ。


「おっ!ゴブリンか?」


 侵入者への対処も慣れたもので、速やかにダンジョンコアに触れて、魔物たちへ配置につくよう指示を飛ばすのだった。


 ~~~


 エキナセア王国の外れにあるダンジョン前に、3人の冒険者風の一団があった。


「ハァ…やっと着いた…ここが例のダンジョンですぜ、カインのアニキ!」


「おう!よくやった、クイン!これで俺等も貧乏生活とはオサラバよ!」


 2mもあろうかという巨体に鉄のプレートアーマーを着込み、大人の体くらいありそうな大斧を持った戦士風の男カインは、クインに向かってそう言った。


 クインは痩せた体に軽そうな革鎧を身に着け、短剣と弓矢を携えた斥候らしき男だ。


「エルヴィンの野郎、こんなとこにダンジョンを見つけてやがったのか…」


 洞窟を見ながらそう呟いたのは、大きな盾を装備した目つきの悪い男で、名をキーンという。


「しかしラッキーでしたね、あのガキ(エルヴィン)がダンジョンを見つけたのを知れて。」


「小僧たちと門番が話しているところにたまたま居合わせたからな!本来は調査が完了するまでダンジョンに挑戦できないが、こんなうまい話、乗らない手はあるまいて!」


 エルヴィンとハンナが見つけたダンジョンは、情報が冒険者ギルドによって秘匿されている。

 なので、本来ならば普通の冒険者たちがその情報を知ることはできず、そもそもダンジョンまで辿り着かないはずだった。


「フン…まあ、あいつらが越せなかったダンジョンを俺たちが攻略すれば、格の違いも見せられるしな。」


 エルヴィンのことを敵視している様子の彼らだが、それには理由がある。

 エルヴィンがまだまだ新米だった頃、見慣れない新人をからかってやろうとちょっかいを出し、返り討ちに遭ってしまったのだ。

 腕っぷしが全てではないが、荒くれ物の集まりである冒険者にとって、メンツは重要だった。

 ナメられたら終わりの世界だ。

 ただの子どもにしか見えないエルヴィンに負けた彼らは好奇の視線にさらされ、問題のある冒険者としてロクな仕事が回ってこず、冷や飯を食う羽目になった。

 言ってみれば自業自得だ。

 だがそんな彼らはあろうことに、自分の行いを反省するどころかエルヴィンを逆恨みしていた。

 まあ自己を顧みることができるのなら、そもそも問題行動なんて起こしていないのだろうが。


「あっしはそれよりも、金がなくて最近行けてねえ色街へ久しぶりにいきてえです。」


「それもこれも、ダンジョンさえ攻略すれば全部手に入るんだ!お前ら、ここまで来たらさっさと攻略するぞ!そんで、コアの魔石を売っ払った金をもって明日は【サキュバスの館】の攻略だ!ワハハハハハハ!」


 3人組の冒険者たちは、一攫千金を求めてダンジョンへと入ってゆくのだった。


 ~~~


「お、久しぶりの人間だな。冒険者のパーティーか?今度こそ殺ったるぜ!」


 ゴブリンを倒すのも悪くはないが、いつも同じ相手では張り合いがない。

 久しぶりにゴブリン以外の敵がやってきたとあって、俺の気持ちはかなり高ぶっていた。


「前回私は席を外していて魔王様のご勇姿を見られず残念に思っていましたが、今回はしかと目に焼き付けさせていただきます。」


 レモリーがほほ笑みながらダンジョンコアに手をかざした。


「ああ、目ん玉かっ開いてよく見とけよ!」


 そう言って侵入者たちに意識を向けると、彼らは新しく作った部屋の前に着いたところだった。


『この先道が広がってますね…あっしは罠があるかどうかを調べるんで、アニキたちはちょいとばかし休んでてくだせえ。』


 斥候のクインという男が足元や壁を調べ始める。

 すると彼は、細いピアノ線のような糸を見つけた。


『あ!ありやした!こいつは引っかかると矢か何かが飛んでくるタイプの罠ですぜ!今解除しやす。』


『おう!でかした、クイン!』


『お前もこういう時は役に立つな。』


 パーティーの役に立てて嬉しそうなクインに、カインはニヤリと笑いながら、キーンはぶっきらぼうに声をかけた。


「チッ…矢の方は解除されちまったか。まあいいさ、その分魔物たちに働いてもらうとしよう。」


 罠を解除したクインがさらに近くを調べるが、他は特に何も見つからなかったようだ。


『罠はもうなさそうですぜ、アニキ!』


『よし、なら先へ進むとするか。』


 そして彼らが部屋の中に入った次の瞬間、彼らの頭上から何かが襲いかかってきた。


『なっ…』


『フンッ!』


 キーンは驚きながらも盾で飛んできた何かを弾き飛ばし、カインは斧で真っ二つにしていた。


『グッ…!』


 だが、クインは飛来した物体に反応できず、直撃して腿を貫かれてしまう。

 クインに直撃した何か、それは矢だった。

 罠を解除したはずなのに飛んできた矢を疑問に思ったのか、矢が飛んできた方向に目を向けるクイン。

 その視線の先には、弩を構えたゴブリンの姿があった。


『なんであんなところにゴブリンが…』


 魔物たちがいるのは、部屋の入り口の左右両横にある切り立った崖のような高台で、部屋の外からはちょうど死角になるような場所だ。

 谷底のような位置にいる冒険者一行は、魔物たちにとっていい的だった。


『クソっ、クイン!』


 魔物たちが2射目を放つと、キーンは怪我をして動けないクインに駆け寄り、彼を守るよう盾で矢を弾いた。


『ガハッ…!』


 だが人1人の力で守るには、飛んでくる矢の数が多すぎた。

 なんせ左右両方の高台から矢が撃たれるのだ。


『キーンのアニキ!』


 矢を捌ききれなかったキーンは、クインを庇うようにして腰のあたりに矢を受けた。


『キーン!クイン!…ふざけんじゃねえぞ、このゴブリンどもがあああああ!』


 弟分の2人をやられ激昂したカインは、持っていた大斧を床に投げ捨てると、腰に差していたハチェットを手に取り、矢を準備しているゴブリン目がけて投げた。

 ハチェットは手前のゴブリンを貫通して、そのまま奥にいたゴブリンの首を刎ねる。


『ギャガッ…!』


 一瞬で事切れるゴブリン。


「あの斧ヤロー!なんて馬鹿力してやがる…!」


 その様子を見た他の魔物たちは、すぐさま弩を置いてハチェットの当たらない位置まで避難するのだった。


『クソっ!あいつら逃げやがっ…!』


 何かの気配を感じ取ったのか、ハチェットを真上に振るうカイン。


『スライムだと…!』


 カインは真っ二つに切り裂いたものを見て呟く。

 だが驚いている暇はない。

 スライムが1体また1体と落ちてくる。

 上から降ってくるスライムたちに、カインはハチェットで対応していった。


 そうしてだんだん真上にと向けられていくカインの注意。

 するとどうなるか。


「今だ!お前ら!」


『ガッ…!』


 カインの頭部を1本の矢が貫いた。


『アニキ!』

『カインさん!』


 意識の外からゴブリンが放った矢だ。

 それはどこからどう見ても、運の悪いとしか言いようがないクリティカルヒットだった。

 普段であれば、ゴブリンなんぞ敵ではなさそうなカインは、そのゴブリンの矢であっさりと命を落とした。


 この冒険者の一団は、今しがた倒したカインがリーダーだったのだろう。

 絶対的なリーダーの存在を失ったパーティーは脆い。

 ましてや満身創痍の相手だ。


「よし、その斧ヤローがいなけりゃ後は大したことねえ!やっちまえ!」


 方や腰に矢を受けて青い顔をした戦士と、方や腿を貫かれて機動力を失った斥候は、カインの仇を討とうと魔物に立ち向かうも、大した戦果も上げられず魔物たちに蹂躙された。


「ハハハハハハハ!おい、見たか!こんな奴ら、俺の敵じゃあねえな!」


 人間相手に大勝利を収め、上機嫌になった俺はレモリーに向かって話しかける。

 彼女はそんな俺を見て、いつものように「さすがです、魔王様」と応えるのだった。

記念すべき魔王様の対人戦(?)初勝利!


※この話以前の小説内の表現で、『魔法名』を【魔法名】に変更しました。

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