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勇者の使命

地響きと雷が鳴り響く中

展望台から祈りを捧げる女王


女王

「(あぁ…天よ…)」


平原の真ん中にゾウのような巨大な影が現れる


魔王

「「グルァァァ!!」」


パカッパカッと激しい音を鳴らしながら

馬を走らせる勇者


勇者

「くっ……!!」


勇者の懐から三つの石が飛び出して

天高く舞う


石はある地点で止まり、光り輝く


魔王

「グルァッッ…?」


人々は勇者の存在に歓喜する


「勇者様ーッッ!!」


歓声が響き渡る中

空に浮いていた石にヒビが入る


勇者

「ッッ!?」


直後、大きな音ともに石はバラバラに砕けてしまう


「ヒヒーンッ!」


勇者

「い、石が……!?」


急ぎ、馬を停止させ、モソモソと降りる勇者

剣を片手に魔王の元まで走る


魔王

「グルァアアア!!」


勇者

「ハァァァァッッ!!!」


勇者は魔王の足元付近まで近づき、剣を振るう

だが、魔王には一切のダメージを負えない


勇者

「ハッッ…!?」


直後、魔王の尻尾による反撃に遭い、勇者は勢いよく吹き飛ぶ


飛ばされた先には崖があり、勇者は頭からそこに激突


村人

「勇者様…ッッ!?」


村人

「そんな……!!」


勇者は泡を吹いてガクガクと痙攣を起こす


女王はその光景を見て絶句し、膝から崩れ落ちる


女王

「あぁ……」


落胆する人々


ーーー

ーー


勇者

「ん……?」


勇者は目を覚まし、ゆっくりと起き上がる


勇者

「ここはどこだ…?真っ白で何もない…」


辺りを見渡し、状況を整理する勇者


勇者

「ここがあの世という奴か?僕は死んでしまったのか…」


勇者は自身の手を見つめ、

段々と虚しい気持ちになる


勇者

「結局、世界は救えなかった…

ヒセキも砕けてしまった

僕は一体なんのために戦ってきたのだろうか…」


その時、どこからか声が聞こえてくる


『ここは聖地、お前たちが"神"と呼ぶ者達の

故郷(ふるさと)だ』


勇者

「!?」


声のする方を注意深く見つめると

そこにはトグロを巻いた蛇のような影があった


勇者

「お前が…神…?」


勇者は影の姿に驚く


「お前たちがそう呼ぶのならそうなのだろう」


影は静かに勇者を見下ろす



勇者

「…げ、下界で魔王が暴れているんだ

なんとかならないか…!?」


勇者がそう言うと影は冷静に答える


「…違う、下界も天界もおとぎ話

お前たち人間が勝手に創り出したものだ

ここはただの狭間だ、魔王はすぐ近くにいる」


勇者

「石が砕けたんだ!!魔王の力は以前より強大になってる可能性が高い!手を貸してくれ!!

共に魔王を!そして世界を!」


「人間は愚かだ」


勇者

「えっ…!?」


神の唐突な発言に戸惑う勇者


「石は砕けたのではない

拒絶したのだ

愚かな人間たちをこれ以上

その地にのさばらせないために。」


勇者

「ッッ!?」


勇者は神の言葉に絶句する


「我々はみな人間の滅びを見守っている」


勇者

「な、なぜだ…?昔はお前たちも一緒に戦ったんだろう!?世界を、人々を救うために!!

女王や森の村長の話では確かに…」


「その頃は我々も人間に対しあまりに無知であった、人間という存在はか弱き、そして尊い物だと信じていたのだ」


「長い年月を重ね、それが間違いだと気がつくまでは」


勇者の瞳が震える


「もはや魔王が世界を滅ぼすのは時間の問題

人間は浄化され、やがて世界は静寂へと還るのだ」


勇者は首をゆっくりと横に振り反論する


勇者

「僕は勇者だ…魔王を倒し、世界を救うのが僕の役目……!!」


そう言って剣を構える勇者


「…これから何が起ころうとも

お前はこの世界を救う事を選ぶのか」


勇者

「当たり前だ!」


はっきりとそう言い放つ勇者に

神は深く頷いた


「いいだろう、ならば"神"の試練を受けてみよ

お前の意思が本物であるなら

その力は、自ずとお前に宿るだろう」


そう言うと神は上空へと登っていく


勇者

「!!」


神のいなくなった場所から扉が出現、

その中から無数の兵士が現れる


『そいつらを倒せばお前に神の加護が与えられる

その力があれば魔王も討ち滅ぼせるだろう』


勇者

「やってやる…!」


兵士は剣を構え、勇者に攻撃を仕掛ける



勇者は兵士の縦切りを回避し、反撃を喰らわす


だが勇者の攻撃は盾で防がれてしまう


勇者

「くっ……!!」


狭間の外では魔王が暴れ、村人達が逃げ惑う


勇者

『くそ、急がないと!もう時間がない!!』


勇者は苦戦しながらも一体ずつ兵士を倒していく


勇者

「これで最後だ…!!」


勇者は残りの兵士を倒し、膝をつく


勇者

「ハァハァ…!」


体力の限界が近い勇者に神が声をかける


『なるほど、お前の意思は固い

…だが、それだけではダメだ

試練とは苦痛、絶望、恐怖に打ち勝つこと

それで初めて"制する"と言う』


勇者

「…ッッ!?」


神が勇者に近づき自身の体で

彼の体を強く締めつける


勇者

「うぐぅあッッ…!?」


『耐えてみよ、苦しみに、痛みに

お前の強さを我に見せてみよ』


勇者

「うぐぐ…!!ふぅ…ふぅ…!!」


神はさらに強く締め付ける


勇者

「がぁっっ…!!??」


勇者は声にならない声で叫ぶ


その叫びは聖地の天高いところまで届いた


『勇者よ、魔王を倒したいか』


勇者

「うぐっっ」


『選択は自由だ、諦めると言う選択もある

苦しみから解放されたくば、人間を見捨て

魔王が世界を滅ぼすのを見守る事だ、どうする』


勇者は首を横に振る


勇者

「い…いやだっっ!!」


『そうか、ならば…ふんっ!!』


勇者

「あがッッ…!?」


今までにないほどの締め付けに

勇者の意識が途切れ始める


『諦めると言う選択もできるのだぞ』


『勇者様ッッ!!』『私怖いです…』

『俺の子は産まれるのか!』『約束する!』

『母が救われる…』『勇者様ッッ!!』


『安心してくれ僕は勇者だ、マモノなんかに負けやしない』


勇者は目をカッと見開く


『!?』


勇者

「ハァァァァッッッ!!!!」


勇者の体が光り輝き、神の締め付けを解除する


勇者はそのまま白目を剥いて、地面に倒れる


神はその様子を静かに眺める


『勇者よ…わかった、お前の意思は固い

力を授けよう』


ーーー


狭間の外、横たわった勇者の体が白く光り輝く


女王

「…!!」


人々が勇者の異変に釘付けになる


魔王

「グルァアッ!?」


勇者の体は浮き上がり、地上にゆっくりと着地

白くなった目を開き、魔王を見上げる


「ゆ、勇者様ッッ!!」


「生きておられたぞ!!」


平原に歓声が響き渡る


魔王は勇者を睨みつけ、突進の姿勢を構える


魔王

「「グルォアアッッ」」


勇者は無言で剣を抜き、魔王の元まで飛び上がる


人々はその光景に驚く


「と、飛んでる…?!」


女王

「おぉ…あれは、まさしく神の力…!」


勇者

「ウガァァァァァッッ!!!!」


勇者は雄叫びを上げながら魔王に斬りかかる


魔王

「グオアアッッ!?」


勇者の剣は魔王の背中に突き刺さる


魔王

「グオォオアアアアッッッ!!!」


魔王は痛みで暴れ、勇者を振り下ろそうとする


勇者

「ふんっ!!」


勇者は刺した剣を抜いて飛び上がり、魔王の背中に着地、そのまま走り、魔王の顔付近まで迫る


魔王は電撃を浴びせ勇者の進攻を妨害しようとする


勇者

「ふんっ!はっ!!」


勇者は魔王の攻撃を難なく避けて飛び上がり

魔王の顔目掛けて剣を振るう


魔王

「グアアアオッッッ!!??」


顔を斬られ、魔王は悶え苦しむ


地上に着地した勇者は体制を立て直して

剣を強く握り、再び魔王に飛びかかる


勇者

「「ウガァアアアアアッッッ!!!!」」


勇者は魔王にトドメの一撃を喰らわす


勇者

「ゲアッッ!!」


魔王

「グオアッッ…!?」


横に勢いよく振るわれた剣は

魔王の顔を切り裂き、その動きを止めた


ズンッッと魔王の顔半分が地面に落ち

残された部分も遅れてズズゥン…と倒れる


勇者は地上へ着地し、静かに剣をしまった



勇者は魔王の死骸を黙って眺める


地上を覆っていた雲は晴れ、人々に平穏の日々が訪れる


女王はホッと一息つき、勇者の姿を

優しい表情で眺めた


「やったぞぉ!勇者様が魔王を倒した!!」

「世界を救ってくださった!!」

「ママァ!」「もう安心だ!!」


歓声が響き、人々はそれぞれの無事と喜びを分かち合う


そして、その夜からは城全体で宴が始まり

それは朝まで途切れることはなかった


ーーー


-女王の間-


勇者はひざまづき、女王の話を聞く


女王

「よくぞ、魔王を討ち、この世界に平和をもたらした。勇者、お前こそ、この国の誇り、英雄だ」


女王は何かを手に持ち、勇者に近づく


女王

「さぁ、顔を上げるがよい

そして受け取れ、これがこの国を救った者に送られる勲章」


勇者は英雄のマントを受け取り、深く頭を下げる


女王

「ありがとう勇者様、そなたは我々の誇りだ」


女王は今までにないほどの優しい顔を勇者に向けた


女王との話を終えて、城を出ると

人々が勇者のための道を作って拍手を送る


「勇者様ぁ!!」「大好きぃ!!」


勇者は少し照れながら、道を歩き、城を後にした



最初の村に立ち寄り、宿でドシッと腰を下ろす勇者


勇者

「ふぅ…!」


荷物を置いて、水を飲む


勇者

「いやぁ…大変だったな…

人が、なんかすごい多かったし…。」


勇者は少し疲れた顔をする


勇者

「魔王は倒したんだな、本当に。

世界はこれで平和になったかは、まだわからないが…とりあえず勇者の役目はこれで果たせたって事だろう」


水をごくごくと飲み、感性に浸る勇者


勇者

「結局、最後まで記憶は戻らなかったけど

でも…うん、もういいや。記憶がなくても

勇者の責任は理解したし、それももう終わった

あとは伸び伸びと暮らそうかな。


…女王との話は相変わらず緊張したが

あれで良かったのかな?とりあえず膝はつけておいたけど……」


勇者は英雄のマントを荷物から取り出す


勇者

「英雄のマント…国の誇り、か。

ふふ…悪くないな」


勇者は誇った顔をする


勇者

「さぁてと、しばらく寝泊まりしたら

また出掛けよう。今度は火山に行くんだ

村が気になるしな、その次は海…

みんな元気にしてるかな…?」


勇者はそう呟き、静かに水を飲み干した。



勇者の使命(完)

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