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1話 村から追放された俺、ドラゴンと遭遇する


「なんでよりにもよって今なんだよぉ。」


森の真ん中でちょこんと三角座りで俯いている俺の名前はジョン、11歳。

今俺は魔力無しの穀潰しとして実家を追い出されている。


この世界では家事や仕事に色んな魔法を使う。一部の属性魔法が苦手な人や複雑な魔法の補助のために魔道具も幅広く生み出されているが、それを使うためにも魔力が必要だ。


特に幼い頃から働き手を必要とする田舎において俺は飯代だけかかるゴミ。と全国魔力検査の日から毎日のように両親に詰られていた。まあ、元々その前から体が強くない俺は家族に疎まれていたけど。


あっという間に噂が広がる村で俺の事情を隠せるはずも、また受け入れてくれるはずもなく、すぐさま村八分にされて路頭に迷っている所だった。


そして森を彷徨いようやく見つけた湖で水分補給をしようと異様なほど澄み切った水面をのぞいて、その中に映る自分と目があった瞬間、俺は自分の前世を思い出したのだ。

俺はかつて日本に住むなにもかも平凡な高校生だったが神の手違いで死んでしまった。

徐々に当時の会話が鮮明になっていく。

そういえば、神様は俺に

「生まれた時から知識無双とかも出来ちゃったりするぞぉ。」

とか言ってなかったか?いや、思い出したの今なんだが。11年のラグはいくらなんでも大きすぎないか。

あの時は知識無双ってなんだろうと思っていたが、今ならわかる。前世の知識があるという事は11歳の子供にとっては大きな利点だ。

更にここは魔法に頼っているために前世には当たり前にあったものがなかったりもする。

前世の知識はアイデアとして出すだけでも大きな価値があるだろう。と、言っても前世だって16年しか生きていないので専門知識などあるはずもなく……大丈夫かな俺。


とりあえず街に行って魔力無しの子供でもできる仕事を探そう。


脳内を整理し終えた俺は立ち上がってぱしぱしとお尻を払い、気を取り直して町を目指すことにした。

それにしても今日の朝は晴天だったはずなのにどうしてこんなに暗いんだ?


まあ、いいか。と思った瞬間俺は恐ろしいことに気づく。


空は、雲一つない晴天だ。


俯いていたから気づいていなかったが、暗くなっているのは俺の周りだけ、もっと言うとそれは何かの形をした陰だ。つまり俺の後ろには……


ぎぎぎ、と恐怖に震えながら俺は後ろを振り返る。


そこには、


深い青色の目をした銀色のドラゴンがいた。

奴はじぃ、と俺を見つめている。


田舎育ちで学校に行ったこともない俺がこの世界の常識を知っているはずもない。せいぜい木の切り方や獣の狩り方、そして最低限の家事程度だ。

しかし今の俺は凡太郎の知識がある。おかげでこいつがドラゴンだということを理解できた。やった!知識無双とやら万歳!!!


いや、全然万歳じゃないが?


そもそも前世でドラゴンなんて生き物は架空生物。俺はファンタジー小説をほとんど読んでこなかったのでドラゴンはでかくて空を飛んで火を吹くぞ!ということくらいしか知らない。対処法とかあるのかな?

くそう、こんな事なら同級生のオタクくんこと鳳凰院くんのマシンガンオタトークの内容を真面目に覚えておくんだった。……でもあいついつもツンデレ美少女?の話しかしないから覚えていてもなぁ。


「人間。」


うう、終わった。なぁにが知識無双だ、俺はこいつの今日の晩御飯になって終わる、それが運命。


「おい、人間。聞いているのか?」


でももう少し生きていたかったよ。だって16年と11年、あわせて27年しか生きてないんだぜ?やりたいことだって今から見つけるはずだったんだ。


「いい加減に!話を!聞け!!」


突如どぉん、という音とともに俺の真横にドラゴンの腕が振り下ろされ、地面が抉れる。あ、あはは、知ってるぞ俺の妹が言ってた床ドンってやつだ。妹と一緒に恋愛ドラマを見ていた時何度も首を傾げる俺を見て

「お兄にはキュンキュンとか胸がドキドキするって気持ちとかわかんないよねー」

と馬鹿にされた思い出がよみがえる。妹、お兄やっとわかったよ、今めちゃくちゃ胸がドキドキしているんだ。これがキュンキュンって感情なんだな。


「(こいつ、青ざめて怯えていたと思ったら絶望で諦めた表情をして、かと思いきや急に満足気な顔をしている。一体何なのだ。)」


そういえば、腕を振り下ろしたきり動きがないな?もしかすると隙を探せば切り抜ける術があるかもしれない。

俺は勇気を出してもう一度ドラゴンの方を向く。するとドラゴンはさっきと違い物凄く奇妙な生き物を眺める目を俺に向けていた。


「あのう。」


「ようやく俺の話を聞く気になったか。」


「えっ、何か話そうとしてたのか?」


「…………………はぁ。」


まずい、隙を探すはずが普通に話しかけちゃったしなんなら向こうはさっきから俺と会話するつもりだったらしい。つまり俺はさっきまでドラゴンをガン無視していた訳で、


「ごめんな?」


「俺は今、腹が減っている。縄張りにノコノコやってきた人間に貢物をさせようかと思ったが気が変わった。今日の晩ご飯はヘラヘラした不敬な態度の下等生物にしよう。」


「もうっっっしわけございませんでした!」


俺は流れるようにジャパニーズ最大の謝罪、土下座を繰り出す。今こそ前世の知識を活かす時っ。


「?なぜお前は寝そべっている。さっきから本当におかしな奴だな。」


全然効かなかった!というかドラゴンに土下座とかわかる訳ないのは当たり前だわ俺の馬鹿!


「……まあいい。お前に構っていてもキリがない、俺は今夜の獲物を狩ってくる。お前はもう好きにしろ。」


「は、はぃ。」


土下座のポーズを続ける俺を尻目にドラゴンは飛び立って行った。もしかして俺生存成功?

よし、この最大のチャンスを逃す訳にはいかないんだ。まずは立ち上がって……


ぐううううう


突如大きな音が森中に響き渡る。これは何か?そう、これは俺の腹の音。そして最悪の事実に気づいてしまう。


「やばい、お腹空きすぎて全然動けん。」


追放されてから丸一日、俺は全く何も食べていない。それに加えてドラゴンと遭遇する緊張感と命が助かった安心感。その気の緩みから元に戻る事ができるほどの体力や気力がたった11歳の小柄な少年にあるはずがないのだった。



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