ダンジョンの中
本日二本目
20時頃に三本目を投稿します
翌日のダンジョン突入に備えて夕飯は予定通りモンスターチップスにした。
10個あった在庫をすべて開ける。
出てきたカードは順番に、
C コボルト戦士 : かわいくて忠義に厚い
C ジャイアントクロウ : でっかいカラス
R ゾンビナイト : 怖くて強そう
C ピクシー妖精 : 敵をかく乱
C ピラニアバード : 飛ぶピラニア!?
SR タートル忍者 : 刀を背負った亀の忍者
C ゴブリン : 定番中の定番
C 踊るナイフ : ダンシングソードのちっちゃいやつ?
R ストーンゴーレム 攻守に優れる
C ジャックオーランタン : 目つきは凶悪
の10種類だ。
メルルとミラの話では第二区に出没するモンスターならコモンカードで十分対応可能らしい。
苦戦するようなら二枚使えばまず負けることはないという話だった。
俺はカードを眺めながらポテトチップスをかじる。
三袋までは余裕だったけど、四袋目に差し掛かってさすがに飽きてきた。
捨てるのももったいないのでボッタクーロの女将さんに上げたらかなり喜ばれた。
なんだか女将さんとの距離がまた縮まった気がする……。
◇
早朝のダンジョン入り口で待っていると、約束通りメルルとミラが来てくれた。
「おっはよう!」
普段はちゃらんぽらんに見えることもあるメルルが今朝はやけに頼もしい。
「よ、よろしくな」
「え~、ユウスケさん緊張しすぎだよ。地下二階に行くわけじゃないんだからもう少しリラックスして」
「そうですよ。あんず棒でも食べたらどうですか?」
あんず棒を食べれば勇気が湧く。
俺は言われた通り朝食代わりに1本キメておいた。
「うん、なんだか落ち着いてきた」
「その調子、その調子」
「それでは行きましょう」
メルルが先頭に立ち、後ろはミラが守ってくれる。
二人に挟まれているので恐怖はさらに軽減する。
こうして俺は初めてのダンジョンへと突入した。
ダンジョンの入り口というのは地下鉄の入り口になんとなく似ていた。
あそこまで明るくはないのだけど、壁がうっすらと発光していて視界がないわけではない。
サイズも同じくらいで何となく親近感を覚えた。
「ここの階段は六十段もあるのですよ」
ミラが後ろから教えてくれる。
いざモンスターが現れた時は、この階段を駆け上がって逃げなきゃならない。
その苦労を考えるとげんなりしてしまう。
だったら昨晩手に入れたモンスターカードで闘う方が楽そうだ。
そんな気持ちになるのは、さっき食べたあんず棒のせいだろうか?
階段を下りきると広いエントランスのような場所になっていた。
数人の冒険者が装備の確認をしたり、今日の討伐計画なんかを話し合ったりもしている。
意外と人が多いので安心できた。
「さあ、第二区に行こう。ここからは気を引き締めてね」
「おう……」
俺はモンスターカードを手に握りいつでも発動できる状態にしておく。
手始めに切るカードはゴブリンと決めていた。
薄暗い通路を他の冒険者たちと進む。
途中に細い路地に進む道があったけど、メルルは無視してそのまま進んだ。
やがて彫刻のついた大きな門を抜けるとまた少し広いエントランスのような場所になった。
ここまで戦闘は一度も起きていないし、モンスターの姿を見かけることもなかった。
どうやらビビリ過ぎていたようだ。
「お疲れさん、ここから先が第二区だよ」
「ありがとう。思っていたより人も多いし、たいしたことはなかったな」
「今日はね。日によっては大量の虫系モンスターが湧いたりするから油断はできないのよ」
そりゃそうか。
もしもここが安全地帯ならもっと露天商がいてもいいはずだ。
ここにいるのは俺も含めて三人くらいだ。
一人きりになるのを想像していたから、妙に心強かった。
「メルル、ミラ、ありがとうな。約束通り好きなお菓子を持っていってくれ。300リム分くらいいいぞ」
「じゃあ、モンスターチップスがいい!」
「すまん、それは欠品だ」
俺が全部使ってしまったから……。
そんなに悲しそうな顔をしないでほしい。
俺だって命がかかっているのだ。
メルルとミラが去ったあと、何人かの常連さんが店に寄ってくれた。
「姿を見ないと思ったら中で店を広げてたんだ」
「ちょっと事情があってね。今日はどうする?」
「イカ串と10リム玉チョコをくれよ」
「はい、40リムね」
場所は違うけどやることはいつもと変わらない。
売り上げは少し減ったけど、客足はまずまずだった。
朝の通勤ラッシュが終わると第二区はいきなり静かになった。
ほとんどの冒険者は地下二階より下へ行ってしまうそうだ。
この階にいるのはルーキーばかりで、たまに遠くの方から怒声や金属が重なる高い音が聞こえてくるぐらいだった。
そろそろ帰ろうかと思ったけど、俺の他に二人いる露天商は店をたたむ気配を見せない。
一人は枝のように細い老人で野鍛冶の道具を持ってきている。
おそらく武器の修繕が仕事なのだろう。
もう一人は三十路くらいの女性で、こちらは『薬草茶』という看板が出ていた。
いちおう挨拶くらいしておこうか。
「おはようございます。菓子売りの矢作です。よろしくお願いします」
「回復茶を売っているミライです」
「おう、サナガだ」
二人とも言葉は少ない。
「お二人はまだ商売を続けるんですか?」
「俺の仕事は今からだよ。ガキどもが武器を刃こぼれをさせてからさ」
なるほど、朝一番で鍛冶屋に寄るやつは少ないか。
「私の薬草茶も同じですね。傷を負った冒険者が相手ですので」
薬草茶には傷を癒す効果があるそうだ。
この二人は地上に戻る気はないようだ。
少し困った事態だぞ。
行きはメルルとミラが送ってくれたけど、帰りは俺一人じゃないか。
近くに冒険者の姿はないし、これでモンスターが出現したら一人で闘わなくてはならない。
だいたい一度地上に帰還しても夕方の商売時にはもう一度戻ってくる必要がある。
しかも、今度は一人でここまで来なければならないのだ。
だったら俺もこの場にとどまるべきなんじゃないだろうか……。
あれこれ思案を巡らせていると、どこからか濃い霧が発生した。
「むっ!」
壁にもたれて座っていたサナガさんがサッと体を起こす。
薬草茶のミライさんもどこからか槍を取り出して構えていた。
「なにごとですか?」
「来るぞ!」
「来るって……」
「モンスターが来るんですよ」
マジですか!?
俺は胸ポケットにしまっていたゴブリンのカードを取り出して身構える。
よーし、君に決めた! というキメ台詞を言う余裕はどこにもなかった。
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