マルマル、少年の忠誠を得る
変質者に付きまとわれるというハプニングに見舞われたものの、華麗にスルーして事なきを得た少年。
両親に帰宅の旨を告げ、二階にある自分の部屋に上がると、金髪碧眼の少女が窓から侵入してくる現場と遭遇した。
つい先ほど振り払った変質者である。
とりあえず警察に連絡して市民の義務を果たそうとすると、唐突に少女の挙動が不審になる。
女子に甘いとよく言われるのだが、妙なところで自覚してしまった。さて、どうしたものか。
「けけけっ、警察に電話するのかっ?」
警察は苦手だ。通学路で潜伏先の品定めをしている間、何度か職務質問を受けているのだ。
そのたびに機転と力業で切り抜けてきたのだが、「おうちはどこ?」だの「学校は?」だの人のトラウマを平気でえぐってくる、あまり気分の良いものではない。
おびえるわたしをじっと見詰めたあと、少年はため息をついて携帯電話をしまった。
(だから甘いと言うのだよ……)
内心でほくそ笑むわたしに気付く様子もなく、少年はわたしに座布団をすすめてくる。まあ座れ、ということだろう。
思えば、母星を追放されて以来、人の善意に触れたのははじめてかもしれない。茶のひとつも出ないことに絶望した。
少年が言う。
「で、おれに何か用でもあるの?」
「わたしを養え」
少年の口元が引きつった。直載な物言いに戸惑っているのだろうが、こちらとしても曲げるつもりはない。
どのように言い繕ったところで、結論はひとつだからだ。
少年は、辛抱強く対話を試みる。
「……なんでおれなの?きみ、言ってることが滅茶苦茶だぜ」
ふ、と遣る瀬ない吐息を漏らす少年は、そこはかとなくエロスであった。
これが「わびさび」というものか……日本文化への理解を深めるわたし。
「エロいな、おまえ」
「帰って下さい。お願いします」
ストレートに称賛すると、すかさず彼はわたしに強制退去を命じた。日本男児に土下座までされては、さしものわたしもやぶさかではない。
なんとなく彼の頭を裸足で踏みつけ、ぐりぐりする。
「だが駄目だな。おまえは黙ってわたしの衣食住を保証すればいい」
「なんなのこの子、もお~」
少年はわたしの足を払い除けると、両手で顔を覆って嘆いた。
彼の母親と思しき人物が部屋に入ってきたのは、まさにそのときだ。
「みっちゃん、お友達? 入るわね」
みっちゃんの何かを諦めたような表情が印象的だった。