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第25話「統一戦争-黒龍襲来-」

ーーー目を開けるとそこは薄い暗闇だった


勇者

「……」


薄布一枚被せられた体を起こして周囲を見渡すと

そこは決闘前に休憩所として利用した場所だった


勇者

「……僕は負けたのか」


勇者はひどく落胆した


族長との戦いに敗れた事で

交渉が破却になり

勇者は手ぶらで帰ることになってしまったからだ


勇者は布団をギュッと握りしめて

静かに決闘の顛末を振り返るーーー


勇者

「くっ……うぅっ……」


勇者の(まぶた)からはポロポロと涙が溢れ

布を濡らした


勇者

「(女王……ごめん……)」


勇者がしばらく自身の不甲斐なさに項垂れていると外から聞き覚えのある声が聞こえてきた


「オイ」


勇者

「……!」


勇者が顔を上げると

そこには族長の姿があった


族長

「出ろ」


勇者

「……?」


目を赤くした勇者は

困惑した表情を浮かべながら

とりあえず族長の言葉に従い外に出たーーー


勇者

「承諾?!」


勇者は驚いた顔で族長を見ていた


勇者

「なぜだ……?負けたのに……」


族長はその問いに「フン」と返して

経緯を説明し始めた


族長

「お前が使ったあの光り輝く力……

アレが今回の決定を作った

まともに食らえば俺の命はなかった

……お前の力は本物だ」


勇者

「(光?神の力のことか……)」


族長

「その力に免じて、今回限り

お前に我々の力を貸そうという次第だ」


勇者は再び驚いた顔をする


族長

「クロメ島へようこそ、勇者殿」


勇者は族長に認められ、協力要請の承諾が成立した


クロメ族は準備のため勇者はしばらく島に滞在する事になった


勇者

「(船を数隻出して、向こうへ渡る……か

できれば急ぎたいがワガママは言ってられんな)」


海辺に立ち、静かに遠くを眺める勇者


勇者

「(いざとなれば学者が文を飛ばしてくれるだろうし、しばらくは彼らの厄介になろう……)」


勇者は族長や島の案内に沿って、決戦の準備に取り掛かった


ーーー


族長と同行し、ある場所まで向かう勇者


道の途中には大きな墓石があるのが見え、勇者の視線が一瞬そっちに流れるも、すぐにまた族長の方へ向く


族長

「人間とはくだらん生き物だな」


勇者

「……」


族長と勇者は人間について語りながら歩いていた


族長

「戦場では自らは出撃せず全て下の兵力に任せ自身は高みの見物か、お前たちの主君はとんだ腑抜けのようだ」


勇者

「……っ!」


勇者はそれを聞いてムッとなり、即座に反論する


勇者

「女王は自ら戦場に赴き、その命を絶ったぞ…!」


族長

「そうか、ならばそいつは立派だ」


族長は女王の行動を即肯定した


勇者

「だ、だから、女王を侮辱するのは…

やめろ、…?」


女王が侮辱されたと思い込んでいた勇者は

女王が認められたことで頭がこんがらがった


族長

「着いたぞ」


そうこうしてるうちに目的地に到着した二人


族長は勇者を適当な場所に座らせ

自身も勇者と向かい合わせに座りこんだ


族長

「もうすぐ他の連中も集まる

しばらくはここで暖を取れ」


勇者

「……」


勇者は落ち着きなく辺りを見渡す


そこは霧が濃く、高い木々に囲まれた場所で

勇者はどこか不思議な気持ちに呑まれていた


族長

「初めに断っておくが、この島では

如何なる弱みを見せることは許さん

お前も強者と認められた以上、情けない姿は晒すな、さっきみたいにグスグスする事もな」


勇者はそれに対しピクッと反応する


勇者

「し、仕方ないだろう

悲しいと自然に溢れてくるんだ……」


族長

「ならせめてこの島では泣くな

強者の威厳に関わる問題だ

お前の主君は人前でグスグスしていたのか?」


勇者

「!!」


族長

「この島にいる以上は

この島のしきたりに従ってもらう、いいな?」


勇者は女王の顔を思い出し、静かに頷いた


しばらくすると他のクロメ族がゾロゾロと

二人の前に姿を表し、族長は一旦話を中断して周りに一声かけた


族長

「みんな集まったな

これから準備が済むまで勇者に島案内をする

部族の風習、伝統を頭に焼き付けてもらうのだ

最大限オモテナシしろ」


勇者

「い、いや僕はそんなものは別に……」


族長

「黙れ、俺が決めた事だ

島の決定権は俺にあるのだからな」


族長

「お前たち、ご馳走を持って来い!」


そう言って族長はパンパンと手を叩き

クロメ族たちに指示を出した


クロメ族が運び込んできたのは

黒い球体状の果実のようなもの


それを勇者の前に起き、早々とその場から離れるクロメ族たち


勇者

「これは……?」


族長

「ご馳走だ、遠慮するな」


族長はそう言ってパカっと果実の上半分を割り

中の物をスプーンですくって吸い始める


周りのクロメ族たちも同じように食べ始め

勇者も見よう見まねで果実の蓋をパカっと開けた


スプーンですくってみるとドロリとした黒いゼリー状のような物が姿を表し、思わず勇者は固唾を飲む


勇者

「うぇぇ……」


族長はそれを見て「どうした?」と何食わぬ顔で訪ねてくる


勇者は「い、いやぁ……」と

一言返して誤魔化し、その黒い物をしばらく見つめた後、意を決してズズッと喉奥に流し込んだ


勇者

「ん"っっ!?」


その瞬間勇者は青白い顔をしながら

ダーッと滝のようにソレを吐き出す


族長

「おい、汚い」


むせる勇者に冷たい反応を示す族長


勇者

「ごほっ…げほっ…!!(に、苦すぎるッッ人間の食べ物じゃない……!!)」


勇者はあまりの苦さに悶絶し

その場に這うようにもがいた


族長

「人間とは軟弱だな」


勇者

「もっと、う、美味いものはないか…?」


族長

「人間とは遠慮を知らんのだな」


勇者

「いや、そう言うわけじゃ…うっ…なくて…」


勇者は段々と気分が悪くなり、発熱のような症状を引き起こすようになった


勇者

「(なんだ、やばい……これは……!

助けてくれ……)」


族長

「大袈裟だな、こいつはクロメ島名物

ドロクロ玉だ、ミネラル・タンパク・ビタミンなどの栄養素が豊富に詰まっている、戦いに生きる者なら誰もが食す必需品だ」


勇者

「ほ、豊富すぎる……」


勇者はあまりの苦さに顔をしかめ

ついに嘔吐までしてしまう


族長

「おい、こいつを誰か運んでやれ」


族長は呆れた声で周りに助けを示唆しクロメ族たちが勇者の側まで寄り、肩を持ち上げる


しかし、勇者はすでに意識がほとんどなく

そのまま眠るように失神してしまったーーー


しばらくして目を覚ますと

そこはとある建物の中だった


外からはドンチャンと騒がしい音がしており

勇者の目線の先には鍋を茹でる女性らしき後ろ姿があった


勇者

「……?ここは……」


勇者がそう発すると、女性は鍋をかき分けるのをやめ勇者の方をゆっくりと振り返った


女性

「気がつきましたか?」


勇者

「ん…? あ、あぁ…えと…君は?」


勇者は状況に混乱しつつ

女性に名を尋ねた


女性

「私はメル、この島の戦士

でも今は料理係……あなたに美味いものを、と

族長からのご命令で」


勇者は上体を静かに起こし

ふわふわと香る匂いに鼻を近づける


勇者

「う…?!ウマそうな匂い……!」


勇者はその時ハッとする

窓を覗くと外が暗いのだ


勇者

「今どれくらい経ったんだ?」


勇者が恐る恐る聞いてみると

女性は躊躇せずに答える


女性

「もう午後9時半ごろですね

よく眠っておられましたよ、たまにうなされたりもしてましたが、今は宴の時間です」


勇者はそれを聞いて深く落胆する


勇者

「なんという事だ…この危機的状況で

呑気に寝ていたのか?」


神は?文はどうなった?と

現状の心配をする勇者


勇者

「何も変化がないといいんだが……」


過ぎたことはもう変えられない

勇者は後悔を呑み込み、ただ祈るしかなかった


メル

「お待ち遠さま」


しばらく経過し、メルが鍋を持って

勇者の前にある机の上に置いた


メル

「あまり自信はないけれど

どうぞお召し上がりください」


勇者

「う、うむ!」


勇者はスプーンを掴み鍋の中にそっとつけ

具材とスープをすくい上げた


勇者

「おぉ……久々のまともな食事……」


勇者はそれを口の中に放り込んだ

次の瞬間勇者は口の中に広がる暴力的な味に悶絶した


勇者

「う、美味い……!」


勇者はこの上ない旨みに賛美し

ガツガツと口の中に放り込み

涙を滲ませた


勇者

「こんなに美味いのは久しぶりだ……!!」


メルはそれを見て「クスッ」と優しく微笑む


勇者はしばらくメルと会話しながら食事を楽しんだ


メル

「ーーークリュウ様は私にとって、憧れの……」


勇者

「あいつは島の人間をなんとも思ってない!

使い捨てだと思ってるんだ、島の伝統に口出しするつもりはないが、僕はどうしても許せなくて人の命を…あんな風に捉えるなんて……!」


メル

「確かに……極端かもしれませんね」


勇者

「彼らだってそうだ、本当は辛いはずだ

大事な家族を失って……悲しくない奴がいるはずがない!彼だってまだ生きたかったはずだ!」


「だって……笑ってたんだ、彼は僕の腕の中で……」


「クソッ……!」


勇者は顔を手で覆い、項垂れた様子を見せた


メル

「確かにそうなのかもしれません

家族を失うのは悲しい……私にはまだ無い感情ですが、きっと私も子を持てばそれが分かるようになるのでしょう……」


勇者はそれを聞いて居た堪れない

複雑な気持ちになった


勇者

「すまない、君の憧れの人を

こんな風に言ってしまって……、でも」


メル

「いえ、いいのです

なんとなく、私にもあなたの気持ちはわかるような気がして……でも私は彼のことを愛した

愛してしまったんです」


メル

「強い女は、強い男と結ばれる

それがこの島の古くからの習わし」


勇者が「弱いものは?」と聞くと

メルは少し黙り込み、静かな口調で

「弱いものは誰とも結ばれません

この島で弱いものに訪れるのは死のみです」

と返し、それを聞いた勇者はゴクッと無表情で具材を飲み込んだ


メル

「私はとても恵まれた女です

族長……クリュウ様と将来、夫婦(めおと)となる事を

約束されたのだから」


メルは自身をクロメ族の女の中では

最強と名高く、村では族長の花嫁候補として期待されている事などを勇者に語った


メル

「強いものが生き、弱いものが死んでいく……

いつかこの考えがなくなる時代がくれば

いいのかもしれませんね、皆が平等になれるように」


勇者

「……」


勇者は複雑な感情を抱いたが

どこか純粋とも取れるメルの言葉に

納得とはまた違った不思議な感覚に囚われたーーー


外へ出ると火が焚いてあり、クロメ族がそれを囲うように円となって座っていてその中心には族長がいた


勇者も宴に参加してクロメ族たちとしばらく言葉を交わした


族長

「ーーーどう聞いてもカスにしか思えんな

お前はなぜ人間を助けたいんだ?」


族長に話題を振られ勇者は反応に困った様子を見せる


勇者

「なぜ……?……なんでだろう、理由なんて考えたこともないな……」


勇者は返答に少し悩み、考えを絞り込んだ


勇者

「そうだな、やっぱり一番は失いたくないから……かもしれない」


族長は首を傾げる


勇者

「厄災からせっかく助けた命だ

こんな形で今更無駄にしたくは無い

今はまだみんな現状に苦しんでいるし心の無い事を言う人もいる……それでも僕は彼らを救いたい……」


口籠もりつつ、そう語る勇者の話を

族長はあまり関心を持たずに聞いていた

宴が終わってクロメ族たちはそれぞれの住処に戻り、勇者も明日に備えて眠ることにした


次の朝、勇者は族長と共にある祠を訪れ

祈り石に祈りを捧げていた


勇者

「……」


静かに目を瞑る勇者を

光が覆う


『よぉ来たのぉ…世界を救う者よ…』


勇者は意識の中で元の場所とは違う

異空間のような場所に立っていた


勇者の前方にある突起した岩の上に老人が座っている


『我が名はキサラ・エグロニス

力が欲しいんじゃろ…受け取るがいい

我々の力を冒険に役立ててくれ』


勇者の体を光が包み込む


()の石、確かに強化した

鷹の目効果も見える範囲が広まったじゃろう

健闘を祈っておるぞ』


勇者の視界がボヤァっと白く歪む


族長が「もう済んだか?」と声をかけると

勇者は「うむ」と一言返し、二人は祠を後にしたーーー


崖からふもとへ降りると傷だらけのクロメ族が勇者達の前に現れ、その場に崩れ落ちるように倒れた


勇者

「な……?!」


族長

「?」


勇者はすぐさまクロメ族の方へかけよると

突如地響きが鳴り、遠くから大きなうめき声が聞こえてきたーーー


ーーー


「「グォォォオオオオッッ!!!」」


大きな影が島を覆い、クロメ族達を次々と襲う


勇者

「な、なんだ……!?」


高台の上からそれを見て困惑する勇者


「グゥゥ」と唸りを上げるそれは

黒くて太い胴体に長く伸びた細い首

目は赤く光り、背中には大きな翼が生えていて

それをバサバサと鳴らしながら四足の足で地上に降りたち、長い尻尾を大きくしならせる


その姿はまるで西洋に伝わる龍のよう


族長

「新種のマモノか?」


勇者

「くっ!!」


勇者は嫌な予感がしてすぐさま剣を抜き、戦闘体制へと入った


黒い龍に立ち向かう数多(あまた)のクロメ族達

しかし相手には彼らの攻撃が全く通用しておらず

逆に返り討ちにされてしまう


更に龍はクロメ族達目掛けて大きく口を開き、そこから青い光を徐々に放出していく


勇者はそれを見て何かを察知し

クロメ族達に対し「行くな!!」と叫ぶ


だが時すでに遅く龍の放った青い光線は

クロメ族達を直撃し、一切の猶予も与えず彼らを真っ黒な灰にした


勇者

「くそぉー…!!」


族長

「オイッ!!」


勇者は我慢ができず高台から飛び降り、雷の力を解放して龍の方へと真っ直ぐ向かった


族長も勇者の後を追うように高台から飛び降りた


龍は勇者の存在に気づかず次の獲物を探すように辺りを物色していた


勇者は龍の背中付近で玉のような光となって

黒龍の体をなぞりながら頭の方へ移動し、その脳天に剣を叩きつける


勇者

「ハァァッッ!!」


龍の頭に火花が散るも、全く効いていない様子で龍は勇者を睨みつける


勇者

「なんだこいつ!?不死身か?!」


勇者が驚いていると龍は口を大きく開けて

勇者を飲み込もうとする


勇者

「ッッ!!」


勇者は黒龍の頭を蹴ってそのまま上空へ逃げて

噛みつきを回避するも

龍は勇者の方をすかさず見上げて

口を大きく開き、先程の青い光線を打つ準備に入る


勇者

「なっ……!!」


空中では自由が効かず、勇者は目の前が青色に包まれるのを黙って眺めるしかなかった


黒龍の光線が発射され、なす術なく

直撃する瞬間、族長に背中を掴まれて

辛くもその場から助けだされる


空中を蹴って勇者を抱えながらゆっくりと地上へ降りる族長


勇者は無造作に地面へ投げられ、顔を起こした

目線の先には族長が静かに黒龍を見上げているところだった


勇者

「た、助けられた…!?(この島で助けられたものは確か……自決!!)」


勇者は思わず叫ぶ


「僕は自害しないぞ!!」


しかしそう叫ぶ勇者とは裏腹に

族長は真っ直ぐと上を見上げながら一言

「バカ」と返す


族長

「戦力が減る…それよりも見てみろ勇者、奴の体表」


そう言われ空を見上げると

黒龍の周りには光を帯びたモヤがあるのを確認する


族長

「あいつの体の周りにあるやつ

お前の力と似てないか?」


そう言われ勇者は歯を擦り合わせて

「まさか!!」と鋭い顔で黒龍を睨んだ


勇者達から遠くない地点で

静かに黒龍の動きを観察するメル


鍋から離れ、武器を手に取り外へと歩き出す


勇者

「ハァァァッッッッ!!!」


勇者が黒龍の皮膚に剣を叩きつける

だが、剣は皮膚にあたった瞬間その衝撃に耐えきれず勇者の手の中で小刻みに震えた


族長

「フンッ!!」


族長も応戦し、黒龍に短剣を突き刺すが

あまりいい効果は得られず


むしろ余計に暴れ狂い、二人は一旦その場から離れ、高台に避難して早々に手詰まり状態となり黒龍を静かに見下ろした


勇者

「くそっ……!!やはりダメか……」


族長

「しぶとい奴だ」


今まで数々の強敵と渡り合った勇者でも

今回ばかりは流石にまずいと感じている


勇者

「やはり、本物の力は強大だ

あの時も一方的だった……!!」


神の力でも全く手応えを感じず

勇者は神との戦いをフラッシュバックさせていた


勇者

「(あれが本当に神の力なら、この戦いに勝機は……

いや、僕は神を倒さないといけない!!

こんな所で終わってはいけない!何かあるはずだ……何か……!!)」


勇者は身震いをしながら剣を強く握りしめたーーー


黒龍を見上げて構えるクロメ族達と

その後ろから声をかける女性


メル

「私も戦います」


クロメ族

「!? メル様!?」


メルは剣を構え、しばらく考えた後

黒龍の元へ飛び立った


高台にいる勇者がふと下を見ると

メルの姿を見つけて血相を変える


勇者

「メル!? 何をする気だ!?」


黒龍

「グゥゥ……?」


メル

天翔(てんしょう)ッッ!!」


メルは黒龍の間合いに入ると

剣を素早く振って、反撃されれば

すぐに回避するを繰り返した


メル

「ぐっっ……!!」


黒龍

「ゴアアッ!!」


しかし、黒龍も容赦はせず

メルはあっという間に敵の手にかかった


勇者

「!!」


勇者が歯を食いしばって前のめりに見つめるなか

メルは龍の口に下半身を挟まれ

首を大きく揺らされた衝撃でブチッと

胴だけがクルクルと回転しながら林の中へと消えていった


勇者

「メルーーーッッ!!」


(うつむ)き、無力感に襲われる勇者


族長

「ふん、所詮こんなものか」


勇者

「!!」


その一言で勇者は怒りの視線を族長に向ける


勇者

「お前は……お前はぁ……ッッ!!」


その時大きな揺れが起き、勇者の足元がふらつく


黒龍

「「グォォォオオオオッッ」」


視線を向けると黒龍が翼を広げて勇者達のいる高台に登ってきていた


勇者

「くっ……!!」


勇者は剣を構えて他のクロメ族達に紛れて

黒龍の元へ走った


クロメ族達が薙ぎ倒されていく中、遅れて勇者が斬りかかりにいく


黒龍

「グォォォオオオオ!!」


勇者

「くっ……このっ……よくもっ…!!」


メルを殺された怒りから我武者羅(がむしゃら)に剣を振るう勇者だが、黒龍には全く通じず逆に反撃を喰らいそうになり、すんでのところで族長に助け出される


勇者

「!?」


地上に降りる直前に深傷(ふかで)の兵士が視界に入る


族長

「闇雲に攻撃してもあいつには勝てん、学習せんのか」


呆れて物言う族長に対し勇者は静かな声で訴える


勇者

「クリュウ…兵士が倒れてる…!!」


だが族長は淡白な口調で返す


族長

「放っておけ、足手まといはいらん」


それを聞いた勇者は拳を強く握りしめ族長の頬にそれを勢いよくぶつけた


族長

「ッッ!!??」


殴られた族長は遠くの林まで吹き飛び

木々を折りながら土飛沫の中へ消えた


勇者は息を吐いた後、兵士の元へ素早く向かった


勇者

「おい!しっかりしろ!」


勇者は倒れた兵士を抱き起こし、大きく声を上げた


兵士

「く…うっ…」


勇者

「まだ動けるな!?」


しかし兵士は勇者の呼びかけには応えず

持っている剣で自身の腹を突き刺そうとした


勇者

「ッッ!!」


とっさに兵士の手を掴み、自決を制止する勇者


兵士

「ッッ!!……?」


勇者

「やめろ……!」


止められてもなお、力を入れる兵士の手を

勇者は必死に抑える


勇者

「それが君達の意思なのか!?」


周囲に勇者の叫びが響く


兵士

「……」


兵士はよく分からないと言う顔で

勇者の方を見ているとその背後から黒龍の首が迫ってきているのを確認した


勇者

「うあっ…!?」


兵士は勇者を押しのけ立ち上がり

タパタパと前へ走って行き

そのまま龍に喰われていった


勇者

「くっ…!!なんだよ……!!」


勇者は地面を叩き悔しさを見せた

そこへ族長が戻ってくる


族長

「満足か?」


その問いに勇者は族長の方を見上げて

顔を歪ませた


族長

「何千と前から教育され常習化された事だ

今更流れを変えることはできん

奴らにお前の声は届かん、諦めろ」


勇者はそれを聞いて歯を食いしばり

静かに立ち上がる


そこへ追い討ちの如く龍の尻尾が

二人を襲う


族長/勇者

「!?」


鞭のように激しく叩きつけられた二人は

壁を突き破り洞の中へと追いやられる


勇者

「ぐぅっ……!!」


族長

「ッ……!!」


二人はなんとか踏ん張り、体制を崩さずに着地するがダメージが大きく、グラグラとよろけてしまう


勇者

「がっ……はぁはぁ……」


洞の外では黒龍のけたたましい叫び声が聞こえてくる


勇者

「く、このままではまずい…!援軍を……!!」


族長

「無駄だ、誰も助けには来ない

何度も言っているだろう

弱いものは捨てられる

それが島の……」


傷だらけの二人に黒龍は赤い目を光らせる

その時複数の足音が洞の中に響き渡り

二人の前を背にクロメ族達が集まった


勇者/族長

「!?」


クロメ族達は驚く勇者達には気にも止めず

黒龍に向けて武器を構え一斉に飛びかかっていった


勇者

「誰も見捨ててなんかいないぞ……クリュウ…」


族長

「どうなっている……」


二人はしばし驚きの眼差しでその光景を見上げていた


族長

「島のしきたりに背くなど

これが反旗(はんき)(ひるがえ)すというやつか……」


勇者

「なんでそんな考え方になる!?」


族長の言葉に反応する勇者


勇者

「どう見ても助けに来たようにしか見えないだろう、みんなしきたりなんかより、それぞれの意思があったんだ、これが彼らの本音だ!」


唖然と見上げる族長の瞳には戦い、食われるクロメ族達の姿が映る


「グォオアアアッッ!!」


残りも食い尽くした黒龍が再び二人の前に立ち塞がる


勇者が構えると族長が何かに気づき、ふと指をさして勇者に伝える


族長

「勇者、見てみろ、奴の(ひたい)を」


勇者

「!!、あれは……」


勇者は鷹の目を解放して龍の額を見た

するとそこにはひび割れを介してガラス玉のような異物が露出していた


族長

「さっきの衝撃で、弱点が露出したのだろう」


勇者

「……」


族長

「俺が囮になる

さっきお前に殴られて体力がほとんど残ってないからな」


腫れた頬を触りながらそう訴える族長


勇者

「す、すまん……」


族長

「チャンスは一度きりだ、正確に決めるぞ

死んでいったあいつらのためにも」


勇者

「!!」


族長の言葉に意外な顔をする勇者

しかしすぐに切り替えて返事を返す


勇者

「あ、あぁ…!」


二人は構え、族長がまず先陣を切って走り、黒龍の元へ高く飛び上がる


勇者はその後を追うように走り、族長の戦いを見ながら攻撃の隙を伺う


族長

「ハァ!!フンッ!!」


族長は黒龍の攻撃をかろうじて回避し

善戦するも前足で壁際に押さえつけられ

身動きが取れなくなってしまう


その近くで勇者は壁を蹴って黒龍より高く飛び上がり、その額へ視線を落とす


族長

「勇者ァァ!!!」


勇者

「ハァァァァッッ!!!」


勇者は額へ向けて真っ直ぐ降下しながら

剣を振り下ろす


黒龍

「ゴグァッッ…?!」


勇者の剣は黒龍の額へ叩きつけられ

黒龍は悲鳴を上げながらその場に崩れ落ちていく


大きな振動と土飛沫が島を覆ったーーーー


数時間が経過して、騒ぎも落ち着いた頃

クロメ族たちは後片付けと武器の回収などを行なっていた


勇者

「ふぅ」


崖下の溝で剣を投げ捨ててしゃがみ込む勇者

目は少々虚ろになっている


しばらくすると白装束がそばにやってきて

準備の報告をしにくる


白装束

「勇者様、準備がもうすぐ済みそうです

いつでもお声がけください」


勇者

「あ、うむ…」


勇者は立ち上がり、海岸へと向かおうと

ふと見上げると崖の上に族長が立っているのが見えた


族長

「……」


勇者は族長の横に並ぶように立ち

なんとなく遠くを見つめた


崖下ではクロメ族達が散っていった兵士達の遺体を回収して弔う姿があった


しばらくすると族長がふと、(ささや)くように口を開く


族長

「奴らはもう、俺の管理下にない」


勇者はそれを聞いてキョトンとした顔をする


族長

「島のしきたりにただ従うのみだったが

お前が干渉した事で、こいつらの意識はバラけた

もはや俺一人での統制は難しい」


勇者

「?」


族長

「奴らにはお前が必要だ」


族長はそっと勇者の方を見る


族長

「勇者よ

今改めてお前に協力する事をここに誓おう」


そう言って手を差し伸べる族長


勇者

「(よくわからんが……)」


勇者は困惑しつつも族長の手をそっと掴む


勇者

「よろしく頼む」


二人は握手を交わし、互いに協定を結んだ

そして勇者はしばらく族長と会話したのち

船が停泊してある海岸へと向かうのであったーーー



統一戦争-黒龍襲来-(完)

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