腹ペコ冒険者とブーメン
本日三本目です
霧の中から現れたモンスターはあろうことかゴブリン四体だった。
俺が手にしているカードもゴブリンのカードだけど大丈夫なのか?
だけど今さらカードを選び直す時間はない。
説明書に書いてあった通り、カードを投げて呪文を唱える。
「モンスター召喚、発動!」
現れたのはやっぱりゴブリンだ。
四対一で勝てるのかと思いきや、召喚したゴブリンはいきなり敵に飛びつき、持っていたナイフで首の頸動脈を掻き切った。
切られたゴブリンはその場に崩れ発光しながら煙となって消えてしまう。
あとに残されたのは小さな銅貨と緑色の魔結晶だけだった。
「いいぞゴブリン。そのまま他のもやっつけてしまえ! ……あれ?」
調子に乗れたのはそこまでで、俺のゴブリンは他の三体から袋叩きにあってしまった。
多勢に無勢というやつだから仕方がない。
それにしてもメルルの情報はいいかげんだな。
何がコモンカード1枚でカタがつくだ。
このままでは持たないぞ。
そう考えた俺は出し惜しみせずに続くカードを一気に二枚切った。
「モンスター召喚、発動! いけ、ピラニアバード。そしてもういっちょう、モンスター召喚、発動! ピクシー妖精」
ピラニアバードは鋭い歯で敵ゴブリンの後ろから噛みつき、ピクシー妖精は高速で飛び回って敵をかく乱している。
そのおかげで俺のゴブリンも再びナイフをふるい、とうとう四体のゴブリンをすべて倒してしまった。
「ふぅ……終わりましたね」
固唾を飲んで見守っていた二人に声をかけた。
「びっくりしたぜ、まさか四体も同時に現れるとはな」
鍛冶屋さんは額の汗を拭いている。
「珍しいことなんですか?」
「ああ、霧から生まれるときは一体がほとんどだ」
ふーん、モンスターって霧から生まれるんだ。
しかも大抵は一体なんだな。
ということはメルルも間違った情報を寄こしたわけじゃなく、今回がたまたまだったのか。
モンスターカードを複数用意しておいてよかったな。
万が一のためにロケット弾もポケットに入れていたけど、こちらは使わないですんだ。
ノーコンを晒さずにいられてよかったよ。
前世でも野球とかダーツとかは下手だった。
「それにしても召喚士さんがいてくれてよかったですよ」
ミライさんの言葉を慌てて否定した。
「俺は駄菓子屋であって、召喚士じゃありませんよ」
「じゃあ、さっきのは?」
「あれは、俺が売っている商品のオマケでして」
俺は自分が売っている駄菓子の説明をした。
「便利なカードねえ。これが100リムなら一つ欲しいわ」
「すみません、こちらの方は欠品していまして」
「おい、兄ちゃん。金と魔結晶を拾わなくていいのか?」
ゴブリンを倒したときに出た宝はまだダンジョンの床の上だった。
「俺がもらっちゃってもいいんですか?」
「兄ちゃんが倒したんだから、兄ちゃんのものだろうが」
ミライさんも異論はないようなので自分のものにしてしまおう。
出てきたお金は200リム。
ゴブリン一体当たり50リムか……。
魔結晶の買い取り価格も一粒10リムくらいらしい。
カードは三枚使っているので赤字である。
「それにしても、ヤハギは召喚士のくせになんで露天商をしているんだ?」
サナガさんはわけがわからんという顔で首をかしげている。
「だから、俺は召喚士ではなくて駄菓子屋ですってば」
「でも、その力があればもっと下の階層で稼げるでしょう?」
ミライさんも不思議そうだ。
「危ないことはしたくないんですよ。それに俺は自分の仕事が好きですからね」
何といっても駄菓子屋が俺の固有ジョブであり、俺はこの仕事を気に入ってもいるのだ。
しばらくは客もモンスターも現れなかったけど、昼が近づくにつれて地下一階でモンスターを狩っていたルーキーたちがちらほら現れだした。
軽傷を負った者はミライさんのところで回復茶を飲み、刃こぼれや防具の修理をサナガさんに頼んだりしている。
俺のところにも小腹をすかせた冒険者が何人か集まってきた。
「あ~、腹が減った。うめえ棒でももらおうかな」
「俺はカレーせんべいだ」
昼時とあって冒険者たちはお腹を空かせているようだ。
とうぜん昼飯は食っただろうけど、若い胃袋はすぐに空っぽになる。
と、ここで俺はいいことを思いついた。
これまで売ることができなかった商品なのだが、ミライさんがいれば在庫を捌けそうだ。
「ミライさん、ちょっといいですか」
「どうしたんです、ヤハギさん」
「協力してもらえないでしょうか? これを売りたいんですよ」
商品名:ブーメン(とんこつ味)
説明 :ミニサイズのカップ麺 180mlのお湯を注いで作る。小さいのにこれ一食で満腹になる。
値段:80リム
ミライさんは回復茶を売っているので、お湯を沸かす道具を持ってきている。
腹を減らした冒険者たちに俺はブーメンを売り、お湯はミライさんのところで買ってもらうのだ。
「うめえ! はじめて食べる味だけどこりゃあいいや」
「肉の出汁がきいているよな!」
この目論見は上手くいき、ブーメンの在庫はすぐにはけてしまった。
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