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駄菓子屋ヤハギ 異世界に出店します  作者: 長野文三郎
第二部

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ルーキーたちの受難


 ミシェルとのべったりとした日々は一週間続いた。

商売をする時も休日も常に一緒だ。

デートもいっぱいしたぞ。

城壁の上を散歩したり、有名なレストランに行ったり、観劇に行ったりね。


 毎日、お互いの家へ帰るまでは朝から晩までずっとそばにいる暮らしである。

仮面を外して堂々といられることが相当うれしかったようで、ミシェルは常に手を伸ばせば俺に届く距離にいるのだ。

でも、やっぱりずっと一緒は大変なこともある。


「気持ちは嬉しいんだけど、トイレのときは外へいてくれよ」

「でも……」

「でもじゃない。恥ずかしいだろうが」

「私は平気よ」


 俺が平気じゃないんだ……。


「本当に勘弁してくれ」

「わかった……。でも、どこにも行かないでね」


 どうやって外へ出るというのだ? 

トイレの小窓を通り抜けられるほど俺の体は細くない。

はぁ、こんなやり取りの間に便意が引っ込んでしまったよ。


 このようにミシェルは遺憾いかんなくヤンデレっぷりを発揮してくれていたのだが、さすがに研究を放置している状態が気になってきたようだ。


「そろそろ、ダンジョン最深部に行かなくていいのか?」

「そうだけど……。ユウスケは私と離れていても平気なの?」

「そうではないけど、会えない時間が二人を強く結び付けてくれると思わないか?」

「それは……」

「ずっと一緒だとそれが慣れっこになってしまうだろう? 俺はもっとミシェルといてドキドキしたいんだ。それに俺が好きなのは研究熱心な魔女なんだけどな」

「う~……、わかった。研究を再開するわ」


 素直系ヤンデレとか、希少な亜種だぞ……。


「その代わり浮気はダメだからね」

「しないぞ。わかっているだろう?」

「うん……。他の女の子を見るのもダメだからねっ!」

「不可能だって!」


 どうやって商売するんだよ……。


 ひと悶着もんちゃくはあったけれど、ミシェルはダンジョン最深部へと出かけていき、俺は久しぶりに単身でヤハギ温泉へ向かっている。

夏も終わり季節は秋へ移ろうとしている。

この地へやってきて半年くらいは経っているのではなかろうか? 

危険とはいえさすがに地下一階程度では脅威を感じなくなってきている俺だ。

いつもの道を迷いなく進んでいると、どこからか叫び声が聞こえてきた。

まだ幼さの残る声に聞こえる。


「大丈夫か、ユーリン!?」

「少し掠っただけ、それよりも左の敵を! 囲まれるわ」

「そっちは俺が仕留める!」


 ルーキー冒険者がモンスターと遭遇したようだ。


「クソッ、数が多い。七体もどうする!?」

「泣き言を言ってないで退路を開け!」


 ダンジョンではいきなり多数のモンスターが湧くこともあるのだ。

地下一階とは言え例外ではない。

会話を聞く限りではピンチのようだ。

ユーリンという名にも聞き覚えがある。

店に来てくれたルーキーたちの中にいた少女だ。

そばかすをちらした顔はまだ中学生くらいに見えたっけ……。

俺はモンスターカードとロケット弾を持って声のした方へと走り出した。



 五人組のパーティーが対峙していたのは蛾のモンスターであるポイズンモス三体と、その幼生体であるポイズンワーム三体だった。

すぐそばには彼らが倒したのであろう、バッタ型のモンスターが横たわっている。


 ポイズンモスは羽を広げると八十センチはあり、鱗粉りんぷんには毒が含まれている。

即死するようなものではないが、吸えば喉が焼けるように痛み、体が痺れてしまうのだ。

奴らの弱点は火だったな。


「モンスター召喚、発動! 出でよRサラマンダー!」


 モンスターカードで火を噴くトカゲを召喚した。

サラマンダーは照準を定めるように長い舌を伸ばし、火炎放射器のようにゴウゴウと赤い火を吐く。

またたく間にポイズンモスの羽は音を立てて燃え上がり、ポイズンワームも焼き尽くされて勝負はついてしまった。

さすがはRカードだ。


「ゲホッ、ゲホッ! ヤハギさん、ありがとうございます」


 鱗粉を吸い込んでしまったのだろう、ルーキーたちはせき込みながらお礼を言ってくる。


「いいからこれを飲みな。解毒作用があるから」


 毒に効く粉末ジュース(オレンジ味)を水で溶いてやり全員に飲ませた。

傷を負ってしまったユーリンには木匙をつけたモロッコグルトも渡す。

深い傷ではないようなので、これだけでも大丈夫だろう。


「ああ、楽になった」


 思った通り、ユーリンは木匙を咥えたままホッとため息をついている。

他のみんなも体の痺れは取れたようだ。


「しかし大量に発生したな。ここで七体のモンスターなんて滅多に出てこないのにな」

「実は道に迷っちまって、逃げているうちにどんどん増えていっちゃったんですよ」


 戦闘を避けて逃げ回った結果、大量のモンスターに追いかけられてしまったということか。


「地図かなんかあればよかったんですけどね。俺たち、まだダンジョンに慣れていなくて」


 このチームは迷宮に潜るようになって日も浅いのだろう。

実は、最近そういうチームが増えている。

原因は戦争の終結だ。

国境付近にいた兵士たちが大量に解雇された結果、冒険者になる人間が増えているのだ。


「地図かぁ、そういえばダンジョンの地図ってないよな」


 せめてルーキーたちのために地下一階や二階くらいまでの地図があれば生存率だってぐっと上がると思う。

いっそ俺が作ってみようかな? 

お客が集中するのは朝と夕方だ。

日中の暇な時間を充てれば時間はじゅうぶん取れるだろう。


 それにうちのメインのお客さんはルーキーたちである。

彼らに死なれちゃ俺だって困る。

ダンジョンの構造を描いて、どんな魔物がいるかとかをメモしておけば喜ばれそうだ。

さっそく紙とペンを用意して作ってみることにした。



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明日もこの時間に更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 能力に頼らず、自力で商品産み出してもいいんだよな 商売人なんだもの
[良い点]  いつも便利駄菓子屋商品に助けられてるので、偶には 駄菓子屋能力に頼らない攻略もいいかもしれません。  パターン化を嫌う読者さんも多いですし。 [一言]  でも単独は危険。
[一言] 最高 面白い!
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