コーンポタージュが尽きたので……
遠くから見ていると、人々の列は光の帯が流れているようで美しかった。
俺とミシェルは年末行事のコーデリウスの行進にやってきたのだ。
「さあ、俺たちも灯りをつけようぜ」
俺はネオンジェリーを取り出す。
「ミシェルは何色にする?」
「ブドウのがいい。紫色……」
相変わらずいちばん地味な色を選ぶんだな。
だけど、紫色のネオンを灯した魔女はミステリアスな雰囲気が加わって、いつもよりあやしく輝いている。
短い波長で作られたコントラストはミシェルという魔女によく似合っていた。
気がつかなかったけど、俺、こういうタイプが好きなんだな……。
「どうしたの?」
見つめていると、ミシェルが不思議そうに小首をかしげた。
「自分の性癖を再認識していた」
「え?」
俺は自分用に緑色のメロン味を取り出して光らせる。
「よし、行こう」
外で手を繋いだことなんてあまりなかったけど、今日は年末だ。
恥ずかしいなんて言わないで、二人でお祭りを楽しんでみるとしよう。
俺はそっとミシェルの手を取った。
「ユウスケ……」
「いやか?」
「ううん」
ミシェルはブンブンと大きく首を横にふる。
その姿がたまらなく愛おしい。
「この方が暖かいだろう?」
「うん。うれしい……」
俺たちは手を繋いだまま行列の流れに交じって歩き出した。
異世界へ転移したときはどうなるかと心配したけど、なんとか幸せにやっているなあ……。
はっきり言って、前世よりも充実した毎日を送っているかもしれない。
死ぬ直前は悲惨だったからな。
あの頃のことはあんまり思い出したくない……。
自分の来し方行く末に思いを馳せていると、繋いだ右手に違和感を覚えた。
見れば、金色に光る細い紐が俺たちの手首をグルグルと縛り付けている。
「ミシェルさん……」
「なあに?」
「この光る紐は何でしょうか?」
「捕縛魔法。離れられないように、念のため……」
ネオンジェリーに照らされて、ミシェルの笑顔が昏く輝く。
本当にこれでいいのかな?
若干の不安を覚えながらも俺は幸せだった。
都中の人が祭りに参加していたので、知り合いにもちょいちょい会った。
「ヤハギさん、よいお年を!」
「あれ~、デート中なんだぁ。ふーん……」
顔見知りの冒険者たちと言葉を交わし、沿道の出店を物色しながら歩いていく。
目的地は聖コーデリウスが祭られた神殿で、そこにお参りをすると来年の無病息災が得られるという話だった。
みんなが笑顔でいる中で、俺はしょぼくれた一団を見つけた。
いつも元気なガルムのチームメンバーたちである。
普段ならホットワインでも飲んで騒いでいるやつらが、今日は肩を落として石の階段に腰かけていた。
「おいおいどうした?」
俺は不機嫌そうなガルムに声をかけた。
「ああっ⁉ って、なんだ、ヤハギさんと姐さんかぁ……」
苛立たし気に腰を浮かしたガルムだったが、俺たちを認めてヘナヘナと階段に座り込んでしまった。
「いやね、地下三階の奥地でひどい目にあっちまって……」
チームの規模を大きくしたガルムは意気揚々と地下三階の奥地へ乗り出した。
ところが道に迷ったうえに強敵にまで出くわして、命からがら逃げだしてきたそうだ。
「マジで死ぬかと思ったよ。荷物は落とすわ、治療費はかさむわで大赤字なんです」
それでお祭りなのに酒を買う金もないというわけか。
「う~、さむいっ。暖めたアップルワインが飲みたいなぁ」
リガールがぶるぶると震えている。
ポーターから冒険者に昇格したとはいえ、安定収入とは程遠い世界だ。
こんな年の瀬もあるのだろう。
酒をおごってやるのもいいのだけど、俺は駄菓子屋だ。
ここは駄菓子屋らしく助けてやるか。
「今温かいものを飲ませてやるからこっちにおいで」
人通りの少ない場所まで移動して、俺は天秤屋台を出した。
「これで、いいものを作ってやる」
「うめえ棒? それだったら体の温まるカレーせんべいの方がありがたいんだけど……」
「まあ見てなって」
商品名:うめえ棒(コーンポタージュ味)
説明 :体力が回復するスナック菓子。
値段 :10リム
うめえ棒はうちの店ではかなりの人気商品だ。
値段の安さと食いでがあることで、購入者が絶えない。
今日はこれを使って皆にいいものを振舞うつもりだ。
俺は一軒家の店舗にストックしておいた鍋と牛乳を取り出した。
「よーし、みんな、うめえ棒を袋の上から粉々に潰してくれ」
「潰しちゃっていいんですか?」
「ああ、粉になるまでしっかりやってくれ」
ガルムたちは手分けしてうめえ棒を潰していく。
そうやってパウダー状になったうめえ棒を鍋へと移した。
「これに牛乳を注いで……。ミシェル、魔法で鍋を温めてくれないか?」
「わかったわ」
静かにかき混ぜながら中身を温めると、鍋の中身がとろみをおびてきた。
「これって、コーンポタージュかい?」
「正解。とりあえずこれを飲んで温まってくれ」
牛乳100㎖に対して、うめえ棒を3本くらい入れるのが濃くてうまい。
「おお、本当にポタージュになっている!」
「うめえ……」
一軒家に食器や鍋をストックしておいてよかったな。
そのうちに鉄板とかも召喚できそうな気がしている。
今後はこうした簡単な料理を出すのも悪くない。
「お替りもあるから、遠慮するなよ」
「お替り!」
「俺も‼」
若い冒険者に遠慮はなく、鍋はすぐさま空っぽになってしまった。
「おかげで温まりました」
「ヤハギさん、あざっす!」
これくらいのサービスで喜んでもらえるのなら、どうということもない。
「しょうがねえ、過ぎちまったことは忘れて、また明日から稼ぐぞ!」
「おう!」
みんな、少しは元気が出てきたようだ。
気を取り直したガルムたちは元気にお参りに行ってしまった。
なんだか俺も腹が減って寒くなってきたな。
寒風が吹きつけ、俺はぶるぶると身を震わせてしまう。
「寒いの、ユウスケ?」
「ああ、俺も一口くらいコーンポタージュを飲めばよかったよ」
ガルムたちががっつくから、俺もミシェルもまったく飲んでいない。
「みんなすごい食欲だったもんね」
「ホントにな。さて、俺たちも何か飲むか?」
「あのね……」
ミシェルがつっと身を寄せてくる。
「ウチに美味しいアップルワインがあるの。甘くて飲みやすいんだよ。よかったら……」
アップルワインか……。
不安そうに俺を誘うミシェルだけど、今夜は魔法にかけられた気分でもある。
それが魔女の毒リンゴだったとしても、俺は躊躇わずに食べてしまうかもしれない。
「泊まっていってもいいか?」
「うん……」
俺たちは再び手を繋いで歩き出した。
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