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第26話「統一戦争-第二の神-」

海上を渡る数隻の黒い船

船の先には勇者が、その隣にはまっすぐと海の様子を眺める族長の姿があった


族長

「見えてきたな」


族長の目線の先には本島の陸地が見えていた


陸に近づくと帆を畳み、イカリを下ろし

横付けに停めた船から続々とクロメ族達が降りていった


勇者は神妙な面持ちで陸の地面を見つめながら

そこにゆっくりと足を置いた


族長はクロメ族を並べて陣形を組み、演説を行なっていた


族長

「いいか、敵は島を襲った奴より遥かに強大だ

一瞬の隙も許すな、勇者の情報では敵も複数の兵を束ねているらしい

全員が俺や勇者を凌ぐ実力を保持している!!

ここからは島のしきたりは忘れろ

しっかり互いをサポートし、勇者の神討伐に貢献するんだ!!」


一通り演説が終わるとクロメ族達を引き連れて

勇者と族長の二人は神の出てくるエリアへと向かったーーー


族長

「あの方角から神が出てくるんだな?」


勇者

「あぁ、城の兵が待機してるはずだ」


遠くにある高台を眺める勇者


勇者

「(黒い龍と神の力……奴らも本腰を入れ始めたのかもしれない……

何をしてくるかわからない、兵を集めてる余裕はない……)」


勇者はクロメ島での一件をふりかえり

影の島への入島を一時中断し、神を討伐する作戦へと路線を切り替えていた


兵士

「お……!?」


しばらく歩いていると

遠くで一人の兵士が勇者たちの姿に気がつき声を上げた


兵士

「ゆ、勇者様だ!!勇者様が来てくださったぞ!!」


一人が声を上げると周りも顔を上げて次々に

「勇者様!!」と声を上げ始めた


族長

「えらく慕われてるな」


勇者

「あ、あぁ」


族長の冷たい声に勇者はたじろぎつつも

兵士たちの方へ早足で向かう


勇者

「すまない、遅れた」


兵士

「いえ、ずっと待っていました

みなも勇者様と共に戦えると聞き、張り切っています!

見ての通り作戦当初からずっと見張っていたのですが、今日まで何も変化もなく」


勇者

「何もか?光ったりとか、次元の切れ目のようなものが出たことも?」


兵士

「え、えぇ…」


勇者

「(どうなってる?じゃあ、あの黒い龍は…?

奴らの意図はなんだ…?)」


勇者が疑問に思っている(そば)

兵士が健気に口を開く


兵士

「勇者様、我々にご指示を」


勇者

「え…?」


兵士

「神を倒しに行くんでしょう!

例えかつては我々の味方であっても

今は敵!!我々の覚悟は十分です

あとは勇者様の指示を待つのみ!!」


すると周囲の兵士も声を上げ、次々と勇者に指示を求めてきた


勇者は兵士の声を聞き入れると

深く頷き返した


勇者

「わかった、作戦を言う

クリュウ!!」


族長

「あぁ」


族長は兵士達に作戦の詳細を話しはじめたーーー


城から南西に位置する高台、その下に生え広がる森林に勇者達は居た


高台を静かに見上げる勇者

周囲には族長とクロメ族、城の兵士達が待機する

 

しばらくすると高台の頂上で一本の亀裂のような線が入り、そこからパァッと光が漏れ出した


兵士

「ひ、光った……?!」


族長はそれを開戦の合図と捉え、周りの兵士に勢いよく叫んだ


族長

「お前ら決行だ!!作戦通り行くぞ!!」


族長の合図でクロメ族と城の兵士達がいっせいに立ち上がり、武器を構えて森の中へと駆けていく


族長

「勇者、お前は俺たちの後に来い!

道を作る!!」


そう言って族長も森の中へと消える


勇者はしばらく森の奥を見つめた後

「よし!」と気合を入れて森の中へと走ったーーー


切れ目からは無数の神の兵士が召喚され

勇者達のいる森へと進軍していた


「来たぞーーー!!」

「構えい!!」


神の兵士達が勇者の兵士達と衝突

味方が敵兵を押さえ込む中、一人の案内兵が勇者に声をかける


「こっちです!勇者様!!」


勇者はその兵士の後をついていく


勇者

「!!」


途中前方から敵兵が襲いかかってくる


「「黒衣・(ばく)!!」」


叫びと共にクロメ族達が勇者の前に飛び込み

黒い膜のようなものを周囲に張り

兵士たちを足止めし、勇者が通る道を作る


「黒衣・(かい)!!」


クロメ族が兵士達に黒い膜を覆わせると

その膜が破裂し、兵士たちを動けなくした


勇者

「(すごい…!!これならいけるかもしれない!!)」


『俺たちの目的はお前を無傷のまま神の元まで送ることーーー』


勇者は族長の言葉をふりかえりながら

クロメ族の作った道を走り抜けていく


「黒衣・(めつ)!!」


白装束が手をかざすとそこから

光の波動が飛び出し、兵士たちの足を止めた


「勇者様、今です!!」


勇者は白装束が切り開いた道を走り

結界の元まで急ぐ


木を渡って高く飛ぶ勇者に

神の兵士達が追いつき、剣をぶつけてくる


勇者

「くっ…!前にも思ったがコイツら…!!

力を自在にコントロールしてるのか!?」


勇者とせめぎ合いになる神の兵士

そこへ族長が駆けつけてきて

勢いよくジャンプし勇者の間に割り込み、兵士に剣をぶつける


族長

「勇者、アレが神の元へ通じる入り口なのだろう!?」


族長

「ここは俺たちに任せてお前は早く神の元へ急げ!!」


勇者は静かにコクっと頷くと

族長にその場を任せて結界の方まで勢いよく飛び込んだ


族長

「しくじるなよ」


勇者を見送る族長へ無数の兵士が飛びかかり

更に勇者が飛んだ方向へも兵士達が襲いかかる


勇者は間一髪、結界の中へ入り

兵士達を()いた


世界の間にある空間

次元の狭間


助走をつけた反動で勇者はでんぐり返りしながらなんとかその場に着地したーーー


相変わらずの辺り一面真っ白な世界に

勇者はもはや動じる事は無く、剣を引き抜いて神を眼で探す


勇者

「神よ!!出てこい!!いるのはわかってるんだ!!」


勇者がそう叫ぶと、奥の方からシュルシュルシュルッとヘビのような見た目の黄色い神が現れる


『勇者』


勇者を見下ろす神


勇者

「僕がいる限り、お前達にこの世界を破壊させるわけにはいかない、たとえ神であっても!」


勇者はそう強く言い放ち

持っていた剣を握りしめ、前へと構えた


狭間の外では族長と兵士達が

必死に戦っている 



『なぜ人間を庇う?』


勇者は神の声を聞かず、口の中で歯をギリッと擦り合わせる


『奴らはお前に何を与えた、何をもたらした』


勇者は構わず剣を構えて神の元まで走り寄ろうとする


『聞け、民の声を

その耳で…』


神が静かに上を向くと

勇者の耳元で複数の民の声が聞こえてきた


勇者

「!?」


勇者の足が止まる


『勇者様は本当に俺たちの事を見捨てたのかな?』

『あいつも結局奴ら(迫害してくる人達)と変わらねぇってことだ』

『勇者様の嘘つき…ぐっ…』


『ちょっと言い過ぎなんじゃないか?』

『仕方ないじゃん、厄に近付いたら危ないんだし』

『でもさぁ…』


『厄災に苦しむ者よ、祈りなさい

祈れば必ず救われます』


『こいつは儲けになるな、支援を続ければいい稼ぎになる

祈りなんぞ嘘っぱちだが

どうせバレやしない、アイツらは希望にすがるカモだからなぁ』


『誰も味方がいない…みんなクソだ…!!』


目元を震わせながらその場に立ち尽くす勇者


『どうだ?こいつが奴らの本音だ』


『感謝の気持ちはない、自身が無事かどうかそれだけだ、人の事などどうでもいい、お前のした事などこいつらは何も思っちゃいない

浅ましい奴らめ』


『お前は何度も傷つき、何度も死ぬ思いをしながら戦ってきた、民を守るために』


『長い旅、尊い犠牲もあった

だが奴らにとってはそれも二の次なのだ』


『自分さえ良ければそれでいい

それが奴らの本質、それが奴らの本心だ』


『そんな奴らを助ける理由などあるか?

そんな身勝手な奴らを守る必要などあるか?』


語気を強くしながら語る神


『ーーーそばによらないで!あっち行って!』


『やめとけってそいつ厄持ちだぜ?』

『うわっ』


『厄持ちがさぁ、こっち見てて超キモかったぁ〜』


『いつまで住みついてんだよ早く町から出てけよ』


『厄持ちが人の作った道を歩くなよ』


『マモノに食われろ』


『酷い……』


『ーーー全てを終わらせるのだ勇者よ』


勇者はしばらく黙り込んだあと

剣を握る手を振るわせながら

神に叫んだ


勇者

「お前達は…!女王を殺しただろ!!

それだけでも倒す理由はある!!」


それを聞いた神は表情こそないものの

どこかニヤリとした感情を出す


『なるほど、それが本音か

いいだろう…お前に聞かせてやろう

女王とて一人の人間であることを』


勇者

「!?」


すると勇者の耳元でかすかに

女性の声が聞こえてくる


勇者

「こ、これは……」


それはよく聞くと女王の声だった


女王

『なぜ、あの子だけが…』


勇者

「女王……!!」


『お前に聴かせているのは

女王が生前、お前のいないところで

一人呟(つぶや)いていたことだ』


勇者は唖然としながら

女王の声に耳を傾けた


女王

『なぜあの子だけが死ななければならない…

あと少しでも…時間があれば…』


勇者

「!!」


勇者は驚きつつも震えながら空いた口を塞ぎ、歯をグッと噛み締める


『どうだ?どれほど表面で立派に

取り(つくろ)っていても

女王も結局は人ということ…』


勇者

「それが…」


『?』


勇者

「「それがどうした…!!」」


勇者は怒りの形相を神に向けていた


勇者

「僕は…お前を…

お前達を倒し、世界を救う!!

勇者だからだ!!」


『そうか、やはり我々に加わる気はないか

……ガウスの言った通りだ』


神の様子が変化する


『勇者よ、お前を殺して我々は世界を葬る』


勇者は神の力を解放したーーー



勇者は宙に浮かぶ神を見上げながら

攻撃の体勢を作る


しばらくして神は移動を開始した


優雅に飛び回る神を勇者は目で追いながら

攻撃の隙を伺う


勇者

「…!…!」


しばらく追ってると

神は自身の体から玉のようなものを複数発射し

玉はそのまま勇者の元までゆっくりと落ちてきた


勇者

「くっ…!!」


集中力を削がれてしまった勇者は

とっさに歯を食いしばり、急いで神の元まで近づくーーー


壁を蹴って神の背中に飛び乗り、

剣で数回斬りつけるも

火花が散るだけで、全くダメージを与えられない


勇者

「やはりダメか…っっ!!」


勇者がもどかしそうにしていると突然、神の動きが強くなり、勇者は「うわわっ」と声を上げながら体勢を崩す


とっさに鱗の隙間に手を挟んで背中にしがみつき、振り落とされないようにする勇者


『事実を受け入れろ、どれだけ拒んでも

現実は変わらない』


『もはや皆、お前の事など頼りにしていない

一人は諦め、一人は希望にすがり、一人はお前を憎み、そして快調な者は悩みなく

その者らにとってお前はただの象徴』


『お前の役目は終わったのだ、勇者よ』


勇者

「くっ…!!」


遠目から見るとやけにゆっくりめに見えた神の動きは近場だと息が出来ぬほどに機敏(きびん)

必死にしがみつく勇者も敢えなく振り落とされてしまった


勇者

「ッッ……!!」


地上にはなんとか着地し、神の次の攻撃に備える


神は少し(とおざ)かった後、勇者のいる方向へ勢いをつけて突進を仕掛けてきた


『グゴォォォッッ!!』


勇者は神の突進を紙一重で左右のどちらかにかわすも

神が通った後に遅れてやってきた強い突風に当てられ、息が詰まってしまう


勇者

「くっ…ふっ…!?」


吹き飛ばされた勇者はなんとか地上に着地し、神の方を見て再び剣を構え、飛び上がる


『ふん』


勇者

「!?」


飛び上がった勇者に

神の尻尾が勢いよく振り下ろされ

それに当たった勇者は地面へ激しく激突


数回跳ね上がりながら体勢を立ててなんとか着地するも、そこへ追い討ちの如く尻尾が振り下ろされ、押しつぶされるような形になる


勇者

「ぐごがッッ……!?」


勇者はかろうじて剣で尻尾を押さえ、圧力に耐えていた


勇者

「くっ…ぐっ…!!」


神が圧力をさらに強くする


勇者

「ぬぎぎぎぎっっっ!!」


目は充血し、

歯を目一杯食いしばりながら

なんとか押し返そうとしている


勇者

「「ひぃっ、ひぃっ、んぐぐぐぐ…ッッッ!!!」」


ポタポタと鼻血を垂らしながら必死に踏ん張る勇者


『フンッ』


勇者

「うぃッッっ!?」


神は自身の身体を波立たせ、その反動で勇者は

鞭のように全身を打たれて遠くまで吹き飛び、途中でバウンドしたあと壁に激しく激突


その衝撃で壁には円形(えんけい)のヒビが入り

勇者はその中央で逆さまの状態になりながら

血を吐いて、そのままズルッと地上へ落ち

ボロ雑巾のように倒れる


遠くで神がそれを静観していると

勇者は「ハァハァ」と息を切らしながら這い上がり

まっすぐ神の方を睨みつけた


『まだ動けるのか、流石神の子だ

しかし今のお前は我々にとってもはや邪魔者以外の何者でもない、大人しく黄泉(よみ)へ行け』


神はそう言うと自身の尻尾を後ろに下げ、先端を鋭く尖らせるとトドメとばかりに勇者の方へ勢いよく突き出す


勇者

「ッ…!?」


尻尾に当たった勇者は背後の壁に激しく激突


神の尻尾は勇者の左目を深く突き刺し

勇者は激痛に耐えながら必死に尻尾を掴み引き抜こうともがいていた


勇者

「ぐぎぎぎ……!!」


『はよう、死ね』


グリグリと目を(えぐ)った後

尻尾は一旦勇者の眼球から離れ、神は視界の外へと消える


『片目では私の姿は捉えられまい』


勇者

「ハァハァ…!!」


勇者は手のひらで左目を押さえつけ

必死に神の方を向こうとする

しかし、片目の視界は思った以上に狭く

勇者は体ごと捻らないと神の位置を特定できなかった


神は勇者のすぐ目の前まで接近していて

そのまま突っ込んできた


勇者

「…ぐっ!!」


勇者は間一髪その場から離れて

衝突を避ける


勇者

「くっ…はっ…」


勇者は四つん這いになりながら神との距離を離そうとしている


勇者の体はもはや限界に近づいていた


『しぶといな』


勇者

「ぐぐっ…!!(ダメだ…勝てない…くそっ!!)」


「(情けない話だ…僕は結局誰も救えない

誰も守れない…女王もメルもあのハエの子も…!!)」


「(僕は勇者なのに…どうしたらいいんだ…どうしたらッッ!!)」


勇者は自身の頭を床に叩きつけ、眉を曲げて歯を強く食いしばる


《愚かな人間を葬れるのなら

私は何だってやろう、それが自ら矛盾した行為であってもだ》


勇者

「(仲間が必死に戦ってるんだ、せめて…!!

僕にも力が、もっと強い力がッッ)」


勇者は仲間達や女王の声を思い出す


《立ち止まるな!!》

《行ってください!!勇者様!!》

《しくじるなよ》


勇者

「(そうだ…終わってはならない…!!

僕は勇者だ……!!戦わないと!!彼らのためにも、戦うんだ!!世界を、民を……救うんだッッ!!)」


勇者の体が更に光り輝く


『ッッ!?』


勇者

「「グウウウッッッ!!!」」


《勇者様、我々にご指示を》


《例えかつては我々の味方であっても

今は敵!!我々の覚悟は十分です》


勇者の頭の中に何度も兵士達の勇者様と呼ぶ声が聞こえてくる


勇者はゆっくりと立ち上がり、神の方を向く


勇者

「「グオアッッッ!!!」」


勇者は白目を剥いたあと、すぐに瞳を取り戻し

体から激しい光を放った


勇者

「「神ッッ!!お前をたおすッッ!!!」」


勇者は剣を構え、神の元まで飛び上がる


『愚かなッッ!!!』


神は勇者を迎え撃ち

尻尾で反撃を試みる


その瞬間、視界から勇者が消え

『!?』とおののく神


勇者

「「ズァッッッ!!」」


勇者が神の体の一部を切り裂く

神に初めて傷をつけた


『バカなッッ!?』


勇者は雄叫びを上げながら

神の体を一つ一つと切り裂いていく


俊敏(しゅんびん)な動きで神の視界を惑わし

地上へ着地したあと、剣を持ち変え三度(みたび)飛び立ち、勝負を決めにいく


下から高速で神の体を切りつけていき

最後に頭上に登り、神の脳天めがけて斬撃を放つ


斬撃は頭から地上にかけて落ちていき

神の胴体を両断する形になった


勇者

「かっ……ハァハァ……」


ピクリとも動かなくなった神を見て

勇者はどこか勝利を確信していた


神の体に一本の線が入り、真っ二つに分断されていく


やがて地面に重く倒れ、大きな振動と音が周囲に鳴り響く


勇者は地上に降り、神の残骸を確認する


勇者

「倒した……のか?」


それはどう見ても死んでるようにしか見えず

勇者は徐々に胸が高鳴っていく


勇者

「勝った…!!神にッッ!!」


勇者は静かに喉の奥で喜びを叫び

しばらく勝利の余韻に浸った


神との戦闘を終え、静まり返った白い空間に

勇者は少し居心地を悪くしながらも

帰る準備を始めた


勇者が壁の方へ体を向けると、その背後から

神の分離した体が起き上がる


二つの体がピタリとくっつくと

切れ目がなくなり、神は元の状態に戻った


神が「ふうっ」と息を吐くと、その漏れた声を聞いた勇者は目を見開きながら、咄嗟に振り返った


勇者

「な、なんで…」


勇者は混乱していた

致命傷だと思いきや神はまったくの無傷だったからだ


『神を甘く見るな、お前たちが想像するよりも

我々はヤワではない』


そう言い放つ神に勇者は瞳を震わせ

ただ目の前の光景に絶句していた


『我が名はカジャ、三大神の1人

かつて人間たちを助け、魔王から世界を救った

…お前たちがか弱かったからだ

弱いものを助ける、それが強きものの定め

そう信じていたから…だがそれも昔の事……』


『人間の命は尊かった

あの頃まではーーー』


神は上を向き、感傷に浸りはじめた


勇者

「(ぼくは…もしかしたら

とんでもない相手と戦ってるのかもしれない…)」


勇者は初めて自身の置かれてる立場を自覚し、その場に崩れ落ちたーーー


外では必死に戦う仲間達がいた

族長は徐々に減り続ける兵力と神の騎士達に翻弄され体力を削られていた

勇者も神との戦いが続いており、もはや虫の息となっていた


勇者

「ハァハァ…足が…もう」


かろうじて立ち尽くす勇者、足はプルプルと震えており体は限界に達していた


『最後だ勇者、お前の冒険もここで終わる』


勇者は力なく歯を食いしばり抵抗の構えをとった


神はお構いなく頭を振り上げ

勇者の方へ勢いよく振り下ろした


勇者は迫り来る神の巨体に目を見開く


ズズゥンと大きな音と地響きが辺りに鳴り響いたーーー


しばらくして体を起こす神、その下には

大きなクレーターができており

その中心に勇者が倒れていた


勇者

「アッ…アッ…」


ヒクッヒクッと体が痙攣を起こしていて

なかなか立つことができない状態

全身もボロボロ


「はぁはぁ」と息を吐きながら半分開いた目で神を見上げる勇者


なんとか体を起き上がらせようと踏ん張るが

「ぐはっ」とむせて胸に血が付着してしまう


勇者

「(吐血した…!?

内臓が潰れたのか!?

今どうなってるんだ?僕の体の中…)」


勇者は血を吐いたことに驚き、そのまま

気力を失い虚な顔をしながら倒れ、再び神を見上げた


視界が徐々にぼやけていく


『さらばだ』


神は尻尾を尖らせ、勇者の体目掛けて鋭く振り下ろした


勇者

「(ごめん…勝てなかった…)」


勇者は力なく諦めの笑みを浮かべ

頬からは涙が滲み出た


その瞬間、神の動きがピタリと止まり

神はしばらく勇者を眺めると静かに呟き始めたーーー


『そこまでこの世界を救いたいと言うのか……』


神は攻撃の手をやめて、そっと勇者の元から離れた


勇者はその光景を見て頭に「?」を浮かべる


『ニタ…お前の勝ちのようだ』


神は直立したような形になって

天井を見上げながら、ふとそう呟くと

再び勇者の方を向き、淡々と語り始めた


『勇者よ、お前に猶予を与える

よく考えるんだ

自分の行いが正か誤りかをな』


勇者はそれを聞いて狐につままれた表情をする


『伝えたぞ、"ニタ"

あとは好きにしろ

……勇者よ、黄泉で待っている』


そう言い残すと神は天井を向き

静かに上へと登っていったーーー



統一戦争-第二の神-(完)

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