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第27話「統一戦争-上陸-」

神との戦いが終わり、勇者は族長の元へと帰還していた


周囲には血生臭い匂いと兵士達の残骸が転がっていた


族長

「勇者……」


勇者

「クリュウ……、無事だったんだな」


族長は勇者の片目を見てふとつぶやく


族長

「もう後戻りできないところまで来たな」


勇者はその言葉に無言で頷いた


神との戦いで片目を抉られた勇者は

治癒の力で自身の傷と体力を回復させていたが

片目だけは治すことができなかった


族長

「勇者、できる限りのことはやった」


ふと族長がその場から下がると

奥にボロボロの兵士達がいるのが見えた


兵士

「ゆ、勇者様……」


兵士は痛みに顔を顰めながらも

勇者のそばまでフラフラと歩いてきた


勇者

「すまない、遅くなった」


兵士

「いえ、我々は何もお役に立てず…

彼らがずっと守ってくれたおかげで

かろうじて生きながらえた次第です」


「しかし、驚きました…クロメ族

戦闘種族とは耳に入れておりましたが

まさかこれほどとは…我々など完全にお荷物でした……」


「勇者様、クロメ族がいると言うことは

女王はもう……」


震えるような声でそう問いかける兵士に

勇者はゆっくりと頷く


兵士は少し悲しげな顔を見せながらも

唇を強く噛み締め、話を続ける


「我々は次の配置に備えます、勇者様も…どうかご武運を」


「うむ、後で必ず会おう」


そう言って勇者は兵士の肩を優しく叩くと

その後ろ姿を静かに見守った


族長

「奴らの事はこちらが引き受ける

お前はまだやる事があるんだろう?」


勇者

「あぁ、すまない頼んだ」


勇者は族長の元を後にし、次の目的地へと歩き出した


勇者

「影の島へ行く前に、一旦学者の元へ戻るか

奴ら(神)の言動にはいささか不明な点が多い…」


何か思うところがある勇者は方向を変え、

一旦城へと戻ることにしたーーー



町に入るとなにやら空気が悪く

みんな勇者を見てはヒソヒソしたり、白い目を向けたり、顔を背けたりしていた


よく見ると個々の手にはそれぞれ紙切れのような物が握られている


勇者はその異様な光景に思わず「なんだ?」と不穏に感じつつも、とりあえず一旦城へと向かって歩いた


勇者

「学者、調べて欲しいものが」


学者

「メイです」


勇者

「?」


学者

「メイナ・リドルガーデル

長いから周りではメイという愛称で呼ばれていました」


学者が初めて本名を名乗り

勇者は驚いた顔をする


「あの時は緊張していて

名前が出なかったのですが

やはりパートナーなので、名前で呼んでいった方がより良い関係を築けると思いまして」


学者はニコッと微笑む


勇者

「わ、わかった……メイ」


「はい」


「調べて欲しいことがあるんだ」


勇者はメイに神についての伝記/言い伝えを記した本がないかを尋ねた


勇者

「奴らおかしな事を言うんだ

毎回、天井へ登るし……何かあるのかもしれない」


学者

「それは確かに変ですね

わかりました、調べておきます!

城の本棚にはまだまだ私の知らない情報が眠っていますから」


勇者

「あぁ、よろしく頼む」


勇者が城を出ようとすると学者が声を上げる


「あ、待ってください」


学者に呼び止められ、キョトンとする勇者


学者

「私からも一つよろしいですか?

マリヴェロ様がお戻りにならないのです」


勇者

「マリヴェロが?」


学者

「勇者様と女王様がお出かけになられたすぐ後、マリヴェロ様も兵を率いて城を出て行かれたんですが…、旅の途中に出合いませんでしたか?」


「もし時間がお有りでしたら、マリヴェロ様の捜索をお願いしたいのですが」


勇者

「うむ…(神は猶予を与えると言った…どこまで本当かわからんが)」


腕を組みしばらく悩んでから勇者は口を開く


勇者

「わかった、影の島の件が片付いたら、マリヴェロの捜索も視野に入れよう」


学者

「本当ですか!ありがとうございます!

マリヴェロ様の行き先は残念ながら一学者の私には知らされていないので、情報は何もないのですが…」


勇者

「ふむ、とりあえず島内を探索しよう、

マリヴェロに関する情報が見つかるかもしれない」


学者

「勇者様、ご武運を!」


勇者

「うむ」


勇者は学者に見送られ城を後にしたーーー



町に出ると一人の民が勇者に気がつき

血相を変えながら走ってきた


「勇者様!!」


怒りとも取れる民の激しい剣幕に

勇者はたまらず、驚き戸惑う


勇者

「な、なんだ…?」


興奮した民は強く握りしめていた紙を

勇者に突き出した


「勇者様!こんなビラが撒かれてましたが、嘘ですよね!?

私たちを見捨てるなんて事…!」


ビラを受け取り困惑した表情をする勇者


勇者

「……!なんだこれ……」


そこにはやや乱暴な字でこう書かれていた


ビラ

[勇者は我々を助ける気など全くない

厄災騒動は不治の病を利用した奴の自作自演である

今、真の英雄であり長年に渡り城に仕えてきた我らマリヴェロ様がこれら不治の病に効く妙薬の発見とその材料を捜索しているところである

民たちよ恐れてはならない、時間はかかるが治せない病気などこの世には存在しない、必ず薬は開発され元の穏やかな生活を送れる事だろう

マリヴェロ様こそが偉大なり]


勇者はハッと周囲を見渡し

ようやく事態を把握する


「厄災なんていなかったのか

通りでおかしいと思った…」

「自作自演かよ、ふざけやがって…」

「勇者様…そんな…」


勇者

「(そうか、さっきから感じていた違和感の正体はこれか…)」


勇者はビラを握りしめ、民達に強く叫んだ


勇者

「もちろん、僕は君たちの味方だ!

見捨てたりなんてしない!ここに書かれてる事は全部嘘っぱちだ、本気にしないで欲しい!」


それを聞いてパァッとなる民


「聞いたか!?やっぱり勇者様は我々の味方だ!!」


一人の民がそう叫ぶも、周りは半信半疑といった微妙な反応をする

「本当かなぁ…?」

「勇者様、最近顔見せないし…」

「裏で何やってるかわからん勇者様より、マリヴェロ様の方が何倍も信頼できる…」


ざわつく民に勇者は段々と息が苦しくなり、頬からはやけに生ぬるい汗が流れ始める


「けっ、何が味方だ、結果も出せねーくせに!」


地面を強く踏みつけた一人の民がそうつぶやいた

勇者はその反応に驚き、その場で固まった


「あの人の言うとおりよ…勇者様は口だけで何もしてくれなかった…厄災だってもっと早く倒してくれたら…」


ちらほらと勇者への不満が聞こえてくる


「いい加減にしろよ!勇者様は俺たちの為に戦ってくれてたんだぞ!!」


一部の民が声を上げるが、周囲も反論し

徐々に嫌な空気になってくる


「結果が出なきゃ意味ねーだろ」


「そんなに言うならお前が厄災と戦ってくれば良かったじゃん!!」


「俺勇者様じゃねーし、比べる土俵が違うだろバカか?」


勇者は段々とこれらの言い合いが雑音に感じてしまい、この場から逃げたくなった


『辛くなったらいつでも逃げていい』


勇者はふと女王の言葉を思い出し

耳を塞いでその場にしゃがみ込み、目を強く瞑った


暗闇の中にポツンと残された勇者は

歪む民達の姿を想像しながら

やがて町の外へと出ていた


《自分さえ良ければそれでいい

それが奴らの本質、それが奴らの本心だ》


《そんな奴らを助ける理由などあるか?

そんな身勝手な奴らを守る必要などあるか?》


勇者は周りを確認するとスッと立ち上がり

深くため息をついた


勇者

「大丈夫、今だけだ」


勇者はそっと胸を撫で下ろすとまっすぐ前を向き、静かに影の島へと歩いたーーー



海岸に出ると一人の若者が待ち構えるかのように砂浜に立っていた


「あなたが勇者様ですね、お待ちしておりました」


やや低い声でありながら、どこか人慣れしたような優しい口調で勇者を出迎える若者


勇者

「コイツがカゲ族…」


若者

「さぁどうぞ、こちらへ」


若者に案内され、勇者は止められていた小舟に乗り、影の島へと向かったーーー


勇者

「複数の丸い耳飾りに…長い耳、あの赤い目を除けば

見た目は人間と大差ないな…」


勇者が若者を観察していると

徐々に島が見えてきて若者が柔らかい口調で声をかけてきた


若者

「もうすぐですよ、勇者様」


勇者

「う、うむ…」


小舟は島へと上陸し、勇者は陸にそっと足を乗せた


勇者

「砂だな…普通の砂だ…」


島はクロメ島と同じくどこにでもある普通の島だった


若者

「どうぞ、こちらへ」


勇者

「あ、う、うむ…」


勇者はやけに落ち着く口調をしたカゲ族に慣れず、返事がぎこちなくなっていた


若者の案内についていき、やがて洞窟へと入っていく勇者


外と比べて中はとても暗く、若者の場所も

声を頼りにしないと分からないほどだった


若者は壁に立てかけられた何かを掴むと

それを横に振り、シャラシャラと音を立てはじめた


若者

「みなさん、勇者様のご到着です、ご歓迎を」


勇者が呆然としていると、奥が何やらモゾモゾと動いてるのが見えた


微かにだが、暗闇の間から緑色の壁のような物が見え隠れし

勇者は目を擦りながらその光景を不思議そうに眺めた


勇者

「な、なんだ…?」


若者

「では、勇者様、私はこの辺で…」


若者はそう言うと勇者をその場に残し、暗闇の方へと静かに消えていった


勇者

「あ、おい!!」


一人残された勇者が狼狽えていると

特に揺れてもいないのに地響きのような音や唸り声のような物が聞こえてきた


勇者は驚きながらもふと前を見てみると

暗闇の部分がモゾモゾと生き物のように動き出し、やがてそれは球体のようにニューンと前に伸びてきて、すごい速さで足元まで飛んできた


複数の丸い影のような物体が勇者の足元を囲んだ


勇者

「な、なんだ?なんだこれは…!?」


影に囲まれた勇者はどうしていいかわからず

ただその状況にあたふたしていると

やがて影はうねうねとしながら上に伸びていき、

まるで粘土のようにグニャグニャしながら

人型のような形になっていく


勇者

「これは……」


そして完全な人の姿が勇者の前に姿を現した


「……」


それはフードを被り、表情は髪に隠れてよく見えず、

棒立ちかつ無言の状態で勇者をジッと見つめている


しばらくの沈黙の後、勇者がジリっと音を立てたその瞬間、それらは突如として武器を構え、それぞれ違うポーズで構えた


勇者は驚き、咄嗟に剣に手をかけて

戦いの姿勢を見せて威嚇した


「ようこそ、勇者殿…カゲ族の島へ……」


少ししわがれた男性の声が上から聞こえ

勇者は警戒しながら見上げた


そこには年老いた男が勇者を見下ろし立っていた


勇者

「(罠か…?!)」


「歓迎しますよ…うっしっし…」


勇者は静かに男を睨み、戦闘に備えたーーー



統一戦争-上陸-(完)

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