ミネルバのお誘い
階段前休憩所における朝の売り上げは上々で、10リムゲームの前にはしばらく行列が絶えなかった。
それはそうだ、10リムで万能薬を手に入れられるのなら誰だって試してみたくなるだろう。
そうは言っても成功者は今のところ一人だけである。
売り上げの銅貨を回収してみたら1020リムあった。
現時点で成功率は1/102ということか……。
このようにお金は回収できるのだが、景品である万能薬は店主の俺でも手が出せない。
景品は自動的に補充される。
万能薬が欲しければ、俺も10リムゲームを成功させて入手するしかないのだ。
手に入れた冒険者に見せてもらったけど、万能薬は薄茶色の四角い錠剤で、見た感じでは和菓子の落雁によく似ていた。
万が一のことを考えて俺も一つ手に入れておきたい。
店主の特権で、閉店後に何回でもできるので、夜になったら挑戦してみるか。
でもボッタクーロでやると、近所の部屋から確実に苦情が来るな……。
場合によってはぶん殴られてしまうかも。
仕方がない、練習場所は後で考えよう。
「こんにちはー」
先日ケガをしたリガールが店に来た。
「あ、ミネルバさん。このまえはありがとうございました」
「うむ」
ミネルバは狩りにも行かずに、店から少し離れたところでこちらを見ている。
けっこう鋭い目つきをするので、ちょっとだけ怖くなっているところだ。
「よう、リガール。休憩か?」
「はい。いてて……」
リガールは左肩を抑えて苦笑する。
「どうした、また怪我をしたのか?」
「戦闘のときにぶつけちゃって」
「だったらいいものがあるぞ」
これまでも戦闘を助けるお菓子やグッズは販売してきた。
だが、回復薬のようなアイテムはなかった。
しかしこのたび、ついに我が駄菓子のヤハギも傷を治してくれるお菓子の販売にこぎつけたのだ。
それがこれである。
商品名:モロッコグルト
説明 :甘酸っぱいクリーム状のお菓子 木のスプーンで食べます 傷の小回復
値段:20リム(アタリが出ればもう一個)
「これを食べれば傷が回復するぞ」
ミライさんが売っていた回復茶よりも効果は高い。
リガールが二個食べると肩のあざは綺麗に消えてしまった。
「ライフポーションより安いし、おやつになるからいいですね。今度また買いに来ます」
「ああ、一個常備しているだけで生存確率がぐっと上がるからな」
ポケットに入れておいても邪魔にならないサイズでもある。
メルルとミラも3個ずつ買っていったくらいだ。
階段前休憩所出店の一日目が終わった。
売り上げはダンジョン前広場のときよりも増えている。
10円ゲームと新商品のおかげもあるけれど、ライバル店が少ないのも関係しているだろう。
明日もここで店をやれば鑑札も買えるはずだ。
でも俺にその気はない。
12000リムの鑑札料を払うくらいなら、ここでこのまま店を続けた方が得だと判断したのだ。
それに店の常連がとても喜んでくれている。
俺がこの場所にいるのは彼らにとっても都合がいいらしい。
モンスターが出現することもあったけど、近くにいた冒険者が討ち取ったので俺の出番はなかった。
俺の出番というよりモンスターカードの出番なんだけどね。
それに今日はなぜかミネルバがずっと近くにいたので危険を感じることもなかった。
「ミネルバは仕事をしなくてもいいのかよ?」
「今日は休みにしたのだ」
「だったら遊びにでもいけばいいだろう?」
「ふん、こうして駄菓子屋に遊びに来ている……」
ミネルバはたまに10円ゲームをしたり、お菓子をたべたりしていたけど、ほとんどの時間はぼんやり店をみているだけだった。
あれで楽しかったのだろうか?
休日の過ごし方は人それぞれだろうから、とやかくは言わないけど。
冒険者の帰宅ラッシュも過ぎ、人も少なくなってきた。
そろそろ俺も帰らなくてはならない。
人の流れに乗らないと迷宮で危険な目に遭うからね。
「そろそろ店を閉めるぞ」
まだ遊んでいる冒険者たちに声をかけた。
店じまいは『閉店』と念じるだけなのですぐに済む。
「帰るのか?」
ミネルバが俺の近くへやってきた。
「おう、ミネルバも一緒に帰る?」
「そ、そうまで一生懸命に頼まれたら仕方がないな。メスガキ……、メルルとミラの護衛だけでは心配だから私もついて行ってやろう」
俺、ミネルバ、メルル、ミラの四人は並んで迷宮を移動した。
「そういえばさ、どこか人目につかないところはないかな?」
俺はメルルたちに訊いてみる。
「どうしたの?」
「10円ゲームで万能薬が欲しいんだ。宿屋で音を出すと怒られるんだよ」
「だったら、その辺でやればいいじゃない」
「夜の町でやっていたら強盗が怖いじゃないか」
王都と言えども治安はよくない。
「本当は宿屋でやりたいんだけど、音を出すと怒られるからなあ……」
突然、肩をものすごい力で掴まれた。
「ぐわっ!」
黒い革手袋をした死神の指が、俺の肩にきつく食い込んでいる。
「いてえっ! なにすんだよ、ミネルバ!」
文句をいってもミネルバは手を放さない。
それどころか喧嘩でも売るかのような態度で銀の仮面を近づけてきた。
「そ、それなら、う、う、家へ来ないか?」
「家って、ミネルバの家か? って、いいからとりあえず放してくれ! 痛くてかなわないぞ」
「う、うむ……」
ミネルバはようやく手を放してくれた。
「家なんてあるの?」
「先日借りたばかりなのだ。何もないところだが、それでよければ」
「10リムゲームをしてもいいのか?」
「かまわん。な、なんならご飯を食べて泊っていけ!」
「マジで? ミネルバの作る飯は美味いからありがたいけど、なんだか悪いなあ」
今日も昼めしを作ってもらっている。
あれも美味かった。
「遠慮は無用だ……。ご飯くらいいくらでも作ってやる」
「だったら世話になるよ。よろしくな」
今夜は景品のゲームとかで遊んで、一緒に盛り上がるとしよう。
俺はありがたくミネルバの部屋を使わせてもらうことにした。
皆様のおかげでジャンル別ランキング3位に入っておりました。
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