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第二十二話 人探しは誰だ

 集落へと顔を出したシェリルはユラと話をしていた。ラルフはヴィルスと森へ出かけているので今はいない。シェリルを連れ出したのも気分転換にとのことだった。


 広場のベンチに腰を下ろして他愛ない会話をしていると、城下の町から買い出しに戻った男衆が荷物を下ろしながらわいわいと話をしている。


 荷物を別けながら城下で何があった、あれが安かったなど話しているのをシェリルは片耳でなんとなしに聞いていた。



「そういや、お前聞かれたか?」

「何をだ?」

「いや、人間が人間を探してたんだよ」



 ぴくりとその会話にシェリルは反応する。それを聞いた男はなんだそりゃと不思議そうにしていた。



「いや、育ちの良さそうなミルクティ色の長い髪の人間の女を見なかったかって」


「育ちの良さそうだぁ? 観光客が迷子にでもなったんじゃねぇのか?」


「俺もそう思ってな。だって探していた人間、身なりがしっかりしていたもんだから。なんだろうな、目立った黒服だったんだ」



 シェリルは話を聞きながら震えていた、特徴を聞いて自分を探しているのではないかと。育ちの良さはシェリルが隠しているので気付かれていないが髪色はそっくりだ。


 探している、誰かが。いや、別の人間を探しているのかもしれない。まだ自身とは決まったわけではないと言い聞かせるもシェリルの身体は震えが止まらない。



「大丈夫、シェリル?」

「え? あぁ……大丈夫よ」



 ユラは様子がおかしいことに気がついたようだ。慌てて笑みを作って震える手を誤魔化すように握り込んだ。「何かあったら言ってね」と言われてシェリルは表情そのままに頷く。


 シェリルは内心、焦っていた。どんなに自分とは決まっていないと言い聞かせても、確証がないので安心ができない。誰だ、誰が探しているのだと頭の中にいろんな人物が過ぎる。


 マーカスか、フィランダー公爵か、もしかしたら怒った両親かもしれない。見つかったらどうなるのか、きっと連れ戻される。考えれば考えるほど恐怖が押し寄せてきた。



「どうかしたのか?」



 はっと我に返り顔を上げるとそこにはヴィルスとラルフがいた。声をかけたてきたのはヴィルスらしく、シェリルの顔を見てもう一度、大丈夫かと問う。ラルフもそうだったのか「何かあったのか」と聞いてきたものだから、シェリルは「なんでもないの!」と首を振った。



「ちょっと、考え事をしていただけで……」



 だから、大丈夫なのよと笑ってみせる。ぎこちない笑みだったかもしれないが、不安な顔など見せて心配はかけたくなかった。


 それならばいいがと二人はそれ以上は突いてこなかった。気にはしている様子ではあるが、話したくないのなら深くは聞かない、そういった態度だった。今はその優しさに甘える。


 自身を探している人間がいるかもしれないだなんて話せば、どうしてこの国に逃げてきたのか理由も言わなければならない。無実の罪とはいえ、婚約破棄されて好きでもない男と無理矢理結婚させられそうになったから逃げたなど知ったら三人はどういう反応をするか。


 心配するのか、軽蔑するのか、気を使わせてしまうのか、それらを考えると怖かった。今まで通りに接してくれなくなるかもしれないと思うと怖くてしかたなかった。だから、話すことはできなかった、そんな勇気はなかったのだ。



「お兄たちは終わったの?」



 話を変えるようにユラが問うとヴィルスはあぁとそれに頷いた。



「罠を仕掛け終わったからな」

「もう暫く用事ってない?」

「ないが、どうしたユラ?」

「じゃあさ、じゃあさ、城下町に行こうよ!」



 キラキラと目を輝かせながらユラがヴィルスに抱きついた。それを聞いた彼は嫌そうに眉を寄せる。



「何しに行きたいんだ」

「あのね、カフェに行ってあのケーキまた食べたいの!」



 この前行ったカフェで食べたケーキを気に入ったようだ。いいでしょいいでしょと頼むユラにヴィルスは「お前はなぁ」と呆れた様子だ。「断るならリンバと勝手に行くぞ!」と脅しになっていないことを彼女は言う。


 リンバがそんな勝手なことをしないのをヴィルスは分かっていた。それに彼は今、狩りの練習をしているのだからそんな暇はないということも。


 いいじゃんいいじゃんと駄々をこねる妹に、ヴィルスは仕方ないと溜息を吐いた。



「わかったから子供みたいに駄々をこねるな」

「やったー! シェリルも行こうよ!」

「ウェエッ、私も?」


 思わず変な声を出してしまい、それに三人はきょとんとしている。はっと慌てて笑みをつくってシェリルは誤魔化した。



「私、邪魔したら……」


「そんなことないよー! あ、もしかして、絡まれたりとか気にしてるの? なら、この前買った獣耳のやつつければいいじゃん!」



 あれ、ぱっと見は本物そっくりだから大丈夫だよというユラの押しにシェリルは考える。顔を隠してあの耳をつけていればウルフス族だと勘違いさせることができるかもしれないとは思った。思ったけれど、不安要素はあるわけで。


 自分を探している人間がまだ城下の町にいるかもしれないのだ。けれど、三人を心配させたくない気持ちもある。ユラにキラキラした瞳を向けられて、シェリルは変装してならと一緒に城下へと行くことを了承した。




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