2話 えっ、俺魔力あるの?
ん?なんだか体がちょっと暖かい。しかも背中がなんだかゴツゴツしている気がする。
「起きたか?」
「うわぁぁぁ!」
目を覚ました俺の前に飛び込んできた光景は、俺を体にもたれかからせたドラゴンが焚き火で肉を焼いている所だった。
あれ?ドラゴンの大きさがさっきと違って半分くらいになってる。
「肉を焼くには俺の体は大きすぎるからな。ほら食え、人間は生肉を食べられないのだろう?」
パニックになりながら手を上下に振る俺を見て相変わらず変な生き物を見る目で俺に説明してくれた。
「あっありがとうございます。俺はもう晩御飯にならなくていいですか?」
「あの時はただ脅しただけだ。我は本来人間を殺すことはあれど喰いはせぬ。」
よ、よかった。よぉしじゃあ遠慮なくお肉食べちゃうぞ。
俺は焼けた肉を全力で頬張る。味は獣だなぁというくらいで美味しくも不味くもないが、空っぽのお腹がどんどん膨れていく感覚に満たされた気持ちになる。
「逃げているかと思えば、意識を失っているとは思わなかったぞ。それに、普通お前くらいの人間の幼子が1人でこんな所にくるはずがない。一体何があった。」
このドラゴン、肉くれた上に心配までしてくれるとはなんていいやつなんだ。
凡太郎として生きていた時はともかくとしてジョンとしての人生で俺はほとんど他人に優しくしてもらった事がない。
だからなのかついつい頬が緩んでしまうしどんな事でもぺらぺら喋りたくなる気分になった。
「俺、実家と住んでる村を追い出されちゃったんだ。こんな小さな体じゃ町まで歩くのに精一杯で、食べることなんて全く考えられなかった。」
「なんと……」
「あんたが助けてくれなかったら俺多分もう死んでかも。だから本当に感謝してる。」
ドラゴンの表情は分かりにくいが、俺の境遇を本気で憂いて真面目に話を聞いてくれていることはよくわかった。
「どうして追い出された。」
「俺が魔力無しの穀潰しだからだよ。」
「ん?」
それまでしんみりとした様子で俺の話を聞いていたドラゴンが急に何かを考え出す。
「それは、魔力無しとは、何処で言われたんだ?」
「全国魔力検査だけど。ある年齢を超えたら教会に行って魔力の検査をして得意な属性とかを調べるんだ。うちは田舎で検査の人もあんまり来てくれないから一年遅れだったんだけどね。」
ドラゴンはさらに考え込む。
「お前は一度都市の大教会で検査してもらうべきだ。」
「え?」
「お前は自分が魔力無しというが、我はお前から強大な魔力を感じる。ただ少し歪な形をしているがゆえにその幼子の体では力を扱いきれず我のような上位生物にしか感知できなくなってしまっているのだろう。」
ええ、そうなの?嘘、俺魔力あるの?
試しに手を前に出してなんかこう、チカラ〜デロ〜って感じに念じて見るも何も起きず、
ただ奇行をする少年の図が出来上がっただけだった。
「魔力が肉体の中で捻れているんだ。呪文も無しにそんなポーズでできる訳なかろう。……はぁ、お前って奴は見ていると妙に色々心配になるな。」
「えへへ、よく言われてました。」
前世で。
「よし決めた、我は今日からお前について行こう。完璧な保護者にはなれぬかもしれんが、ここで捨て置いてもあいつのたれ死んでないか?などと気になって眠れんだけだからな。」
その言葉に俺はむずむずし始める。
さてはこのドラゴンただのいい奴じゃなくてめちゃくちゃいい奴だな?
「いいの?本当に?ありがとう。」
「お,おい人間。お前なぜ泣いている。我が何かしたのか、いいから泣き止め。」
あ,本当だ俺泣いてるわ。
仕方ない、家族に友達に、周りの大人に見捨てられて死にかけて路頭に迷っていた11歳のジョンはそれはそれは不安で寂しかったのだ。たとえドラゴンでも俺のことを心配だって言ってくれて保護者になってくれる。
こんなに嬉しいことはないだろう。
そして俺はオロオロするドラゴンを前に体感30分もギャン泣きし続けた。
目が覚めると朝日が登っていた。
ギャン泣きして疲れた俺はそのまますやりと眠ってしまったらしい。
そばの湖で顔を洗って落ち着いた俺は今後の相談をする事にした。
「そういやずっとドラゴンって呼ぶわけにもいかないよね。なんて名前なの?」
「ルナティオウスだ。だが、人間は大抵畏敬の念を込めて銀龍様と呼ぶ。」
「長いね、テオでいい?」
「お前って奴は、本当に!話を、聞かんな!!!」
「ダメ?」
「ま、まぁ我はお前の保護者みたいなものだからな。これから沢山名前を呼ぶ機会もあるだろう、仕方ない許してやる。」
ちょっと照れたようにテオは目を背ける。
「俺の名前はジョン、改めてよろしく。」
俺は人生で初めてドラゴンと握手した。
「ではとりあえずここから1番近い都市へと向かう。我に乗って行けば1日で着くが目立つのは良く無いだろう?だから徒歩になる。」
ドラゴンってこの世界でも街中に行けば目立つくらいには珍しいんだな。確か上位存在って言ってたし世界で何体くらいいるんだろうか。
「徒歩で行っても目立つんじゃないか?むしろ子供と一緒によちよち歩いてるドラゴンの方が人の目につくでしょ。」
「そこでだ。」
テオは何やら人間には聞き取れない言語を話しだした。
すると、当たりが突然煙に包まれる。ごほごほとむせながらも煙が晴れた先を目を凝らして見つめると、
「猫?」
そこにはロシアンブルーのような見た目の猫がちょこんと座っていた。
「我だ。」
「うわあ!猫が喋ったぁぁ。」
「ドラゴンが喋っても普通に受け入れていたのになぜ猫の時は驚くのだ。」
あっ、ドラゴンってやっぱ普通喋らないんだ。
「猫という生き物は人間に寄り添って生きる生物の中では最も高貴で、その多くは人間に崇められるだけではなく神の寵愛すらも受けているのだ。どうだ?上位存在たる我が変化するに相応しいだろう。」
腹を出しごろごろと音を立てながらテオは自慢げに猫の説明を続ける。だめだ、もふもふがごろごろにゃんにゃんで話が頭に全然入ってこないにゃん。
「また話を聞いていないのか?」
「も,もちろん聞いてるもふもふ!猫だったら確かに違和感ないよねもふもふ!」
「お前がもふもふしたいことだけはよくわかった。が、調子に乗らせるわけにもいかないから魔力検査が終わるまでお預けだ。」
「そんな殺生な!」
その後俺は何日も隙あればもふもふしようとしてテオの猫パンチを食らう、を何度も繰り返し目的地の大都市セレスに着く頃には2人とも満身創痍だった。
「なんか見た目だけだと俺歴戦の勇者って感じしない?」
「肉球の痕がつきまくっている勇者などいてたまるか!」