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駄菓子屋ヤハギ 異世界に出店します  作者: 長野文三郎
第二部

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おもちゃのチャチャチャ


 深夜になって店の前からガヤガヤと人の声が聞こえてきた。

奥座敷のコタツでうつらうつらしていた俺は跳ね起きる。


「ユウスケさーん、開けてー!」


 メルルの声から切羽詰まった状況じゃないことが聞き取れる。

どうやら無事に帰ってきたようだ。

大急ぎで扉を開けた。


「おかえり。ほら、早く入って温まれ」

「いやあ、初めての夜狩りだったけど、かなり緊張したわあ」


 三人とも寒さに震えていたけど、大きなケガとかはなさそうである。

三人をコタツに押し込んでお茶とお茶菓子を用意した。


「噂には聞いていたけど、夜のダンジョンはヤバいね。初めて見るモンスターがごろごろしているんだもん」

「ですねー。それでもなんとかなったのは伝説の釘バットのおかげです。確実にダメージが入るって言うのは心強いです」


 魔力を消費しすぎたのかミラの顔が透き通るほど青白くなっている。


「でも、かなりの収入になりました」


 興奮しているのかマルコの方は顔が赤い。


「そんなに?」


 メルルが胸を張って答える。


「9万7千リムよ! 9万7千リム! 私たちの五日分を、たった三時間で稼いじゃったんだから」


 それは中々のものだ。

三人で山分けしても一人3万2千リム以上ある。


「よかったな、ミラ。これで病気のお母さんの治療費が払えるだろ?」

「はい!」


 青白かったミラの頬に赤味が差した。


「そうそう、これは俺から。お母さんにお金を送るのなら、ついでに持っていってもらおうと思って」


 体力がつくお菓子をいくつか見繕って袋詰めにしておいたのを渡した。


「病後は体がだるくなるだろうけど、これを食べればきっと元気になるぞ」

「ユウスケさん……ありがとうございます」


 三人はさっそく稼いだ金を山分けしていた。

メルルがはしゃいだ声を上げる。


「うふふふ、これで新しいマントを買おうかしら。もうさ、マルコは下男なんてやめて専属の冒険者になっちゃいなよ。私たちとチームを組んでさ」

「お屋敷を辞めたら奥様に会えなくなってしまいますので……」

「あ、そうか」


 まさに本末転倒というやつだな。

マルコが頑張るのは奥様のためなのだから。


「ヤハギさん、買い物をさせてもらってもいいですか?」


 マルコが遠慮がちに声をかけてきた。


「別に構わないけど、おやつでも買っていくのか?」

「今夜は収入が多かったので、奥様にお土産をと思いまして」


 マルコが見ているのはオモチャである。

お屋敷に閉じ込められた奥様の無聊ぶりょうを慰めるためらしい。

うちにはチープなオモチャが多いけど、冒険者たちにはあまり売れない。

せいぜいトランプや花札など、ギャンブルに使えそうな品がたまに捌けるくらいだ。

パズルとかけん玉なんてのもあるけど、買っていくのはまだ幼いポーターたちだけである。


 マルコはシャボン玉やスライドパズルなどを次々とカゴに入れていく。

ポケットメイツというアナログ携帯ゲームも全種類カゴに入れていた。


 ポケットメイツはポケットに入るサイズのプラスチックケースに数々のギミックが組み込まれたミニゲームだ。

小さな銀球を弾いたり、転がしたりして遊ぶ。

スポーツ系やシューティング系、迷路やアスレチックなど種類も多い。

これだけ買っていけば奥様もしばらくは退屈しないで済むかもしれない。


「全部で4千600リムね」


 オモチャにここまで使う異世界人はまれだ。

奥様のことが本当に好きなのだろう。


「そうだ、たくさん買ってくれたからいいものをおまけするよ」


 俺が取り出したのはチョコどらだ。

チョコレートクリームを挟んだ一口サイズのどら焼きが二個入っていて、シェアして食べると仲良くなれるというすごいお菓子である。

俺もこれのおかげで、ミシェルやボッタクーロの女将さんと話すきっかけをつくれたものだ。

そう言えばボッタクーロの女将さんは元気かな? 

もう、ぜんぜん会っていないけど。


「これはちょっと危険だから店には出していないんだけど、二人で分け合うと距離が縮まるっていうお菓子なんだ。奥様と分け合ったら心がもっと通じ合うかもね」

「おもしろそうですね。でも、大丈夫ですか? 危険って……」

「五袋くらいまでなら問題はないんだよ。ただ、食べさせ過ぎると魅了効果みたいになってしまうから店に置かないようにしているんだ」


 悪用する奴がいるかもしれないので油断はできない。

メルルなんて食いしん坊だからすぐに引っかかってしまいそうだ。


「奥様との距離が縮まるのなら……」


 マルコはチョコどらを大事そうにポケットへしまった。


「よし、そろそろ戻って寝るとするか」

「うん、もうクタクタだよ。明日は休みにしちゃおうかな」


 メルルが眠そうに目を擦っている。

メルルとミラは休みを取るのも自由だが、お屋敷勤めのマルコはそうはいかない。

明日も早くから仕事なのだろう。

恋のパワーというのはすごいものだと改めて思った。


       ◆


 その夜、ティッティーのもとへマルコがまとまった金を持ってきた。


「どうしたの、こんなに!?」


 ティッティーは心の中でほくそ笑みながらも心配そうな表情を作ってみせる。


「昨晩のダンジョンで稼いだのです。魔結晶も換金しました」


 現金にして4万6千リムあまり、普段よりずっといい稼ぎである。

夜のダンジョンは実入りがいいらしい。


「それから、こちらもどうぞ」


(なによ、このガラクタは? それに安っぽいお菓子ね)


 それが素直な感情だったが、ティッティーはもちろん言葉にしない。


「お気に召すといいのですが……」


 一流の菓子職人がつくるものを食べてきたティッティーには、マルコの差し出すお菓子が気に入らない。

後で食べると言ってこの場は遣り過ごし、いっそ捨ててしまおうかとも思った。

だが、ティッティーは考え直す。

軟禁生活の暮らしぶりは質素で、甘いものなど久しく食べていないのだ。

自分が卑しい身分になったようで腹が立ったが、目の前のお菓子に食欲がそそられた。

マルコの機嫌を取るためにも、目の前で食べたほうがいいだろう、心の中でそう言い訳してティッティーはチョコどらを口に入れた。


(ふん、まあまあね……)


 本当は美味しかったのだが、ティッティーは心の中で文句を言った。

そうしなければ自分のプライドが保てないような気がしていたのだ。


「とっても美味しかったわ、マルコ。こんなに美味しいお菓子は初めて。贅をつくした宮廷のおかしよりもよ。きっと貴方が危険を冒して持ってきてくれたからね」


 ティッティーはマルコの手に自分の手を重ねた。

マルコはそれだけですべての苦労が報われる気がするのだった。



 マルコが去るとティッティーは物憂げにオモチャに手を伸ばした。

初めはどれもくだらないと思ったが、やってみるとなかなかに面白い。


「ふん、少しは役に立つじゃない……」


 ティッティーはふと一つの商品に目をとめた。

裏面の説明書きに手が震える。



 商品名:鼻眼鏡

 説明 :丸メガネ・眉毛・口ひげ、の三つが組み合わさった変装セット。

     魔法効果で完全に別人に見える。パーティーなどで盛り上がろう!

 値段 :500リム


 脱獄するにはもってこいのアイテムである。

ティッティーはさっそく身に着けてみた。

鏡に映る顔はおどけた中年男そのものだ。これでかつらと男物の服があれば、ティッティーとわかる者はどこにもいないだろう。


「ふふふ、本当に役に立つじゃない。あーはっはっはっ!」


 ティッティーの笑い声はしばらくやまなかった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新感謝
[一言] ティッティーがいつまでも執念深くずるがしこい!見事な悪役!策士策に溺れて自滅して欲しい。
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