五大厄災-三大陸-③
塗装屋
『最後はミツツメ大陸だ、そこには守りの石が眠っている。体が頑丈になるぞ』
勇者
「嵐だ…」
辺りが暗くなり、強い荒波が勇者の乗るボートを襲う
勇者
「くッッ……!!」
勇者はなんとかボートにしがみついて
大陸を目指す
ーーー
-ミツツメ大陸-
樹木だらけの熱帯。
ボートを引きずりながら大陸に上陸する勇者
勇者
「ふぅ…(どうなるかと思ったな…)」
汗をかきながら辺りを見渡す
勇者
「なんというか、嫌な暑さだな…」
熱帯のジメジメとした気温にやられながら
勇者は村を見つけるために前進した。
ー
密林に響き渡る虫達の鳴き声
しばらく進むと小さな羽音とは別に
一際大きな羽音が背後から近づいてくる
マモノ
「ブァアアアアアンン」
勇者
「ーーッッ!?」
勇者の真上を通る巨大なナニか。
勇者
「マモノか…ッッ!?」
勇者は剣を構えるーー
黄色い体色でブヨブヨと太った虫のようなそのマモノはお尻から黒い羽虫の大群を複数産み、勇者に飛ばしてくる
羽虫の大群
「ブイイインッッ」
勇者
「…ッッ!?」
勇者の周りにある木を削るように食い荒らす羽虫達
勇者
「うわわっ!!」
勇者は一旦戦闘を中断し、慌ててその場から退避する
ー
勇者
「ハッ…ハッ…!!」
マモノ
「ブイイインッッ」
森林の中を駆ける勇者
マモノは勇者に凄いスピードで接近する
勇者
「う、うわあッッ!!」
勇者は木の根につまづいて斜面に転落、
そのまま転がり落ちる
勇者
「ぐはっ…!!」
転がり落ちた先には何やら賑わいがあった
勇者
「(村か……!!)」
勇者は上を見ながら急いでそこに向かうーー
ーーー
村にたどり着き、後ろを振り返る勇者
マモノは追って来ず、一安心する。
勇者
「ほっ…。…!!」
村は思う通り、活気に満ちていた
羽音を立てて優雅に飛び回ったり、
独特なメロディで唱歌する"ムシ"達。
勇者
「ま、また変な種族が……」
勇者は慄きつつも、石の採掘許可を得るため
村長を探しに村を散策する。
勇者
「うーむ……」
「ブゥゥーン」
「ブブゥン」
ムシ達は羽音で意思疎通をしており、勇者は不安になっくる。
勇者
「翻訳が通じない…大丈夫だろうか…?言葉が通じるものがいればいいのだが……」
勇者はとりあえずムシ達に村長の場所を尋ねてみることに。
ムシ
「ブブッブチッズジョジジ」
勇者
「なんだって…?」
翻訳のパフをいくら握ってもムシ達の言語がまるで分からず、勇者は徐々に困憊していく。
???
「あんれぇ?客人かね?」
勇者
「!!」
とあるムシがまともな言語で勇者に語りかけてくる
???
「ここはムシ族の村じゃよ、まぁゆっくりしていきなさい、よそ者よ」
ムシは蜘蛛のような出立ち
勇者
「あ、あの!」
立ち去ろうとするムシを呼び止める勇者
勇者
「言葉がわかるのか?」
???
「わかるよ。わし、物知りじゃから」
勇者
「なら、村長はいるか?どうしても用事があるんだ」
???
「ここにおるよ」
自らを指さし、そう返すムシ
勇者
「まさか、あなたが…?!」
???
「フェッフェッフェッ、村の長たるもの
異族との交流は欠かせんからな」
ムシの正体は村の村長だった。
村長
「それで何用じゃ?」
勇者はことの経緯を村長に話す。
ー
村の中を村長と一緒に歩く勇者
村の中心には洞窟があり、内部には多くのムシ達や入洞でできた家がある。
村長
「なるほど、その厄災を倒すためには
わしらの大切な石が必要なのですな?」
勇者
「あ、あぁ。」
勇者は周りが気になって、あまり村長を見れない
壁に張り付き、モゾモゾと動き回るてんとう虫の子供達や樹液を啜る人間サイズのカブトムシなど
色々なモノに目移りする勇者
勇者
「(できれば早くここから離れたい
っていうのは失礼だろうか…)」
村長
「おーい、客人じゃ」
村長が羽音を立てると、黒い扉が開く
よく見るとそれは羽虫の集合体だった。
「狭いところすまんな」
勇者
「あ、いえ……」
木でできた椅子に座る勇者
ふと窓の外を見ると幼虫のようなムシが
カタツムリの中に入り込む様子を目撃する
勇者
「お、おい、あいつ今…!?」
村長
「あぁ、ロイコくんじゃ。
またツムリさんに寄生して。
鳥なんて飛ばんのに……」
村長の反応に驚く勇者
勇者
「助けなくていいのか…?」
村長
「んや」
村長は平気な顔をしながらこう続ける
村長
「ワシらは他者の命とか尊厳とか、そんなものは持ち合わせておらんからな。己の身は己で守る、生まれた時からそう決まっている…本能みたいな物じゃ。」
勇者
「そ、そういう物なのか…」
村長
「それより石が欲しかったんじゃないかね」
村長はそう言って足元から何かを取り出す
「どうぞ」
ゴトッと机に置いたのは青色に輝く鉱石の一部だった。
勇者
「こ、これは…」
村長
「ワシらはモノにもこだわらんのでな
どうぞ持っていきなされ」
勇者
「あ、どうも…」
鉱石を手渡される勇者
勇者
「(守りの石…随分あっさりと手に入れてしまった……)」
勇者は戸惑いつつも、とりあえず石を貰う
勇者
「一つ聞いていいか?あの黄色い、デカい奴もお前達の仲間なのか?」
村長
「あぁ、アレね。違う違う。
あいつは急にワシらの村に襲来した外来種じゃ
大陸中を暴れ回っておるとんでもない問題児でな
ムシ族はワシらだけかと思ってたが
世界はまだまだ広いってことじゃな」
勇者
「うーむ…(てことはやはり、マモノなのか?)」
勇者はマモノの事が気にかかっていた
勇者
「(守りの石は手に入ったからここに用はない…
とはいえ、アレを野放しにするのもな…)」
腕を組みながらそう考えていると外から大きな羽音が聞こえてくる
村長
「おぉ、来よったな。」
黄色いマモノが村に侵入
マモノ
「ブイイイインッッ」
ムシ達が次々と捕食されていく
村長
「噂をすればなんとやらじゃ」
勇者は咄嗟に村長を横切り、窓から
マモノの方まで走る
マモノがハエの子に目をつけ、捕食しようと大口を開けた時、勇者が駆け込んできて剣で妨害される
マモノ
「ヴバッッッ!?」
6本の足でぎこちなく後退りするマモノ
勇者は剣を構え、威嚇する。
その後ろでうずくまるハエの子
勇者
「おい!何してる!早く逃げろ…
って言葉通じないのか!くそっ!」
マモノはしばらく勇者を眺めた後、羽音を立ててどこかへ飛んでいった。
ー
勇者
「ふぅ…」
勇者は安全を確認後、警戒を解除し
ハエの子に話しかける
勇者
「平気か?」
ハエの子
「ヴヴッ…」
羽音で応答するハエの子に
勇者は戸惑う
勇者
「やっぱりダメか……」
勇者がポリポリと顔をかいていると
ハエの子は小さな口を開く
ハエの子
「アノ…アリガト…ユウシヤサマ…」
勇者
「…!!君、言葉が話せるのか?」
ハエの子
「チョットダケ…」
ハエの子はオドオドしながら小さくそう頷く
ーーー
村の中をハエの子に付き添って歩く勇者
やがてハエの子の家に到着
ハエの子はドアを開け、パタパタと両親の元へ駆けていく
ハエの子
「ヴヴヴッ」
両親
「ヴヴッ」
勇者
「?」
ハエの子は親と会話後、何かを受け取り、勇者の元へ戻ってくる
勇者
「なんだ?」
ハエの子は勇者に数枚の葉っぱを手渡す
ー
ハエの子と一緒に村をまわる勇者
嬉しそうに歩くハエの子に対して
勇者は少し困った顔をしている
ハエの子
『村…案内スル…オレイ…』
勇者
「(こんな事をしてる場合じゃないが
せっかくお礼がしたいと言ってる…断るわけにはいかないよな…)」
2人はしばらく歩き、木製の舞台の前で立ち止まる
舞台の上では4組のムシ達が音楽を奏でて合唱していた
ハエの子
「ムシ族合唱団…ダヨ」
勇者は汗をたらっと流す
勇者
「(さっきから流れてる妙な歌はこれか…)」
合唱団
「ヴヴッヴヴヴッヴンヴンヴヴヴヴヴッッ♪」
次にハエの子は料理屋を案内する
ハエの子
「料理屋ダヨ…ゴハンタベタベ…スルバシヨ」
勇者
「うっ…(生ゴミの匂いがする…)」
勇者はその店で恐る恐る出された料理を食べたあと、体調を崩して嘔吐した
勇者
「ゲホッゲホッ…(なかなか珍妙な味だった…)」
ー
その後ハエの子は次へ次へと村案内をしていく
「アレハ宿…アソコデ…疲レタ…治ルヨ」
「アレハ道具屋…イロイロアルヨ」
「アノ穴…近ヅク、ダメ
コワイ…オ姉サンイル…」
一通り村を回った後、村の展望に座り、ジャングルを眺めるハエの子と勇者
ハエの子
「♪」
勇者
「……」
ハエの子が楽しそうに足をパタつかせるなか
勇者は厄災について1人考えていた
勇者
『ムースは一度厄災に見舞われた者は救う事ができないと言っていた…悠長にしてられる余裕はない……』
勇者はスッと立ち上がりハエの子に切り出す
勇者
「すまん、これ以上は長居できそうにない
急がないと厄災で世界が大変なことになる。
……世話になった。村案内、感謝する。」
ハエの子が勇者を送ろうと立ち上がった時
大きな羽音と共にハエの子が大きな足に捕まって
遠くまで行ってしまう
勇者
「……ッッ!?」
マモノ
「ヴゥゥゥゥンンッッ」
ハエの子を連れ去ったのは村で暴れた黄色いマモノだった。
勇者
「あいつッッ!!」
勇者は咄嗟に剣を抜くが、マモノは既に遥か上空まで飛行していた
勇者
「くそっ!!あの高さじゃ届かん!!」
その時、背後から羽音が聞こえてきて
勇者はバランスを崩す
勇者
「うわっ!?な、なんだ…!?」
勇者はカブトムシの背中に乗せられていた
カブトムシ
「ヴヴヴヴヴッ」
勇者を乗せたカブトムシは上昇して
そのままマモノの方まで飛んでいく
ー
マモノの後を追うカブトムシ
勇者
「くっ…!!」
勇者はとにかく剣を構え、攻撃をするチャンスを伺う
カブトムシ
「ヴヴヴヴッ」
カブトムシがマモノに接近した瞬間
勇者は剣を振り上げ、マモノを斬りつける
勇者
「やぁ!!」「てやぁ!!」
二度ほどその戦法を繰り返すと
マモノは尻から大量の羽虫を飛ばしてくるようになる
勇者
「…ッ!!あれは…!!」
羽虫の大群
「「ヴイイイインッッ」」
羽虫を避けるためカブトムシがマモノの周りを迂回する
勇者
「くっっ!!」
カブトムシ
「ヴヴヴヴッッ」
四方八方飛び回りながらマモノに少しずつ接近
勇者
「大丈夫かっ……!!」
カブトムシを気にかけながら勇者は必死にしがみつき、剣を構える
ハエの子
「ヴヴッ、ヴヴッ、、」
マモノの足に捕まっていたハエの子が
もがき始める
勇者
「ま、まずいぞ……!!」
カブトムシ
「ヴヴッ」
カブトムシは回転して加速し、マモノへ一気に接近する
勇者
「ハアアアアアッッ!!!!」
接近したところでズバッとマモノを斬りつける勇者
マモノ
「ヴバッ、、」
ハエの子
「ヴッ、、」
衝撃でマモノはハエの子を手放し、
カブトムシはすぐさまマモノの真下へ移動して
ハエの子を救助しに向かう。
落ちてきたハエの子を受け止める勇者
勇者
「よしっ!もう大丈夫だ、離れるぞ」
カブトムシが一旦その場から離れようとした瞬間
マモノは大きな咆哮を上げ、勇者達を足止めする
マモノ
「ヴバアアアアッッ」
勇者
「ぐぐっ…!!」
マモノは子供を取り戻すため、攻撃に転じた。
大きな口を開けて、「ボッ」と大きなタンを飛ばしてくる
勇者
「くっっ!あんなのに当たったらひとたまりも無いっ!!」
必死に避ける勇者達。
マモノはタンを飛ばした後
猛スピードで勇者達に接近する。
勇者
「うわっっ!!」
カブトムシが下へ降りて
ジャングルの中を低空飛行し、マモノの追尾から距離を離し、ある地点で再び空へと飛んでいく
マモノが下から真っ直ぐカブトムシの方へ接近
接触寸前でカブトムシは反ってそれを回避
マモノは上空に飛んだ後、天に向かって口を開き
噴火の如くタンの雨を降らせる
勇者を乗せたカブトムシは木に着地して様子を伺う
カブトムシ
「ヴヴッ」
勇者
「あぁ!わかってる!!」
勇者はカブトムシが何を示しているのか
状況で理解して、彼の意思に従い、剣を上に構える
カブトムシは再び飛び立ち、マモノの元へ下から突き上げるように真っ直ぐ向かう
マモノに接近し、上に構えた剣でマモノの腹部を突き刺す
マモノ
「グヴッヴェッッ、、、」
勇者
「……ッッ!?」
その時、突き刺した場所から紫色の煙が漏れる
カブトムシ
「ヴヴッ」
カブトムシは全身を使って勇者とハエの子を煙から守る
勇者
「ガスかっ!?」
カブトムシ
「ヴヴッ…」
カブトムシの飛行速度が低下する
勇者
「お、おい!」
勇者がふとマモノの方を見ると
口から血を吐いてビクビクと体を震えさせてる姿を確認する
勇者
「あいつも弱ってる!すまん、辛抱してくれ!!」
勇者はカブトムシを踏み台にして
マモノの元へジャンプ、剣を勢いよく振り下ろしトドメを刺す
マモノ
「ヴバッ、、、!?」
マモノは静かに落下していき、勇者も落ちていく
カブトムシ
「ヴヴッ、、、」
カブトムシが落下する勇者を背中でパシッと受け止めて、そのままゆっくりと地上まで降りていく
カブトムシは途中から意識朦朧となり、羽音が段々と小さくなって、羽の動きも止まり
勇者達を乗せたまま勢いよく落下していく
勇者
「うわわっっ!!」
ハエの子
「ヴヴッッ」
カブトムシ
「……」
ガサガサッと木の中を駆け抜けて、地上へ真っ直ぐ落下
勇者とハエの子は勢いで投げ出され
カブトムシは頭から背中へバウンドして地面に叩きつけられる。
勇者とハエの子は茂みなどがクッションになって
致命傷を免れる。
勇者
「くっ…いっ…」
勇者は頭を押さえながらカブトムシの方へ向かう
カブトムシ
「ヴッ…ヴヴッ…」
勇者はカブトムシに駆け寄り、必死に呼びかける
勇者
「お、おい!しっかりしろ…!!え、えっと…」
ハエの子
「カーブ…サン…!」
勇者
「カーブッッ!!」
後から来たハエの子に名前を聞いて、そう呼びかける勇者
カブトムシ
「……」
勇者の呼びかけに無反応のカーブ
勇者
「…くそっ!」
カーブ
「……」
その時カーブは走馬灯を見た
それは勇者がマモノを撃退してハエの子を助けた場面。その時樹液を啜るだけの彼だったが、それを見てこう感じた、「カッコいいな」と……。
もちろんそんなカーブの心境など2人には知る由もない。
彼はゆっくりと体を止めて動かなくなった。
勇者
「す、すまない…」
勇者とハエの子は静かにその場を後にする。
ーーー
大陸の岸辺でハエの子が勇者を見送る
ハエの子
「アノ…アリガト…」
勇者
「うむ、無事でよかった」
ハエの子
「マタ…アソビキテ…」
勇者は軽く頷くと、ボートへ乗り込み
別れの挨拶をする
勇者
「元気でな、みんなにも
ご両親にもよろしく言っておいてくれ」
ハエの子
「ヴヴッ」
ハエの子は表情が同じなので見た目ではわからないが、勇者はなんとなくその子が自分に笑顔を向けたように感じた。
勇者は「じゃっ」と言って大陸から離れる。
ハエの子は静かに遠くへ行く勇者を見つめた。
勇者
「……」
「必ず世界を救う」勇者はそう胸に刻み、
塗装屋のところへとまっすぐ向かったーーー。
五大厄災-三大陸-③(完)