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勇者の約束

馬に乗って次の目的地を目指し

平原を歩く勇者


宿屋の主人

『勇者様、体を休めてはいかがですかな?』


勇者

『…すまん、宿はいい、すぐにでもここを発ちたい、寄り道してる暇はないんだ』


勇者は城下の飯屋で会った宿屋の主人のことを思い返している


勇者

「……とは言ってみたものの、この長い平原から火山まではだいぶ掛かるな。

その場の勢いでつい断ってしまったが

やはり、休んでおくべきだったかもしれない…」


勇者は宿を断ったのを少し後悔していた


「女王が言うにはその火山のふもとにある村に

炎のヒセキが収められてると言う話だが」


「そこまでたどり着くには最低でも3日はかかるな

村から徒歩で城へ着いた時も思ったが

やたらと広大な大地だ……馬でも今日中に着くのは厳しい……」


「何度か寝床を確保して休憩を取らなければ」


「魔王復活まで時間がない……できるだけ早く

ヒセキを集めないとまずい」


勇者は内心焦りながらも

寝床を確保し、休憩をとりながら進んだ


バシャバシャ


川で魚を捕まえ、

焚き火で焼いて食べる勇者


勇者

「フツマス、少し暖かい川に生息、

身は柔らかく、内臓も焼けば食べられる

……ほんとに色々書いてあるな」


ある図鑑と調理本を読む勇者


「マモノ図鑑…城の者から貰った

マモノの事が記された図鑑。得体の知れない化け物だけでなく、その辺の魚や小動物も記されている…これと飯屋の主人から貰ったこの

「誰でも簡単!クッキング本(サバイバル編)」があれば、しばらく食に困ることはないだろう」


水を煮沸し、ゴクゴクと飲み干す勇者


勇者

「ろ過させて1分間煮沸すればほとんどの細菌は死滅する……か。なるほどな。…水ってそのまま飲んだらダメなんだ」


ーー(まき)を手に持つ勇者


勇者

「……よし」


そう呟くと(まき)を空へと放り投げ、続けて勢いよくジャンプする勇者


(まき)に狙いを定め、剣を素早く振るう


勇者

「ふんっ!はっ!!」


川へ着地する勇者。

遅れてバシャバシャと割れた薪も落ちてくる。


勇者

「ふぅ…大体こんなところか」


「素振り、薪割り問題無し

カラダはやはり萎えてはいない

戦えるかどうか不安だったが、この分じゃ

その心配はいらなそうだ」


「記憶は失っても、勇者の力は健在だな。

神に選ばれた、とか女王は言っていたが…

確かにこのチカラはすごいと思う

自惚れではないが、このチカラならもしかしたら

本当に世界を救える…かも?」

 

自分の力を再確認する勇者


「なんだか妙な気分だな、自分で自分の事を褒めてるような…」


勇者は微妙なカオをして剣をそっと収める


その後旅路は続き、休憩を挟みつつも

なんとか火山に辿り着いた勇者


道中、マモノとの戦いで服が汚れている


勇者

「ふぅ、なんとかたどり着いたな…

魔王はまだ復活はしてないようだ」


勇者は急ぎ、だが冷静に村まで馬を歩かせる


勇者

「まだ猶予がある、焦りは禁物だ

マモノは思ったより手強い、警戒しながら進まねば…魔王を倒す前に死んでは意味がない」


ふもとの村に辿り着く道中、甲殻類型のマモノに遭遇する勇者


勇者

「ふむ…やはりそう簡単には進ませてはくれないか……あのハサミに挟まれたら痛そうだな」


勇者はマモノ図鑑を取り出して

マモノを観察する


「えーっと…あった!こいつは……

ロックァガリ…?体長150

岩のように硬い甲殻と鋭いハサミが特徴のマモノ…。暗闇の中でも光る目は対象を逃さない、

肉食型か…、目をつけられたら戦闘は避けられないな」


勇者は馬から降り、剣を構える


「どう、どう、」


馬を守りつつ移動、マモノの横をすり抜けようと試みる


「無駄な戦闘は避けたい、奴だって同じはず…」


だが勇者の願いは叶わず、マモノは勇者をエモノとして認識し襲いかかる


「仕方ない、やるか…!!」


勇者は剣を構え、勢いよくジャンプ


マモノの背中付近目掛けて勢いよく剣を振り下ろす


だがあまりの硬さに剣が弾かれてしまう


勇者

「剣が効かない…!?すごい硬さだ!

図鑑の情報は伊達じゃないな…、どうする?」


「どこかに柔らかい部位はないか」


勇者は考えつつ戦闘を続ける


マモノは容赦なく勇者にハサミを向ける


勇者

「こいつの弱点は…!?」


ハサミをかわしつつ、マモノ図鑑を読む勇者


「目が良いため、光に弱い…!これだ!!」


勇者は懐からあるものを取り出し

それを勢いよく握りしめる


「閃光のパフ!!」


眩い光がマモノの視界を奪う


その隙に勇者はマモノの目の部分目掛けて

剣を突き刺す


「やはりここは柔らかい!!」


マモノは悲鳴を上げながら

その場に崩れ落ち、やがて活動を停止する


「ハァ…ハァ…なんとかなったが、

こんなのがこの先何匹もいるとなると

かなり厄介だな…」


勇者は息を切らしつつ、馬に跨り

安全なルートを探す


「とりあえず村まで、マモノは無視だ」


勇者は村を目指し再び歩き出した


ーーー


-ふもとの村-

山のふもとにある村

岩でできた家などがある


ようやく村まで辿り着いた勇者


「ふぅ…なんとかだな

まったく、ここの奴らはどこまでしつこいんだ」


マモノとの戦いでヘトヘトの勇者

とりあえず休憩場所である宿を探すことに


「休憩を取る時間はあまりないが

流石に今の状態ではマズイ…」


ボロボロで満身創痍な勇者は

辺りを見渡しながら村の中を歩いた


「おかしい…妙に静かだ」


不気味に静まり返る村に異変を察知する勇者


勇者

「女王が言っていたな、村では謎の伝染病が相次いでると…報告者も病で倒れたのか、誰一人見当たらないが…」


どこを探しても村人の姿は確認できず

勇者は不安に駆られる


勇者

「!!」


突然背後から気配を感じ

咄嗟に振り向く勇者


そこには大きな岩があった


「ロックァガリ…?いや、ただの岩か…

しかし先程の気配は…?この村には何かいるのか?」


勇者はますます不安になりつつも

村を探索する


やがて一軒の民家にたどり着く

わずかながら人の気配がするといい、

勇者は中へ入ることに


「すまない、邪魔する。誰かいないか」


勇者の呼びかけにシーンと静まり返る家内


「警戒しないでくれ、僕は城に頼まれて

村を調査しに来た勇者だ、誰かいるなら顔を見せてくれ」


すると奥から小さな声が響き渡ってきた


「ゆうしゃ…さま?」


声の主は静かに奥から歩いてくる

それは幼い子だった


勇者

「この村について教えてくれ

一体どうなっている?」


するとその幼い子供は

顔を歪ませ、ポロポロと涙を流して

その場にうずくまった


ーーー寝込む女性を見舞う子と勇者


勇者

「彼女は?」


子供

「母です…」


勇者は複雑な顔をする


「突然みんな病で倒れて…」


声を震わせる子供


勇者

「伝染病か、一体何が起きてる?」


子供

「なにもわかりません…

みんな、病に侵されて

祭壇もマモノに侵食されて

む、村の一部に…」


勇者

「村の一部…」


勇者は胸騒ぎを覚え、汗を流す


勇者

「…女王の話では

この村にヒセキがあると聞いた

どこにあるか分かるか」


子供

「ヒセキ…?村の守り石のことかな…

それなら祭壇に祀られていますが」


子供

「村では毎年その石を崇め、奉る習慣があって…

あらゆる災厄から村を守ってくださると…

言い伝えではそう語られてきたので

僕もそれを信じて祈りを捧げてきたのに…

結局村は…母は…」


勇者

「なるほど」


子供

「あの、それが何か…」


勇者

「この騒ぎの原因を作ったものを

封じ込むために必要なものだ」


子供

「え…?」


勇者は子供に事の経緯を話すーー


ーーー


子供

「魔王…そんなものが…」


勇者

「知らされてはいないのか」


子供

「そんな…あらゆる災厄から身を守ってくれるとしか教わってこなかったのですが

まさかあの石にそんな力が秘められていたなんて…」


勇者

「僕も驚いているよ

ヒセキは全部で三つある

一つは森のヒセキ、一つは炎のヒセキ

一つは海のヒセキ。僕は三つあるうちの一つ

森のヒセキを所持している」


子供

「三つ集めて、魔王を封じるのですね」


勇者

「あぁ、魔王を封じれば

もしかしたら君のお母さんも良くなるかもしれない」


子供はそれを聞いて少し希望を持ち始める


勇者

「祭壇の場所は?」


子供

「母が救われる…でも、ダメです

祭壇には凶暴なマモノが住み着いていて

とても、近づけるような状態では

いくら勇者様といえど…危険すぎます」


勇者

「安心してくれ僕は勇者だ

マモノなんかに負けやしない

神に授かったこの力で蹴散らして

君のお母さんを必ず助けだしてみせる。

だがヒセキは必要だ、ヒセキがなければ

魔王を倒すのは難しい

祭壇の場所を教えてくれるかな?」


子供はその言葉に深く安堵し

祭壇の場所を勇者に告げる


子供

「祭壇は山を登った先にある

洞穴にあります、ただ山にも凶暴なマモノが住み着いているためそこに行くにはかなり根気がいります…」


「赤いカーテンのようなものが

目印です、その洞穴に祭壇があります…」


勇者

「わかった、それじゃあ早速行ってくる」


子供

「どうか、気をつけてください…」


勇者はしばし、村を後にして

祭壇へと向かったーーー


勇者

「思わず強気に出てしまったが

大丈夫なのだろうか

凶暴なマモノ…ロックァガリより手強いのかな?」


勇者は内心不安に駆られつつ山を淡々と登る


勇者

「結局宿は取れなかった…

伝染病、村の一部…信じたくはないが

誰もいないのに気配を常に感じたのも

おそらくあの岩も元は…」


身震いする勇者


「魔王の力…なんと恐ろしく

そして、なんとおぞましいんだろうか。

人間の築いてきた全てを飲み込んでいく…

これは何としても食い止めなければ」


魔王に対する抵抗心をより深める勇者


ーーー祭壇のある洞穴に到着


「赤いカーテン…あれか」


勇者は警戒しながら洞穴へ侵入

中央の祭壇に近づく


勇者

「なんだこの…ウネウネは」


祭壇は黒と紫が混じった謎のモヤで覆われていた


勇者

「これがあの子が言っていた…」


「クエーッッ」


勇者

「!!」


外からマモノの鳴き声が聞こえてくる

勇者は咄嗟に振り返り、剣を構える


勇者

「見つかったか!」


洞穴内に3匹のマモノが侵入

鳥型、犬型、アルマジロ型


勇者

「邪魔するな!」


激しい戦いの末、なんとか三匹のマモノを撃破した勇者


勇者

「ハァ…ハァ…こいつら…」


息を切らす勇者の背後で何やら蠢く物体


勇者

「……!!」


祭壇を覆っていたモヤが歪な形へ変貌していく


勇者

「こ…これは…」


とても言葉では言い表せない

異形の形となったモヤが勇者に襲いかかる


モヤはヒセキや周囲の小物、先ほど倒したマモノや生物の死骸を飲み込み、大きく膨れ上がる


勇者

「ヒセキが…!くっ!やるしかないか!!」


勇者はモヤの周囲を周り、攻撃のタイミングを図る


勇者

「ここだ!!」


勇者は剣を取り出し、モヤに向かって全力でダッシュ、ジャンプ切りをお見舞いする


だが勇者はモヤを剣ごとすり抜けてしまう


勇者

「な、なんだこいつ…!!実体がないのか!?」


勇者は再度攻撃を試みるも同じようにすり抜け、更に生物の死骸が飛んできて勇者にダメージを与える


勇者

「ぐあっ!!…くっ!!」


衝撃で剣がどこかへ転がる


勇者

「くそっ!どうしたらいい…!?

実体がなきゃ攻撃はできない!

倒せないのか?!ヒセキは!?魔王はどうなる!?」


勇者はモヤに対し焦りと苛立ちを見せる


勇者

「コアとか核とか弱点くらいあるだろ!?」


勇者は弱点を必死に探すがどこにも見当たらず

見えるのは異形の姿になったモヤのみ


勇者は内心無理だと諦めかけていた


勇者

「助けると言ったのに…!

あの子の母を…!魔王を倒すと約束したのに…!

何もできないのか…!?やはり僕には…」


絶望する勇者に対し

モヤは容赦なく襲いかかる


動物の死骸や小物が混ざったモヤを

勢いよく勇者目掛けて叩きつける


勇者は寸前でそれを回避するが

打つ手がなく、唖然とそれを眺めていた


モヤの攻撃、その反動で付近にあった木箱が割れる

その中からあるものが転がり落ちる


勇者

「…!?あれは!」


勇者はモヤの攻撃をかわしながら

それに近づき、急いで手に取る


勇者

「…パフだ!なんのパフか知らないが

もうこれしかない…!なんとかなってくれ!!」


勇者はがむしゃらになりつつパフを強く握った


するとパフの中から強い風が噴き出てきた


モヤの一部を消しとばす


勇者

「……!!」


勇者はその光景に一瞬固まるも

モヤの追撃で我に帰り、もう一度

今度はモヤ目掛けてパフを思いっきり握る


「ビュオオオオオ」


モヤ

「グォォォォ」


モヤが激しく吹き飛び、死骸や小物が地面に叩きつけられる


ヒセキも地面に叩きつけられそうになり

勇者は慌ててヒセキの元へ駆け寄り

滑り込みでキャッチする


勇者

「ふぅ…ふぅ…危なかったーーー」


勇者が安堵するも束の間、背後で消し飛んだモヤが再び大きく膨れ上がり勇者に襲い掛かろうとしていた


勇者

「くそっ…!しつこいぞ!!」


勇者はパフを向け強く握る


モヤは大きな悲鳴を上げながら

それに必死に耐える


勇者

「お願いだ!早く消えてくれ!!」


勇者は汗をかきながら歯を食いしばり

パフを強く握りしめる


モヤはなおも抵抗を見せる


勇者

「消えろぉおおおおお!!!!」


動物の死骸が勇者目掛けて飛んでくる


勇者はパフを握りしめたまま

それに衝突し、遠くへ吹き飛ぶ


モヤの叫び声が洞穴内に響き渡り

やがて静寂へと帰る


ーーーしばらく時間が経った頃

散乱する動物の死骸


死骸を持ち上げて、死骸から這い出る勇者


勇者

「はぁ…はぁ…ぐっ…はぁ…はぁ…」


勇者はなんとか生き延び、ぐったりと横たわる


勇者

「はぁ…はぁ…、やった…やったぞ…!」


モヤが消えて静かになった洞穴で

勇者は一人喜ぶ


勇者

「これが…二つ目のヒセキ」


炎のヒセキをしばらく眺めた後、洞穴を脱出し、村へ戻る勇者


ーーー山道を歩く勇者


勇者

「一時はどうなるかと思った

こいつには助けられたな…」


勇者は洞穴で拾ったパフを眺めていた


勇者

「マモノは倒した、村は多分元に戻ったはずだ」


勇者はわずかながら笑みを浮かべつつ

村へと引き返していく


ーーーしばらくして村にたどり着いた勇者は

唖然とした表情を浮かべながら立ち尽くす


村は戻っていなかった、相変わらず静かなままだ

だがこれは勇者も薄々予想していた事


森のヒセキを手に入れた時も

マモノを倒せば記憶が戻ると思っていたが

相変わらず記憶は失ったまま


魔王を倒すまではおそらく永遠にこのままなのだろうと勇者はなんとなく理解していた


だが、そんな勇者でも予想できなかったことが起きた


必死にマモノを倒し、村へ戻った勇者が見たものはあまりにも残酷な結末だった


勇者

「……」


勇者はゆっくりと親子に近づき

そっと礼を言ったあと、その場を静かに後にした。


勇者

「すまない…必ず助けるから

魔王を倒して…みんなを」


勇者はもはや多くは語らず

ただ魔王に対するこの上ない怒りが

大きく膨れ上がった


勇者の冒険はまだまだ続くーーー


勇者の約束(完)

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