第12話「五大厄災-伝染の魔神-III」
光弾を浴びて、タワーから落下し
頭からまっすぐ落ちていく勇者
勇者
「んぐぐ…」
バティス
『…!』
その時、何かを察知するバティス
天の声
『勇者よ、集中するのです』
勇者
「ぐぐぐ…!!」
勇者は強く目を瞑りながら
ふとアレクの言葉を思い出す
アレクトロム
『祈りの前に少しだけおさらいをしようか』
『石が呼応するとな、能力が上がるだけじゃなく
新たな力が目覚めることがある』
勇者の体が光り始める。
アレクトロム
『これが聖者の石の真骨頂ーーー』
向きを変えてタワーの側面にゆっくりと着地し、目を開ける勇者。目線の先には曇り空が広がる。
タワーから降りてきて、勇者目掛けて蹴りを放つバティス
勇者はバティスの蹴りを剣で止める
バティス
『ッッ!!』
剣が光り輝き、光が上に向かって長く伸びていく。
バティスは勇者から離れ、バク転して遠くへ着地。勇者の様子を伺う。
刀身の長さを光で補強された剣を構え、
バティスを見上げる勇者
互いに向き合い、ゆっくりと近づいて
徐々に速度を上げ互いに距離を縮めていく
勇者/バティス
『「ッッ!!」』
バティスの蹴りと勇者の振るった剣が交差
反動で小さな衝撃波が発生、
お互い、弾くように蹴りと剣を何度もぶつける。
リーチの長い剣がバティスに何度も振り下ろされる
バティスはそれを回避し、勇者へ積極的に攻撃を仕掛けていく。
タワーの強度が2人の戦いで徐々に弱っていき、
今にも砕けそうな状態になる
勇者
「ハァッッ!!」
バティス
『フッ…!!』
両者一歩も譲らず激しく競り合い、2人の間に火花が散る
互いに弾かれ、距離を離す2人。
バティスは離される時に光弾を勇者に向かって放つが、勇者はそれを剣で弾き飛ばす。
バティスは構わず4本の腕を向けて
光弾を何発も放つ
勇者はそれらを回避し、波をえがくようにバティスへ接近、剣を振るう
バティスは腕でそれをガードして後方へ下がる。
着地したバティスは勇者を睨みつけると
4本の腕を地につけ、バネのように弾いて勇者の元まで超速度で接近、勇者に蹴りを放つ。
勇者はそれをジャンプでかわして
長い剣をバティス目掛けて振り下ろす
バティス
『!!』
勇者の振るった剣から光の斬撃が放たれ
バティスを飲み込み、そのままタワーに直撃。
タワーは衝撃に耐えきれず
とうとう崩壊する。
ー
崩れ落ちるタワーの中で交戦を続ける2人
細かいがれきが無数に降り注ぐ。
バティス
『フンッ…!!ハァッッ!!』
勇者
「きっっ!?くっっ!!」
大きながれきを足場として使い、相手の出方を確認しながら戦う両者
バティスは戦闘中、がれきを尻尾で掴み、目眩しに勇者へ放り投げる
勇者
「くっっ!!」
勇者は剣でそれを破壊し、直後に飛んできたバティスの蹴りも受け止める
勇者はこの時、恐怖していた
勇者
「(恐ろしいやつだ…これだけ能力を上げても
動きについていくのがやっとだ…
まだこいつの方が力は遥かに上ということか…!)」
一進一退の攻防、勇者は僅かに押されてることを自覚しはじめるが、なんとか踏ん張る。
勇者
「(ここで終われば、もう先はない…!!
倒すか…滅ぶか…それしかないんだ!!)」
勇者はこの戦いがラストチャンスだと
なんとなく肌で感じ取り、必死に抵抗する。
タワーは崩壊し、緑色のエネルギーが露出している
勇者
「(こいつが、伝染を運んでるんだな…
もう世界に蔓延してるんだ…!急がないと…!!)」
その時、天から声が聞こえてくる
天の声
『勇者よ…力を使ってあげてください』
勇者
「(もう十分、使っている!!)」
天の声
『いいえ、あなたはまだ
その力を十分には使いこなせていません
力を信頼してあげてください』
勇者
「(くっ…!わからない…!どうしたらいいんだ…!!)」
天の声
『信じるのです…願うのではない
ただ信じ、石達に身を委ねてください』
勇者
「(信じる…)」
勇者は全身の力を抜いて
ただ石を信じることだけに集中する
バティスは何かを感じ取り、攻撃を中断
勇者に三つの石が反応する
勇者はバティスに剣を向ける
力の石が反応する
バティスに剣を振り下ろす
守りの石が反応する
バティスはそれを回避しつつも勇者の変化に
目が釘付けになる
癒しの石が反応する
バティス
『これは…』
三つの石の中で、力の石が最も強く反応し、
勇者の見た目が変化
服は赤く、そしてマントは黒くなる。
バティス
『…それが本当のお前なのか』
勇者は自分に何が起きたのかわからず
ただ、全身を見た後、剣を握りしめてバティスの方を見る
天の声
『石の力があなたの意思と繋がりました
さぁ、思いのままに剣を振るってください
伝染の魔神…バティスを打ち破るのです!』
勇者はバティスに剣を振り下ろす
ー
勇者
「あたたかい…」
バティスは勇者の剣を腕で受け止め、
その場をしのいだ
バティス
『所詮…このてい…!?』
勇者が僅かながらバティスを力で押しはじめ、
バティスはその事実に驚愕する
勇者
「ハァァァァァッッ」
バティスは少し驚いたものの
まだ余裕はあった
勇者の腕がプルプルと震える
勇者
「ぐっ…!ふっ…!!」
バティス
『(限界が迫ってるようだな)』
能力が上がったとはいえ、長い戦闘もあり
勇者の体力は既に限界を迎えていた
勇者
「(まだダメだ…!耐えてくれ!!)」
勇者は歯を食いしばる
勇者
「(壊れてしまってもいい…!全力を今…!!)」
勇者は全ての力をその剣に懸ける
勇者
「ハァアアアアッッ!!!!」
バティスは勇者の全力に押され、歯を食いしばる
バティス
『(こいつが…勇者の…!!)』
バティスは光に呑まれ、周辺には大きな音と地響きが鳴り響くーーー
ーーー
ーーしばらくして
勇者が目を開けるとそこにはバティスの姿はなく
振り下ろした剣が寂しく燃えていた
勇者
「……?」
勇者は辺りを見渡したあと
状況を確認する。
勇者
「…倒した?やったのか…??」
その瞬間ふらっと、めまいがしてその場にへたり込む勇者。
勇者は力を出し切り、体がガタガタになっていた。
勇者
「ふぅ…」
浮遊するがれきにしばらく留まり、緑色のエネルギーを見つめる勇者
勇者
「(あいつを倒したってことは…こいつもいずれは
消滅することになるんだろうか…?)」
エネルギーを見つめながら勇者は民のことを気にかけていた
勇者
「(…随分と時間をかけてしまったな…どのくらい
犠牲を出してしまったのだろうか…どうか無事でいて欲しい…)」
ヨロヨロと立ち上がる勇者の背後で何か煙のようなものがゆらめく
『なるほどな…』
勇者
「…!?」
その声に驚き、後ろを振り返る勇者
そこには倒したはずの厄災、バティスがいた。
ーーー
バティス
『勇者の力…、このまま放っておけば驚異になるかもしれん…ここで完全に消しておかねばな』
バティスはそう言うと、体を震わせて
何かエネルギーを貯めていく
体表には赤い線の模様が浮かび上がり
背中には大きく光る輪っかが現れる。
勇者
「クソッ!!」
勇者は再び剣を構えようとする。
しかし、先程の戦闘で体力をほとんど使ってしまい、力が出せない
勇者
「ぐっ…!!」
バティスが指をクイッと上に向けた
その瞬間、勇者は遥か上空へと吹き飛ばされ、
手から剣が離れる。
バティスは4本の腕を勇者に向けて
特大の光弾を作り出す
勇者
「くっ…!うっ…!」
勇者は必死に手を伸ばし、剣を掴もうともがく
バティスは光弾を撃つ動作に入る
ようやく剣を手に取り、剣を下に向ける勇者
ある地点で上昇が止まり、徐々に降下していく
勇者
「ぐぐぐっっ…!!!」
全身を火に包まれ、隕石のようになって
真っ直ぐバティスに向かって落ちていく勇者
剣先はバティスを捉えている。
バティス
『…!!』
光弾を発射される前に勇者はバティスと接触、
4本の腕を遮り、体に剣を突き刺して
そのまま2人で落下していき、ビリビリと激しく光ってるエネルギーに激突。
勇者は衝撃でバティスから離れ
地上へと落下していく。
バティスは致命傷を負い、ついにその最後を迎える。
バティス
『この俺が?…そうか』
バティスはそうつぶやくと
静かに消滅していった。
ーーー
勇者は地上へ激突し、数回バウンドしたあと
糸が切れた人形のようにぐったりと横たわる
勇者
「はぁ…はぁ…」
勇者は体力を完全に使い切り、もはや
動くことすらできなくなっていた。
バティスが消滅したことで
タワーは効力を失い、派手に崩れていく
勇者
「はぁ…はぁ…くっ…」
崩れ落ちるタワーを勇者は横目で眺めて
今度こそ勝利を確信し、そのまま目の前が真っ暗になるまでしばらくその光景を細い目で見つめた。
ー
勇者が目覚めると、タワーの痕跡はどこにもなく
空はすっかり雲が晴れて青空が広がっていた
勇者は体を起こし、辺りを見渡す。
傷はすっかり治り、体力も元通り回復していた。
勇者
「(…どれくらい眠っていたんだ?)」
勇者はしばらくポケーっとした顔で
静かに空を眺めたーーー。
五大厄災-伝染の魔神-III(完)




