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駄菓子屋ヤハギ 異世界に出店します  作者: 長野文三郎
第二部

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思いを乗せて


 その朝発売になった新商品に、最初に目ざとく気がついたのはミラだった。


「ユウスケさん、この紙袋は何ですか? 鳥のような道具の絵が描いてあるのですが……」


 彼女は長細い封筒のような紙を手にしている。


「それに気が付くとはお目が高い。これこそ、今は俺がいちばん推しているアイテムなのだよ」


 商品名:組み立てグライダー

 説明 :簡単に組み立てられる手投げ式の飛行機です。

     飛翔魔法が付与されたプロペラ付きで、

     思い浮かべた場所や人間のところまで飛んでいきます。

     翼にメッセージを書き込めば手紙代わりになります。

 値段 :300リム


 実はこれ、とんでもない商品である。

駄菓子のヤハギで売っているものの中では高額な部類に入るのだけど、一般的な手紙の配達に比べたら格段に安いのだ。


 この世界でも郵便のシステムが確立されている。

その役割を担っているのは主に神殿である。

神官さんたちは各地の神殿を巡回するので、そのついでに手紙を配達するのだ。


 料金はおよそ500リム~3000リムくらいで、遠くへ行けば行くほど、組み立てグライダーよりもずっと高くなる。

しかも、手紙が受取人へ届くにはかなりの時間がかかるのだ。

場合によっては届かないなんてこともある。(けっこう頻繁に)


「この組み立てグライダーはすごいぞ。届けたい相手のことを考えながら空中に放り投げるだけで、確実に相手に届くんだ」

「じゃあ、私がお母さんのことを考えながらこれを投げれば、お母さんのところまで飛んでいくのですか?」

「その通りだ。その際にプロペラに魔力を少しだけ取られるけど、たいした量じゃない。スピードも時速100キロを超えるから、あっという間に届いてしまうぞ」

「すごいなあ……。でも、私のお母さんは字が読めないんですよ。いきなりこれが現れても、私からの手紙だってわからないかもしれません。最悪、気味悪がって燃やしてしまうかも……」


 この世界の識字率はあまり高くない。

なんだか、ミラが悲しそうだった。


「ミラは都の出身じゃなかったのかい?」

「私はアルムという、ここから三日ほど離れた村から来たのです」


 そろそろ半年以上の付き合になるというのにちっとも知らなかった。


「お母さん、どうしているかな? 私が元気でいるって知らせたいなあ」


 ミラはダンジョンの天井を見上げ、見えない空に思いを馳せているようだ。

空は故郷と繋がっているもんな。


「村に字を読める人はいないのかい?」

「村長さんか神官さんなら読めますけど」

「だったら村長さんを思ってグライダーを飛ばせばいいんだよ。これはミラからの手紙です、お母さんに届けてください、って書いておけばいいんじゃないか?」

「その手がありました! ユウスケさん、組み立てグライダーを一つください」

「毎度あり!」


 グライダーの翼長は20センチある。

ミラは俺が貸してあげたペンで、びっしりと母親に手紙を書いていた。


「できました」

「よし、そしたら村長さんのことを思い出しながらグライダーを宙に投げるんだ。大丈夫、ダンジョンの中からでも飛んでいくからね」

「はい」


 ミラは目を閉じて物思いにふけった。

きっと故郷の村や村長さんの顔を思い出しているのだろう。

そして、目を開けてグライダーを空中に放った。


 手から離れたグライダーのプロペラが輝いていた。

ミラの魔力を吸って飛翔魔法を発動させたのだろう。

グライダーは人や物をすり抜けて、天井付近を飛んでいき、すぐにヤハギ温泉の入り口から出て行ってしまった。


「きっとすぐにお母さんに届くよ」

「そうですね。うん……そうだといいな……」


 ミラは少しだけ涙ぐんでいた。


      ◇


 夕方になって、ダンジョン最深部からミシェルが帰ってきた。

ミシェルも組み立てグライダーに興味を持ったようだ。


「これもまた、すごい商品よね。モバイルフォースのときみたいに、すぐに売り切れちゃうんじゃない?」

「それがそうでもないんだ」


 字の書ける冒険者が少ないというのが大きな理由のようだ。

俺が代書でもすれば、もう少し売れるかな? 

エッセル男爵なんかに知られたらまとめ買いとかされそうだから、こいつのことは黙っておこう。


「そうだ、ミシェルにお願いがあるんだけど」

「なに? ひ、膝枕でもしてほしいの?」


 そんなことは一言も言っていない。


「そうじゃなくて、組み立てグライダーで俺に手紙を送ってほしいんだ。どんなふうに届くか見ていたいんだよ」

「ユウスケに手紙か……」

「俺もやってみるからさ」

「本当に!? やだ、ユウスケからラブレターだなんて……」

「ラブレターってわけじゃないぞ。普通の手紙だぞ。そんなに甘い手紙は期待しないでくれよ。恥ずかしいから……」


 ミシェルは少し残念そうな顔をしたけど、手紙の交換自体は乗り気で、夜にグライダーを飛ばし合うこととなった。



 家に帰るとすぐにミシェルへの手紙をグライダーの翼に書いた。


 ミシェルへ

 今日も美味しい夕飯を作ってくれてありがとう。さっきも伝えたけど、カボチャのスープは最高だった。あれほど美味しいカボチャ料理を俺は食べたことがないよ。

 今夜は特に冷えるみたいだから暖かくして寝てください。また明日ダンジョンで会いましょう。

 気持ちを言葉にするのは上手じゃないけど、俺と仲良くしてくれてありがとう。書くのも恥ずかしいけど愛しているよ。

                                ユウスケ


 こんなもんかな? 

異世界ではちょっとしたメッセージのやり取りも大変だ。

俺は窓を開けてグライダーを投げる。

星空の下を、プロペラの放つ青い光がミシェルの家の方へと高速で移動していった。


 十分後、窓がコンコンとノックされる音を聞いた。

なにごとかとカーテンと鎧戸を開けると、ミシェルからのグライダーが空中で静止しているではないか。

このグライダーはこんな動きもできるのかと驚いた。


 手を伸ばして翼を掴むと、プロペラの動きが止まった。


「どれどれ、ミシェルは何を書いてきたのかな?」


ユウスケへ

 好き 大好き 死ぬほど好き 愛している もう離れられない 好きすぎて息が苦しい

すぐに会いたい 魔法で朝にしたい 太陽を動かしたい 離したくない ずっとそばにいてほしい 触れていたい 触れてほしい ユウスケが欲しい 好きすぎておかしくなりそう…………

 好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き


 目が痛くなるような細かい文字がびっしりと並んでいた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] > 好き好き好き好き好き好き(以下略)  病んでて最高w [一言]  ミシェルさんて前国王に捕まって処刑されていたら、 絶対に悪霊化してこの国を滅ぼしているタイプですよね。  いや、ア…
[一言] これ国家の強制買い上げされそうですね、 後はダンジョン内の連絡にも重宝しそうだ。
[一言] ヤバいアイテムだ。 悪用されまくりそう。
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