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少年の未来、約束される

腹を括らねばならない。


ドッキリの看板を掲げた友人が部屋の外で待機しているという期待は今後も捨てきれそうにないが、もしも少女が自分で言うように行くあてがないというなら、仮にも女性である彼女をこの寒空の下、放り出す訳にはいかない。


学習机に備え付けてある椅子に腰掛けた少年は、瞑目し覚悟を決める。


マルマール=マルマル。ペンタ星系第三惑星モモルの第二位王位継承者。それでいいんだな、と念を押す少年に、マルマルはアクセントが違うと文句を付けた。もっとエレガントに。


少年の決意が揺らぐ。よそさまのベッドの上で仰向けになって漫画を読んでいる、この金髪のために、自分はひとつの平凡な家庭を、されど幸せだった日々を崩壊へといざなうかもしれないのだ。その家庭とは、すなわち愛する我が家であり、文字通り他人事ではない。


両親には包み隠さず話すしかあるまい。余計な心配を掛けるのは避けたいが、それは家族に対して不義理を働いていいという理由にはならない。つまり、人生という道に迷った自称宇宙人のお姫さまを拾いました、今日から一緒に暮らしますけど問題ありませんよね。


自分が親の立場なら、とりあえず腕のいい医者を紹介するだろう。少女は警察に保護され、校門前で報道陣にインタビューを求められた友人は、全国ネットで、さも痛ましい表情で告げるのだ。「彼女募集中です」


「おれは無実だ……」


いつしか頭を抱え、身の潔白を訴えはじめた少年をよそに、マルマルは裸足でぺたぺたとお風呂へ向かう。




人間の身体とは不便なものである。


脱衣所の洗面台に掛かっている鏡を眺めて、わたしはため息をついた。


精神優位の特異二種に属するペンタモールは、観察者がいる環境において擬態を完全にはコントロールできない。


精神を捕食する天敵から身を守るために培った、防衛本能の一種だからだ。その天敵を全宇宙からチリひとつ残さず駆逐して久しい昨今、勢い余って全宇宙を征服したい今日この頃。父上、母上、いかがお過ごしでしょうか。マルマルは復讐の牙を研ぐ毎日です。


…………。


何を考えていたか忘れた。


一人になると、思考能力がほんの少し、ほんの少しだかんね! 劣化する。ペンタモールの悲しいさがだ。


何だったか……思い出せ、がんばれわたし。


ふと気付けば、鏡の前に全裸で立っている。


(そう、美しさは罪だ)


鏡に映る裸身は、ゆんゆん、いかん言語機能が麻痺してきた。みっちゃんよ、どこへ行った。観察者がいないと、わたしはパイナップルが食べたくなってくる。いや、べつに食べたくない。そもそもパイナップルとは何だ。「pineapple」と書きます。


みっちゃんめ、ここで英単語帳を開いたな。


観察者の情報を捕捉し、記憶の再構成を図る。我ながら天才的な手腕である。


そうだ、お風呂に入ろう。人間は肉体に依る生き物なので、定期的に身だしなみを整えねばならない。郷に入りては郷に従えというやつか。


浴室はさして広くないが、まあ許容範囲だ。最低基準は満たしていると言えよう。


湯船につかり、詩吟をたしなむ。明日は古典の小テストだ。これはみっちゃんの残留思念か。明日というのは今日だな。割と単純な思考をしているので、捕捉しやすい。これは彼の美点であり、誇るべき特技だ。そして何より、わたしの人選が素晴らしい。


「ふう、極楽ごくらく」


たっぷり一時間ほど入浴し、お風呂上りにフルーツ牛乳を所望する。しかし冷蔵庫に蓄えがなかったため、涙をのんでエビフライをつまみ食い。舌鼓を打ちつつ、みっちゃん母と軽く談笑、優雅なひとときを過ごす。


「星人という呼び名は、あまり好ましくない。わたしたちの言葉で、ペンタモールというのが正しい名称にあたる。ひとつ賢くなったな! 地球人類にとっては大きな飛躍だ」


力説するわたしに、みっちゃん母は「息子をよろしくお願いします」と頭を下げた。もちろん、わたしは胸を張って請け負った。わたしについてくれば間違いはない。ばら色の未来が約束されたようなものである。

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