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第2章

 なんにしても、離婚して半年がすぎた今は、ギルバートは孤独とともに心の平穏を取り戻していた。キャサリンが夫のぺペロンチーノにコオロギの頭を入れて以来……彼女は喧嘩になって言い負かされそうになるたび、ギルバートがもっとも嫌悪を覚える昆虫食の何がしかを取りだして、夫の目の前でバリボリ食べるようにさえなっていたものだ。


 そして、彼が『やめろ!それだけはよせっ!!』と叫んでも、まるでそんな夫のうろたえぶりを喜ぶように、食用のバッタに頭から齧りついたり、彼が嫌がるのを楽しむため、手いっぱいに食用のゲンゴロウやカメムシを握りしめ、『これでも食らえっ!!』とばかり投げつけてくるのだった。


 このことは、アフガニスタンやイラクなどの戦地で見たのに近いトラウマを、ギルバートの心に残したかもしれない。そして今となってはこう思うのだ――『あんな女とは離婚しておいて良かったのだ』と。何故なら、再び妻にキスしようと思っても、彼女が食べていたバッタやらオケラやらのことを思いだすだにゾッとし、もうそんな気もすっかり起きなくなっていたからである。


 それでも、娘のキャリントンのことを思い、(自分にも悪いところはあった。そのことを思えば、もっと俺も夫婦生活がうまくいくために努力すべきだったんだ)などと彼がくよくよ悩んでいたある夜のこと。ギルバートは後ろ姿の妻が、いつものように白いガウンを羽織ってベッドサイドに腰かけている……という夢を見た。


 そこで『キャサリン』と彼は妻に対して声をかけた。ところが彼女が振り返らなかったため、ギルバートはもう一度、今度は少し強い調子で『おい、キャシー!!』と彼女の名前を呼んだ。すると、キャサリンは振り返ったが――彼女はくちゃくちゃと何かを口の中で噛んでいた。見ると、妻の口の端からはうじ虫がポトリと落ちてきた。ギルバートはゾッとするあまりあとずさりしたが、『わたしから逃げようとするだなんて、許せないわあ』と言いながら、妻はホラー映画よろしく彼のことを追ってきた。そしてギルバートは『うわあああっ!!』と叫びながら家の外へと飛びだした。そして庭を突っ切り、表の歩道を走りに走って、もうこれであの恐ろしい妻も追ってこないだろうと、彼が後ろを振り返った瞬間……ギルバートは目を覚ましていたのだった。


 この夢を見て以降、(俺たちの結婚生活はもう、修復不可能なところまで来ていたんだ)と、ギルバートはようやく納得して、くよくよ悩むことはもうよそうと思えていたものである。


 ギルバートは今、ユトレイシア郊外にある、秘密情報庁本部ビル近くにあるマンションで独り暮らしをしている。歩いて十五分もかからない距離なため、徒歩で通ってもいいくらいだったが、彼は愛車のジャガーXJに乗って通勤している。本部ビルは八角形をしており、八階建てだった。見た目のほうは要塞のように堅牢であり、耐震性も高く、マグニチュード7クラスの地震がやって来ても倒壊することはないと言われている。


 ギルバートは入口のゲートを顔パスで通ると(この場合の顔パスとは、ゲートにある監視システムがギルバートの顔認証を行う、という意味である)、ユトランド共和国の青と白の国旗と、USISの紋章の入った旗がひらめく中庭を通り抜け、彼は次官以上の職員が停めることの出来る地下駐車場へと向かった。車から降り、そこからエレベーターに乗って自分の部署へ行く際も、コンピューターによる顔認証システムが作動しているため、もし仮にここに登録のない人間が入りこんだとすればエレベーターが動くことはない。また、エレベーターに閉じ込められた闖入者をつまみだすために警備局の人間がすっとんでくるというのは、言うまでもないことである。


 ギルバートは、自分がハードケースオフィサーであった頃は、ずっと作戦本部に所属していたが、イラクから帰って来て以降は、情報本部のほうに局長という地位とともに迎えられ、おもにロシアとヨーロッパ地域の情報分析やその資料作成に当たっていた。


 だが、本当につい最近――秘密情報庁長官の長官室へ直々に呼びつけられ、ある極秘任務に当たるよう命じられたのだ。ローレンス・リグビー長官から内線で情報担当局長室へ電話が来た時、実際のところギルバートは(一体自分はどんなヘマをやらかしたのか)と訝ったものだ。


 ユトランド共和国秘密情報庁(USIS)は、作戦本部と情報本部、それに科学技術本部と行政本部からなっており、映画によく出てくるような部署が、作戦本部といっていいだろう。ギルバートがハードケースオフィサーであった頃はここに所属し、中国にいた頃は東アジア部門の情報収集担当官にせっせと報告書を書き送り、ロシアにいた頃はロシア・ヨーロッパ部門の担当官に、アフガニスタン・イラクにいた頃は中東・西アジア部門の情報担当官の指示を仰ぎ、基本的にはその命令に従って行動していたのである。


 そして、情報本部というのは、そうした各地から送られたきた(この中には当然、ユトランド国内のものも含まれる)報告書を評価・分析し、そしてそれを資料としてファイルすることを仕事にしている。つまり、一口に機密事項といっても、一般にマスコミに公開して構わない1~2レベルのものから、3以上の最終的に秘密情報庁長官の承認が公開に必要なものなど、いくつかに分けられる。


 ギルバートは主にロシア・ヨーロッパ各地にいるハードケースオフィサーが収集してきた情報の再評価をそれぞれのユニットとともに行うのだが、自分が情報担当局長になって以降――この二年以上もの間、大した手柄も立てなかったかわり、さしてヘマをしでかしたとも思えず、情報庁長官直々に一体なんの話があるのだろうと、この時実に不安になったものだ。


 それでもこの時ギルバートは、(もしかしたら用というのは、俺が離婚したとか、そういうプライベートなことでかもしれないな)と楽観的に思いもした。というのも、現秘密情報庁長官のローレンス・リグビーは、元が国防省の軍人出身で、ギルバートの父、ヒューイット・コナーとも親しい友人づきあいがあったからである。


 それでも、長官室の革張りのソファに身を沈め、「時に、父上はお元気かね」、「いえ、それは長官のほうがよくご存知のはずですよ。先週も父と一緒にゴルフへ行かれたのでしょう?」だのいう軽い世間話ののち……「実は君に、折り入って頼みたいことがあるのだよ」と切り出された時にはギルバートも驚いた。てっきり、父とゴルフしながら自分の離婚理由などを詳しく聞き、誰か紹介しようとでも言うのだろうかなどと、馬鹿なことを一瞬考えただけに。


「君も、紙クズも同然の報告書の評価や分析に、そろそろ飽きてきたんじゃないかね?」


 リグビーは学生時代はずっとアメフトのディフェンシヴ・タックルだったというだけあって、二メートル近い体格のいい体をした男だった。年齢のほうはギルバートの父と同じ六十三歳。柔和な顔をした切れ者といった雰囲気の、鷹のような鋭い青い目をしている。彼の目が何かしらのターゲットをロックした場合、生半可な力ではそこから逃げ出せないように直感させる威圧感を、誰もが彼からは感じることだろう。


「そんなことはありませんよ。まあ、我が国はイギリスや日本などのようにアメリカの同盟国として協力せざるを得ない立ち位置であるとはいえ……イスラム系のテロリストがテロを起こすには、あまりうまみのない国ですからね。ユトランドでテロを起こしたりするよりも、フランスやドイツなどでテロを起こしたほうが、テロ犯はよほど名を挙げられる。そのようなわけで、対テロ部に上がってくる情報もさして緊急性のありそうなものはほとんどありませんし、私が今扱っているロシア・ヨーロッパ部門の情報というのも――将来的に、相手の手の内をどの程度こちらが知っているのかというブラフとして必要といったところでしょうか。アメリカとイギリスの間に挟まれた、大西洋に浮かぶ小国としてなめられないために、まあ各国の政治の裏事情について相手の弱味をある程度握っておくというのは重要なことです」


「フフフ。君を今の地位に就けたのは他でもないわしなんだがね。コナー君、やはり君は現場向きの人間のようだな。それで、早速本題に入らせてもらいたいのだが、君はこの世界にはびこる悪魔のネットワークというものを信じるかね?」


「…………………」


 リグビー長官の言わんとするところをはかりかねて、ギルバートは黙りこんだ。秘書が先ほど置いていったコーヒーを、一口だけ飲む。


「悪魔のネットワークというのは――ようするに、犯罪組織という意味ですか?作戦本部の麻薬取締センターでは、ブラジルやコロンビアから入ってくる麻薬については、すでにある程度ルートを把握し、その気になれば潰すことも可能であるように思いますが……」


「ハハハハ。まあ、そうだよな。悪魔のネットワークなんて突然言われちゃ、誰だって返答に困るよな。いや、わしは何も君を試したかったわけではないのだよ。この世界には、<悪のエリート>、あるいは<悪魔のエリート>と呼ばれる犯罪組織があるらしく、それがアメリカ支部、イギリス支部、中国支部、ロシア支部、日本支部……といったように枝分かれしているらしい。そして我が国ユトランド共和国にも、ここ首都に悪のエリートの支部が置かれているということだ。わしが君に頼みたかったのは、果たしてそんなふざけた名前の犯罪組織が本当に実在するのかどうか、またもし存在するのであれば、その犯罪組織の脅威というのは我が国においてどの程度のものなのか、調べて欲しいということなのだよ」


(一体どういうことだろう……)


 ギルバートは戸惑った。(悪のエリートだって?何を馬鹿なことを言っているんだ長官は。もしやボケたのではあるまいな)などと思ったわけではない。犯罪組織の中には、あからさまにそれとわからないようにするため、かなり変わった名前の、あるいは馬鹿馬鹿しいスラングや、まるで意味をなさない名称がつけられている場合があるものだ。


 そうした意味合いにおいて、<悪のエリート>、<悪魔のエリート>などという犯罪組織があってもおかしくはないと、ギルバートはそう思っている。だが、その本当に実在するかどうかもわからない犯罪組織の存在を証明せよ、などと言われても――あまりに命令として曖昧模糊としていて、戸惑ったのだ。


「失礼ですが長官。もしや長官は、俺が友人の息子ということで、今まで俺の無能さに目を瞑ってきたけれども、そろそろ限界なので遠まわしに左遷しようというお考えなので?」


「いやいや、違うとも」


 リグビーは、テーブルの上の葉巻入れから葉巻を一本取りだすと、ギルバートにも勧めてくれたが、彼は断った。ケイトリンが妊娠した時から禁煙を決意し、以降葉巻・煙草の類は一度も吸っていない。


「君も、もしやこの長官は少し頭がイカれているのかと思うかもしれないがね、もしこの<悪のエリート>という犯罪組織が実在し、ここユトレイシアにも長く支部が置かれていた場合……ここUSISも決して安全ではなく、ここの情報も向こうに筒抜けなはずだというのだよ。なんにせよ、アメリカのCIA長官の話ではそういうことだったな」


「それはつまり、ここの本部ビルに内通者がいるということですか!?」


 リグビーはシガーカッターで葉巻の先を切ると、「落ち着きたまえ」というように、目だけでギルバートのことを制した。それから、葉巻に火をつけ、優雅に一服してから続ける。


「もし仮に内通者がいた場合、それは一体誰なのか……君、アメリカの人気ドラマの『エイリアス』を見たことはあるかね?」


「ええ。ジェニファー・ガーナーが主演の、CIAを舞台にしたスパイドラマでしたよね?シリーズすべてを見たわけではありませんが、テレビでやっていた時にたまに見たことがあります」


 リグビーは、紫煙をくゆらせながら、ここで一度、まるで噎せるように笑っていた。


「まあ、わしも全編通して見たというわけではないんだがね、あのドラマの中じゃ、大抵が内部に内通者がいるんだな。そして『まさかあいつが』、『あの人が』という人物が何がしかの事情によって裏切りを働くというわけだ。つまり、わし自身の知る限りにおいて……この組織の中で100%に近いくらいクリーンで信じられそうな人間というと、コナー君、きみくらいしかいないのだよ。だがまあ、今までと同じくロシア・ヨーロッパ部門の情報の再評価をしつつ、さらに別の任務もこなせというのは流石に酷な話だ。そこで、だな。君をこの<悪のエリート>という犯罪組織の対策本部長になってもらいたい。これは秘密情報庁内にいくつかある極秘部門のひとつとし、そのような部署があること自体、庁内においても口にされることはないだろう。何故ならこのことを知っているのは今の時点で、君とわしのふたりだけなんだからね」


「で、では……まず最初のうちは部下のひとりもいないという状態ということですか?」


「まあ、そういうことになるな。だが、君がもし他の部署から信用できる職員を引き抜きたいと思ったら、それはそうしてもらって構わない。ただし、その場合はよくよく注意したまえ。その部下や君に近づいてくる者の中には、必ず<悪のエリート>の手の者がいることだろう。もちろん、君が情報次官の地位を外れて別の極秘ミッションに関わっているらしいということは、庁内でもすぐ知れ渡るだろう。そのせいもあって誰かしらは必ず君が何をしているのかを知ろうとして接触してくる。コナー君、きみにはその中にもしかしたら<悪のエリート>の回し者がいるかもしれないと考え、そう覚悟して行動してもらいたい」


「…………………」


 このあと、ギルバートは<悪のエリート>なる組織が、他の国ではどのような活動を行っているのかを聞かされたあと、複雑な物思いで長官室を出た。


『中国では臓器売買だけでなく、政府にすら目をつけられない場所で大っぴらに人体実験まで行っているらしい。そうして得た最新の医療技術や科学技術を他の闇のルートを通して提供したりしているわけだな。他の先進国では違法とされる手術なども金を積めばやってくれるということでな、セレブのお得意様なんかが結構いるらしい。イギリスや、その他各ヨーロッパにも<悪のエリート>の構成員が散らばっており、裏の世界を仕切っているという話だ。また、政財界や経済界の大物にもメンバーに名を連ねている者がいて――ようするにこちらは悪の組織というよりも、秘密結社の形をとっているらしい。コナー君、この我が国においてはまだ謎の多い組織の実態を調べ、わしに実のある報告をしてくれたまえ。期待しているよ……』


 ――その日の午後も早く、情報部局長室の部屋をギルバートが片付けはじめると、彼が長官室に呼ばれてのち、どこか別の部署に配置変えされたらしいという噂は、情報庁内にすぐ広まった。USISは地下三階、地上八階建ての砂色をした建物だが、一階に人事局、警備局、会計局、通信局などを司る行政本部が(ちなみに、ギルバートのことを工作員としてスカウトしたのはこの人事局の職員である)、二階から七階に跨って、情報本部と作戦本部、科学技術本部が入っている。八階には長官室他、特に重要な案件を扱うための作戦室や会議室があり、地下には駐車場の他に射撃訓練場、職員が体を鍛えるための訓練室、膨大な外部持ち出し禁止の資料室などが存在している。


 ギルバートがリグビー長官に呼びだしを受けたあと、七階の一室に新しいオフィスを与えられたと知った情報局長室付きの秘書は、明らかにうろたえていた。しかも、ギルバートが自分の人事異動について一言も語るでもなく、「近いうち、ここには新しい情報局長がやってくるから、これからは彼に仕えてくれ」と言われたのでは尚更だった。


「あのう……それは一体どういったことなんでしょう?もしかして、コナー局長は作戦本部のほうに異動になり、そちらで極秘のミッションか何かに当たられるとか、これはそういう……」


 秘密情報庁の秘書部に所属して六年の美人秘書、アメリア・クリスティは自分の上司がUSIS内でも相当に仕事のできる出世頭のひとりであると知っていた。これまで彼女は庁内で四人の上司に仕えてきたが、セクハラやパワハラに当たることを一切行わず、秘書の仕事のみに集中できるようにしてくれたのは、彼くらいなものだった。


「さてな。どういったものやら。とにかく、俺はこれからもこの庁内のどこかにはいるだろうが……一体どこからどう手をつけたらいいのか今の段階では俺自身にも皆目見当がつかないといった案件を任されたんだ。君と離れなきゃならないのは俺としても残念だが、暫くは部下なし、秘書もなしという環境で仕事をすることになりそうなんでな」


「あの、わたし……お手伝いしましょうか?次の新しい情報局長付きの秘書は、秘書部のほうから他に誰か手配してもらうことにして……わたしがこれからもコナー局長の秘書でいるというわけにはいきませんか?」


 ギルバートはダンボールに自分の私物類を突っ込んでいたのだが、机の上に置いてあったキャリントンの写真を手にとると、一瞬動きが止まった。


「その申し出はありがたいが……俺の秘書なんかになっても、暫くは仕事らしい仕事すらない状態が続くだろうからな。まあ、新しい情報局長は現情報次官のクリフ・コーディだ。君も見知った仲だろうから、その点は安心していいんじゃないか?」


 こう言われて、アメリアは白々しくない咳を何度かした。コーディはギルバートのふたつ下の三十四歳だったが、時々仕事を頼みがてら、妙に彼女に馴れ馴れしい素振りを見せる。けれど、そんな彼の態度を一切拒絶してきて良かったと彼女は思っていた。


 何故といってずっと憧れていた情報局長が、とうとう奥さんと離婚して、いまやフリーとなったのだから!


 そのせいもあってこの日、アメリアは意を決して自分の思いをギルバートに告げることにした。この突然の人事に驚き、コーディが自分の上司に説明を求めても、ギルバートはどこか謎めいた、煙に巻くような返答しかしなかったものだ。


 ギルバートは引っ越しを手伝うというアメリアのことも、「長官に一体何を言われたんですか!?」と問いつめるコーディのことも手だけで拒むと、レベル5以上の情報閲覧権を持つ者しか乗れないエレベーターへ乗りこみ、五階にある二年ほども使い続けた愛着ある情報次官室をあとにしていた。


 唯一、リグビー長官の奇妙な命令に従って得ることの出来た権益といえば、それはこれまではレベル5までの規制のかかった情報までしか閲覧できなかったのが、特別にレベル7までの情報にアクセスすることが出来るようになったことだろうか。実際、こんなうま味でもなければ、もしかしたらギルバートは「その仕事は他の誰かにやらせてください」と言ったかもわからない。


 けれど、七階に用意された、仮の<悪のエリート組織対策室>の室内整理もそこそこに、ギルバートはすぐパソコンに齧りつき、これまで閲覧することの叶わなかったレベル6、さらにはレベル7の情報を貪るように読み耽ったものである。無論その中に、<悪のエリート>に関する、彼らが関わっていると思しき情報を見つけようとしてのことではない。


 ただ、過去にうやむやにされた事件の真相がどういうことだったのか、あるいはUSIS内ではいつ・どこで・誰によってその情報がレベル6、あるいはレベル7に秘匿されるに至ったのか、その過程を知りたいと思ってのことだった。ようするに、ある種の野次馬的好奇心を抑えられなかったのが――その日の夜、十二時過ぎまで彼がアップルコンピューターのパソコンから離れられなかった理由である。


 そして、いくつかの衝撃的事実に胸を打たれていたせいか、ギルバートはその日、少しぼんやりした頭を抱えて、地下駐車場へと向かった。色々な考えごとで頭の中がいっぱいだったせいもあり、自分のジャガーの鍵を開けた途端、車の陰から人が現れたのを見て……背広の内側から反射的に銃を取り出す。


「ち、違います、局長!わたしです。アメリアです」


 アメリアが震え声でそう言うと、ギルバートは背広の内側のホルスターへ銃をすぐ戻した。


「君か、アメリア。だがここは、秘書部のIDじゃ立ち入れないはずの場所だぞ。一体誰がここに君を通した?」


「その……警備局の人に事情を説明して……わたし、どうしても納得できなくって。もちろん、こういう突然の人事異動って、秘密情報庁内じゃ珍しくないってわかってますけど!でもどうしてもわたし、情報次官にお話ししておきたいことがあって……」


「警備局の人って誰だい?その彼の名前を教えてくれ。一応、このことは警備局長に報告……」


 ギルバートが携帯を取りだすと、アメリアは警備局に連絡されると思ったのだろう。ギルバートに突然抱きついていた。


「あの、わたし……っ。局長のことが好きなんですっ。コナー局長がこちらへ戻って来られてからずっと……でも、局長にはとてもお綺麗な奥様がいらっしゃるってわかってましたから、自分の気持ちは封じこめるっていうことにして。局長、わたしがどのくらい本気か、そのことだけでもわかってください。どうか……どうかっ」


(やれやれ、参ったな)という思いと、(もう少し頭がいいかと思いきや、本当の馬鹿なのか、この女は)というふたつの思いがギルバートの中で交錯する。というのも、この地下駐車場だけでなく、秘密情報庁内は監視カメラだらけだ。唯一監視カメラの目が届かない場所といえば、女子トイレの便所内くらいなものだったろう。そこでさえ、手洗いや化粧直しをする場所はカメラの映像にばっちり撮られているという、秘密情報庁というのはようするにそうした場所なのだ。


 つまり、今この瞬間も、警備局の誰かが自分に抱きついている部下の姿を見ているはずだった。もちろん、このままギルバートがアメリアのことをジャガーの助手席に乗せても、あとからいくらでも言い訳は立つ。とはいえ、ギルバートにはこの美人秘書の気持ちに応えるつもりは最初からなかったため……とりあえず、彼女のことを落ち着かせると、車の後部席へ乗せた。アメリアの自宅まで送っていきがてら、彼女の気持ちに応えられないのが何故なのかを説明するために。


「君はとても魅力的な女性だよ、アメリア。俺がこう言うのはね、ただ職務上の問題なんだ。俺は仕事に関係した女性とは一切関係を持ちたくない。だから今も正直、とてももったいないと思ってるよ。離婚したことは、俺にとって結構なダメージになることだったから……そろそろ誰かとつきあいたいと思ってもいたしね」


「だったら、その相手がわたしでもいいじゃありませんかっ。もしかしたら局長は、職務規定を破った秘書に、あんな場所で抱きつかれたりしてびっくりしたかもしれませんけどっ。それと、びっくりしただけじゃなく、重くて怖い女だってわたしのこと思ったかもしれませんけどっ」


 エルメスのバッグからハンカチを取りだして泣きじゃくるアメリアは、とても可愛かった。だからギルバートにしても本当に心から(惜しい)と思ってはいるのだ。


「いや、そんなふうには思わないよ。それにUSISはああした場所だから……所持しているIDによって立ち入れない場所が多すぎる。だから、同じ庁内にいながらにして、俺が君と顔を合わせるってことは、今後滅多にないかもしれない。でも流石にあれはやりすぎだよ。君も秘書部の部長にこっぴどく叱られたくはないだろう?もしかして警備局に誰か、親しくしている人でもいるのかい?」


「…………………」


 相手を庇いだてしてか、頬の涙を拭いながら、アメリアは黙りこんだ。そんな様子の彼女をバックミラーで確認して、ギルバートは溜息を着く。


「まあ、とりあえずこのことは不問ということにしておこう。だけど、明日あたり警備局長から電話が来て、あれはどういうことなんだと問い詰められたら、俺は本当のことを話さざるをえないからね。そのことだけは承知しておいて欲しい」


「わかってます。ただわたしは、仮に応えていただけなかったとしても、自分の気持ちを局長に知っておいていただきたかっただけなんです。本当にこんな、恥かしいです。三十一にもなって……」


 アメリアは茶褐色の髪にブラウンの瞳の、美人だが控えめな感じのする女性だった。頬を真っ赤にして瞳を涙で潤ませているそんな彼女の様子を見ていると――言い方は悪いが、男として食指が動くという気持ちがギルバートにもないわけではない。それに、もし次に結婚するとしたらキャサリンのような気の強いタイプではなく、アメリアのように控え目で夫を支えてくれそうな女性とつきあいたいと思ってもいただけに……。


(だが、流石にタイミングが悪すぎる。彼女と副次官のコーディあたりは、実は<悪のエリート>から派遣された内通者です……なんてことはないだろうが、それでもな。当面の間は近づいてくる職員は全員内通者だと思え、くらいの気持ちで事に当たらなきゃならんと俺は思ったばかりなんだから……)


 そんなわけで、中央駅近くにある高層マンションの前でギルバートはアメリアのことを下ろすということにした。もし彼女のほうでそう誘ってくれるなら、アメリアの部屋へ上がりたいという気持ちはあったが、USIS内におけるセクハラ及びパワハラ規定の文言を思いだし、どうにか上司としての威厳を保つという道を選んだわけである。


「その……変な言い方をするようだけど、アメリア、君の気持ちは嬉しかった。ここのところプライヴェートでも災難続きだったから……自分でもまだこんなことがあるんだと思ったら、明日からも仕事を頑張れる気がするよ。君も知ってのとおり、長官から呼びだしを受けたのは、ある極秘プロジェクトのためでね。今はそのことで頭がいっぱいなもんだから、新しく誰か女性と真剣なおつきあいをするとか、そういうわけにもいかないし……」


 ここで最後、車から降りるのに後部シートをずれていたアメリアは、突然わっと泣きだしていた。


「局長っ!そんなお優しいこと、おっしゃらないでくださいっ。そんなこと言われたら、諦めるに諦められないじゃありませんかっ。わたし、本当に……わたしは本気ですけど、局長は遊びで構わないんです。今日、もう局長の秘書でいられないって聞いて、本当にものすごく落ち込みましたけど、そうでもなかったら、自分の気持ちを告げる勇気もでませんでした。今、もしよろしかったら部屋に上がっていかれませんか?あの……わたし、局長とだったら一晩だけとか、そういう関係でも構いませんし……」


「ありがとう、アメリア。そう言ってもらえて本当に嬉しいし、そうしたい気持ちも物凄くある。だけど、ここで自分の仕事のポリシーを曲げるわけにはいかないんだ。ただ、コーディには気をつけるんだよ。あいつは仕事の出来る奴だけど、ちょっと気の多すぎる嫌いがあるからね」


「そんなこと、わかってます」


 この時だけ、アメリアはいつものキリッとした秘書の顔に戻って言った。


「第一あの人、秘書たちの間じゃ評判悪いんです。<秘書>って名前さえついてたら、誰でもいいんじゃないかって言われてるくらいなんですよ。あんな人、局長の誠実さの足許にも及びませんものっ」


 ここでギルバートが思わず笑みを洩らすと、アメリアは真っ赤になって急いで車を降りた。車を発進させて数メートル進んでも、サイドミラーには黒のジャガーを見送るアメリアの姿が映っていたが、(いや、やっぱりこれで良かったんだ)と、ギルバートは溜息とともに何かを諦めた。


(第一、コーディのこともあるしな。あいつは気の多い奴ではあるが、唯一アメリアにだけはアプローチの仕方がちょっと本気っぽい。まあ、秘書と職員の誰かしらが恋愛関係にあったり不倫してたりなんていうことは噂じゃ聞くが……実際に結婚したなんて話はたまにしか聞かないから、ようするにそういうことなんだろうな)


 ギルバートは、ほとんど寝に帰るだけにも近い自宅マンションへ戻ると、今日自分が見たレベル6及びレベル7の情報群について思いを馳せ――思考を整理した。もっともその中には、<悪のエリート>及び<悪魔のエリート>に関係するような情報はほとんどなかった。だが、これまで一般の報道ではグレーのかかったままだったニュースについて、霧の晴れたあとのビル郡みたいに、すべての輪郭が彼にははっきり見えていた。そして、(そうか。そういうことだったのか……)との衝撃が、部屋に独りきりになってからようやくのことで過ぎ去っていたのである。


 それと、レベル6の情報の中に、彼がひとつだけ気になるファイルがあった。ユトレイシア市内にある、もっとも悪名高いハーレム地区に<六本指の悪魔シックスフィンガーズデビル>と呼ばれるボスがいるらしい。麻薬や銃の売買、パスポートの偽造など、真面目に働いている人間が馬鹿らしくなるほど儲けているらしいが、どうやら警察でさえも手出しが出来ないらしい。


 というのも、<悪>というものに対するひとつの考え方として……犯罪組織というものは潰しても潰しても結局は雨後のタケノコのように名前を変えて新たな組織が次々出てきてしまうものだ。そこで、その<悪の組織>をしっかりと治めることの出来る力強いリーダーがそこにいたとしよう。この場合、彼、あるいは彼らにある一定の犯罪テリトリーを任せておいて、一般の市民を巻きこむような事件が起きた時のみ捜査協力するよう「協定」を結んでおいたほうが、警察にとってはやりやすいというところがある。


 もっともこのシックスフィンガーデビルの場合、ユトレイシア市警とはもともと相当な癒着関係にあるようで、彼を逮捕した場合、一般市民に知られたくない政治家や警察官僚の不祥事がいくつも暴露されることになるだろうということで――誰も彼には手出し出来ないという裏事情があるらしい。


 実際のところ、殺人事件の捜査に行き詰った時など、この六本指の悪魔に警部クラスの人間が電話するということはよくあると報告書にはあった。ようするに、犯罪組織のことは犯罪組織に聞けというわけである。そしてこうした情報提供をするかわりに、麻薬売買のことではお目こぼししてもらうというわけだった。


 実をいうと、ギルバートがこの情報に特に着目したのには二つほど理由がある。まずひとつ目が、自分でも安直とは思うが、犯罪組織の名前にデビル、悪魔という名称がつけられていること。またふたつ目が、このくらいの情報であればせいぜいのところを言ってレベル4くらいにランクされるような情報であるにも関わらず……何故レベル6に分類されているのだろうか?


 翌日、このことを取っ掛かりとして、<六本指の悪魔>についてギルバートは調べはじめたのだが、自分で思っていた以上にあっさり<六本指の悪魔>という犯罪組織のボスの顔が割れた。ギルバートはまず、ユトレイシア市内の病院に、「多指症」と診断された子供がどのくらいいるのかを調べ――六本指の子供が生まれる可能性は、手では出生千人に対して1~2人、足では出生二千人に対して1~2人くらいの割合で発生するらしい――その後、形成手術を受けた子供についてはボスの可能性はないとして排除していったのだが……その中で唯一残ったのが、ジム・クロウという名前の黒人だった。


 ギルバートは、アメリカのジム・クロウ法のことを思いだしてつい苦笑してしまったが、彼の経歴等を見て可能性は高いかもしれないと結論づけた。<六本指の悪魔>という組織が生まれたのがいつ頃なのかはわからない。だが、レベル6のファイルに入れられたのが今から十年前――ということは、意外にも歴史の浅い、案外若い犯罪組織なのかもしれなかった。というのもこのジム・クロウ、年齢がまだほんの二十九歳だったからである。


(対麻薬対策センターの部長に確認の連絡を取るまでもなかったな。てっきり、もう長く存在している息の長い犯罪組織なのだろうとばかり思っていたが……それで、初代のボスは六本指だったが、今の三代目のボスの指はちゃんと五本だとか、そういうことではないかと想像していたのに、なんとなんと)


 ジム・クロウの犯罪歴は錚々たるものだった。兄弟姉妹が全部で十六人おり、麻薬中毒の母親が体を売るたびにその相手の男を次から次へと殺害。十二歳の時にはじめて捕まるものの、あまりにも劣悪な環境に置かれていたことが三十四人もの男を殺すことになった原因だろうとして、初等少年院ではなく医療少年院送りになっている。だがその後、「自分はすっかり心を入れ替えてまともになった」という振りをし、ほんの三年で医療少年院を出、自分の生まれ育ったハーレムに戻っている。そこでジム・クロウはその一帯を取り仕切る犯罪組織に対して血の粛清を行い、ほんの十六歳にしていくつもの対立しあっていた犯罪組織を統合。まだ若いにも関わらず、彼には独裁者としてのカリスマ性があり、ほとんどその人気は一帯の犯罪者たちの間ではカルト的ですらあるという。


(いわゆる、ダークヒーローというやつか。確かに、彼が何人人を殺害しようとも、証言を偽証する者や身代わりとして刑務所に入ってもいいという人間がいくらでもいるわけだから……まあ確かにこれでは捕まらないわけだ)


 しかも、気に入らない相手や裏切りを働いた相手にはそれこそ血も涙もないが、一度自分のために逮捕されるなどした部下にはとても情に厚かった。しょっちゅう刑務所を訪れては差し入れをして不自由のないようにし、看守に多額の賄賂を送るということまでしている。


(それでいて、自分と父親違いの兄弟のことはのちの権力争いを懸念してか、その忠実性に懸念を覚えた段階で殺している。そのせいで、四人いた兄と三人いた弟のうち、すでに五人が死亡しているとはな。姉妹たちの配偶者も、犯罪のうま味に群がるようにしてジム・クロウに従っていたが、何か揉めそうな兆しが見えた時点で姉や妹含め、血の繋がったおじやおば、従兄弟なども容赦なく殺害しているとは……これでは確かに<シックスフィンガーズデビル>と呼ばれるわけだ)


 また、報告書の中には、唯一父親が同じ弟のノエルのことだけは腹心の部下としてそばに置いているとあることから――(まあ、もし近づくとすれば、このあたりからだろうな)と、ギルバートは見当をつけた。(はて、どうしたものか)と、書斎机の前で椅子を一回転させる。


 ギルバートが新たに<悪のエリート対策本部室(仮)>として与えられた場所は、それまで五階で使用していた情報次官室と広さ的にはそれほど変わりなく、隣に応接室や専用の作戦会議室などもあったが、今はまだこの場所には彼ひとりしか在籍してはいない。


 実をいうとギルバートは、このことでもしある一定の手柄をあげることが出来たとしても、それが自分の出世にプラスになるだろう……といったようにはあまり考えていない。だが、リグビー長官が「紙クズも同然の報告書に目を通すのにも飽きただろう」と言っていたように、ギルバートは最初は憂鬱に感じたこの新しい仕事に除々に面白味を見出しつつあった。


 何故かといえば、ユトレイシア秘密情報庁というのは――世界のインテリジェンス機関の中では、それほど高い情報収集能力があるとは言えない。というのも、その一番の理由としては地理的なことがあげられるだろう。ギルバートはほんの二日前まで、ロシア・ヨーロッパ部門の情報担当局長だったわけだが、長官が言っていたとおり、そこから上がってくる各国情報収集員たちの報告書というのは、実質的な意味をなさない「紙クズ」である場合が多いのだ。


 IQ120以上の者しか入庁できないだけあって、確かに報告書の文章のほうは立派で物々しい調子で書かれてある場合が多い。だが、その中のほんの二行か三行でも、たまに諜報活動として有用なものがあればいいほうで、大抵がただ「ある程度報告書の数をこなさくてはならないから」といったような調子で、ひどい場合はネットや新聞でも読めば十分手に入るような情報を馬鹿丁寧に重々しい調子で知らせてくる場合まであるほどだ。


 つまり、ここユトレイシア秘密情報庁では、第二次世界大戦以降、確実に諜報能力の精度のほうは落ちていた。何か有事があった際には、同盟を結んでいるアメリカに軍事的には守ってもらえるし、地理的な意味でロシアやヨーロッパ各国は決して切羽詰った脅威とはなりえない。また、イギリスとは昔から兄弟といった間柄であり、もし仮にヨーロッパのどこかの国がユトレイシアに攻めこんでくるのだとしても――その際にはイギリスが決して黙ってなどいないし、盾となって守ってくれることだろう。


 たとえば、イスラエルの国家インテリジェンス機関であるモサドなどは、周囲をぐるりと敵に囲まれているも同然なだけに、その情報収集能力は世界屈指と言われるわけだが、ユトランド共和国にはそのような差し迫った国家的脅威が存在していない。それでも、2001年に起きたアフガニスタン戦争は、長く平和ボケしていたも同然のこの国に、思いもかけぬ形でカンフル剤を打ったと言えたに違いない。


 何故かといえば、あんな地球の裏側といっていい砂漠の国に軍隊を送りこんで戦争を起こすなどとは……誰も予想してもみない気違い沙汰だったわけだが、アメリカが重要な同盟国であるユトランド共和国としては、「気が狂っているぞ、ブッシュ大統領!!」と叫ぶことも出来ず、国民の反対を押し切る形でアフガニスタンやイラクに2万名もの兵士を派遣しなくてはならなかったからである。


 と、同時に戦時下にあって、ユトレイシア秘密情報庁のほうも俄かに忙しくなってきた。半ばほとんど一般企業サラリーマンと化していた情報収集員が世界各地から呼び戻され、今度は文字通り自分の命のかかった諜報活動に身を捧げるということになったのだ。


 あのアフガニスタンでの二年と、イラクで過ごした一年ほどの歳月のことを思うと、今もギルバートは眩暈を覚えそうになるほどだった。だが、他国の気が狂ったとしか思えない意志に踊らされるのではなく……もしこの<悪のエリート>、<悪魔のエリート>と呼ばれる犯罪組織が実在しており、彼の祖国を内側から寄生して操ろうとしているのが本当だというのなら――これはもしかしたら砂漠の国でいつ自爆テロに巻き込まれるかと怯えながら諜報活動を行うよりも、よほど価値のあることかもしれなかった。


 とはいえ、この<悪のエリート対策本部>という笑ってしまいそうな部署のボスである自分が、直接動くというのはあまりにもリスクが大きい。そこで、ギルバートは対麻薬取締センターと、警察庁の友人にそれぞれ電話をかけ、いくつかの確認を取ったのち、自分が<駒>としている人間にひとり、動いてもらうことにしたのである。




 >>続く。








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