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第17章

 アメリカ・イギリス大使館同時爆破事件が起きてから二週間後……ブラックバイパー社の開発部門に潜入していたジェイコブ・ゴードンこと、ロドニー・オーウェンが死んだ。地下鉄駅の階段から足を滑らせたということだったが、当然ながらギルバートたちにはそう思えなかった。


 監視カメラのほうにはジェイが階段で足を滑らせたところが映っているわけでもなく、かといって彼が誰かに後ろから押された証拠が残っているわけでもなく……だが、ロドニーの家族の許可を取って検視に回してみても、ジム・クロウの時と同じく他殺の証拠が何か出てくるでもなかった。


「参ったな。どう思う、ギルバート?」


 ロドニーの死は、誰にとっても痛手だった。その後、ロドニーが新型のジェットエンジンを開発する仕事の傍ら調べたところによると、ブラックバイパー社には開発部の他に<極秘開発部門>という部署があり、そちらは警備のほうも厳重で、一般社員は容易には近づけないということだった。そしてその報告が最後にあってのち、ロドニーは不審な死を遂げるということになったのである。


「ロドニーには、もっと早くブラックバイパー社から引き上げてもらっていたら良かったな。クリス・メイソンのことを捕獲したあとは、何も彼にあのままブラックバイパーにいてもらう必要はなかったんだ。カレンにも念のため、退社してもらおう。それにしても、<極秘開発部門>か……黒に近い灰色だったのがますます黒に近づいてきたな。だが、そこであのドローンを改造していたというより、それ以外に何か知られたくない軍事的機密事項があるのかもしれない」


 ちなみに、対テロセンターのほうでは、ダークウェブにてドローンを百台以上購入した人物を特定していたが、逮捕後、彼はまったく関係のないことがわかり釈放された。こうして、アメリカ・イギリス同時爆破事件の犯人が誰なのかは暗礁に乗り上げつつあったと言える。


「確かに、可能性として」と、溜息をついてディラン。「ブラックバイパー社がクロである確率はこれでさらに高まった。でも、ブラックバイパー社がアメリカ・イギリス同時爆破テロにまったく関係のない可能性もある。その<極秘開発部門>っていう部署は、カンバーバッチ社やエドマンド社にも昔から存在するものらしいよ。ロドニーが今までに中国のスパイを二人ほど特定して国外追放にしたみたいに――そういう種類の産業スパイっていうのは今までにも結構潜りこんでいたらしい。冷戦時代は言うまでもなく、ソ連からのスパイが特に多かったということだし、そう考えた場合、<極秘開発部門>を嗅ぎ回ってる野良犬がいるって判断されたということなのかもしれない」


「だからって、普通事故に見せかけてまで殺すかよ」


 トミーがショックに打ちひしがれた様子でそう言った。彼は前にも何度かロドニーとは仕事で組んだことがあるだけに……なおのこと、今回のことでは打撃が大きかったのである。


「やはり、問題はそこですな」と、ルーク。「普通、産業スパイが自分の会社に潜りこんでいると知ったら、クビにする、あるいは他国人であるなら国外退去させるなど、やり方はいくらでもある。なのに何故わざわざここまでのことをしたんでしょうな。もし、わたしがもう少し若ければ……ブラックバイパー社へ潜りこむことを考えるところですが、この老体ではむしろ邪魔になるだけでしょうし」


「俺がやるよ」と、トミーが言った。「それで、ロドニーの仇をとってやる」


 トミーが珍しく冷静さを欠いているように見えたため、そんな部下のことをギルバートは諌めた。


「そう感情的になるな、トミー。そんなことじゃ、むしろ相手の思うつぼだ。カレンも今度は自分が慎重に調べを進めると言っていたが、俺は引き上げさせるべきだと思ってる。おそらく、俺が思うに……USISから潜入させた他の諜報員の中に、間違いなく裏切り者がいるんだ。いわゆる、ミイラ捕りがミイラになったというやつさ。通常業務の他に諜報員としての調べも進めるというのは実際大変なことだ。だが、USIS職員としての給与だけじゃなく、ブラックバイパー社からも収入を得られるという意味では、条件としてそう悪くもなかろう。ミッションを完遂させた暁には特別ボーナスが出ることだってあるからな。だが、ブラックバイパー社側からこちらへ寝返るように言われ、その提示された金額が法外とまでいかなくても相当なものだったとしたら、自ら自分の体に包帯を巻きはじめてもおかしくはないだろうな」


「じゃあ、ブラックバイパー社に潜入してるUSISの職員が同じ諜報員のロドニーを殺したっていうのかよ?」


 それなら、なおのこと許せない――トミーはそんな感情を露わにして目を剥いた。


「もちろん絶対にそうだとは断定できない。そういうミイラ諜報員がいるかもしれない危険性については、最初からロドニーに話してあったとはいえ……ここから先の話は、俺が勝手にそう仮定していると思って聞いてくれ。もし、この件に<ジェネラル>が絡んでいた場合、あんな大きな事件を起こしたあとだ。どんなに入念に証拠を消してあっても、どんな犯罪にも100%絶対ということはない以上、<ジェネラル>、あるいは彼の一派はかなり神経質になっていた可能性がある。もしブラックバイパー社の<極秘開発部門>で例のドローン、あるいはあのドローンに繋がる何かを今もそこに温存しているか、同型機がまだ残っているのだとしよう。そこを嗅ぎ回っている野良犬がいたとなれば、確かにそれは殺すという判断が下されるかもしれない。また、ここにはもうひとつ別の意味も含まれる。すなわち、ロドニーのバックにいる俺たちに対し、警告をして寄越したということだ。『これ以上こちらに何かしようなぞと考えるなよ』という」


「確かにね」と、ディラン。「それに、その<極秘開発部門>では例のステルス戦闘機をレーダーに映しだすレーダー探知機も開発してたんだろうからね。それはもう極秘どころか超極秘事項っていうところだよ。そう考えた場合、わからなくはないんだ。僕もこれがもしロドニーじゃなく、ロシアあたりのスパイが嗅ぎ回っていて死んだということなら……自業自得と思ったかもしれない。でも、ロドニーは同じユトレイシア人で、その前に中国人のスパイを摘発してもいるんだからね。ギルバート、僕はロドニーの仇を取るためには……我が国における五大軍需企業の内情を暴くことが一番じゃないかっていう気がするけど、どう思う?」


 ブラックバイパー社、カンバーバッチ社、エドマンド社、べレスフォード社、ブラットナー社――彼らがカルテルを組んでいるという話ならば、ギルバートはすでにしてあった。もっとも、その情報源については「ある筋」という言い方をして誤魔化しておいたのだが。


「もちろん、そのためにはリグビー長官の許可がいるな」と、溜息を着いてギルバート。「そんな事実は、USISのほうではとっくの昔に掴んでいた。つまり、政財界との深い癒着から、この件については誰もがずっとスルーしてきたんだ。だが、もし長官の許可さえ下りるなら……この事実を表沙汰にすることがロドニーの仇を取ることになると、俺もそう思う」


「もともと、ユトランド共和国には軍隊は必要ないという議論は昔からありましたからね」と、ルーク。「何故といって、地政的にユトランド共和国というのはアメリカとイギリスに挟まれていますから、この時点で一体どこの国の軍隊が攻めてくるのかという話でもありますし……有事の際には同盟を組んでいるアメリカ、イギリス双方から軍隊がすっ飛んでくるという状況なんですから。ゆえに、世論は何かあるとすぐに軍縮、軍縮と口を揃えて唱える傾向が強かった。そうした中で何故ブラックバイパー社やカンバーバッチ社、エドマンド社など主要軍事企業が生き残ってきたかというと、まず造る戦闘機や攻撃ヘリコプターや輸送機、あるいは海軍なら空母や艦隊、陸軍の戦車など、我が国の軍事企業の製造するものは非常に性能が良かったのです。しかも、アメリカの軍事企業の造りだすものより、随分コストのほうも抑えられている。ですから、実はユトランド共和国で製造したものをアメリカへ輸出したほうが、アメリカは実は相当費用を軽減できるんですよ。ジョン・キーナムはそのあたりのことを嗅ぎつけて利権を求めてうろついているように見えますが……こうなると、彼を消そうとした<ジェネラル>の目的もなんとなくわかりますな。我が国の軍需企業のCEOらは、もともとあまり露出を好みません。以前、ユトランドの五大軍需企業の成り立ちについては、みなさんに説明したと思いますが……」


 トミーとディランとギルバートの三人は、覚えている、というように頷いてみせる。


「ブラックバイパー社の創設は、アンソニー・ブラックという飛行機への狂熱に取り憑かれた男によってでした。彼は機械工として非常に優秀な男で、最初は特に経営のほうが不安定でしたから、とにかくコスト計算にうるさい男だったんですよ。不思議ですがね、最初は彼ひとりからはじまったこれらの軍事企業は、代々似た性質を受け継いできているんですよ。何分、国民の血税によって国防予算というのは組まれていますからね……そこから予算が出る以上、一ドルたりとも無駄にするなというポリシーを今に至るまで彼らは保持してきているんです。確かに、政財界とは切っても切れぬ深い癒着の関係にあるでしょうし、そのあたりのことをスッパ抜こうとしたジャーナリストたちは消されるということもよくあった。それでも、アメリカのロッキード・マーティンなどに比べると、我が国の軍需企業はまこと優秀と言わねばならないでしょうな。試験段階でもほとんど事故を起こしたということがありませんし、そういった種類のスキャンダルとはまったく無縁です。ましてや、強欲に国家予算を無駄に食い潰すといったこともほとんどしたことがありません」


「ルークのその理論でいくと、もしかしてブラックバイパー社やエドマンド社なんかは、アメリカのロッキードなんかと比べると優良企業だからこれからもお目こぼしを受け続けるべきだみたいに聞こえるけど?」


 ディランはルークがまとめてくれたユトランド共和国の五大軍需企業のファイルを見ながら笑う。


「とんでもない。そうは言っておりませんよ。ただ、主要軍需企業五社のCEOやCOO、あるいは重役たちの考え方というのは……インタビュー記事などをまとめてみましたが、彼らの経営理念というのは非常にストイックなものです。つまり、彼ら自身あるジレンマを抱えていると、自ら認めてすらいるのです。戦闘機も地対空ミサイルも空母も艦隊も戦車も、一台も造らなくてよい世の中になって欲しいし、もしそうなれば我々は宇宙事業のみに専念できる、そんな世の中になって欲しいと彼らはよく言っていますな。また、国民たちの国防予算をもっと削るべきだという意見もよくわかると……彼らはこうした批判の矢面に立たされたくないがゆえに、本心はどうかは別として、ユト国民の耳に聞こえのいいことばかりを公式の場では口にしてきたわけですな。ですが、とうとうそんな彼らの栄光の日々もこれで終焉を迎えるということになるかもしれません」


 これがわたしの結論です、というようにルークが両手を広げると、トミーもディランも微笑んだ。ルークは時々、結論に至るまでの語りが冗長なのが玉に瑕だが、そんな彼の持つ諜報員としての豊かな知識と経験というのは、やはり敬うだけの価値あるものだったといえよう。


「じゃあ、これからリグビー長官と連絡を取ってみるよ」


 ギルバートはブリーフィングルームを出ると、自分のオフィスのほうで長官室に電話をかけた。秘書が出て、「長官は今国防相と電話中で……あ、終わったようですので、すぐお繋ぎ致しますね」


 短いコール音ののち、リグビー長官その人が受話器を取る。


「コナー君か。その後、何か進展したかね?」


 もちろん長官には、この時点ですでに、例のアメリカ・イギリス同時爆破事件について、もしかしたら<ジェネラル>がバックにいるかもしれないという報告はしてあった。また、その部分で対テロセンターの捜査と重なるところがあるため、連携体制を取っているということも。


「エージェントのロドニー・オーウェンが不審な死を遂げたということはすでに御報告済みですが……何分、他の軍需企業に潜入しているUSIS諜報員が実はそのことで結託しはじめてるんです。俺個人の考えとしては、彼とほぼ同時期に事務部に入社させた職員のことは引き上げさせたいと思っているのですが、同じ仕事をしている職員たちにはとても他人事とは思えなかったんでしょう。おそらく、彼らは今後少々熱心に仕事のほうに励むかもしれないと思うのですが……その力を正しい方向へ向けることに、長官には賛同していただけるでしょうか?」


『なんだね。わたしが忙しいことは君もわかっているはずだよ、コナー君。歯の間に物が挟まっているような話し方をしないで、言いたいことがあるならはっきり言いたまえ』


 実はこの時、国防相のキース・ウィルソンと軽い言い合いになっていたため、リグビーは少しばかり機嫌が悪かった。石頭のウィルソンは、『犯人は絶対にイスラム過激派だ。奴らのあじとを徹底的に洗え!』の一点張りで、リグビーが何か意に反することを言うと『そんなはずはない』という言葉を繰り返していた。そして、電話をかけてきた最初の用件――『USISが総力を上げていて、この程度の情報しか捻りだせないのか』との――をしつこく問いただすのであった。


「長官におかれましては、非常に恐縮ですが」と、ギルバートも言葉を選ばざるをえない。「我が国の五大軍需企業、エドマンド社、カンバーバッチ社、ブラックバイパー社、べレスフォード社、ブラットナー社がカルテルを組んでいるというのは、長官もご存じのことと思います。そこで、この事実を我々のほうで適切なジャーナリストと媒体を選んで明かすというのが、ロドニー・オーウェンへのせめてものはなむけになることかと思いまして……」


「…………………」


 暫く沈黙が落ちたため、ギルバートとしては叱責の言葉が飛んでくることを覚悟したが、ここで何故か、ローレンス・リグビーは可々大笑していた。そして、次の瞬間には意外なことを口にしていたのである。


『君の好きなようにしたまえ、コナー君。ロドニー・オーウェンのことはわたしも残念だと思っている。エージェントとして非常に優秀な男だったからね……軍需企業と政財界にある膿みは、もしかしたらそろそろ摘出されてしかるべきなのかもしれない。だが、オズモンド大統領の手前、わたしはこの件には一切噛んでいないということにしておこう。優秀なエージェントがひとり殺されたことで、彼へのせめてもの手向けに他のUSIS職員が動いたと、わたしとしての言い分はこうだ。わかったかね?』


「えっと、リグビー長官。本当によろしいので?」


 必ず反対されるところをなんとか説得する方向へ持っていかなければ……と思っていただけに、ギルバートは少しばかり拍子抜けした。現ユトランド共和国の大統領、テイラー・オズモンドは保守党だが、彼が大統領として再選するためには五大軍需企業が擁する票田というのが非常に重要だというのは言うまでもない。


『ああ、構わん。たった今、国防相のあの石頭と話をしておったんだが、あいつもあの軍需企業のほうから相当の恩義を受けている口だろう。前国防相のアーロン・アシュクロフトは話せる口だったが、あいつは超タカ派の軍人上がりで、わしとは気が合わん。まあ、そういうわけだから、わたしは今回のコナー君の提案は聞かなかったことにする。これでいいかね?』


「は、はあ。ですが長官、本当によろしいのですか?軍需企業と癒着のあるのは、何もキース・ウィルソンだけではありませんし、軍需企業の工場のある州出身の政治家は大抵が互恵関係にあるのが普通です。あとから長官のお立場が悪くなるのでは……」


『ハハハ。どうやら君は、わたしが最初から強硬に反対するものと思って電話してきたのかね?心配はいらんよ。このことでわたしに文句を言える政治家は少ない……大統領ですら、強くはものを言えんだろう。何故かわかるかね?』


「…………………」


 ギルバートが答えかねて沈黙していると、リグビーは続けた。


『向こうが世間に公表されたくないネタなど、わたしのほうでしっかり握っておるからさ。オズモンド大統領でも、わたしのことはそうおいそれとは解任すること出来んよ。まあ、そういったわけだから、君の好きなようにしたまえ』


「はい。ありがとうございます、長官」


 ――ここでまた、別の筋から電話が入ったらしく、リグビー長官とギルバートの会話は一旦ここまでということになった。なんにせよ、これで長官のお墨つきを得ることは出来たわけだ。もっと説得に難航するだろうと思っていただけに、ギルバートはなんだか肩透かしを食ったような気さえしたくらいだ。


 こうして、ユトランド国内における五大軍需企業がカルテルを組んでいるという証拠が、ブラックバイパー社、カンバーバッチ社、エドマンド社、べレスフォード社、ブラットナー社にそれぞれ潜入しているUSIS職員より総力を尽くして集められるということになり――彼らは同じ諜報員として、明日は我が身との思いもあり、ロドニーの死にはひどく同情的だった――公表の手はずのほうは一月としてかからず整っていた。


 最後に、どの媒体から発表するかという問題があったが、新聞のユトレイシア・ジャーナルとユトランド・クロニクル紙の二社に絞られ、ルークが軍事関係のことに詳しい信頼できるジャーナリストを知っていたため、情報のほうは彼を通じて記事にされるということになった。


 何分、どのメディアも飛びつきたいような大スクープであったため、11月14日のユトランド・クロニクル紙の朝刊が発行されるなり、テレビのニュースやワイドショーは連日この件に関して長い特集を組んでいたものだ。もともと、イラク戦争行きには国民の7割以上が反対していたということもあり、翌週の日曜日には<ユトランドに軍需産業はいらない>との横断幕を掲げた平和主義者たちのデモが起こっていた。ネットの反応のほうを見ても、この軍需企業がいかに黒い秘密体質の組織かといったことが槍玉に上げられ、こてんぱんに非難の的にされていたといえる。


「まあ、これでロドニーの命が戻ってくるっていうわけでもないけど……」会議室で、テレビのワイドショーを見ながらディランが言った。「これで軍需企業に対する健全な監視体制が出来るだろうし、健全な抑止力ってものが働くと思う。何より、僕たちにとっても最大の復讐が出来たとともに、相手の次なる一手の封じ込めにも成功したといったところだよね?」


 ギルバートは隣のディランに顔を覗きこまれ、「確かにそうだな」と言って、組んでいた腕をほどいた。


「主要軍需産業のほうには、軍事委員会から調査の手が入ることになったし……といってもこれは、実際は形ばかりのものだ。こいつらは全員グルの身内みたいなものだからな。だが、リグビー長官の政治力で、<機密開発部門>ではどういった研究や開発がなされているのか、その報告書のほうはこちらにも回してもらえそうだ。もちろん、馬鹿正直にドローンを改造しただのなんだの、そんなことを向こうもこちらへ教えたりはしないだろう。ただ、あの宣戦布告文は、このことを皮切りにさらに大きなテロ事件を起こすつもりだ――といったようなことを匂わせているような文面だったからな。これで暫くは<ジェネラル>も動けまいという意味で、我々は今回の件で十分な成果を得ることが出来たといっていいんじゃないか?」


 ここで、トミーとルークが頷いていた時――トミーが開いていたパソコンに、一通のメールが届いたことに気づいた。ちなみに、メール自体はギルバート宛てのもので、やりとりについてはすべて暗号化されている。


「ギルバート、メールが一通来てるけど、俺が開いてもいいか?」


「ああ。別に構わんが、どこからのものだ?」


 仕事用なので、プライヴェートな内容のものはほぼ絶対に届くことはない。そう思い、ギルバートは気安く応じていた。


「国家安全保障局からだ。ええと……これ、あれだな。主要軍需企業の電話での会話やメールの通信文で<ジェネラル>という言葉を彼らが呟いてないかどうかっていう依頼をおまえ、してたんだろ?ええと……」


 このあと、数瞬の間があったあと、トミーは「えええーっ!!」と大声を出していた。


「ギ、ギギギ、ギルバートっ!!すす、すごいぜ、これ。おまえ、自分の目でしっかり読んでみろよ!!」


 ギルバートが(どれどれ)といった様子で、パソコンのスクリーンを覗きこむと、後ろから興味深げにディランとルークもメールの内容文を読もうとした。途端、三人とも目を見開いて顔を見合わせる。



 >>『なんでも、父の話では<ジェネラル>というのは代替わりするものらしいからな。もしケビンが今までの<ジェネラル>と違うように感じるなら……もしかしたら前とは別の人物なのかもしれないな。声のほうだって、中年の落ち着いた男って感じがしたけど、あれだって自分の好きな人間の声に変換できるシステムを使ってるだけかもしれないんだから』


『まあ、俺も何か心配してるっていうわけではないんだがな。ただ、もし<ジェネラル>が代替わりしたっていうんなら、前の<ジェネラル>はどちらかという消極的だったと思うんだ。連絡のほうもこちらからしなければほとんど向こうからは必要最低限以外音沙汰なしだった。ところが、今度の<ジェネラル>はどちらかといえば積極的なんだ。そして、前の<ジェネラル>は掃除人スリーパーを動かすのに失敗なぞしたことは一度もなかった。ところが、今回初めてジョン・キーナムという男を仕留め損なったわけだ……』


『そう気にするなよ、ケビン。<ジェネラル>なんて所詮は、我々が忠誠を誓う<秘密結社リヴァイアサン>の汚れ仕事を請け負う機関の首領に過ぎない。もし今の<ジェネラル>がまだ新米だっていうんなら、たまにへまをやらかすこともあるだろう。まあ、そういうことさ。それに、あのアメリカのジョン・キーナムという男も、我々に言わせればただの小物に過ぎないからな』


『それもそうだな』



 アメリカの国家安全保障局(NSA)でエシュロンを使い、全世界の家の電話だけでなく、携帯電話、パソコンのメールなどの通信文をすべて集積し、重要なものは保存し解析しているというのは、いまやとても有名な話となった。そしてSix Eyesと呼ばれるアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ユトランド共和国の六か国は、そのエシュロンの集めた膨大な量のデータを諜報機関等で閲覧することが許されている。そしてこの時ギルバートは、ユトランドの主要軍需企業に限定して、彼らの電話での会話やパソコンでのメールのやりとりの中に<ジェネラル>という言葉がないかどうか調べてほしいとユトランドの国家安全保障局に依頼していたというわけなのである。



 また、ケビン・キングリッチが直接<ジェネラル>と話していた会話についてもメールの中に書き記されており、その添付された音声ファイルは次のようなものだった。



 >>『では、そのキャサリン・ガードナーという女性と、スポーツクラブで知り合いになればいいので?』


『そうだ。彼女はそのスポーツクラブのゴールドメンバーだから、二十四時間いつ出かけていっても、料金のほうは変わらない。だが、部下に探らせたところ、週に二回か三回、火曜の午前中と、金曜日の午後、三時から五時くらいの間に来ることが多いようだ。あとは土曜か日曜にも変則的に来ることがあるようだな。もっともキングリッチ、君も色々と忙しい身だろうから……スケジュール調整のほうは難しいかもしれない。だが、やってみる気はないか?』


 ――ここで少しの間沈黙が落ちた。だが、続く会話から、この時ケビン・キングリッチはスマートフォンか何かでキャサリン・ガードナーという女性の写真、あるいは映像等を確認していたものと思われる。


『結構な美人ですね。男なら誰だって、彼女が相手ならやり甲斐があると感じることでしょう。もっともわたしはバツイチな上、容姿的に女性がすぐにも惹きつけられるといった感じでもない……ですから、きっと時間がかかりますよ。しかも、時間がかかるだけかかって、最終的には向こうから断られるという可能性も高い。それでもいいなら……』


『結構だ。キャサリン・ガードナーもバツイチで、今二歳ばかりになる女の子がいる。彼女の出身大学や、モデルをしているといった経歴については、別にファイルにして送るよ。これは昔から諜報世界ではよくある一種の人質作戦だ。もちろん、結婚生活が100%うまくいくといった保証は私にも出来ない。だが、彼女と君が結婚してくれれば、このことを切り札とすることの出来る瞬間がやって来るかもしれない……無論、私としてもそんな時の来ないことを願っているが、これは一応の保険ということだな。君もかわりになる女などいくらでもいると思って、あまり情のほうは移さぬことだ』


『は、はい。その点におきましては肝に銘じておきます、ジェネラル。それで、例の計画のほうは……』


『事前に君にも知らせておいたとおりの日時で決行する。御親切にもこちらから先にお知らせした上で実行することになるからな。軍のほうで焦って手出しでもせぬ限りは、死人や負傷者が出ることはあるまい。また、成功した暁には、証拠類はすべてこちらで隠滅する。主要軍需企業に捜査の手が入っても間違いなく何も出てこない。君たちもそう思って、知らぬ存ぜぬという態度を貫き通すことだ……いいかね?』


『ははっ。すべてはジェネラルの御心のままに……』




「おいおい、ブッたまげたな……」


 トミーがギシッと背もたれの音を鳴らして、椅子に大きくもたれかかった。最初は本当にこの<ジェネラル>という人物が実在しているかどうかもわからぬ状態から捜査しはじめて、今とうとう彼の肉声を聞くというところまでやって来ることが出来たのだ。


「これはもう決定的だよ」と、珍しく興奮しきった様子でディラン。「クソッ。この証拠類を今日一日だけで十万回聞いてもいいくらいだ、僕は。なんだって?<ジェネラル>っていうのは<秘密結社リヴァイアサン>とやらの汚れ仕事を請け負う首領に過ぎないとかなんとか……一体どういうことなんだ?じゃあ僕らがようやく辿り着いたのは、謎の巨大組織の汚れ仕事専門のリーダーだっていうそういうことなのか?」


「おそらくはそうなのでしょうが」


 ルークも驚きのあまり、暫く言葉を失っていたが、大きな吐息をついてから自身の意見を述べる。


「最初の第一の音声――日付としては新しいほうですが、こちらはブラックバイパー社CEOのケビン・キングリッチとカンバーバッチ社のCEOジェイミー・カンバーバッチとの会話ですな。ですが、ケビン・キングリッチのジェネラルに対する話しぶりやいかにも忠誠を誓っているような雰囲気から……この汚れ仕事を請け負う部門というのは、実際は<秘密結社リヴァイアサン>の中でも結構重要な位置付けにある部署なのではないですか?」


「それはそうとさあ!」と、トミーが(そこじゃねえだろ!)とばかり、声を荒げる。「キャサリン・ガードナーって言ったら、ギルバートの前のカミさんじゃん。ケビン・キングリッチとこのジェネラルの会話、今から半年くらい前のものだぜ。ということはさ、向こうはその時すでに自分たちの組織を追う人間がUSIS内にいるってとっくに掴んでたんだよ。それで、USISに<悪のエリート対策本部>っていう新しいユニットが出来たって知って、そこのリーダーであるギルバートの奥さんと子供まで人質として保険に使おうっていうわけだ」


「…………………」


 ギルバートは暫く黙りこんだままでいた。(これで証拠は揃った)と、彼はそう思った。だが、ジェイミー・カンバーバッチが言っていたとおり、これが<ジェネラル>と呼ばれる人物の本当の肉声とは言えないのかもしれない。声の感じとしては四~五十代の落ち着いた中年の男、といったように感じられたが、彼らは「代替わりしたのかもしれない」といったように話している。ということは、先代のジェネラルも今のジェネラルも<声>としてはまったく同じ人物なのだ。そんな人間のことを一体どんなふうに捕えればいいのか、また<秘密結社リヴァイアサン>とは何者なのか……おそらくこの秘密結社のメンバーになっている者というのは、政財界の大物である可能性が高い。それならば、もしこのまま自分たちがジェネラルの正体を追っていった場合、上からストップがかかることなく、本当に<彼>を捕まえることなど現実問題として出来るものなのかどうか……。


「ギルバート、大丈夫?」


 ディランに顔の前に手をかざされ、ギルバートはハッとしたように我に返った。


「心配しなくても、俺なら大丈夫さ。それに、キャサリンとケビン・キングリッチがつきあってることも前から知ってた。だからキャシーにも電話して、そういうことだから注意しろよって言ってある」


「注意しろよって……」


 トミーが一瞬呆れた顔をしたあと、今度は人の悪い顔をして言う。


「どう注意するっていうんだよ?ケビン・キングリッチといや、どんでもない億万長者だぜ。いや、億万どころじゃまるで利かないな。そんな男とつきあうなとか、結婚するなって言っても無理じゃないのか?」


「いや、キャシーは今キングリッチとは距離を置いているそうだ。それに、俺から話を聞いてからは気持ちが少し冷めたらしい。だが、俺もまさかここまで……はっきりした証拠というか、裏が取れるとまでは思っていなかった」


「へえ……」


 ディランもトミーも、さらにもっと突っ込んで聞きたい気持ちはあったが、それよりも先に今はもっと別の角度から<ジェネラル>及び<秘密結社リヴァイアサン>という組織のことを冷静に分析しなくてはならなかった。


「さて、と。俺たちも真面目に仕事しないとな。主要軍事企業に潜入している諜報員たちは今回、本当にいい仕事をしてくれた。彼らの努力を無駄にしないためにも、またロドニーの死を無駄にしないためにも、これをさらに次に繋げなくてはならない。まず、<秘密結社リヴァアサン>か。これは俺の想像の域を出ないことではあるが、これはもしかして秘密結社イルミナティのような組織なんじゃないか?まあ、そのような組織かもしれないと仮定した場合……おそらく、位階のようなものがあって、<ジェネラル>というのもその中の位階を示すものなんじゃないだろうか。なんにしても、雰囲気としてケビン・キングリッチはそう高い位階にあるようには思われないな。また、もし彼らの話していたとおり、<ジェネラル>というのがひとつの称号であった場合、前任の<ジェネラル>、そのあとを継いだ<ジェネラル>といったように、世代交代……いや、この場合前任の<ジェネラル>の位階が上がったことで、次に<ジェネラル>に昇格した人間がいるということなんじゃないか?そして、ケビン・キングリッチはあれほどの富の持ち主であるにも関わらず――<秘密結社リヴァイアサン>のほうでは、そう高い位階をいまだに有してはいないんだ」


「そうですね」と、ギルバートに答えてルーク。 「イルミナティというのはようするにフリーメーソン的組織ですが、一般に知られている位階としては」


 ここでルークは、立ち上がってホワイトボードにマジックでこう書き記した。



 1.修練生

 2.ミネルヴァの同胞

 3.小啓明者

 4.大啓明者

 5.教導啓明者

 6.祭司

 7.王子

 8.術者

 9.王


「といったように言われています。イルミナティといえば、歴史的にも古く、一説によればレオナルド・ダ・ヴィンチやモーツァルトなども会員だったと言われていますが、それはさておき……ここでもし、<秘密結社リヴァイアサン>という組織の位階をあくまで仮ということでこう置き換えたいと思います」


 1.下士官

 2.少尉

 3.中尉

 4.大尉

 5.少佐

 6.中佐

 7.大佐

 8.准将

 9.少将

10.中将

11.大将

12.元帥



「そして、<ジェネラル>というからには、最低でも准将か少将ということであり、ケビン・キングリッチとジェイミー・カンバーバッチの会話からしてみても、大体このくらいのクラスに我々の追っている<ジェネラル>という人間はいるのではないでしょうか。そしてこのこともまた本部長と同じくあくまでわたしの想像の域を出ないことですが、この少将か准将あたりにいる<ジェネラル>という役職は、この組織の汚れ役を引き受けている一大部門であり、この特殊な役職を経験した人間は、さらに上の位階へ昇格できる……簡単にいえば、そうした部分を通った人間でなければ、さらにその上の役職に昇進することは決して出来ないということを意味しているのではないでしょうか?」


(やれやれ。相変わらず凄い人たちだな、この人たちは)


 トミーはそう思い、肩を竦めた。トミー自身は、たった今得たばかりの情報で、とてもここまでのことは思いつけない。いや、思いつけたにしても、インターネットで色々調べたり、そうして自分の考えをまとめたあとだ。とても短時間で何を見るでもなくここまでのことは即座に発想できない。


「そこにさらにつけ加えて」と、今度はディラン。「この<ジェネラル>という人物だけど、音声だけで聞く分には、四~五十代の落ち着いた男って感じだけど、あんまり先入観は持たないほうがいいんじゃないかな。場合によっては三十台、あるいは二十台っていう可能性だってなくもないよね。そして、仮にこの<ジェネラル>という人物が代替わりしていた場合……何か、わかる気がするんだ。前までの<ジェネラル>は、おそらくそんなに積極的なタイプじゃなかったんだろう。だが、新しい<ジェネラル>は今いる自分の立場を使って――悪の側、裏の世界のほうに手を入れることでそちらをコントロールし、悪の力が善の側に及ぼす力を小さくしたいというのかな。もしかしたら何かそうした思想を持っているのかもしれない。つまり、<彼>が積極的という理由はそういうことさ。そうした種類の信念があればこそ、<彼>なりに信じている正義というものがあればこそ、そうした動機づけによって積極的にもなれるんだ。ケビン・キングリッチは前の<ジェネラル>はもっと消極的だった気がするって言ってたよね?もし本当にそうなら、前の<ジェネラル>は結構事なかれ主義というか、やっぱり積極的に動けば動いた分だけ、今僕たちの手元にあるみたいに証拠が残ることにもなる。そういう意味で自分より上の中将や大将、元帥クラスの人間に叱責されないためには、必要最低限の殺しだけ行うとか、そんなふうに慎重になるものなんじゃないかな。そしてこれが、僕が今の<ジェネラル>はもしかして意外に若いんじゃないかって考える理由なんだけど……」


「確かにそうだな」と、トミーも相槌を打つ。「そういうことっていうのはさ、結構若い段階じゃないと胸に抱かないぜ。ある意味幼稚とさえ言えるそうした理想を心に持つっていうのは……実際、俺たちだってそうだろ?USISに入庁した時には、そんなような気持ちも結構大きくあったもんだ。世界を少しだけでもこの仕事を通して良くできるんじゃないかっていうような純粋な気持ちがさ。ところが、だんだんに現実を知るうちに、自分自身もこの世界と同じく汚れていって、毎日淡々と仕事をこなすだけ、みたいになっていく。でも、それを知ってて、わかっててなお、こんな世界だからこそ何かしなくちゃいけないなんて思うのは――ある程度若いうちだけだぜ、絶対」


「そうですな。ですが、若い、というのと同時に、手練手管に長けているといった印象も、わたしは同時に持ちますよ。たとえば、クリス・メイソンのことですが、<ジェネラル>は彼に恋人を死に追いやったイスラム過激派組織のメンバーを拷問にかけた映像を見せた。もちろん、我々はその映像を見たわけではありませんから、それはもしかしたら偽装されたものである可能性もあるとはいえ――そこまでの情報収集能力があるということ自体、生半可な相手でないことだけは確かなのではないでしょうか」


「俺もそう思う」


 ここでギルバートは立ち上がると、今みんなから出た意見の重要と思われる部分をホワイトボードに書きだしていった。<ジェネラル>=年齢・20~40歳代、積極的な性格、世の中を良くしたい?、純粋で幼稚、自己顕示欲が強い、サイバー関係について高い専門知識がある……などなど。


 そしてここに加えて、ギルバートは「従軍経験がある」と、さらに書き加えた。


「何故俺がこう思うかといえば、ある程度戦争の現実というものを身を持って知っていないことには、ここまで強い理念というのは持ちえないと思うからだ。たとえば、アフガニスタンなどの酷い現状をテレビのニュースで見ているだけでは……ここまでの行動を起こすことは出来ない。イラク戦争が起きた時、俺にはアメリカの人々が「イラクのために」と、まるで催眠術にでもかかっているように見えて恐ろしかったものだ。アメリカ以外の他国にいる人間にはむしろ、現実がよく見えていた。確かにサダム・フセインは統治者としてひどい人間には違いないが、結果として、アメリカはただ戦争がしたくて戦争をしたという、あれはそうした戦争だった。9.11が起きる前から、ブッシュ大統領はフセインやイラクをどうにかしたかったというのは有名な話だしな……そこへ攻め込むのにちょうどいい理由が出来たんだよ。そして、結局のところ砂漠をどこまで深く掘っても大量破壊兵器などというものは見つからなかったんだ。何故そんなことが起きたかといえば、確かにイラクには大量破壊兵器があるという噂があり、それはかなりのところまことしやかなものであるようにCIAにもMI5やMI6の人間にも思えていたのさ。そこで、アメリカやイギリスの諜報員らが集めた情報を精査するということなく、まだちゃんといくつもフィルターにかけて詳しく調べる前に、一番最初のただ疑わしいというだけの情報を元に、アメリカはイラク戦争へと突き進んでいった。話は長くなったが、ようするに俺は――最初はイラク解放との崇高な理念を胸に戦争へ従軍して、<ジェネラル>……この時はまだジェネラルではなかっただろうが、彼はおそらく深く失望したんだ。だが、イラク戦争が終わっても、今も現実としてテロの脅威、イスラミックステートとの戦いといったことがある。こうしたことから一般市民を守るには、誰かが手を汚してでも決行しなければならない仕事がある……まあ、こう考えていった場合、俺の考える<ジェネラル>像というのは三十台前半のアメリカ人といったところだが、まあ、実際に捕まえたら、相手は五、六十代のジジイだったという可能性も当然あるな」


「従軍経験がある、か。なるほどね」と、ディラン。


「かなりいい線を突いているのではないですか」と、感心して頷きながらルーク。


「でもさあ」と、唯一、トミーだけが少しばかり異議を唱えた。ギルバートの意見に反対というわけではない。ただ、別の角度から意見を出すことで、さらに議論を発展させていくためだった。「<ジェネラル>がもしイラク戦争に従軍して失望した元軍人だったとしたら、年代についてちょっと矛盾が出てくるんじゃねーの?それに、そのアメリカ人がユトレイシアの軍需企業なんかに首を突っ込んでるっていうのもおかしなことのような気がするな。それなら、世界全体を良くするために、アメリカを裏からコントロールするとか、そっちのが先なんじゃね?なんて俺は思っちまうんだけど」


 ここで一同、トミーの言葉にどっと笑った。悪気があったわけではないが、他の三人はその理由もすべて、すでに了解事項だったからである。


「つまりさ」と、ディランが説明を試みる。「確かに、今のギルバートの仮説でいくと、ジム・クロウにユト河の三角州に居城を構えて左岸のダウンタウンを治めないかと提案したのは、先代の<ジェネラル>ということになる。そして先代からユトランド共和国を担当するための引継ぎを受けた次の<ジェネラル>が、今僕たちが追っている人物ということさ。そして、この<ジェネラル>という位階を持っている人間は、おそらくひとりではない。僕たち秘密情報庁の人間が、ヨーロッパ部門とかアメリカ部門とかアジア部門みたいに分かれているように、<秘密結社リヴァイアサン>の人間というのも、それぞれの区域を担当する<ジェネラル>というのがいるんだろう。そしてこう考えていくと、新米の<ジェネラル>にいきなりアメリカを担当するというのは難しいというか、かなりのところ荷が重いことなんじゃないだろうか。また、一体彼がどうやって<秘密結社リヴァイアサン>にスカウトされたのかも今はまだ謎だ。普通に考えたとしたら、下士官、あるいは修練生からはじめなくちゃいけないんだろうけど……「この人間はこの特殊部門に向いている」となったら、いきなり<ジェネラル>になれるものなのかどうか。ほら、ジム・クロウのことがあるだろう。彼自身、何故自分が選ばれたのかなんてわかっていなかった。何かそんなふうに今の<ジェネラル>もどこかの筋からスカウトされたんだろう。僕たち秘密情報庁の人間だってそれは同じだ。人事部の人間がリクルートして回るわけだけど、向こうにも「この人間だ」と思ったら<秘密結社リヴァイアサン>に誘いをかけるという部門があるのかどうか――もちろんこの場合、「秘密結社リヴァイアサンに入りませんか?」なんていう間抜けな勧誘の仕方はせず、違う形を取るんだろうけどね」




 >>続く。








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