ついに出た
駄菓子のヤハギにも売れない商品というのはある。
その代表格がこのプラスチックサングラスだろう。
商品名:ワイドサングラス
説明 :流行の最先端をいくオシャレアイテム。非常によく見える。
値段 :300リム
流行の最先端とか書いてあるけど、はっきり言ってチープでダサい。
価値観というのは時代や場所によって変化するので、ひょっとしたら売れるかと思ったけど、この世界でも全く需要はなかった。
「こんなのをかけていたら変人扱いされちゃうよ」
「そうですね。さすがに恥ずかしいです」
メルルもミラも興味はないようだ。
「私もちょっと無理かな。それに暗くてよく見えないし」
ミシェルの主張はもっともだ。
ダンジョンの中はただでさえ薄暗い。
それなのにこんなものをかけていたら、ますます視界は悪くなってしまう。
戦闘なんてとても無理だろう。
説明には非常によく見えるなんて書いてあるけど偽りもいいところだ。
最初は暗視ゴーグル的な機能があるのかとワクワクしたけど、ただただ安物のサングラスだった。
メルルがサングラスを自分に装着した。
「やっぱりなんにも見えないや。それに、ここのポッチを押すとわけのわからない文字がいっぱい出てくるんだよね。気になって狩りなんてできないよ」
わけのわからない文字ってなんだ?
そんなのは知らないぞ。
「ポッチってどこの?」
「ほら、ここ」
言われてみると、たしかにフレームの右端に小さな突起が出ている。
「ほんとだ。小さすぎてぜんぜん気がつかなかったなあ」
俺もワイドサングラスをかけて、その突起を押し込んでみた。
「ん? 文字なんて出てこないぞ。どうなっているんだメルル。って、うわあ!」
性別:女
総合戦闘力:128(物理攻撃力78 魔法攻撃力50)
身体強化を駆使した物理戦闘が得意
身長:158㎝ スリーサイズ:82―57―83㎝
最初はなにも出ていなかったのに、メルルに焦点が合った瞬間にいろいろな情報が映し出された!
これは日本語やアルファベット、数字はアラビア文字だからメルルには何のことだかわからなかったんだな……。
「どうしたの、ユウスケさん?」
「い、いや……」
「何か変ですよ」
「そ、そんなことはないよ、ミラ」
って、今度はミラの情報が……。
性別:女
総合戦闘力:119(物理攻撃力24 魔法攻撃力87)
水・風の属性魔法が得意
身長:164㎝ スリーサイズ:90―58―92
これはいろいろな意味でヤバい代物かもしれない。
ぼんやりと考え込んでいたら、ミシェルが不機嫌な声を上げた。
「ちょっと、なんでミラを見つめているのよ!」
「ばっ、そんなことないって」
性別:女
総合戦闘力:1324(物理攻撃力542 魔法攻撃力782)
あらゆる魔法に通じている。闇属性の魔法が使える。サーベル術は達人級
身長:169㎝ スリーサイズ:95―56―87
いろんな意味でダイナマイツ!
「本当にどうしちゃったの、ユウスケ?」
「いや、役に立たない商品だなーって思っていただけだよ。こんなのは売れそうもないから押し入れにしまってくるね」
俺はサングラスの入った箱を抱えて立ち上がった。
こいつは世に出しちゃいけない商品だと思う。
できるようなら返品することにしよう、そう心に誓って封印した。
マルコがやってきたのは朝のことだった。
戦闘に不慣れな感じがしていたので、生きていたことに安堵のため息が出る。
鎧や服には新しい傷跡がいくつもついていて、彼がたくさんの戦いを経験したことを物語っていた。
このように彼の装備はボロボロだったのだが、不思議なことに負傷した形跡はない。
治癒師に金を払って魔法をかけてもらったのだろうか?
治癒魔法は高額なのだが、それをまかなえるほど稼ぎがよかったということかもしれなかった。
「先日はありがとうございました。ヤハギさんのお菓子のおかげで救われましたよ」
「それはよかった。今日もこれから狩りですか?」
「はい。今から行ってきます。今日はモロッコグルトと大玉キャンディーを買いに来ました。あと感応力があがる食べ物があると聞いたのですが」
「それはイカ串のことですね。あちらのポットに入っていますよ」
ルーキーたちはこうやって、自分にあった商品を見つけていく。
もちろん効果に関係なく、自分の好みのお菓子やおもちゃを買う場合もあるけどね。
「モロッコグルトが五個、大玉キャンディーが三個、それからイカ串で、全部で160リムです」
「じゃあこれで。あ、そうだ……」
代金を払ったマルコがもぞもぞとポケットを探っている。
「昨日、お菓子を食べたら袋にこんなことが書いてあったんですが……」
マルコが取り出してきたのはチョコレートバットの包み紙だ。
まさか……。
ホームラン! お店の人に渡して景品と交換してもらってね
つ、ついに出やがった。
「おめでとうございます! 景品は伝説の釘バットですよ」
「なんですてええええええっ!」
「まあ」
ぽかんとしているマルコに代わって驚いたのは、店に来ていたメルルとミラである。
「あの、伝説の釘バットってなんですか?」
興奮したメルルが俺に代わって説明する。
「どんな敵にも固定ダメージ300を与えるお宝よ。ずっと狙っていたのにまさか先を越されてしまうなんて、うぅ……」
「そんなことで泣くなよ、メルル」
「ユウスケさんに私の気持ちなんてわからないわよ。私がチョコレートバットにいくらつぎ込んだと思っているの!」
もう百本以上は買っているよな。
まあ、一本30リムだから、百本買っても3000リムだけどね。
「これでオオヤシガニを狩り放題ですね」
ミラがニコニコしながら教えている。
「オオヤシガニ? それはどういうモンスターですか?」
のんびりしたマルコとミラの会話にイライラしたメルルが割り込んだ。
「アンタはなんにも知らないのね! オオヤシガニは防御力が異様に高いモンスターよ。その代わり動きは鈍くて、比較的安全に狩れるの。ただし殻が異常に硬いから、倒すのにすごく時間がかかるってわけ。だから普通は無視するんだけど、その釘バットがあれば一撃で倒せるはずよ」
「一撃で!?」
「そう。オオヤシガニの平均ドロップ金額は300リム。それがどんなにすごいお宝かわかるでしょう?」
「はあ……」
まだ実感の湧いてなさそうなマルコに、いぶし銀に光る釘バットを渡した。
「オオヤシガニだけじゃなくて、普通の狩りにも役に立つはずだよ。これで大切な人を救ってあげられるかもしれないね」
「……はい! ありがとうございます!」
マルコは今まで見せたことのない笑顔をしていた。
「そうだ、アンタはソロなんでしょう? だったら私たちと組んで狩りをしましょう!」
メルルによる突然の提案にマルコはしどろもどろだ。
「え、いきなりチームを組むと言われましても……」
「何言ってんの。オオヤシガニは地下三階にいるんだよ。いくら伝説の釘バットがあったって、ソロで行ったら危険だって」
それは事実である。
このままだとダンジョンに慣れていないマルコは非常に危険な気がする。
メルルやミラと組めば学ぶことも多いだろう。
「マルコさん、この二人は信用できる冒険者だよ。お試しでいいから今日だけでも組んでみたらどうかな?」
「ヤハギさんがそう言うなら、よろしくお願いします」
二人と組むならマルコのことも安心だ。
俺は肩の荷が下りたような気持ちになった。
このお話がおもしろかったら、感想やブックマーク、★での応援をよろしくお願いします!




