せん滅せよ!
ノームが去ると近くにいたメルルが興奮して叫び声を上げた。
「温泉だなんてすごいじゃない! さっそく入りに行こうよ」
「ですね。あ、この水鉄砲を売ってください。温泉で遊びますから」
ミラも乗り気で店の商品である水色の水鉄砲を手に取っている。
「おいおい、公共の湯でオモチャ遊びはダメだぞ」
「いいじゃないですか、まだ私たちしかいないんですから。それに最近肩がこってしまって……」
ミラはつらそうに自分の肩をトントンする。
ミラのは大きいからなあ……。
商品名:水鉄砲
説明 :水を入れて飛ばして遊ぶオモチャ。体のツボに狙いを定めて発射するとマッサージ効果がある。辛い肩こりや腰の痛みも軽減する。
値段 :100リム
一見すると昔からあるピストルタイプの水鉄砲だ。
だけど、この世界の水鉄砲はクオリティーが高い。
マッサージができるだなんてとんだ優れものだ。
ミラの言う通りまだプライベートな温泉だから、少しくらい遊んでもいいか。
俺も使ったことがないのでこの機会に試してみるとしよう。
ところが、そうやってはしゃいでいる俺たちをミネルバが怒鳴りつけた。
「いかん、いかん、いかーん!」
こいつは何を怒っているんだ?
「なんでダメなんだよ?」
「三人で混浴などと許されるわけがない! この破廉恥なメスガキどもめっ! ユウスケを裸でサンドイッチにして食べてしまう気だな! そんなことは私が許さんぞ!」
ミネルバの言いように俺とメルルはドン引きだ。
「いや、順番に入るに決まっているだろう。混浴なんて発想はどこから湧いて出た?」
「ユウスケさんのことは嫌いじゃないけど、恋人ってわけじゃないから一緒に入るのはいやだよ」
「うえっ? ……本当に?」
「私はいいですけど?」
天然のミラが何か言っている。
「ミラ?」
「一緒にお風呂に入るだけでしょう? タオルで隠せば見えませんよ」
ミラのは大きすぎて隠しきれないと思うんだけど……。
「ぜ、絶対に許さーーんっ!」
爆発したミネルバをなだめるのは大変なことだった。
◇◆◇
なんということだろう、このままではユウスケがメスガキどもの餌食にされてしまう。
あろうことかユウスケはあの二人を温泉に連れて行こうというのだ。
それがどんなに危険なことかも理解せずに。
しかも、この私を差し置いて。
いや、優しいユウスケはもちろん私のことも誘ってくれた。
だけど私は一緒に行くことができない。
地下二階へ行けば、あの忌々しい花奏虫が鳴きだして、私の正体がバレてしまうからだ。
いずれはユウスケには私が魔女ミシェルであることを打ち明けなくてはならないと考えているが、それはもう少し二人の仲が親密になってからだ。
今回はいい機会だと思っていたのに、おじゃま虫が二人もついてくるとは……。
特にあの魔法使いのミラが邪魔である。
天然を装い、女の武器を使ってユウスケを垂らしこもうという魂胆が見え見えなのである。
だいたい胸の大きさなら私の方が上だ。認識阻害の魔法さえなければ、ユウスケは私以外の女など目に入らなくなろうというのに……。
ああ世の中は不条理だ。
しかしどうしてくれようか?
ユウスケのことは信用しているが万が一ということも考えられる。
二人がかりで責められれば、ユウスケの理性は簡単に崩壊するかもしれない。
温泉は人を開放的にする魔力に満ちている。
やはり私が付いて行ってユウスケを守らなくてはダメだ。
だが、花奏虫をどうするか。
ぜんぶ燃やしちゃえばいいんだ……
なんでこんな簡単なことに気が付かなかったのだろう?
もともと人の体から血を吸うので嫌われている虫だ。
そのうちまた増えてしまうだろうけど、今夜一晩火炎魔法で燃やし続ければ、地下二階の花奏虫くらいなら何とかなるかもしれない。
よぉし、徹夜で作業をして、明日はユウスケと温泉に行っちゃおう♡
◇
店の横で塞ぎこんでいたミネルバが不意に立ち上がった。
ミネルバは厳格な家庭に育ったらしい。
男女が一緒に温泉に行くことだけでもありえないと怒っていたのだ。
別に一緒に入るわけじゃないと言って宥めたのだけど、また文句を言いに来たのか?
「ユウスケ、やっぱり明日の温泉だが、私も一緒に行くぞ」
「お、おう。いいけど、用事があるんじゃなかったのか?」
「それは問題ない。今夜中に片付けることにした。ついては10リムガムを箱で売ってくれ」
「10リムガムを箱で? 魔力を大量に使うのか?」
「うむ、極大焼夷魔法を少々な……」
どんなものかは知らないが、なんだかすごそうな名前の魔法だ。
俺は残っている10リムガムを箱ごと渡した。
「無理はするなよ」
「安心しろ。ちょっとした害虫駆除をするだけだから」
「はあ……」
先ほどまでとはうってかわってミネルバはご機嫌だった。
◇◆◇
人気の無くなった夜のダンジョンは静まり返っていた。
風を集めて周囲の気配を探ったけど、いるのはモンスターだけで冒険者は地下二階にはいないようだ。
リーリーと鳴く花奏虫の声だけがうるさく響いている。
こいつは鳴くやぶ蚊とも呼ばれ、姿かたちも蚊を大きくした感じでよく似ている。
「リーリーリー」
「ふん、今のうちに好きなだけ鳴くがいい。いつもいつも私の邪魔ばかりして。おかげでしょっちゅう冒険者に狙われるのだぞ」
「リーリーリー」
「命乞いか? かわいそうだがこれも私とユウスケの幸せのためだ。くらえ、極大焼夷魔法!」
巨大な炎がダンジョンの通路に溢れ出し、大きなうねりとなって駆け抜けていく。
闇を照らす閃光はしばらく続き、やがてダンジョンは再び暗闇に包まれた。
「やったか……」
「リーリーリー」
「おのれ、まだいるかっ!」
私は10リムガムを口に放りこみ、再び魔力を循環させた。
数時間後。
「リーリーリー」
焼いても、焼いても地獄の亡者のように花奏虫は湧いてでる。
もういやだ。
「リーリーリー」
泣きたいのは私の方だ。
「リーリーリー」
「うるさいっ!」
放たれた火炎が虫を焼いたけど、しばらくするとまたどこかで鳴き声がした。
もう、無理かもしれない。
諦めの気持ちが湧いてくる。
「うふふ、ユウスケさんお背中を流しますよ」
ダメ、ダメ、ダメエエ!
ユウスケをミラたちの好きになんてさせないわ。
こうなったらユウスケの耳を聞こえなくして……。
「それだ!」
私はなんて馬鹿だったのだろう。
地下二階の花奏虫を全滅させるより、ユウスケやメスガキどもの耳に花奏虫の声を聞かせないようにする方がよっぽど簡単じゃない!
音響魔法を駆使して、虫の声を鳥の声にでも置き換えてしまいましょう。
妙案が浮かぶと、私は床にぺったりとお尻をついてしまった。
そろそろ夜が明ける。
ユウスケとの約束の時間は間近だった。
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