マルマル、名乗りをあげる
異国風の見知らぬ少女に平伏し、懺悔する実の息子という光景を目撃した母の心象に関して、少年はあまり詳しくないが、笑顔のまま固まり無言でドアを閉める母親という構図に幻想を抱くほど幼くはないつもりだ。
階下に消える母をすぐさま追ってあらぬ誤解をしないよう言い含めるも、「あのお嬢さんはどちらさまなの?」との問いに気の利いた答えを返せる甲斐性もなく、「あとで説明する」と言うにとどまる。
疲れきった表情で部屋に戻った少年が目にしたのは、ベッドに寝そべり漫画を読んでくつろぐ金髪であった。
もはや怒る気力もない。
部屋に戻ってきたみっちゃんは、ふらふらと窓際に身を寄せるなり、夕日が沈む荘厳な光景に感銘を受けたようで、自然の美しさ、雄大さを懇々と説きはじめた。
そして、野宿の素晴らしさを懇切丁寧に語った。
わたしは鷹揚に頷き、お風呂に入りたい旨を伝えた。
みっちゃんは、何かしら悟りを開いたようだった。
「その、みっちゃんていうのはやめてよ」
そう言って彼は、心底嫌そうに自分の名前を告げる。とくに目新しい情報ではなかったが、名乗られたからには名乗り返すのが礼儀である。
わたしは、やおらベッドの上に立ち上がり、堂々と宣名した。
「わたしは、マルマール=マルマル。ペンタ星系第三惑星モモルの第二位王位継承者だ!」
星間連合国の加盟国に連なる者が、地球人類とコンタクトした歴史的な瞬間である!
「そうですか」
お風呂わかしてきます、とみっちゃんは部屋を出て行った。