第11話「五大厄災-伝染の魔神-II」
暗がりの中、剣を地に突き刺しながら屈み込み、
混乱を吐露する勇者が1人
勇者
「て…手も足も出なかった…あいつは一体…?」
勇者はバティスとの戦いを頭に浮かべ、狼狽える
勇者
「世界を救う…?無理だ…!僕じゃ…!」
そんな時、一つの声が天から響く
???
『勇者よ…勇者よ…』
勇者
「え…?誰だ…!?」
勇者は咄嗟に剣を地から抜き、天に構える
???
『確かにあなたは石を集め、以前より遥かに強靭になりました。
しかし、あなたはその石の本当の力を引き出してはいない…』
勇者
「ど、どう言うことだ…?お前は誰だ…!?」
???
『混乱しているでしょう…しかし、冷静に聞いてください…石に込められた聖者の力…その力を最大限引き出すには、まず祈りの祭壇へ行き、"祈り石"に祈りを捧げなければなりません』
勇者
「聖者…?祈り石…?祭壇…?」
???
『祭壇は火山の洞穴にあります、あなたが以前に立ち寄った…ヒセキがあった場所です』
勇者は驚く
勇者
「な、何でお前がそんな事を…?」
???
『急いでください、もう時間がありません
バティスはあなたを倒し、次の行動に移行しました…彼のばら撒いた奇病が世界へ急速に広がり、人々を飲み込もうとしている…。』
勇者
「んっ!?な…っ?!…しか、しかし、僕では……」
???
『大丈夫です、あなたはこれまで多くの困難を乗り越え、ここまで来ました。あなたは勇者です。自分を信じてください、あなたなら必ず厄災に打ち勝ち、混乱を打ち消すでしょう』
勇者の目の前に、光る道が出現する
???
『この道を辿れば祭壇に辿り着きます
勇者よ、世界を頼みます』
勇者はゴクッと唾を飲み込み、光の道を歩いた
ーーー
暗雲立ち込めるプリメーラ城にて
空を見上げる女王
女王
「この世の終わりか…」
女王は失意に満ちた表情を浮かべている
町では病の症状が急激に加速して混乱する人や
「勇者様…」と声を震わせる人で溢れかえる
ーー場面は火山に戻り、
洞穴にたどり着いた勇者は石の捜索をしている途中だった
勇者
「!?」
勇者はそこで緑色に光る直立した石を見つける
勇者
「これか!?祈り石!?」
勇者は早速石の前に正座し手を合わせお祈りをする
勇者
「お願いします…!お願いします…!
(僕を強くしてくれ〜…!!)」
目を瞑りながら必死にお祈りをしていると
石の方から声が響く
???
『そんなに急くな、頂きは焦りに呼応しない』
勇者
「て!?誰だ…!!」
勇者は石から離れ、剣を構える
???
『そんな物騒な物はしまえ、力を頂きにきたのだろう?』
声の主は警戒する勇者を尻目に語り続ける
???
『我が名は聖者、アレクトロム。
この石を作ったモノだ』
そう言って姿を表す声の主、
そのなりは白い長髪を生やした青年の姿をしていた
勇者
「アレ…ク…ロトロム…??」
微妙に言いにくい名前に舌が絡まる勇者
勇者
「お前か?僕にこの場所を教え…祈りを促したのは…??」
アレクトロム
『何のことかよくわからんな
俺とお前は今初めて会話している』
勇者は頭をぽりぽりとかく
勇者
「な、何でもいいんだ!とにかく僕は急いでる!!僕を強くしてくれ!!」
アレクトロム
『あー、うるさい。厚かましい勇者だ。
まず冷静になれ、俺の力はどんな状態でも冷静さを保てる人間に呼応するように出来ている。
今のお前の態度では乱暴すぎて力が怯えて逃げる。』
勇者
「力が怯え…?よくわからない,どう言うことだ!?」
アレクトロム
『言ったままだ、卑しい暴漢に求められ、力は怯えて逃げる』
勇者
「……?」
勇者はますます意味がわからず難しい顔をする
アレクトロム
『お前は見たところ、頭はそんなに切れる方では無いようだな。いいだろう、お兄さんが優しく教えてやろう。わかりやすくな。』
アレクはそう言って、勇者に石の祈り方を教える
ー
アレクトロム
『いいか、祈りを捧げる時はまず一呼吸置く。
そして目を軽く瞑り、手をゆっくりと合わせて
何も考えず、ただ祈る。』
アレクトロム
『祈りとは、何かを求めることでも
考えることでもない、ただ捧げればいい』
勇者
「…何を捧げるんだ?」
アレクトロム
『祈りそのものだ』
勇者
「(その祈りが何なのかを聞いてるんだが…)」
勇者は困惑しつつも言われた通りに祈る
アレクトロム
『固定観念に縛られるな、価値を捨てろ。
祈りだ。お前はただ祈るだけでいい、静寂さに心揺れて自然と石もお前に寄り添い、呼応するだろう』
勇者
「(くっ…何言ってるか全然わからん…!!)」
勇者は段々とイライラしてくる
アレクトロム
『何もわからなくていい、まずは目を瞑り、手を合わせて、じっとしてろ。何も考えずにじっとしてろ。これでわかるか?』
勇者
「くっ…」
勇者はとりあえず何も考えずただ、じっと手を合わせ、力が宿るのを待った
ー
祈りを捧げてからしばらく経過し、
石が点滅するように光り始める
勇者
「……!」
アレクトロム
『集中しろ、目を開けたら振り出しだ』
勇者は開きかけた目を慌てて閉じて
祈りを続けた。
石は光り輝く音を立てて、勇者を包み込んだあと
しばらくして光が消えて、音も止んだ
勇者
「……?」
勇者は何が起きたかわからず、とりあえず目を開けて状況を確認した
勇者
「光が無くなった…?」
勇者はヨロヨロと立ち上がる
すると、体に変化が出始めていることに気づく
勇者
「なんだ…?身体中から力が溢れてくる…!?」
勇者は驚き、自身の体を眺める
勇者
「これが…石の…!」
アレクトロム
『はいはい、よくできました
お前は無事、石から頂きを授かり
強くなった。あとはそれをぶん回してきたらいい
そのよくわからん奴に』
アレクはため息混じりにそう言って勇者の背中を押す
洞穴の入り口付近まで勇者を送り出すアレク
勇者
「色々世話になった!急ぎあまり礼は言えないが、後で必ず感謝する!!」
勇者はアレクに挨拶を伝えた後、急いで走り
洞穴を後にした
アレクトロム
『気をつけてね。はぁ…疲れたな
あんなアホに世界を託して大丈夫なのか?』
アレクトロムは呆れた表情で勇者の走る姿を眺めた
ーーー
勇者
「すごいぞ!!この力は!!」
勇者は前方にいるマモノ、ロックァガリに気づき、剣を振るう
ロックァガリ
「ブヒュウウウッッ」
一撃でロックァガリを仕留めたことに興奮を抑えられない勇者
勇者
「すごい!僕は強くなっているぞ!!
これが祈りの…石の本当の力か!!
…待っていろ、バティス!!もうデカい顔はさせないぞ!!」
勇者は山を急いで駆け降りる
ー
勇者はふもとに辿り着き、宙に浮くタワーを眺める
勇者
「何なんだこれは…?この"カタマリ"の上にあいつがいるのか…?」
勇者が驚いていると
タワーから何かが飛び降りてくる
勇者
「なんだ!?」
マモノ
「グエエエッッ」
それは二体の黒いマモノだった
勇者
「アイツの手先か…!!やはり奴は上にいるんだな!!」
勇者はマモノを一太刀で切り裂き、大きくジャンプしてタワーを垂直に駆け上がる
勇者
「うおおおおおおっっ!!!!」
ー
勇者の進行を妨害するマモノの大群
勇者
「はぁぁぁぁっっ!!」
勇者は大群をものともせず
マモノを倒しながら頂上を目指しひたすら走り続ける
以前に訪れたふもとの村で出会った母子のことや
姫のことなどを思いながら勇者は歯を食いしばり
怒りをバティスに向ける
勇者
「遅れてすまない!!仇は必ず取るぞ!!」
最後の大群も撃破して、タワーを登り切り
そのまま頂上を超えて、天に飛び上がる勇者
目線の下には腕を上げて佇むバティスの背中があった。
勇者は叫びながら頂上へ勢いよく着地、大きな音があたりに響き渡る。
勇者はゆっくりと顔を上げ、バティスの背中を睨みつけた
ー
四角い台座のような足場と四方に伸びる4本の柱
その中央にバティスはいた。
しばらくしてバティスは腕を下ろし、勇者の方をゆっくりと振り向く
バティス
『……』
勇者はゆっくりと立ち上がり、剣を真横に振るう
振るった方へ強い突風が吹き
剣が根本から先にかけて赤く燃え上がる
勇者
「……」
バティスは鋭い目つきでその様子を眺めた
バティス
『勇者よ…まだ戦うか』
勇者はただ黙って剣を前へ構える
バティス
『このタワーはな…伝染を運ぶ装置だ。
俺の力を媒介とし、奇病を世界へ散布する
何もしなくても自動的に人類は苦しみ、死滅する
とても楽で、実にコスパがいいのだ』
勇者は歯を強く噛み、バティスを睨みつける
バティス
『愚かな人類を根絶やしにする』
勇者はついに堰が切れ、怒りをあらわにバティスへ走り詰める
勇者
「うあああああっっ!!」
バティスに向けて剣を振り下ろす勇者
バティスはそれを足でガードする
バティス
『記憶をなくし、もはや使命感に縋ることでしか自分を維持できなくなった…
哀れな勇者よ、お前の存在価値は
とっくに尽きている…』
勇者
「黙れ!村と姫の仇だ!!」
バティス
『いいだろう、手向けの花を用意しよう
失った記憶と共に散るが良い』
バティスは足で受け止めた剣をいなし、
もう一方の足で勇者を蹴り飛ばす
勇者
「ぐあっっ!!」
勇者は回転しながら吹き飛びつつも
なんとか地に足をつき、後方へ滑るように着地
すぐに顔を上げると
バティスが目の前まで迫ってきていた
咄嗟に剣でバティスの攻撃を受け止める
勇者
「ぐぐっ…!!まだ足りないッッ!?」
バティス
『少しは腕を上げたようだが
その程度、容易く捻りあげてくれよう』
バティスはまたも剣をいなし、
勇者の腹を蹴り上げる
反吐を撒きながら吹き飛ぶ勇者
勇者
「(だが…!ここで負けるわけにはいかない!
もう時間がない!!ここで終わらせるしかない!!)」
勇者は地に着地して剣を強く握りしめ、向かってくるバティスに対し、何度も剣を振り上げる
『しくじるな勇者、お前には数億人の命がかかっている』
勇者
「うぉぉおおおおっっっ!!!」
バティスはいろんな角度から振り上げられる剣を全ていなす
勇者
「ぐ…ッッ!!」
バティスの前蹴りを剣でガードして後方へ吹き飛び、柱へ足をつける勇者
勇者
「!!」
目の前にはバティスが迫る
勇者は咄嗟に下へ逃げてバティスの攻撃をかわし
次の体制に移行する
ー
勇者
「ここまで来るまでに僕はいろんなものを目にしてきた…笑顔も悲しみも、そして死を!」
しばらく剣を交わすがバティスの攻撃は激しく
ふとした隙を狙われて真上に蹴り飛ばされる
飛びかけた意識を必死に堪え、下を見ると
4本の腕をこちらに向けるバティスが目に飛び込んだ
勇者
「んぐ!?」
追い討ちに光弾を発射するバティス
勇者は避ける間も無く光弾に直撃、
タワーの外に押し出されて、黒焦げになって落ちていく
勇者
「くそ…なんなんだ…なんなんだよぉ…」
悔しさで目の前が滲む勇者
その時響く天の声
???
『勇者よ、あなたはまだその力の真価を出していません、集中してください。
力と体を呼応するのです』
勇者は無意識に目を閉じて集中する
すると勇者の体が徐々に光り始め、そしてーーー
五大厄災-伝染の魔神-II(完)
 




