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第22章

 その後、ギルバートとルークもエルヴァシア号に乗って一週間の旅を終え――その上で、四人の意見は大体のところ一致していた。やはり、四日目のナヴァール陸軍士官学校、五日目の空母レティシア号の視察、六日目のエルヴァート鉄橋、特に心配なのはその三つの場所だった。他の、聖ヨハネ幼稚園やエレンデュア国立自然公園などは、超のつく優秀なセキュリティスタッフがついているので心配ないが、その超優秀なセキュリティスタッフがいくらついていようとも、防ぎ切るのが難しいと思われる地形や場所……それがこの三つだった。


「もし先にエルヴァシア号で旅行してなかったら、僕たちちょっとヤバかったかもしれないよね」


 ディランが四人で会議中の時、ふとした瞬間にそう言った。


「だって、あんなに毎回美味しい食事が出てきてさ、車内の雰囲気もクラシックな感じで素敵だし、窓から見える風景にもうっとりしちゃうしね。一度見ておいて大体のところがわかっていれば、そんなことでそんなに気が散ったりもしないだろうけど、初見でああいう感じの車内を見ちゃうと、僕なら浮かれちゃって仕事に集中できない気がするな」


「ま、大統領を守ってるシークレットサービスの人たちなんかは、もうそこだけに特化しちゃってるから、何も問題ないんだろうけどな」と、大きく伸びをしながらトミー。「風景を見るのも大統領に危険が迫ってないかどうかを確かめるためだし、一に大統領、二に大統領、三四も大統領なら五から十まですべて大統領……みたいなさ。ディランみたいにクラシックな車内の彫り物がどうの、置かれた花瓶がこーだの、いちいち美に酔ったりするような人種はそもそもボディガードには向いてないってことさ」


 ディランがいちいち、「あれはガレのランプじゃないか?」だの、アールデコ調の家具がどうだの美術鑑定士よろしくうんちくを垂れはじめるので――トミーとしては「そんなことより仕事しろっての!」と、最後には一喝していたほどだったのである。


「一応、ナヴァール陸軍士官学校の教官や生徒、空母レティシア号の乗組員については他の部署で素性を調べたり再確認してもらったりしているが……今のところ、そんなにおかしな人間はいないようだな。まあ、陸・海・空・海兵隊総じて、前科のある人間はそもそも入隊できないし、入隊時に徹底的に身元を洗われるからな。とはいえ、入隊後の本人の思想等については周囲の人間にもわからない場合が多いだろう。それに、俺と同じように家族を誘拐されるといったことで脅されているか、あるいはその金を受け取ったら軍隊なんかやめてやるというくらいの大金を提示されていたとしたら――大統領暗殺という奇行に走る場合もあるだろうしな」


「まあ、レティシア号などは特に、乗組員が二千人以上もいるわけですから、なかなかその点は難しいですね。レーガン大統領の暗殺未遂やケネディ大統領の暗殺時のことを考えてみても……100%完璧なセキュリティというものは存在しないものなのでしょう。ですがまあ、本部長も以前おっしゃっていたとおり、もし<ジェネラル>の持つ計画が仮に空母レティシア号で起きるとしたなら――本部長の計画に一切異議を差し挟むでもなく、すぐGOサインを出した理由にもなりますか?」


 この日もルークは緑茶を飲んでいたが、ギルバートとトミーとディランはブラックコーヒーを飲んでいる。


「どうだろうな。結局のところ、ギルバートの計画がうまくいこうといくまいと、<ジェネラル>には失うものは何もないわけだから……俺が<ジェネラル>なら、まずは様子を見るね。で、ギルバートが失敗したら自分の計画発動といったところかな」


「なんとも凡人らしい想像力だね、トミー」と、ディランがくすくす笑って言う。「<ジェネラル>は少なくとももっと切れ者だよ。じゃなかったら今の地位にも就けなかったろう。<ジェネラル>が『それで結構』といったように何ひとつ駄目出しして来なかったのには、おそらく理由がある。で、これもまた僕の乏しい発想力による想像だけど……ギルバートの立てた計画の中にはたぶん、ジェネラルにとっと都合のいい何かが含まれていたっていうことなんじゃないかな」


「……あるとすれば、具体的にどういうところだと思いますか?」


 深刻な顔をしてルークがそう聞く。だが、ディランは突然空気の抜けた風船みたいにうなだれていた。そして腑抜けた様子でこう言う。


「それがわかれば苦労しないよ」


「なーんだ。ディラン、俺よりは多少物の見方が高尚みたいな言い方した割に、結局は五十歩百歩じゃねえか」


「うん。そうだね……」


 急にしょんぼりとうなだれたディランを哀れみ、トミーは彼に自分のパンをひとつ分けてやることにした。ちなみに彼はピロシキを食べていたが、ディランには抹茶クリームコロネを渡す。


「そ、それはもしかして抹茶ですか?」


 珍しくルークが食べ物に反応してきたため、ディランは抹茶コロネを食べる手を止める。


「もしかしなくても抹茶だけど、何?もしかしてルーク、抹茶系のものが好きとか?」


 トミーはがさがさとパンの入った紙袋の中から、丸いパンを取り出した。


「じゃあ、これやるよ。抹茶あんぱん。これも結構美味しいぜ」


「ありがとうございます。私、抹茶と名のつくものはなんでも好きなんです」


 こうして三人が、コーヒーやお茶を入れ直しはじめたため、会議は自然一旦中断するということになった。最後、ギルバートがどこか物欲しそうにトミーのパン袋を見つめてきたため、「わーったよ」と、トミーは仕方なしにメロンクリーム入りメロンパンをギルバートに渡した。


「……もう残ってるのはこれだけか?」


「いや、もう一個インド人もびっくりのカレーぱんってのが残ってる。けど、最後のこの一個は俺のもんだ」


「…………………」


 ギルバートはめろんぱんよりもカレーぱんのほうが良かったが、文句を言わず、めろんぱんを静かに受け取った。秘密情報庁から官公庁街のほうへ向かって十分ほど歩いていったところに、日本人の夫婦が経営しているとても美味しいパン屋があるのだ。ちなみに、めろんぱんの籠のところにはいつも、「ドラミちゃんも大好き、めろんぱん♪」というイラスト付のポップが飾ってある。


「う~ん。そうかあ。ギルバートのあの計画で、<ジェネラル>にとって都合のいいことって言ったら一体なんだろう。凡人の俺にはさっぱりわからんな」


「私も凡人に三本毛が生えた程度のものですが……とりあえず今の時点で思い浮かぶのは次の二点でしょうか。本部長が実際に大統領を暗殺するとすれば、旅の後半の最後のほうになるというのは、<ジェネラル>のほうでもある程度読んでいるでしょう。ということは、<ジェネラル>はその前の四日目か五日目くらいに、ナヴァール陸軍士官学校か空母レティシア号あたりで自分の計画を実行し、確実に大統領を仕留めるつもりでいる――この場合、<ジェネラル>には本部長や私たちに邪魔されずに自分の計画に集中できるという利点がある。そしてもうひとつ目が、列車内にいる本部長とオズモンド大統領のことを同時に始末できるということでしょうか。空軍の偵察機やヘリコプターなどが護衛に飛ぶということでしたが、無人航空機のことは当然みなさんご存じでしょう?」


 米軍がテロの脅威と戦うために兵を差し向けた、アフガニスタンやイラクで爆撃に巻き込まれた人々にとっては――悪魔の無人航空機としか呼びようないミサイル攻撃機だ。遠くからピンポイントで標的を攻撃できるという利点があるが、と同時にその場にいたまったく関係のない民間人が巻き込まれることが多く、現地の人々にとってはアメリカに対する恨みと憎しみが嫌が上にも募るという意味において、米軍はまったくの無傷で攻撃を有利に行えているなどとはとても言えなかったろう。むしろこのようなやり方によって、アメリカは目に見えない敵をさらに増やしているのである。


「確か、北朝鮮のキム・ジョンウンも、この無人航空機を死ぬほど恐れているという噂だよな」


 もぐもぐと、どこか自動的に美味しいめろんぱんを食べながらギルバートがぼんやり言う。


「そうです。もはや、無人航空機によるある特定個人の暗殺というのは、いつ起きてもおかしくないかもしれません。少なくとも、今が第二次世界大戦下で、この無人航空機が存在していたとしたら、アメリカはヒトラーを狙ったでしょうし、スターリンなども同じ手法で殺したかもしれません。なんにしても、この場合、私がもっとも心配なのは、エルキューレ岬にかかるエルヴァート鉄橋をエルヴァシア号が渡る時に……そこをミサイル等で攻撃されるのではないかということです。そしてそのミサイルを打ち落とすというのは、まずもって不可能なのではないかということが、一番心配なのです」


「それでいくと、ここにいるメンバーも全員即死だね。いや、即死できればまだいいけど、瀕死の重傷を負った上、その後何十時間も苦しんだのちにようやく死ぬとか、嫌だなあ、そういうの」


 ディランがそう最悪のシナリオについて呟くと、ギルバートは彼の食べる抹茶コロネを物欲しそうな顔で見つめて言った。


「嫌なら無理することないんだぞ、ディラン。そもそも俺は最初からエルヴァシア号にはひとりで乗り込むつもりでいたからな。トミーもルークも、無理して俺につきあう必要はない」 


「…………………」


 三人はほぼ同時に黙りこんだ。元妻のキャサリンと娘のキャリーが誘拐されて以来……当然のことではあるが、ギルバートはずっと様子がおかしいままだった。一応、部下たちに気を遣わせないよう彼も気をつけてはいるのだったが、乗りのいい会話は激減し、ギルバートは日に日に体重が落ちていっているようだった。


 とはいえ、来たるべき日に備え、ギルバートはUSISの地下一階にあるジムで毎日数時間過ごして体を鍛えていたし、地下二階にある射撃場へもよく赴いては射撃の練習に余念がなかったといえる。

 

「それにしても、無人航空機か。まあ、ドローンを使ってあれだけのことを先にやらかしているわけだからな。その上、あれだけの軍需企業がバックについているとなったら――そのくらいのことはおそらくやってのけられるだろう。それに、俺たちはエルヴァート鉄橋が一番あやしい一番あやしいと思っているが……そう考えていった場合、開けた平地のような場所ならどこでも標的とされる可能性があると想定したほうがいいのかもしれんな」


 そう言ってギルバートは、ユトランド共和国の地図を引っ張り出してくると、赤いペンでいくつかの地点をチェックしていく。


「列車がディアナ平原やランディーガ海岸線を走っている時もそうだし、エルヴァッハ山岳地帯だって、むしろこのあたりなら身を隠すのにうってつけの場所とも言えるよな。そしてそういった箇所が他にもいくつかあるし、一番最悪なのは列車がトンネルを通っている時に攻撃されるということだが……そんな時にミサイル攻撃されてトンネル内に列車が閉じ込められたりしたら――それこそ、死んだほうがマシだという惨劇を味わうことになるかもしれん」


「まあ、流石にトンネル内は可能性としては低いですが……やはり、もう一度リグビー長官を通して今回の豪華客車の旅はとりやめていただいたほうがよろしいのでは?」


「もう、再三に渡ってそう進言したさ」と、溜息を着いてギルバート。「何より、事はもう大統領ひとりの問題じゃない。たとえば、大統領専用機がミサイルに狙い撃ちにされて墜落したとするよな?その場合は大統領本人とシークレットサービスやパイロットらが亡くなるということになるわけだが……今回は乗客が他に約四十名――いや、乗務員らも含めると六十名以上にもなるからな。そのことをとってみただけでも、中止したほうがいいと言ったんだ。ところが、『そんなことを言ってたら、今後自分はどこにも公務で出かけていけないじゃないか』とか、『テロには絶対屈しない』とか、そんなことしか言わないというんだ。なんでも、大統領官邸には『大統領を暗殺するぞ』という脅迫電話というのが月に一度か二度はかかってくるんだと。もちろん、その一人ひとりについてシークレットサービスのほうでは対処しているらしいが、他に大統領官邸のほうに不法侵入してくる不遜な輩というのも結構いるらしく、そんなのをひとつひとつ相手になんぞしていたら大統領の職は到底務まらないということでな……他の周囲の側近にも説得するよう頼んではみたようなんだが、大統領的にこの豪華客車の旅だけは絶対に外せないんだと」


 ギルバートはここでめろんぱんを食べ終わり、コーヒーを飲み干すと、席を立つということにした。そして、ジムにある専用のマシンで体のほうを鍛えつつ、頭の中では<大統領暗殺>に至るまでのあらゆる可能性について複雑な思考の糸を伸ばし続ける。


(まあ、俺ひとりだけが死ぬというくらいの犠牲なら大したことはないんだが……無人航空機――別名、白い悪魔で狙われでもしたら一溜まりもないな。空軍のほうにどの程度の確率で防げるかとも聞いてみたが、無人航空機からミサイルが発射された場合、衛星レーダーで探知して必ずそれよりも速く撃ち落とせるとかなんとか……)


 アメリカ製の白い悪魔も、ブラックバイパー社が開発した無人航空機も、ミサイルを発射した場合、大体時速八百~千キロくらいで対象物を狙う。そして重さ約220キロほどの爆弾がターゲットを壊滅へと追い込むわけだった。この間、無人航空機の操縦者は鮮明な映像で自分が一体何をしたのかを詳細に知ることが出来る……地球の裏側から遠隔操作により、アフガニスタンやイラクのターゲットをゲーム感覚にも近い形で狙うことが出来るとよく言われるが、パイロット自身はその任務の重みによる精神的負担に苦しむことが多いという。


 ギルバートが思うのは何より、『空軍の誇りにかけて必ず』と言った、空軍司令官の言葉が信頼できないということではなく……まず、ミサイルがいつどこから飛んでくるかがわからないのだ。もちろん向こうでもミサイルに狙われやすい着弾地点といったことはある程度予想を立ててはいるだろう(また、そのための資料もギルバートのほうで渡しもした)。だが、「こんな任務は馬鹿げている」と言って空軍の最高司令官が何故文句も言わなかったのか、そのことがギルバートには不思議でならなかったものだ。


 つまり、彼らは「一応理論上は無人航空機から発射されたミサイルを追い落とすことは可能だ」と言っているだけなのではないかとの疑念がギルバートは拭い切れないのである。そして続く言葉がこれだ。「第一、そんなことの起きる可能性は低いのですから、そんなに目くじらを立てる必要もないでしょう」……だが、ギルバートは思う。9.11テロの起きる一年前、CIAは航空機によるテロの起きる可能性を実はエシュロンによって掴んでいたのだ。にも関わらず、何故テロを阻止できなかったかといえば、「そんなことは起きうるはずがない」として、その情報の取り扱いを誤ったためだ。


 仮に今目の前に「とても重要な情報」があったとしても、それがもし正しく扱われないなら――その情報の価値を正しく評価できないなら、情報といったものは「ただそこにある」というだけで、まったく意味のないものとなってしまうのである。


 ギルバートは妻子を誘拐されたということに加えて、こうした各部署との折衝によるストレスによっても相当消耗していたが、毎日、自分の体をいじめ抜くことによってそれらすべての事柄からどうにか救われることが出来ていたかもしれない。それに、射撃の練習のほうも気分転換にはもってこいだった。ギルバートはもともと射撃の腕のほうは相当なものだったが、大統領の護衛という今回の任務において、一度も銃を使うことなく済ませることが出来ればといつも願っている。


 実はその後、ケビン・キングリッチの元秘書からは、非常に面白い話を聞くことが出来ていた。部署の配置替えを言い渡される前日、確かに彼は突然別人になったように感じたというのだ。毎日、朝は砂糖を二杯入れたコーヒーを飲むのだが、一口飲むなり「なんだ、これは!?」と怒鳴ったという。そして、秘書――名前をエリザベス・コートニーという――が「いつもの通りですが」と言うと、ぐっと黙りこみ、「明日からはブラックにしてくれ」と頼んできたという。


 そうした小さなことからはじまり、他にもキングリッチはエリザベスのことをいつものように「べス」とは呼ばず、常に「エリザベス」と呼んできたり、朝はまずスケジュールの確認からはじめるのに、そのことがどうもわかっていない様子だったりと……エリザベスのほうでは「例のスキャンダルがあまりにショックで、一時的におかしくなったのかもしれない」と心から心配していたというのだ。


 というのも、エリザベスはキングリッチ付きの秘書として、もう六年も勤務していたからであり、お互いのプライヴェートについてもよく知っているという仲だった。それだけに、突然の部署替えが納得できず、ケビン本人にそのことを抗議してもいたという。キングリッチ曰く、「例のスキャンダルは長きに渡る社の癒着体質に起因するものだから、君も心機一転別の部署でやり直して欲しい」といったように言われたとのことだった。


(『以前は親しみやすかったのが、突然性格が冷たく硬質になった』か。もちろん誰も、オリジナルのケビン・キングリッチはすでに処刑され、クローン人間に入れ替えられた……といったようには考えないだろう。そして、ジェイミー・カンバーバッチのほうは、消されたキングリッチの代わりに、巨大軍需企業の総裁の地位に就いたというわけだ)


 実をいうとこのことについても、すでに裏が取れている。カンバーバッチ家では家政婦の出入りが激しいらしく、そこでちょうどメイドを募集していたため、ひとり潜りこんでもらったのだ。家事についてはかなり出来るタイプの専門のUSIS職員を送りこんだのだが――勤めはじめて何故メイドがすぐに辞めてしまうのかがわかったという。長男のデレクは偏食で非常に気難しく、次男のアレキサンダーはメイドの仕事を邪魔してばかりいるやんちゃ坊主だということだった。長女のメアリーはメイド使いが荒く、次女のメグは厄介ごとを起こしては家政婦を困らせてばかりいるという。


 潜入させたベテラン職員も「わたしももう嫌になりました」と時々泣き言を洩らしていたが、彼女が耐えてくれた甲斐あって、仕掛けてもらった超小型盗聴マイクから――非常に面白い会話をキャッチすることが出来ていたのだ。


 ジェイミー・カンバーバッチが自分の書斎にて、携帯でおそらくは<ジェネラル>と話しているのではないかと思われる会話があった。もちろん、ジェネラルのほうの音声は聞こえないため、わかったのはカンバーバッチの話していた内容のみではあったが。


『はい……そうですね。ケビンは割とうまく適応していると思いますよ。側近にも新しい人材を入れて彼を支えてもらうようにしてありますし。もっとも、純粋にビジネスという面ではそれほど問題はなくても、どちらかというとプライヴェートな面ですね。ほら、たとえば一緒にゴルフでラウンドを回るとかそういう。俺が一緒の時にはある程度フォロー出来るでしょうが、今のケビンはただゴルフが精密機械のようにうまいというだけで、なんというかこう……少し人間味に欠けていると言いますか』


 ――このあと、<ジェネラル>がどういう回答をしたのかはわからない。だが、次のカンバーバッチの言葉から察するに、何かキングリッチのことをこれからも支えてやってくれとか、何かそうした文言が続いたらしい。


『いえ、まあ、そりゃもう……一応、ケビンの代わりに今は俺が軍需企業帝国の総帥というか、まとめ役なわけですし。例の計画については順当に進んでいます。はい、もちろんです。今回のことは私にとっては今の立場になってからの初仕事ですから――間違いなく必ず成功させますよ。いえ、絶対にです』


 欲しい情報が比較的早く手に入ったため、盗聴マイクのほうはすぐに撤去してもらい、家政婦として潜入してもらっていた諜報員の女性にもすぐカンバーバッチ邸をやめてもらった。こうした事柄からわかるのは、仮にもしケビン・キングリッチがクローン人間とまで言わなくても、整形した別人か何かになっているということであったかもしれない。


 何より、この場合もっとも気になるのが、ジェイミー・カンバーバッチが口にしていた<例の計画>という言葉であった。これが果たして<大統領暗殺計画>を指すものなのかどうか、今はまだわからない。だが、もし仮にそうだとして話を広げていった場合……今度はドローンを使うということはないだろう、というのがルークやトミー、そしてディランの一致した意見だった。例の宣戦布告文から見ても、次に事を行う時にはそれ以上にもっと凄い事を――といったように文脈からは読み取れる。そして、ドローンよりも攻撃威力が高いといえば、やはりそれは無人航空機ではないのかと、ギルバートたちは推論していたというわけである。


 また、ギルバートはUNOSの特殊事件捜査課にキャサリンと娘のキャリーの捜査を頼んでいたわけだったが、今のところあまり成果のほうは上がっていない。カール・マケインはそのことについてギルバートが情報の出し渋りをしているせいだとし、協力する気がないのであれば、これ以上の捜査は無理だとも言ってきていた。だがギルバートは、マケインと話しているうちに、彼がやはり<ジェネラル>と通じているのではないかとの疑念が強まっていたのである。というのも、エシュロンから抽出した<ジェネラル>とケビン・キングリッチ、またケビン・キングリッチとジェイミー・カンバーバッチが電話で話していた会話――どうも彼はその中身を知り、出来ればその証拠を隠滅したいのではないかと、何かそうした疑いをギルバートに抱かせる言動を幾度か取っていたからである。


 なんにせよ、テイラー・オズモンド大統領が休暇に入るまであと数日……ギルバートは自分の体を容赦なくしごくのと同時に、他になすべきことはないか、計画に抜かりはないか、いつでも頭の中でチェックリストにひとつずつチェックを入れるようにして過ごしていたのである。




 >>続く。








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