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第34話「統一戦争-決戦前夜-」

族長

「ーーー何人かは城の外へ逃したが

あの辺一帯はしばらくやかましくなるだろう」


遠くにある城を眺めながら族長は言った


「しかし解せんな、お前はなぜ人間を守ろうとするんだ?その身を削ってまで、あんなカスどもを助けたい理由がサッパリわからん」


族長が不思議そうな顔で後ろにいる勇者に尋ねる


勇者

「なぁ、その…カスって言うのやめてくれないか?僕も一応人間なんだ」


族長

「カスはカスだ」


勇者と族長、そしてウェイドの三人は

草原を超え、森の中を進んだ


しばらくすると遠くの方に兵士達の姿が見えてきた


兵士

「おぉ、勇者様!ご無事ですか…!?」


勇者

「あ、あぁ…なんてことはない」


兵士

「城の方で何か様子が変だと

クロメ族とカゲ族の何人かがそちらへ向かわれたのですが…、不甲斐ない…我々は何もすることが出来なかった…」


兵士は唇を噛み締めながら悔しさを滲ませていた


勇者

「いい、生きてるだけで…それだけで十分だ」


兵士はその言葉に背中を丸め「うぅ…」と唸った


兵士

「ーーー神も残すところあと一匹となりました

これが最後の戦いです、勇者様

準備ができましたらぜひご指示を」


「あぁ」


勇者は気乗りのしない顔をしながら

兵士を静かに眺めた


ウェイド

「この戦いが終わったらお前はどうするんだ?」


勇者

「城には戻れない…僕は多くの人を見殺しにした

誰もいない、どこか遠いところに暮らすよ」


ウェイド

「そうか」


勇者達は付近のマモノを狩り、熱い鍋へと放り込んだーーー


『ある晩私は、眠りの中で光の守護者の誕生と魔王復活のお告げを聞いた、その月の夜に廊下を出てみると眩い光に身を包んだ赤子が産声を上げていた』


『私はその子を腕に抱き

神の子勇者として育てることにした』


『赤子は日を跨ぐ度に成長し、やがて

一端の剣士となった

強く逞しい男の勇者、今のお前だ』


『お前はこの先、苦難の道を進み

お告げ通りに使命を果たし

戦いが終わればどこかへ行ってしまうのだろう』


『お前を育てている日々はとても有意義な時間だった

本音を言えば私はお前を失いたくはない

戦いが終わればずっと家族として

共に暮らしたい』


『私はあくまで女王として接しなければならない

一国を背負う者として、私とお前は親子ではない』


『お前が魔王討伐の使命を受けてる事も

お前が神の子である事も理解している』


『これは私のわがままだ、もし許されるなら

お前を我が子として迎えたい』


『私はお前の母親でいたい』


追伸

『お前が記憶を無くしたと知り、私は

何かがほつれるような感覚に襲われた

まともにお前を見ることが出来なかった』


『娘が亡くなったあとも

お前は戦い続けた、私はお前を見守ることしかできなかった

引き止めることができなかった

それが何より私にとっての後悔だ』


『ここに書き記す事でもない

手紙にまで残したいと思ったのは

もしかしたらこれを、お前に読んでもらえるかもしれない、そんな希望からだ』


『お前には辛い思いばかりをさせた

もし時間が許すならお前にはもっとたくさんのことを教え学ばせたかった、苦しみではない

楽しいこともお前には経験させてやりたかった』


『もしこの手紙がお前の元に届く日が来るのなら

勇者よ、私はいつもお前と共にある

ここでしか言えないが

お前は私にとってかけがえのない存在だ』


『私がいなくなってもお前は一人じゃない

私の大切な家族だ

それだけはどうか忘れないでほしい』


『プリメーラ城

アルディトーレ・ド・エルサ』


ウェイド

「この手紙、あとから書き足したような跡があるな」


ウェイドは勇者の持っていた紙を取り上げ

すらすらとそう言った


勇者はしばらく固まったのち、膝を地面につけ

顔をぐしゃぐしゃにした


「立ち止まるなって…言ったんだ」


勇者は喉を鳴らしてヒクヒクと

体を揺らした


「立ち止まるなって言ったから

だから僕は…」


勇者は両手を地面につけて

ポロポロと涙をこぼしながら

しばらくえづいた


ウェイド

「そいつは…涙だな?本で読んだことがある

人間は悲しい時や辛い時に瞳から液体を流すと」


勇者

「嬉しい時もだ、今はどの感情なのか

よく掴めないが…」


勇者は静かに立ち上がり

腕でゴシゴシと涙を拭き取る


勇者

「女王…」


勇者は手紙を見つめ、静かにそう呟いたーーー


「前回と同じくココ、神の出現する地点からそれぞれ兵を配置していく」


族長、ウェイドと兵士数名が

地べたに置いた紙を囲い、話し合いをしていた


「敵軍を抑える突撃兵は力のある者が担当

勇者様を敵の攻撃からお守りする護衛兵はクロメ族とカゲ族各兵が担当

勇者様を神の元まで導く案内兵は人間の兵士が担当だ」


「作戦は変わりなく、勇者様を無傷で神の元まで送り届けること」


「我々は盾となり全力で勇者様を守り抜くこと」


「以上だ、次に兵の位置を決める

まずは地形確認、突撃兵はどの位置に置くか」


兵士達の作戦を横で眺めていた勇者に族長が

「おい」と声をかける


族長

「見てねーでお前も何か考えろ」


勇者は「あ、あぁ…」とぎこちなく返し、作戦会議に混ざった


「クロメ族の配置はここか」

「違いますね」


「カゲ族の配置はここ?」

「違う」


「…こっちか?」

「お前もう下がってろ」


勇者は会議から外され、複雑な顔をした


「作戦決行は日没だ、各々準備を済ませて指示を待て、以上!」


作戦会議は終わり、兵士達はそれぞれの配置へと向かった


勇者

「日没までまだ時間はあるな」


勇者は族長の前に立ち、剣を土に突き刺した


族長

「準備はいいか」


勇者

「あぁ」


族長は構え、黒いオーラを出した

勇者も拳を構え戦闘体制に入る


族長と勇者は激しく拳を交わした

時に蹴りや技などを使い、互いに気を遣いながら真剣に戦った


勇者

「そろそろか…」


勇者は剣を引き抜き族長の方へと向ける

それに合わせて族長も剣を取り出し

互いに数回剣を交わしたのち、二人は距離をとり

静かに手合わせを終わらせた


族長

「まさかお前から誘ってくるとはな」


勇者

「すまん、こいつに慣らしておきたかったんだ

少しでも差をつけないと神とまともにやるのは危険だからな」


勇者はふとあるものを取り出した


ウェイド

「…ん?それは、俺たちの?」


勇者が取り出したのは義手だった


勇者

「まだ扱いに慣れなくてな」


勇者は義手を見つめながら

ある出来事をふりかえる


若者

『勇者様、僭越(せんえつ)ながら手合わせを』


勇者

『う、うむ』


影の島の訓練所にて

勇者と若者は手合わせをしていた


若者

『勇者様、左利きですか?』


勇者

『え?いや右だが…』


『それだと剣の持ち方はこうではなく

こうの方が…ん?勇者様、指が…』


『あ、あぁ、厄災との戦いで負傷してしまってな…』


『コレでは戦いづらいし

何かと不便でしょう、ちょっと待っててくださいすぐ戻ります』


『?』


しばらくして何やら指の形をした特殊な道具を持った若者が戻り、勇者の右手に装着する


勇者

『これは…』


若者

『コレで少しは握りやすくなったでしょう

手を動かしてください』


勇者は手をにぎにぎして

感度を確かめる


勇者

『おお、握れるぞ』


若者はニコニコしながら

剣を勇者に手渡す


若者

『では、手合わせの続きを再開します』


若者と勇者は剣をぶつけ合った


『剣術の腕はでたらめですが

スピードや反応速度は常人以上ですね

神の域に達しています』


『腕力とスタミナもでたらめに強い』


勇者

『(でたらめ…)』


勇者はふりかえりながら複雑な気持ちになったーーー


ウェイド

「勇者、そろそろ作戦決行の時間だ」


勇者

「うむ…今行く」


勇者はウェイド、族長と共に

兵士達の元へと向かった


持ち場にはすでに兵士達が整列していた


女王

『これより我々は勇者と共に神々の討伐へ赴く』

『我らは勇者の盾となり勇者をお守りし、神の元まで送り届けるのだ』

『敵は強大だ、故に勇者は無傷でなければならない』

『生き残ろうと思うな、生きる事を考えるな、命、身を全て勇者に捧ぐのだ』

『何かあった場合に備え、コレを勇者に託す

クロメ族とカゲ族の協力を得るための合意書だ』

『いいか、君主を失おうと決して折れてはならん

勇者様を、お前達の責務を全うするのだーーー』


生前の女王の命令を思い返しながら

兵士はグッと剣を握りしめた


勇者は兵士の前に立ち少し考えたあと、こう続けた


勇者

「お前達は逃げていい

ここは僕らが引き受ける

国も命令するものももういない

名も知らぬ僕を命を賭してまで

守る必要はもうないんだ」


しばらくざわめきがあったが

兵士は首を横に振り、こう返した


「確かに我々はあなたの事をよく知りません

できるならこの場から逃げたいです

しかし女王の意思は尊重したい

我々は彼女にその命を救われたのであります

彼女が望むのであらば

あなたの意思も尊重したくあります!!」


すると「オォォォォッッ」と周りの兵士たちが叫ぶ


「共に行きましょう、勇者様

我々の命はあなたと共にあります

散る時は共に散りましょう!

あなたに我々の全てを託します!」


勇者はそれを聞いて俯き

なぜだか涙が溢れた


「勇者様、ご指示を」


「あぁ」


勇者が兵の前をいくと

後ろの方で誰かの声が聞こえてきた


「おーい」


勇者が振り返ると

そこには何人かの大きさや形の違う影が見えた


「あ、あいつらは…!」


目を凝らすとそれは

三大陸の面々だった


「勇者様、お久しぶりです」


「お前は…」


そこには少し背が伸び、凛々しくなったウサギのチコがいた


「チコ…!チコか…!?」


チコはニコッと微笑んだ


「やぁ久しぶりだね」


「シモン、ペッグ…」


モンス族の後ろから

巨体が足音を立ててくる


「勇者、元気そうじゃねーか」


「ガルアス!」


モンス族の族長、ガルアスだ


勇者

「お前達、一体…」


ガルアス

「全部そのチコって坊主の呼びかけで集まったんだぜ?」


鳥型獣人族

「人間に協力するなど、胸糞が悪いが

チコに免じて今回限り過去のことは忘れてやる」


ムシ族

「ヴヴヴヴッ」


ガルアス

「俺たちも及ばずながら加勢させてもらうぜ

力では敵わなくても盾くらいにはなるだろう」


勇者

「みんな…くっ…すまん」


種族たちが微笑みを向ける


チコ

「我々は勇者様の意思に従います

この命、勇者様のために!」


チコが剣を掲げると周りも雄叫びを上げた


族長

「もういいか、勇者」


ウェイド

「勇者、嬉しそうだな」


勇者

「すまん、待たせた」


勇者は兵士達の前に立ち

再び決意を固めた


勇者

「よし、それじゃあ行くか」


勇者達は一点を見つめて剣を抜き

森の中を突き抜けていったーーー


ーーー


ガサガサと森の中を駆け抜ける勇者達


遠くに見える(おか)の上に次元の切れ目ができ

その周辺から神の使い達が大量に召喚される


「現れた!!抜かるな!!

作戦通りに行くぞ!!」


怒声が響く中

勇者達は雄叫びを上げながら

襲い来る神の使い達を迎え撃った


突撃兵達が神の使い達に突っ込み剣をぶつけていく


「勇者様!こっちです!」


勇者は案内兵に先導され、後を追うように走る


戦いながら兵達が合図を送ると

勇者の周りにいたクロメ族達が周辺に膜を張り

敵の襲撃を防いだ


戦火の音が響く中

勇者は立ち止まらず走り続ける


兵達の何人かが神の使いに斬られ倒れるのが視界に入るが勇者は必死に堪える


勇者

「(立ち止まっちゃダメだ、真っ直ぐ進むんだ…!!)」


ガルアス

「ウオオオオッッ」


三大陸の面々も神の使いを抑え込み、勇者への妨害を防いでいた


「敵兵がそっちに行ったァァ!!」


勇者の目の前に神の使い達が現れる


案内兵の一人が剣をぶつけ、勇者に叫んだ


「勇者様!!もう少しです!!

行ってください!!あそこが狭間です!!」


兵士はプルプルと肩を振るわせながら

必死に神の使いを押さえつけ

勇者を先に進ませようとしていた


「すまん…!!」


勇者は案内兵の横を通り、切れ目の場所まで走った


クロメ族達が遅れて神の使いへ技を喰らわす


「黒・滅殺拳!!」


勇者は後ろを向かず目の前にある切れ目を見た


「(もう少しだ…!!)」


神の使いが勇者の方めがけて気弾を飛ばす


「ッッ!!」


カゲ族の兵士が気弾の前に飛び出し

身を盾にして勇者を守った


勇者は切れ目の中に勢いよく飛び込んだ


その瞬間、戦火の音がしなくなり

目の前にはいつもと変わらない白い空間が広がっていた


勇者が立ち上がると、目の前奥には影の島で戦った神の使いが立っていた


神の使い

「……」


神の使いは布の中から覗いた鋭い目で勇者を睨んでいた


勇者は一歩ずつ徐々に速度を上げながら神の使いの元まで走り、勢いよく剣をぶつけたーーー



統一戦争-決戦前夜-(完)

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