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駄菓子屋ヤハギ 異世界に出店します  作者: 長野文三郎
第一部

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20/141

恋煩いとエリクサー


 目が覚めると顔のすぐ近くに銀仮面があって驚いた。

ここはミネルバのアパートのゲストルームだ。


「うわぁっ!」

「おはよう」


 改めて確認すると、ミネルバがベッドの淵に腰を掛けて俺の顔を覗き込んでいる。


「なにやっているんだよ?」

「ちょっと……寝顔を観察していた……」

「なんだ、それ?」


 魔術的な何かだろうか? 

骨相学とか……。


「朝食の用意ができているからこい」


 ミネルバは俺の問いかけを無視した。


 テーブルには焼き立てのパンケーキ、オムレツ、ベーコン、サラダ、カットフルーツなどが並び、やっぱりどれも美味しかった。

ミネルバの料理は信じられないくらいに俺の心を掴む。

まるで魔法の料理だ……。


「ミネルバには死角がないな」

「感応絶対領域陣なら得意だが、なぜ知っている?」

「そういうことを言ってるんじゃなくて、何でもそつなくこなすって感心しているんだ。剣や魔法もそうだけど、料理だって得意じゃないか。今朝もすごく美味しかったぞ」

「い、一生懸命作ったのだ……」

「おう……」


 褒めるとモジモジする癖があるようだ。

あまり似あっていないのだが、口に出すのはやめておこう。

傷つけてしまうかもしれない。


「さて、片づけをするか。俺がやるよ」

「ユウスケは座っていてくれれば……」

「ミネルバだけに任せておくのは悪いよ。おやっ、これはなんだ?」


 床の上に魔法陣を描いた紙がいくつも散らばっていた。

どれも途中まで描いてはぐしゃぐしゃに線が引いてある。

失敗作なのだろうか?


「それは『無限回楼むげんかいろう』の!」


 ミネルバは取り乱して俺から紙片をひったくる。


「ほえ? ああ、魔術の研究か。触ってわるかったな」

「別にいいのだが、昨晩も押し寄せる誘惑と戦って、なんとか日の出まで耐えたのだ。褒めてほしいくらいだぞ」

「よくわからんが、すごいんだな。偉い、偉い」


 ポンと肩を叩くとミネルバはビクッと体を震わせた。


「ど、どうした?」

「何でもない。何でもないけど、もう少しこうしていてくれれば、すべてをユウスケに捧げる……」

「はあ、捧げるってお前は生贄か? 俺を邪神扱いか? あ、わかったぞ」

「え、何を?」


 俺はミネルバの後ろに回り両肩に手を乗せた。


「夜中まで根をつめて、肩がこっているんだろう? 泊めてくれたお礼に揉んでやる」

「なっ……あっ……あうっ……」


 ミネルバは嗄れ声で悶えているぞ。


「ここかぁ? ここが、ええのんかあぁ?」


 こいつ、意外と華奢な体をしているな。

凄腕の剣士と言うからもっと筋肉質かと思ったぜ。

きっと戦うときは魔法で身体強化をしているんだろうな。

俺は肩甲骨の周りを丹念にほぐしてやった。


「気持ちいいか?」

「うん……とけてしまいそう……」

「ふはははははっ、ならばこの俺様のものになると誓え、邪神にすべてをゆだねるのだぁ!」


 なんつって。


「誓いますぅ。私のすべては貴方のもの……」


 ミネルバもノリがいいなぁ。

だけど……。


「んなわけねーよな!」


 俺はポンポンとミネルバの肩を叩いた。


「へっ?」

「人が人を所有するなんてあり得ないって。俺は奴隷制度なんて反対だし、人を所有するなんて重すぎて嫌だよ」

「そう……なの?」

「そりゃそうだろう。あ、もしかしてこの国には奴隷制度とかあるの?」

「奴隷売買は法律で禁止されている」


 それは良かった。


「まああれよ、恋愛において束縛しすぎるのもどうかと思うし、束縛され過ぎるのもきついわけさ」

「そう……なんだ……」


 あれ、ミネルバは違うのかな?


「もしかしてミネルバは彼女を束縛するタイプ?」


 そう訊くと、ミネルバはとても困った感じだった。

もちろん仮面で表情は見えなかったけど。


「よくはないと思うけど、好きになったら束縛してしまうと思う」

「そいつはどうかと思うぜ。やり過ぎると逃げられちゃうんじゃないか?」

「逃げられないように…………気を付ける……」


 ん? 

微妙な言い回しだったな。

まあ、気を付けるっていうのならいいか……。


 その話はそれでお終いとなり、俺たちは一緒に皿を片付けた。

心なしかミネルバが大人しくなってしまったけど、あまり気にはしなかった。



 俺たちは一緒にダンジョンへ出発した。


「そういえば、ミネルバも魔女ミシェルを追っているの?」

「魔女に用はない。私の用事はこれだ」


 ミネルバは革紐のついたオーブを取り出して見せてくれる。

それは紫色に淡く輝いていた。


「魔道具かなにか?」

「ああ、魔力を貯めるマジックアイテムだ。私はこれを研究しているのだ」


 前世でいうところの電池みたいなものかな?


「これが完成すれば、これまで誰もなしえなかったような大規模魔法が可能になる」

「でもそれとダンジョンとどういう関係があるんだい?」

「ダンジョンの最深部には大地の裂け目があるのだ。そこから高濃度の魔力が漏れ出している。私はそこでマジックオーブに魔力を充填する実験を続けているのだ」

「それでダンジョン深部に潜っていたんだね」

「ああ、本当はこんな町など出ていきたいのだが、他にここまで好条件な魔力スポットを知らないからな」


 ミネルバはヤレヤレと肩をすくめてみせた。

俺はその手を取って、とあるアイテムを握らせる。


「ユ、ユウスケ!?」

「昨日10円ゲームから出てきた万能薬だよ。泊めてくれたお礼にやる。ミネルバは強いかもしれないけど、万が一のときのために取っておいてくれ」

「でも……」

「大丈夫、俺の分はまたチャレンジするさ。コツは掴んだからすぐにゲットできるよ」


 ミネルバは恐縮しながらも、大事そうに万能薬をポケットにしまっていた。


       ◇◆◇


 一つだけわかったことがある。

真に大切なものというのは、実際に触れてみればすぐに感じられるということだ。

ユウスケの手に包まれた瞬間に私は理解した。

この人が私の運命の人であり、何よりも大事な人だということを。

これが恋煩こいわずらいというものだろうか?

だとしたらこの万能薬エリクサーは怖くて飲めない。

恋の病はそのままにしておきたいから。

絶対にユウスケを手放さない……。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] もしかしてエリクサーでチョコどらの効果が!?
[良い点]  ミネルバ氏(仮名)発情中。  (^^)の認識阻害。 [一言]  この世界には婚約者にエリクサーを贈るという風習が あったりして。
[良い点] 10リムゲームについては、何かルールが要るのでは。 さもないと、小銭を山の様に用意して延々張り付く人が出るのでは。 それがルール違反でないなら、私だって張り付きます。 「1人1日10回ま…
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