マルマル、誇り高き王女
もちろん、あの程度で釘を刺せたとは思わない。
五分ほど歩いたところで、少年は携帯電話を取り出した。
素早く自宅のナンバーを打ち込み、通話ボタンをプッシュする。
短い期間ではあるが、あの少女の言動を間近で観察してきて、ある程度の人となりは理解したつもりだ。
まず傲岸不遜で、自負心が高い。
変なところでプライドがないように見えるのは、常識に疎いからだろう。
世間知らずという評価が当てはまるかもしれない。
母に取り入るなど、したたかな一面も持ち合わせているようだが、思慮は浅い。
そして、かなりの楽天家である。
やつなら、今頃は何かしらのアクションを起こしている筈だ。
この電話は牽制に過ぎない。やつを電話口に立たせることで(あるいはすでに行動中か?それならば食い止めるまで)、機先を制する。
『わたしだ』
「自由奔放すぎるだろ、きみ」
家に掛かってきた電話を取る時点でどうかしている。
『ん、みっちゃんか?』
「まず姓名を名乗れ」
『その言葉、そっくりそのままお返しする』
自称宇宙人の分際で、やけに口が達者である。
「……言い忘れてた。あまり母さんに無茶を言わないでくれよ?」
『お土産は駅前のたい焼きでいい』
つけが回ってきた。まさしく電光石火だ。
『クリームあんだ。それ以外は認めん』
クリームあんを所望する少女に寝床を提供している少年は、自制心を総動員して、かろうじて頷いた。
「わかった。駅前のたい焼きだな」
『クリームあんだ。忘れるな』
更なる忍耐を求められる少年。
彼は、幸せそうにたい焼きを頬張る少女を想像することで、この試練を乗り切ろうとする。
今後の友好関係のためにも、彼女のわがままを笑って許せる術を早急に体得する必要があったからだ。
そして、それは一定の成功を収めた。
「おれ、つぶあん派」
自分のぶんも買うことにした。
『よかろう。みっちゃんよ、真のたい焼きについて存分に論じ合おうではないか』
「あ、長くなるなら結構です。それじゃ」
強引に話を打ち切って、通話を終える。
当初の目的が達成できたかどうかは微妙だが、とくに不審な点はなかった。
だが、油断するのはまだ早いだろう。定期的に確認した方がいい。
携帯電話を握り締め、少年は決意を新たにするのだった。
(これで牽制のつもりか? だとすれば、見くびられたものだな)
受話器を置き、ほくそ笑む。
単独行動中、確かにわたしの思考活動は著しく制限される。
まして擬態は、敵の特性を模倣する能力だ。
人間に身をやつした今、わたしは「人間の身体で可能な程度の未来」しか選択できない状態にある。
ザ・島流し。
おのれ姉上。
……それはいい。
とにかく、定期的に所在を確認して単独行動を防ぐという、その発想は悪くない。
なるほど、ただのペンタモールなら行動不能に陥っただろう。
だが、わたしは王族だ。
全宇宙最強にして最悪の特異一型種族、天敵ペンタモール(前代表←ココ大事)の凶王マルマーを討ち果たした英雄王マルマールの末裔である。
あまたの銀河を凶王の魔の手から救った、気高き精神を継ぐ者……!
気合いと根性で何とかするしかない。




