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少年、退路を失う

授業の合間に教室を抜け出しては、自宅のマルマルと電話越しの逢瀬を重ねる少年。


『みっちゃん、授業はいいのか?』


「まあね、きみこそ忙しくないか?(こいつ、探りを入れてきたな……)」


『今は大丈夫だ。みっちゃん、今日の夕飯は期待してくれていいぞ(……45分間隔か)』


「きみが作るのか? 楽しみだな、やめてくれ(……どこまでだ、どこまで踏める?マルマール=マルマル……)」


次第に(表面上)打ち解け合った二人は、探り合いにも飽きてくる。


先に切り込んだのは、少年の方だった。


「……条件を言え」


学校の中庭で、人目につかないよう柱に背を預けて告げた言葉が、すでに堅気の人間が言うことではない。


彼は、自らの劣勢を認めざるを得なかった。


彼女の内にある線引きが、いまだに読めないのだ。


授業中に乱入してくるつもりはないようだが、それもどこまで続くか怪しい。

いや、むしろそうしてくれた方がよほど対処しやすいと先ほどまでは考えていた。


授業中なら、一言弁明すれば事足りるからだ。親戚の子を預かっているとでも言えばいいだろう。少女は反論するかもしれないが、むざむざその機会を与えるほど自分は甘くない。


だが、状況は変わった。


朝のHRの一件。


彼女が補導の一歩手前まで踏み込んでいるとなれば、話は違ってくる。


親元に返してやるのが一番だと自分は思っているが、母がああまで言うなら、その点はいい。


……が、住み処を求めて住宅地を徘徊していたという目撃証言は、あまりにも致命的だ。


ましてあの外見、いかなるアリバイトリックを弄したところで、徒労に終わることは目に見えている。


……いや、はっきり言おう。

彼女の名誉を守った上で、つい先日まで路上をうろついていた少女が我が家の敷居を図々しくもまたいでいる事象を、論理的かつ明快に説明する手段はひとつしかない。


つまり、ひと目出会ったそのときから恋に落ちました、両親は祝福してくれてます、結婚式は海が見える教会で、僕たち幸せになります。


その瞬間、自分の人生は終わる。


当然、彼女は拒絶するだろうから、見初めた少女を言葉巧みに自宅へ連れ込んだ男としてのセカンドライフが幕を開けるのだ。


と、そこまで考えて、ふと思う。休み時間のたびに電話でお話って、なんだか仲つむまじい恋人同士みたいですね父さん……。


心の中で父に報告する少年。頬が熱い。





「条件か」


悪くない展開だ。とうとう譲歩を引き出してやったぞ。みっちゃんめ、手こずらせおって。


『……ああ』


緊迫感あふれる声で応じるみっちゃんの心境たるや、屈辱に打ち震えること必至だろう。


対照的に、わたしは笑いがとまらない。


「さて……急に言われてもな」


勝者の余裕というやつだ。


玄関わきの廊下で足を崩し、電話親機から子機へと伸びるコードを指先でもてあそびながら、わたしは愉悦にひたる。


一時は追い詰められたものの、何の事はない、終わってみればわたしの完全勝利だ。


更に、このシチュエーション。ちょっと生意気なみっちゃんを思うままにいたぶれるというオプション付きだ。


「ふふふふ」


どうしてくれようか。


獲物を前に舌なめずり、二流三流の手口ではあるが、こればかりはやめられない。


窮鼠猫を噛むとは言うが、獅子を前にしては甚だ無力に等しい。


まず、桜並木通りの喫茶店でチョコパフェを奢ってもらうのは確定だろう。


そのあとは、郊外の水族館だ。わたしは動物が苦手というか、ほとんど敵対関係にあるので、今後の活動方針を定めるにあたって、中立派の意見を仰ぎたい。結論から言うと、イルカショーが見たい。


この星の新たなる覇者(予定)として、遊園地の各種アトラクションを安全点検しておく必要もあるだろう。絶叫マシーンなど、とくに気になる。


氷山の一角ではあるが、わたしの偉大なる野望、その壮大さに、みっちゃんは度肝を抜かれたようである。少し間を置き、


『おれも行くのか、それ』


当然だ。わたし一人では、何をしでかすかわからない。というより、契約者が同行しないでどうするのか。


契約者としての自覚(本人の承諾は得てません)を促そうとするわたしに、彼が言う。


『それは、ちょっと』


おおぅ、噛まれた。


みっちゃん、徹底抗戦の構えである。

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