死神のランチボックス
昼が過ぎると第二区の入り口はまた閑散としてしまった。
休憩をしていた冒険者たちはモンスターを探して迷宮の各地に散っている。
俺も持ってきたパンとリンゴを食べることにしよう。
「誰か、怪我人を運ぶのを手伝ってくれ! 誰かいないか!?」
いざ食事にしようとしたところ、ダンジョンの奥から救援を求める声が聞こえてきた。
そんなに遠くではない。
危険はあるだろうが見捨てるわけにもいかないだろう。
俺はフライングスネークのカードを掴みながら、声のする方へと走った。
ダンジョンの奥へ進めば進むほど人の声は大きくなる。
どうやらまだ戦闘は続いているようだ。
「どこだ!? どこにいる!?」
「こっちだ! ポーターが足をやられた。安全なところまで運んでやってくれ」
声のした方に行くと、五人の冒険者がサイのようなモンスターと交戦中だった。
部屋の端には仰向けに倒れている少年がいる。
たしか店にも来てくれた子だ。
「リガール、しっかりしろ!」
「う……うっ……」
冒険者たちはリガールを守りながら戦っているので、自由に動けなくて困っているようだ。
「早く連れていってくれ!」
「わかった」
俺はリガールを抱え上げてもと来た道を走った。
第二区の入り口に戻った俺はリガールの傷口をあらためた。
太腿の肉がぱっくり割れて血が溢れ出している。
「ミライさん、回復茶をください」
回復茶は飲み物ではあるが、傷口にかけても効果はある。
リガールのズボンを切り取り、冷めた回復茶をかけた。
「くっ!」
傷口に染みるのだろう、リガールは涙を浮かべて耐えている。
出血はわずかにとまったけどまだまだ傷は塞がらない。
「もっと回復茶を」
「どうだろうねえ、これだけひどい傷となると回復茶だけじゃあ無理ってもんだよ」
それでもやるだけのことはしてやりたい。
「金なら俺が出しますから、もう一杯お願いします」
「どうしたのだ?」
しゃがれ声がしたと思ったら、迷宮の暗闇から死神がぬっと現れた。
思わずミライさんもサナガさんも「ヒッ」と声を上げる。
傷ついて倒れているリガールまでぶるぶると震え出した。
だけど俺は死神にもいいかげん慣れてきている。
人殺しの噂もあったけど、しゃべってみると案外普通のやつなのだ。
「見てのとおりだよ。この子がケガをしてしまったんだ。あ、ミネルバは包帯を持ってる? 持っていたら分けてくれ」
「いや、ない」
「そうか、じゃあ仕方がないな」
何か縛るものを探して止血をしてやらないとならない。
紐代わりになるものを探して鞄を物色していたらミネルバが近づいてきた。
そしてリガールの太ももに手を近づける。
「おおっ!」
ミネルバの手から緑色の光がほとばしりリガールの傷がみるみる癒えていった。
「おいおい、回復魔法が使えるのかよ! すごいじゃないか」
「これくらいはどうということはない」
ぶっきらぼうに返答する死神だが、褒められてまんざらでもない様子だ。
「あ、あ、あ、あの……ありがとうございました」
リガールも震えながらお礼を言っていた。
「ところでユウスケはどうしてこんなところにいる?」
ミネルバは俺に向き直って訊いてくる。
「実は鑑札を持ってなくて商売ができなくなってしまったのだ」
「そういうことか。ずいぶん探したのにいないからびっくりしたぞ」
「俺のことを探してたの?」
死神は大袈裟に手を振って否定した。
「そうではない! お前を探して広場をうろうろなどしていないぞ!」
「今探していたって言ったじゃん」
「う、ま、まあ……必死に探したわけじゃないという意味だ。誤解しないように……」
なんなんだよ、いったい。
「あ、わかったぞ。また甘いものが欲しくなったんだろう?」
「う……む……」
「でもよ、甘いものばっかり食べていたら健康によくないぞ。ほれ、リンゴとパンを分けてやるから一緒に食べようぜ」
「い、いや……昼飯なら持っている」
「ミネルバもこれから飯か、俺もなんだ」
ミネルバはいきなりガバッと立ち上がった。
「おい、ユウスケ!!」
怒鳴りつけながら俺のことを睨みつけてくる。
気に障ることでもしたか?
「な、なんだよ、急にでかい声だして……」
「……よ、良かったら一緒にご飯を食べないか!?」
「はっ?」
「こ、これ……やる……」
ミネルバが出してきたのはかわいい水色のランチボックスだった。
横には猫が草原を歩いている絵が描いてある。
「だけど、ミネルバの分がなくなっちまうだろう?」
「大丈夫だ。もう一つある」
そう言って、ミネルバは色違いのピンク色を荷物から取り出した。
おそろいか……。
「悪いな、遠慮なくいただくよ」
「うむ、偶然にも二つ作ってしまったのだ」
偶然に二つ作る。
そんなことがあり得るのだろうか?
まあいい、細かいことは気にしないのが俺のいいところだ。
うん、自画自賛。
ふたを開けるとサンドイッチとフルーツが綺麗に並べられていた。
サンドイッチにはチキンのソテーや野菜、ベーコンなどが挟まれている。
「ほえー、美味そうだ。ミネルバは料理も得意なんだな」
「たいしたことではない……」
「じゃあ、さっそくいただくか。あ、俺がお茶を買ってくるよ。ミライさーん、こいつの分のお茶もください」
「は、はひっ!」
ミライさんが震える手でお茶を渡してくれた。
「大丈夫ですよ、あいつ見てくれと声は怖いけど、実際はそんな悪い奴じゃないんで」
「そ、そうなんですか……」
「何をしているユウスケ! 他の女となんてしゃべってないで早くこっちに来い! 熟女の色香に惑わされおって、ブツブツ……」
何をぶちぶち言っているんだか。
腹が減ってイライラしているのか?
「お前は束縛系の彼氏か!? そういうところだぞ、誤解されるのは」
「別にかまわん」
「まったく。いただきまーす。お、これ美味いな!」
「そうか? うふっ、うふふ……」
うふふ、って笑われてもなあ……。
見てくれだけだと凶悪犯が笑い声をあげている感じなんだよな。
悪いけど。
ところで、こいつはなんで仮面なんてかぶっているのかな?
ひょっとして火傷の傷跡があるとか?
だとしたら不用意に質問しない方がいいだろう。
男だろうが傷跡は隠したいものなのかもしれない。
俺と昼飯を食べながら、なんだか知らないけどミネルバはご機嫌だった。
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