プロローグ
とある街の路地裏、ボロボロになった男の姿があった。ついさっきまで、数人の集団に取り囲まれて襲われていた。
「クソっ…!」
男が理不尽な暴力を受けるのはこれが初めてではない。
学もなければ力もない、家族や友人もおらず、何も持っていない彼は最底辺の人間として虐げられてきた。
道行く人々は、そんな男の姿を気に留める様子もなく、何事もなかったかのように通り過ぎてゆく。
たまに面白がって様子を見るくらいで、彼を助けようとする者はいなかった。
暴力が全てを支配する閉鎖的なこの街では、よくある光景だった。
(あいつら…絶対に許さねぇ…)
自分に危害を加えてきたチンピラ、それを面白がって眺める街の住人、見て見ぬふりをする通りすがりの人々…全てが許せなかった。
男は理不尽なこの街と人間が嫌いだった。彼の心には、人間に対する激しい憎悪が渦巻いていた。
(いつか…全部ぶっ殺してやる!)
そんなことを考えていたら、突如足元に不思議な模様が現れた。
「ん?なんだ?」
不思議な模様は禍々しく発行し、男の体が光に包まれたかと思うと、急に体が重くなり、意識を保てなくなっていった。
「チクショウ!一体なんだってんだ!こんなイタズラを…」
男の言葉が最後まで続くことはなかった。光が弱まって不思議な模様が消えたかと思うと、さっきまでそこにいた彼の姿はなくなっていた。
不思議な模様―召喚の魔法陣―に呼び出され異世界へと旅立ったようだ。
この街から一人の男がいなくなったが、それに気づく者はいない。
いてもいなくても変わらない存在が消えただけなのだから。
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初めて書く物語で、まだまだ至らないところもありますが、楽しんでいただければと思います。