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マルマル、少年の問題を解決する

学校から帰ると、知らない女の子が家にいる。ええ!? 今日からこの子と一緒に暮らすだって!? しかも彼女の正体はお姫さまで……これからどうなっちゃうの!?


……と、大筋を語ればそんなところだろうか。

友人なら泣いて喜ぶシチュエーションだろうに、ちっとも心が浮き立たないのはどうしたことだろうか。


食事を終え、早々に部屋へ引き上げた少年は、手付かずで通学鞄に放り込まれたままの学校の課題を思い、ため息をついた。


少女の同居について、母の承諾は得た。次は、先方のご両親に話を通さねばならない。

未成年者を保護者の許可なしに預かることはできない。


プランはこうだ。はじめまして、どこの馬の骨とも知れない若造です。将来の具体的なビジョンはとくにありませんが、おたくの大事な娘さんは預かりました。と、まあ、そんなところか。


場合によっては、深夜に少女の実家を訪ねて、まず一発殴られてから土下座せねばならないだろう。


少女の容姿から考えるに、彼女の両親は欧米人である可能性が高い。

肉食文化が育んだ屈強な肉体から繰り出される一撃を真正面から受けて、果たして自分は意識を繋ぎ止めていられるだろうか。それだけが気掛かりだ。


少年がうなっていると、夕食を堪能してすっかりご満悦のマルマルが、満面の笑顔で部屋に戻ってきた。


母の寝間着まで借りて、もう寝る準備は万端といったところだ。


似合うか、などと訊いてくる。


少年は無視した。


貴重な睡眠時間を削ってしまうことを申し訳なく思いつつ、彼女の実家の連絡先を尋ねる。


何故? と問うてくる少女に、彼は「確認したいことがニ、三ある」と言葉を濁した。家出を公言して憚らない少女に、日本の刑法を説明する気にはなれなかった。




わたしの実家と言えば、ペンタモモル最大の城塞都市を一望できる天守閣のことだ。


そこに至る連絡手段など、人間を辞めろとしか言いようがない。


精神優位種族のペンタモールにとって、時間や空間などあってなきが如しである。他星で用いるような通信機器、そう例えば携帯電話だ、ああしたものは一切必要がない。


その旨を伝えると、みっちゃんはひとつ頷き、


「わかった。住所だけでいい」


「何をわかったんだ、おまえは」


わけのわからない男である。


とにかく、これ以上つきあっていられない。睡眠不足はお肌の大敵だし、何より漫画の続きが気になる。


わたしは、おもむろにみっちゃんの肩に手を掛けると、彼の目を至近から覗き込んだ。


「何をする」


わずかに動揺した声で抗議する少年に答えず、黒い双眸を凝視する。


「何も心配はいらない。今日は眠れ」


かつての天敵のように記憶を改ざんするまではいかないが、無防備な現地住民に暗示を掛ける程度はたやすい。


息が掛かる距離で囁くわたしに、みっちゃんはうろんな瞳でのろのろと頷いた。


「じゃあ居間のソファで寝るわ」


何故ため口なのか。



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