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運命の歯車

夜、部屋でひとり机に向かっていると、無性に外気に触れたくなることが僕にはある。


無人の道路とか、静寂な空間が好きなのだ。


息抜きがてらコンビニにでも行こうと腰を上げる。


ぐっすり眠っているマルマルを起こさないよう、そろそろと上着を羽織る。

ベッドの上でごろりと寝返りを打ったマルマルが、むにゃむにゃと寝言を言う。


「あんまん……あんまんを……」


僕は苦笑して、さも「どんな夢を見てるのかな?」といった風情で彼女の要求を無視した。


そもそも、僕のお小遣いは数多のマルマル機関を通してから渡されるという絶望的なシステムが定着してしまったため、表向き僕は文無しなのだ。


表向きというのは、まあつまり、マルマルをうまくおだてて、さて行こうかな。


玄関に鍵を掛けて外に出る。

空を仰げば、ちょうど満月だった。いや、少し欠けているか。


二月の深夜だ。大気は冷たく、けれど静かで澄んだ感じがする。


さすがに人通りはないと思いきや、コンビニが近付くにつれて疎らに若者が集まってくる。


考えることは皆一緒という訳だ。


ガラス越しに店内を眺めると、お菓子を吟味している秋津さんと、そのとなりで買い物カゴを提げてやれやれと片手を腰に当てる瀬波さんを発見。


二人ともトレーナーの上から申し訳程度にコートを肩に引っ掛けたラフな格好だ。


(車か。保護者が別にいるな)


素早く推測した僕は、それなら夜道も安心とスケジュールを調整していく。


(秋津さんもがんばってるみたいだし、この場は見なかったことにするか)


そういうシャイなところが僕にはある。


買う物を頭の中で具体的に詰めながら、素知らぬ顔でコンビニの自動ドアをくぐる。


ちょうど買い物を終えて出てくる女の子とすれ違いざま軽く会釈すると、びっくりされた。

そのオーバーリアクションに、むしろ僕がびっくりだ。


「? ごめん」


とりあえず謝っておく。


すると女の子は「あ、いえ」と曖昧に言葉を濁して足早に去っていった。


栗色の、明るい色をした髪が印象的な女の子だった。

おそらく同い年だとは思うが、学区が異なるのか見覚えはない。


(……それなら、なんでわざわざここのコンビニに?)


一抹の疑問は残ったが、どのみち僕には関係のないことだ。


一度首を振って頭を整理すると、僕は秋津さんと瀬波さんに見つからないよう夜食のパンと乳飲料を迅速にチョイスしてレジに持っていく。

この間、わずか十秒。


待ちくたびれた瀬波さんがレジに誰か並んでいるか確認するまで、あと十秒といったところか? 時間がない。


(悠長にやってる場合じゃなさそうだな)


僕はすでに取り出している財布から、きっちりお釣りが出ないよう小銭をレジカウンターに置く。あと七秒。


「あと、あんまんをひとつ」


ちぃ、五秒ロスった。


「レシートは結構です」


購入した商品を受け取り、あとは速やかに撤退するだけだ。勝った……!


「あれ、みっちー」


「きみには本当にがっかりだよ、委員長」

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