久しぶりの王都
復活したジェノスブレイカーのおかげで開発は一気に進んだ。
標準装備のクローで森など刈り放題なのだ。
芝刈り機みたいな感覚でヒノキが刈れるってすごくない?
伐採後の切り株もどんどん掘り返すことが可能だぞ。
おかげで居住区と農地が瞬く間に広がっている。
しかも、半自立回路があるので、ある程度命令を与えてやれば自動で仕事もしてくれるのだ。
「ユウスケさん、私にも操縦させてよぉ!」
メルルが上目遣いでお願いしてきた。
操縦したくてうずうずしているようだ。
でもそれはかなえてやることができない。
「悪いけどこればっかりはダメだよ。ジェノスブレイカーは俺しか操縦できないし、俺の命令しか聞かないようにマニさんに設定してもらったんだ」
はっきり言って危険な代物だからね。
誰でも使えるなんてことになれば危ないことこのうえない。
「メルルも俺の目を盗んで動かそうとするなよ。先日の流れ者みたいになるからな」
「わかってるよぉ……」
数日前もジェノスを盗み出そうとした流れ者がいたのだ。
生体認証があるので俺以外の人間は起動することもできないことを知らなかったのだろう。
その上、無理にいじると操縦桿とシートに電流がながれる仕掛けになっている。
そいつはさんざん放電された挙句、ミシェル&ティッティーによる地獄のお仕置きまでくらっていた。
相手は盗賊ながらちょっとかわいそうになってしまったほどだったよ……。
公開お仕置きだったので、その後ジェノスにちょっかいを出す奴はいない。
俺は毎日重機に乗る感覚でジェノスに乗り、造成を進め、護岸工事をし、道の整備に努めた。
土地と道の整備が進んだので、俺はまた移住希望者を募ることにした。
最近では行商人のヨシュアさんと組んで『移住体験ツアー』なんてこともやっている。
こちらは農家の次男坊や徒弟奉公終了間際の職人さんを対象にしたプランで、特別推薦枠として来てもらっているのだ。
やっぱり手に職のある人に集まってもらわないと集落は上手く回らないからね。
自分がもらえる土地や、ルガンダでの暮らしぶりを見てもらうことが目的だが、なかなかの人気である。
もっとも、大抵の人は都会に住みたがるので、まだまだ移住者の数は少ない。
「今なら土地と家、モバイルフォース全種類をプレゼントするのになあ……」
ため息を漏らす俺をマニさんが慰めてくれた。
「いっそ新型をプレゼントしたらどうじゃ?」
「新型?」
「次世代機じゃよ。ゼッターガンガルフとかギャップモエランとか」
「ほほう……」
「アッシークンやシロサイ、博識なんかもあるぞ」
「楽しそうだけど、それだけじゃ移住してくれないかもなぁ……」
「そうなのか?」
マニさんは不思議そうに首をかしげている。
「都会が好きな人が多いんだよ。たぶん、仕事も多いし、賃金も高いからね」
俺がそういうと、マニさんはポンと手を打った。
「なんじゃ、そんなことで悩んでいたのか」
「まあ切実ってほどじゃないんだけどさ」
今だってなんとか暮らしてはいけるのだ。
のんびりやればいいという気持ちではある。
ところがマニさんは大きく頷いて俺の手を引いた。
「ヤハギ、ダンジョンへ行くぞ」
「ダンジョンへ行ってどうするの?」
「転送ポータルを動かすのじゃ」
「はっ?」
今とんでもないワードが出てきたような気がしたぞ。
「各地のダンジョンは転送ポータルで繋がっておるのじゃ。お前が望む大都会へとつなげてやる。みんなが気軽に都会を楽しめれば、それで問題は解決じゃろ?」
問題は解決しないし、より困った問題が発生しそうな気がするなぁ。
だけど、転送ポータルとやらには興味がある。
いちおう存在を確認しておくか。
「とりあえず、どんなものか見せてもらえるかな?」
「あいあい」
マニさんはいつも通りひょこひょこと歩き出した。
これぞまさに神様のお導き?
どのような結果をもたらすか分からなかったけど、俺はマニさんについていくことにした。
ダンジョンまでやってきた俺はマニさんに確認した。
「転送ポータルは地下二階にあるんだよね?」
「そうじゃ。あのツンツンした女子のいる部屋の近くじゃ」
ツンツンはティッティーのことだな。
つまりポータルは救護室の近くに隠されているということか。
だったら行くのに問題はないだろう。
強力なモンスターは滅多に現れないし、準備さえ怠らなければ俺一人でもたどり着ける。
俺たちはダンジョンエレベーターに乗り、地下二階までやってきた。
「こっちじゃ」
マニさんはよどみない足取りでひょこひょこと歩いていく。
いつものように記憶が曖昧になっていないか心配したけど、そんな様子はなさそうだ。
やがて俺たちは袋小路になっているところまでやってきた。
「ついたぞ」
三方を石壁に囲まれた狭い窪地に少し大きめの将棋盤のようなものが置いてあった。
材質は石で、人間が一人乗るのがやっとの大きさだ。
将棋盤と同じで表面には碁盤の目が描かれている。
「ヤハギはルルサンジオンへ行きたいのだったな?」
「そうそう、王都ね」
「ルルサンジオンが王都? あんなところは辺境の村だぞ」
マニさんは大昔の話をしているようだ。
「そんなことないよ。今はルガンダが辺境の田舎でルルサンジオンは大都会なの」
「ふぉー……、変われば変わるものよのぉ。まあええ、儂の指の動きをよく見ておくのじゃ」
マニさんは盤上に記された点や線にそって、一定の法則で指を動かした。
スマートフォンのロックを解除する要領だ。
「指の動かし方で行先が変わるの?」
「その通りじゃ」
どうせ覚えきれないので、今は王都へ行ける方法だけ知っていられればいいや。
マニさんが指を動かし終えるとポータルは青白く輝きだした。
「ポータルが光っているうちに乗れば転送できるぞ。帰りも同じ方法で帰ってこられる」
「ふーん。これは向こうのダンジョンにつながっているんだよね?」
「うむ、同じ地下二階じゃ」
地下二階と言えばヤハギ温泉があったあたりか。
地図作りもしたから地理はよくわかっている。
地下二階のどこにあるか確認しておくとするか。
「今から転送ポータルを使ってみてもいい?」
「ああ、好きにするとええ。先に戻ってお茶でも飲んでおるわい」
確認のために自分の指でポータルを起動し直した。
よしよし、ちゃんと動いているな。
一瞬の躊躇はあったけど、俺は青白く光るポータルに足を乗せて時空を超越した。
体への衝撃は何も感じなかった。
転移は一瞬で終わり、俺は王都のダンジョンに立っていた。
この場所には見覚えがある。
そう、ヤハギ温泉のすぐ近くだ。
自分が商売をしていた場所からこんなに近くに転送ポータルがあるとは知らなかった。
自分が乗っていたポータルから降りてよく観察してみる。
そういえば地図作りのときにこれも見たことがあるな。
まさかこの小さな台がポータルだとは思わなかったよ。
それにしても王都のダンジョンへやって来るのは久しぶりだ。
ここから温泉までは百メートルもない。
少し寄っていくことにした。
懐かしい扉を潜るとお湯の匂いが立ち込めていた。
そうそう、ここだよ。
ここでお風呂に入ったなぁ……。
「あれ、ヤハギさんじゃない! お久しぶり」
懐かしさにキョロキョロしていたら、顔見知りの冒険者に次々と声をかけられた。
「王都に戻ってきたんだ。またここで商売をするのかい?」
「いや、今日はちょっと温泉に寄っただけで……」
しどろもどろに答えていたら、ドカドカと騒がしい足音が聞こえて怪我人が運ばれてきた。
「どいてくれ、仲間が腕をやられたんだ!」
まだ若い冒険者が腕を血だらけにしながら蒼い顔をしている。
傷はかなり深そうだ。
「傷薬と包帯を出してくれ!」
慌ただしく応急処置がされようとしているが、薬も包帯もお粗末な品だった。
まだ若い冒険者チームだからちゃんとしたものを買いそろえられなかったのだろう。
「ここは俺に任せてくれ」
「え、ヤハギさん!?」
天秤屋台を出して新商品を取り出した。
商品名:超・ヒモきゅうきゅう
説明 :127センチもあるひも状グミ。
半分はコーラ味でもう半分はオレンジ味。
美味しく食べられるが、傷口に巻くと医療用の応急処置テープに早変わり
する。
値段 :100リム
「助かったぜ、ヤハギさん!」
軽く寄っていくだけのつもりだったけど、みんなに請われて久しぶりに出店した。
温泉前に店を出すのも久しぶりだ。
「悪いけど、店を出すのは今日だけなんだ。たまには出張してくるかもしれないけど……」
事情を話すと冒険者たちはまとめ買いをしてくれ、天秤屋台の商品は瞬く間になくなってしまった。
特に目の前で効果を見せつけられた超・ヒモきゅうきゅうはあっという間に売り切れてしまうほどだった。
転送ポータルは便利だなぁ。
公表してもいいけど、あんまり気軽に人々がやって来るのも面倒そうだ。
しばらくは知らないふりをしておけばいいか。
俺はこれを使って魔結晶の卸しや物資の買い付けをするつもりではいるけどね。
温泉を堪能した後、他の冒険者にばれないようにポータルを再起動してルガンダに戻った。
明日、9月15日『駄菓子屋ヤハギ』4巻が発売されます。
これにて完結です。
よろしくお願いします。
コミックはまだまだ続きますのでそちらもよろしくお願いします。




