マルマル、請われて家に招かれる
はじめまして、かんだたです。
この物語は、短編連作という形式をとる予定です。
気楽に読んで頂きたいので、前書きと後書きは極力なくそうと思います。
怠惰な作者ですが、それでもよろしかったらご一読をして頂きたく存じます。
色々あって地球に漂着したマルマルは、貧しさに負けそうだ。
空腹に耐えかね、綿密な調査のすえにこれはと目を付けたお人好しの目の前で行き倒れる計画を実行に移す。
作戦は完ぺきに思われたが……?
嗚呼と儚くうめいて、よよと歩道に倒れ伏す。我ながら完ぺきな演技だった。
「…………」
それを冷たく見下ろしているのは、ターゲットの少年である。手元のデータによれば、平和ボケした日本という国(でもお金はある)の、とある田舎で老夫婦と一緒に暮らしている。生後15年の原住民である。
(勝った……!)
わたしは確信したが、彼は不意に視線を最寄りの電信柱に移し、そしてそのまま脇道に逸れようとする。小芝居をまじえた、まあ完ぺきと言えるだろうスルースキルだった。
さすがにシュミレーション不足だったことは否めない。道端に美少女が落ちているというシチュエーションは、ちょっと考えたら現実にはありえないからだ。わたしは悪くない。
(逃すものか)
わたしは素早く路上を這って、少年の足首を鷲掴みにした。走って逃げなかったのが、おまえの敗因だ。
「…………」
少年は、虫けらを見るような目でわたしを一瞥してから、はたと思い至ったように周囲を見渡し、慌ててわたしを助け起こそうとする。良心の呵責に耐え切れなかったことは明白だった。
内心で勝利を確信するわたしを、彼は慎重に担ぎ上げると、そのまま最寄りのゴミ捨て場にそっと安置した。
達成感に満ち溢れた表情で立ち去ろうとする少年に、このツンデレめ、わたしは強硬手段に出ることにした。
「単刀直入に言う、わたしを養え」
「日本語がお上手ですね」
少年はにっこりと賛辞を送ると、それじゃあと爽やかに手を振って、きびすを返した。
素直になれないのだろう、まったく世話が焼ける。ときとして譲歩することも大切だ。わたしは妥協して、仕方なく彼を尾行することにした。ヤサを突き止めてしまえば、こっちのものである。
今日の晩ごはんは何だろう。猛然とダッシュし始めた少年を鼻歌まじりに追跡しながら、わたしは本日の夕餉に胸をときめかせるのだった。